柴田直人(ANTHEM)連載企画の第三回。今回は、ANTHEMとグラハム・ボネットのスタジオ・セッション風景が見えてくる内容。同時に、偉大なヴォーカリストを前にしても、一歩も引けを取らないANTHEMの頼もしさも伝わってくる。ニューアルバムANTHEM feat. Graham Bonnet『EXPLOSIVE!! -studio jam-』への期待値が急上昇。
──ニューアルバム『EXPLOSIVE!! -studio jam-』の具体的な内容を教えてください。
柴田:ANTHEMの楽曲が「Gypsy Ways(WIN,LOSE OR DRAW)」「Cryin’Heart」「Midnight Sun」です。グラハムが参加しているレインボーの『Down to Earth』からは「Since You Been Gone」「Lost in Hollywood」。他には、MSGの「Desert Song」とアルカトラスのサードアルバムに収録されているバラードの「Witchwood」。あと、ANTHEM feat. Graham Bonnetバージョンの「Night Games」ですね。
僕の音楽人生で、これだけリラックスしたレコーディングは初めてかもしれません。気分はジャムセッション。ANTHEMは、せーのドン!の一発録りで、オーバーダビングもコーラスくらいでほとんどしていません。僕の中では、スタジオライヴ・レコーディングよりももっとリラックスしたジャムセッション。こういうのは本当に新鮮な感覚でした。もちろん演奏中は、ヘッドホンをして集中しましたけど、ドッと疲れるなんてことは、まったくありませんでしたね。ひたすら楽しかったです。そういう主旨をグラハムも理解してくれていてリラックスしていました。「Since You Been Gone」のエンディングでグラハムがアドリブでスキャットをしています。あれもスタジオで「今のよかったから、そのままアルバムに入れてもいい?」と訊いたら、「ノー・プロブレム!」と。それも彼が今回の趣旨を理解してくれている証明かなと。和気あいあいとジャムしようという主旨だから、「ナオトが良ければ、俺は問題ないよ」と言ってくれたんじゃないでしょうか。
──事前にラフミックスを聴かせていただきましたが、グラハム・ボネットのヴォーカル圧は、やはり凄い。グラハムは1947年生まれ。調べてみたら、ビートたけしさんや小田和正さんと同い年。それを思うと、あのパワーはモンスター級。
柴田:「たぶん何時頃にはスタジオに行けるよ」という事前の約束どおりにグラハムがスタジオに現れ、最初は腰の手術の痕などを見せてくれたりして和んでました(笑)。で、まずは先に僕らが録っておいたテイクを聴かせようと思ったら、世間話で和んだ後にサッとスタジオに入って、「OK 1、2回軽く声を出して喉を暖めるよ」と。僕とグラハムのマネージャーは「これも録っておいたほうがいい」と意見が一致して、グラハムが歌うものは、ウォーミングアップだろうが、練習だろうが、すべてレコーディングしました。腰の手術から間もないのに、歌うときは常に立っていたので、心配でもあり、安心でもありましたね。「今日は、時差ボケの揺り返しがきているから、2回くらい歌ったらホテルに戻って休むよ。」と言った日の、その2回が凄い歌でした。鳥肌を越えて、気絶しそうなくらいのヴォーカルでした(笑)。
──20年前のグラハム・ボネットとの違いは感じましたか?
柴田:20年前、一緒にアルバムを作ったとき、挨拶も兼ね、グラハムの自宅に行ったことがありました。当時、自宅のガレージにヴォーカルブースと録音機材を揃え、歌録りをしていて。そこで聴いたヴォーカルは、まさに僕が憧れたあのグラハム・ボネットそのものでした。あれから20年。ある人は「グラハムは衰えた」と言い、ある人は「70歳を越え、どんどん調子が上がっている」と言い、評価はさまざまあるけれど、僕が好きな彼らしさは一切色あせていません。機械仕掛けのような正確な音程とか、レコーディングと寸分たがわずライヴで歌うとかではなく、僕はあの声が好きなんです。声質とか。人間は永遠に往年のパワーを維持できるわけではないにしても、今回のレコーディングを通し、僕が好きなあの声は健在だと、つくづく思いました。レコーディング最終日だったかな、僕が「あなたの声は唯一無二だから、高いキーで歌い上げるとか、パワフルにシャウトするかじゃなくてもいいから、いつまでもシンガーでいてください」と言ったら、「ありがとう」と、小さなウインクを返してくれました。僕だけじゃなくて、ヴォーカルの森川にしても、「俺、ここを歌ったから、グラハムはここから歌ってね」とか、説明しながらシェアしている様子があまりにも自然で。それが嬉しくもあり、ちょっと羨ましくありました。
──ヴォーカリスト同士の言わずもがなもあるでしょうね。
柴田:きっとありますね。特に森川は静岡県沼津の出身なので、<沼津のグラハム・ボネット>をキャッチコピーに、ここまできた人だから(笑)。グラハムとのレコーディングで得たものや感じたものがここから先の大いなる糧になると思います。実際、グラハムのヴォーカルの録り方を目の当たりにして、何か思うところがあったみたいですよ。スパークリング・ウォーターとか(笑)。
──スパークリング・ウォーター?
柴田:グラハムにレコーディング前、スタジオに用意しておくものを尋ねたんです。すると「スパークリング・ウォーターとエナジードリンクを」と言われて。レコーディング中に炭酸飲料を飲むヴォーカリストは初めてだったので驚きました。思わず訊き返しましたからね。「え?炭酸を?」って(笑)。「そうだよ。大量に頼む」と言われました。森川にも「次のレコーディングからスパークリング・ウォーターを用意しておこうか」と言ったら、「それはやめておく」と言っていました。さすがにあの真似はできない。スパークリング・ウォーターを飲みながら、あれだけパワフルに歌っても、ゲップが出ないのは、グラハムだけです(笑)。
インタビュー1:『クオリティーはしっかり維持しながら、自分たちが提供できるエンターテイメントは何か模索を続けている』
インタビュー2:『これからの自分に大切なことを再確認させてもらえた。自分の情熱の在りかを確かめることができました。』
2020年9月7日発売予定
ANTHEM feat. Graham Bonnet
『EXPLOSIVE!! -studio jam-』
・500セット限定 ANTHEMメンバー全員直筆サインカード付Tシャツ+CD+ボーナスDVD
【CD収録予定曲】
1. Gypsy Ways(WIN, LOSE OR DRAW)
2. Cryin’ Heart
3. Midnight Sun
4. Since You Been Gone
5. Lost in Hollywood
6. Desert Song
7. The Witchwood
8. Night Games
【DVD収録予定】
「Cryin’ Heart」ミュージック・ビデオ (東京でのレコーディング・ドキュメント映像)
2020年6月1日発売
HIDEKI SAIJO with ANTHEM feat. Graham Bonnet
『ナイト・ゲーム2020』
【収録曲】
- ナイト・ゲーム2020 (Night Games) HIDEKI&GRAHAM BONNET Version
- ナイト・ゲーム2020 (Night Games) HIDEKI SOLO Version