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フィル・デンメル 独占インタビュー [BPMD]

また来年あたり状況が元に戻ったら
このメンバーで集まってショウをやりたいね

                                   

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文:川嶋未来

— 今回BPMDとしてカバー・アルバムをリリースします。カバーへのアプローチはどのようにやったのでしょう。オリジナルに可能な限り忠実にするか、あるいは自分なりの方法で原曲を解体するというやり方もありますよね。

 

フィル:このバンドでは、基本的にオリジナルに忠実にプレイした。いくつかの曲はマイナーすぎて誰も聴いたことがないだろうから、ブルー・オイスター・カルトのとかね、少し付け加えたりもしたけど。何というのかな、パワーアップして多少現代的になるように。だけど、テッド・ニュージェントの「Wang Dang Sweet Poontang」のソロみたいにスペシャルなやつは、オリジナルに忠実に弾きたいものだろ。まあ、大方オリジナルに忠実にやりつつ、どの曲にも少しひねりを加えた感じかな。

 

— カバーする曲はどのようにして選んだのですか。

 

フィル:各メンバーがそれぞれ2曲ずつ選んで、それから残り2曲はみんなで選んだ。俺が曲を決めたのはずいぶん遅くてね。他のメンバーは、ほとんど選び終わってた。マイクは「Wang Dang Sweet Poontang」と「Toys in the Attic」を選んで、ボビーがカクタスの「Evil」とマウンテンの「Never in My Life」、これはどっちも聴いたことがない曲だったな、メンギはZZトップとスキナードを選んだ。それで俺がヴァン・ヘイレンをやろうと言ったら、マイクが「D.O.A.」はどうかと。それから、例のブルー・オイスター・カルトの超マイナーな(笑)曲を選んで。なぜかわからないけど、俺はこの曲に惹かれるものがあってさ。実はヴァイオレンスの「Twelve Gauge Justice」のリフの元ネタなんだ(笑)。それからみんなでジェイムズ・ギャングとグランドファンクの曲を選んだ。

 

— 選曲に制限はあったのですか?

 

フィル:あったよ。70年代限定。70年代に発売されたものでなくてはいけなかった。それから主に、というよりもメンバー全員だったかな、がアメリカ人であること。これが基準だよ。あと、他のメンバーのチョイスに文句をつけてはいけない。仮に俺がマークの曲をやりたくなかったとしてもやらなくてはいけなかった。

 

— ギタリストとして一番難しかったところはどこでしょう。

 

フィル:うーん、もちろんヴァン・ヘイレンのソロなんかは忠実には再現していないけど、エディのヴァイブは捉えていると思う。「D.O.A.」以外はすべてギターを重ねたけど、この曲だけは重ねる訳にいかないからね。ソロだけオーバーダブなんて、エディがやることじゃない。エディだったらどうするだろうと考えて録ったんだ。だから、この曲はほとんどワンテイクなのさ。なるべくエディのヴァイブを捉えようと頑張ったからね、やっぱり「D.O.A.」が一番難しかったかな。あるいはテッド・ニュージェントのソロ。あれは象徴的なソロだからね、なるべくオリジナルに忠実に再現したかったから。

 

 

— こんなご時世ですが、今後このバンドとしてツアーをやる予定はありますか。

 

フィル:イーストコーストとウェストコーストでアルバムのリリースショウをやる予定だった。それからフェスやクルーズなんかをやろうと思っていたんだ。本格的なツアーではなくて、単発で。というのもボビーはオーヴァーキルで忙しいし、マイクは…このプロジェクト以外のすべてが忙しいし、俺はヴィオレンスをやっているしね。今は活動が制限されてしまっているからね。また来年あたり状況が元に戻ったら、このメンバーで集まってショウをやりたいね。

 

— そもそもの音楽との出会いはどのようなものだったのでしょう。

 

フィル:隣に住んでいたいとこがクラシック・ロックのファンだったんだ。70年代の中盤頃で、俺は9歳くらいだった。いとこはAC/DC、キッス、フォガット、テッド・ニュージェント、エアロスミスなんかが大好きで、彼は俺よりも2−3歳年上だったから、彼のところに行っては「レッド・ツェッペリンは持ってる?ブラック・サバスは?」なんて調子で。アルバムを借りてテープに落として。フォリナーも借りたな。そこからブラック・サバスがジューダス・プリーストになり、アイアン・メイデンになり、メタリカになり。俺はベイエリア育ちだからね。ベイエリアにはラーズ・ロキットなんかもいた。そして83年にLAから来たバンドのライヴを見てね。スレイヤーというバンドだった。それから彼らの大ファンになった。ただ、デス・メタルとか、それ以上ヘヴィな方向には行かなかったよ。俺はヴォーカルにもある程度メロディがある方が好きだから。

 

— スレイヤーはそのときメイクをしていて、お客さんが紙ナプキンを投げて「メイクを落とせ」って叫んでいたという話をポゼストのジェフ・ベセーラから聞きました。

 

