パンデミックも多少落ち着いてきた感もあり、嬉しいことに海外アーティストによる公演も頻繁に行われるようになってきた。そんな中、ナイト・レンジャーも、3年ぶりに日本にやって来ることに。今回はデビュー40周年記念のツアーであり、東京は昭和女子大学人見記念講堂での3晩連続公演。私が足を運んだのは3晩目の10月23日(日)。
開演時間を5分ほどすぎたところで客電消灯。エルヴィス・コステロの「Pump It Up」が流れる。そしてメンバーが登場。前日、前々日ともに、「(You Can Still)Rock in America」でスタートという事前情報を得ていた(というか、ここ最近のライヴはほぼそのパターン)ので、今日も当然そうだろうと油断していたら、何といきなり「This Boy Needs to Rock」からスタート!ご存知、85年のサード・アルバム『7 Wishes』収録のハードロック・ナンバーだ。しかも、ギター・ソロから「Highway Star」に寄り道するパターンで、これはここ最近ほとんど披露していないはず。いきなりレアな流れに興奮が高まる。続いては再び『7 Wishes』から、「Four in the Morning」。美しいポップなナンバーだが、コーラスのハーモニーもバッチリ。ブラッド・ギルス、ケリ・ケリーのギター・ソロも、流れるように淀みがない。(当たり前だけど。)そのまま間髪入れずに、デビュー・アルバム『Dawn Patrol』収録の名曲、「Sing Me Away」へ。ドラムのケリー・ケイギーがヴォーカルをとるナンバーだ。場内の熱気もどんどんと高まっているのがわかる。
「東京での第3夜。今晩も良い曲をお届けするよ」という紹介でプレイされたのは、「Coming of Age」。90年にリリースされたダム・ヤンキースによるデビュー・アルバムのオープニング・ナンバーだ。イントロを聴いた瞬間に「あの曲だ!」とわかる印象深すぎる曲である。新作のタイトル『ATBPO』をきちんと覚えているか、オーディエンスに確認した後、そのニュー・アルバムから「Bring It All Home to Me」。ベテラン・バンドの場合、新曲を披露すると、露骨に会場内に「新しいのはいいからクラシックをお願いしますよ〜」という雰囲気が蔓延することがあるが、この日はこの曲でも場内のヴォルテージが下がらないのだから凄い。そこから続け様に「Call My Name」のピアノ・イントロへ。デビュー・アルバムに収録の、しっとりとしたスローナンバーで、2人のギタリストによるソロも実にエモーショナル。「俺たちは全員カリフォルニア育ち」と、メンバー5人の出身地を紹介、となれば、次はもちろん「Growin’ up in California」。11年の『Somewhere in California』のオープニング曲で、ライヴではあまり披露されることのないディープ・カットだ。それにしてもジャック・ブレイズの声の出方は驚異的。あれで本当に68歳なのだろうか?続いては「The Secret of My Success」。87年の4thアルバム収録のナンバーで、セットリストの常連でもある。そして「Eddie’s Comin’ Out Tonight」。デビュー・アルバムに入っている80年代らしいヘヴィでハードな曲だが、今年はあまりプレイされておらず、昨晩もその前の晩も披露されていない。ブラッドもケリも弾きまくりだ。
ここでケリ・ケリーが一旦舞台袖に引っ込み、アコースティック・ギターを手に再び戻って来る。そして披露されたのが、ダム・ヤンキースの名曲「High Enough」。「ナイト・レンジャーのハートでありソウルだ」と紹介された「Goodbye」は、『7 Wishes』収録の美しいナンバー。ケリー・ケイギーがステージ・フロントまで出てきて、ひたすらエモーショナルな熱唱を聴かせる!『Midnight Madness』収録の「When You Close Your Eyes」でも、オーディエンスはテンションが上がり続ける。
そして誰もが知るあのイントロが炸裂!そう、「Don’t Tell Me You Love Me」だ!デビュー曲のオープニングというのは、多くのファンにとって思い入れの深いものになりがちだが、この曲はその代表だろう。これぞ歴史に残る名曲だ。ブラッドとケリも所狭しと駆け回る。メンバー紹介をしたところで本編が終了。昨晩はそのままアンコールに突入したようだが、この日は一旦5人はバックステージへ。
「アンコールはアレとアレだろうなあ」なんて考えていると、「ブラッド・ギルスがオジー・オズボーンのバンドでギターを弾いていたことを知っているか?」というジャックの問いかけが。(まあ、この会場にいて、それを知らない人はいないだろうけれど。)「ブラッドはオジーの曲を覚えているかな?聴きたい奴は手を挙げてくれ」という呼びかけに、もちろん会場中が挙手。「Crazy Train」のイントロが飛び出すと、会場のヴォルテージはマックスに!1番+ギター・ソロというショート・ヴァージョンだが、これには当時を思い出し、涙を禁じ得ない。続いて美しすぎる「Sister Christian」、そして最後はもちろん「(You Can Still)Rock in America」。これ以上ないエンディングだ。ライヴの終わりを告げるSE、ブルース・スプリングスティーンの「Born in the USA」が鳴り響く中、5人はステージからピックをバラまくなど、最後までファン・サービスを忘れない。「日本のファンとは特別な絆を感じている」と言うナイト・レンジャー。その絆を実感させてくれた、あっという間の、そして最高の1時間半。定番の大名曲あり、意外なディープ・カッツありと、なかなか興味深いセットの東京第3夜であった。
文:川嶋未来 / 写真:Mikio Ariga 【協力】ウドー音楽事務所
【セットリスト】
2022.10.23(日)昭和女子大学 人見記念講堂
- This Boy Needs To Rock
- Four in the Morning
- Sing Me Away
- Coming Of Age
- Bring It All Home To Me
- Call My Name
- Growin’ Up in California
- The Secret Of My Success
- Eddie’s Comin’ Out Tonight
- High Enough
- Goodbye
- When You Close Your Eyes
- Don’t Tell Me You Love Me
- Crazy Train
- Sister Christian
- (You Can Still)Rock in America
【メンバー】
ジャック・ブレイズ(ベース/ヴォーカル)
ケリー・ケイギー(ドラムス)
ブラッド・ギルス(ギター)
エリック・リーヴィー(キーボード)
ケリ・ケリー(ギター)