フィル:その通りさ(笑)。俺はそんなにマリファナは好きではないのだけど、当時はまだ高校生でね。ハッシュを吸ってスーパーストーンした状態であのショウを見に行ったんだ。彼らがどんなに速い演奏をするのかを知らずに。最初の曲は「Evil Has No Boundaries」だったな。その前にイントロで『ハロウィン』のテーマを流してライトが緑になって、凄かったよ。確かにスレイヤーはメイクをしてた。みんなスパンデックスをはいていてね。ショウのあとにエクソダスに「ここでは2度とメイクをするなよ」って言われたというのは有名な話さ(笑)。

 

— 初めて「のちにスラッシュ・メタルと呼ばれることになる新しい音楽」を意識したのはいつですか。

 

フィル:やっぱりそのスレイヤーのショウだね。実は俺はエクソダスよりも先にスレイヤーを見たんだ。それで85年に高校の先輩がやっていたデス・ペナルティというバンドに入って、これは後にヴァイオレンスと改名するんだけどね。それでシーンに足を踏み入れて、レガシーやデス・エンジェル、エクソダスなんかのオープニングをやって。本当に素晴らしい、クールな時代だったよ。

 

— 新しいムーヴメントが生まれているという興奮はありましたか。

 

フィル:間違いなくあった。まだインターネットもなかったから、テープトレードやファンジンなんかを通じて、例えばイーストコーストにはオーヴァーキルというバンドがいるとか、海外にはヴェノムやデストラクション、LAだとスレイヤー、エージェント・スティール・アバトワールとか、あとはアンスラックスとか、各地に色々なバンドが出て来ていることは認識していたよ。だけど、ベイエリアがいかに特別であったかは、当時はっきりとは認識していなかったな。

 

— あなたのプレイがスピードアップした理由は、やはりスレイヤーだったのでしょうか。

 

フィル:スレイヤーだね。俺たちは特にスレイヤーから大きな影響を受けていたよ。当時カセットの片面に『Hell Awaits』、反対側に『Bonded by Blood』を録音してさ。同時期にリリースされたから。スレイヤーからの影響は特に大きかった。もちろん、メタリカやエクソダスからも影響を受けたけど。もう少し後になってからはレガシー、テスタメントとか。俺はかなり厳格なクリスチャンの家庭で育ったから、「The Antichrist」みたいな曲を家で聴くのはね(笑)。だけど、両親は音楽が俺にとってどれだけ重要なのかを理解してくれたよ。

 

— ハードコア・パンクからの影響はありましたか。当時ベイエリアにはDRIやMDCなどがやって来ていましたよね。

 

フィル:俺もハードコアは好きだったよ。デッド・ケネディーズや、ブラック・フラッグがLAから来たこともあったな。でも、やっぱりDKsがシーンの大物だったね。D.R.I.も素晴らしかった。だけど、俺はパンクのショウにはあまり行かなかった。当時はスキンヘッドvs長髪みたいな構図があってさ、面倒だったんだ。その後クロ・マグズやマーフィーズ・ロウなんかも好きになった。

 

— 私は『Eastern Front – Live at Ruthie’s Inn』というオムニバスがヴァイオレンス初体験でした。当時のベイエリアはRuthie’s Innや伝説的な『Metal Monday』企画など、さまざまなライヴハウス、イベントがあったんですよね。

 

フィル:俺はOld Waldorfでやっていた『Metal Monday』は行ったことがないんだ。Ruthie’s Innは、いつでも気軽に飲みに行ける場所だった。週に5日でも7日でも。未成年にもお酒を飲ませてくれてさ(笑)。クールな場所で、あそこで育ったみたいなものだよ。自分たちのシーンがあった。The Stoneでもメタル・ナイトみたいのをやっていたはず。シーンは成長していたね。

 

— 『Eastern Front – Live at Ruthie’s Inn』はどのようなオムニバスだったのでしょう。あれはライヴ・レコーディングですか。

 

フィル:そうだよ。『Eastern Front』という企画で、毎晩6−7の地元のバンドがプレイするものだった。確か週末2回に渡ってやったんだったかな。毎晩素晴らしいラインナップで、それを全部レコーディングしていたんだ。サウンドボードで録っただけだから、音質は良くなかったけどね。俺たちが「Gutter Slut」を選んだ理由は、もうすぐデモを出す予定で、「Eternal Nightmare」や「Kill on Command」はそれに入っていたから、「Gutter Slut」をくれてやれと。

 

— 「Gutter Slut」(=貧民街の尻軽女)というタイトルが強烈でした。

 

フィル:イエス(笑)。84年くらいに、おそらくデス・ペナルティ時代に書いたものだから、バカみたいな曲だよ。

 

— 一体どういう内容の曲だったのですか。

 

フィル:(爆笑)。詳しくは歌詞を読んでもらうのがいいんだけど、何というのかな、男とそのガールフレンドがいて、彼らはセックスをしているのさ(爆笑)。

 

— お気に入りのアルバム3枚を教えてください。

 

フィル:3枚か。難しいな。

 

— 人生を変えられた3枚でも良いです。

 

フィル:作品としてはベストではないかもしれないけど、スレイヤーの『Show No Mercy』には人生を変えられたよ。あとは『Operation: Mindcrime』。それからアイアン・メイデンの『The Number of the Beast』だね。この3枚だね。メイデンのファーストもこれの次にくるかな。ファースト、『Killers』と来て、『The Number of the Beast』でこれだと思った。

 

— 影響を受けたギタリストとなるとどうでしょう。

 

フィル:まずはアンガス・ヤング。彼を見てギターを弾きたいと思ったから。アンガスは、何というのかな、ギターは彼の身体の一部みたいなものだろ。彼が何を感じているか、彼のプレイから感じることができる。それからランディ・ローズ。彼のフレージング、クラシカルなセンス。ギタリストは5人挙げさせてくれ。マイケル・シェンカー。彼のフレージング、音符の選び方、感情的なテクニック。アキラ・タカサキ。エネルギー、閃き、炎。エイドリアン・ヴァンデンバーグ。彼はマイケルと近いけど、ちょっとスタイルが違うだろ。彼の書くメロディは本当に美しくて、豪華な芸術作品だよ。俺にとってはこの5人だね。

 

— 最近の若いギタリストについてどう思いますか。テクニック的に非常に高度になっていると思いますが。

 

フィル:最近の若い子たちの巧さは普通じゃないよ。それに上達がはやい。俺は40年以上ギターを弾いているけど、今の子なら1年半くらいでこのレベルになれるだろう。インターネットに色々な情報があるということもあるかもしれないけど、彼らは本当に毎日一日中ギターを弾いているんじゃないかな。クールなプレイヤーがこんなにたくさんいるというのは素晴らしいことだし、励みにもなるね

 

— 一方で個性が失われているという意見もよく聞かれますが。

 

フィル:それはあると思う。あまりにもみんなが同じことをやりすぎているよ。俺は自分のことを素晴らしいリード・ギタリストだなんて思ってないのだけど、どうやって曲を書けば良いのかはわかっているつもりだよ。どうやってリフを組み立てるかね。ハーモニーやメロディ、それらを組み合わせて曲にするというのがアートだから。アルペジオやスウィープを一日中やっているのと、曲を書くということはまったく別ものだから。

 

 

— 今後の予定を教えてください。

 

フィル:ヴァイオレンスのメンバーとはこの後会うんだけど、メタル・ブレイド用に5曲入りのEPを作る予定。まだ曲を書いている段階だから、どんなものになるかはわからないけど、とりあえず5曲の新曲が予定されているよ。それからデイヴ・エレフソン、ブリーディング・スルーのブランダン、デイヴ・マクレインと曲を作っている。「The Permanent Decay」という曲を発表したけど、これはヘヴィで、スラッシュやヴァイオレンスっぽくはないね。それから、エコーズ・オブ・レコニングというプロジェクトもやっていて、これは基本的に俺一人で曲を書いて、アコースティックからロックまで好きにやるもの。妻のマータがヴォーカル、シャインダウンのエリックがベースで、アリス・イン・チェインズのカバー「No Excuses」をやったよ。ちょうど君が電話してきたときは、無名のミュージシャンたちとシン・リジーの「Bad Reputation」をやっていたんだ。いわゆる自己隔離ジャムさ。

 

— では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。

 

フィル:日本はみんなスーパー・フレンドリーだし、もの凄くサポートもしてくれる。凄く歓迎してくれるし、日本の文化や人々をリスペクトしているよ。早くまた日本に行ってロックしたいね。ヴァイオレンスとしていずれ日本に行けるだろうし、もしかしたらBPMDとしてなんていうこともあるかもしれないね。

 

文 川嶋未来

 

▶︎ボビー“ブリッツ”エルズワース インタビューはこちら

 


 

 

2020年6月12日 世界同時発売

BPMD

『アメリカン・メイド』

直筆サインカード付CD

CD

【CD収録曲】

  1. 俺のプーンタン (テッド・ニュージェント カヴァー)
  2. 闇夜のヘヴィ・ロック (エアロスミス カヴァー)
  3. イーヴル (カクタス カヴァー)
  4. ビール・ドリンカーとヘル・レイザー (ZZトップ カヴァー)
  5. サタデイ・ナイト・スペシャル (レイナード・スキナード カヴァー)
  6. 吸血鬼 (ブルー・オイスター・カルト カヴァー)
  7. 生か死か (ヴァン・ヘイレン カヴァー)
  8. ウォーク・アウェイ (ジェイムス・ギャング カヴァー)
  9. 君がすべて (マウンテン カヴァー)
  10. アメリカン・バンド (グランド・ファンク カヴァー)

 

【メンバー】
ボビー“ブリッツ”エルズワース(ヴォーカル/オーヴァーキル)
マイク・ポートノイ(ドラムス/元ドリーム・シアター, ワイナリー・ドッグス)
マーク・メンギー(ベース/メタル・アリージェンス)
フィル・デンメル(ギター/ヴァイオレンス, 元マシーン・ヘッド)