カリフォルニアの正統派ヘヴィメタル・トリオ、ナイト・デーモン。NWOBHMから大きな影響を受けた、古き良きヘヴィメタルを21世紀に蘇らせているバンドだ。今年3月には、大手センチュリー・メディアからのデビュー作となるサード・アルバム『アウトサイダー』をリリース。この作品は日本盤もリリースされたため、ここ日本でも彼らの知名度は急上昇してきている。そんなナイト・デーモンがついに来日!と言うことで、4月28日金曜日、東京は新宿Zircoに彼らのステージを見に行ってきた。
予定通りの20時。『アウトサイダー』のオープニング・ナンバーである「プレリュード」が流れる。リリース時に宣言していた通り、『アウトサイダー』完全再現の始まりだ。この作品は、別世界に迷い込み、もう1人の自分に遭遇してしまうというホラー・ストーリーが展開される、バンド初のコンセプト・アルバム。となれば、全曲をアルバムの曲順通りにプレイするのが最善策。1曲目のタイトル・ナンバーから、サビでは大合唱が巻き起こる。歌詞をほぼ暗記していると思われる熱心なファンも複数いるようだ。今回は新ドラマー、ブルータル・ブライアンことブライアン・ウィルソンを伴っての来日。ブライアンはフロリダの超カルト・テクニカル・デス・メタル・バンド、ヘルウィッチのメンバーであり、イングヴェーのツアーにも参加したこともあるという、振り幅の大きすぎる凄腕ドラマー。そのパワフルなドラミングは、ナイト・デーモンのスタイルにピッタリ。「オブシディアン」、「ビヨンド・ザ・グレイヴ」、「リバース」・・・。実にヘヴィメタル然とした、スピーディでヘヴィな楽曲が矢継ぎ早にプレイされていく。曲間にはブレイクもMCもなく、メンバーが水分を補給することもない。メンバーたちの激しすぎるヘッドバンギングに答えるように、会場中の拳が突き上げられ、場内のボルテージはどんどんと高まっていく。こういうライヴの素晴らしい点は、会場が100%熱心なマニアで埋め尽くされているところ。この場にいる誰もが曲をすみずみまで知っているからこそ、大きな熱量が生まれるのだ。アルバムよりも多少テンポが上がっていることもあり、30分強で『アウトサイダー』の完全再現は終了。体感的にもあっという間である。
ここでも特にMCもブレイクもなく、そのまま通常セットのコーナーへ。まずは17年のセカンド・アルバム『Darkness Remains』のオープニング曲「Welcome to the Night」、続いては15年のデビュー・アルバム『Screams in the Night』のオープニング曲「Screams in the Night」と、大名曲を連発。思わず場内の温度も爆上がり。これは単なる比喩ではない。あまりの熱気に耐えきれなくなったギタリストが、「エアコンの設定温度を下げてくれ!」と助けを求めるものの、すでにエアコンはフルブラスト状態。会場側も、バックステージやバー・コーナーの空調を切ることで、何とかステージ上のエアコンをパワーアップしようと試みたものの、オーディエンスの発する熱気の前にはなすすべがなかったようだ。そして「Black Widow」(『Darkness Remains』収録)と「Are You Out There」(20年のシングル曲)が続く。トリオというヘヴィメタルをやる上での最小編成でありながら、彼らの放つエネルギーは凄まじいものだ。モーターヘッド、ヴェノム、レイヴン。ナイト・デーモンは、スタイルこそ違えど、こういったヘヴィメタルの歴史に名を残す名トリオ・バンドと同じパワーを持つバンドと言えるだろう。「The Howling Man」(『Curse of the Damned』収録)、「Dawn Rider」(『Darkness Remains』収録)と、やはり一切のMCもなくショウは続いていく。メンバーは3人とも、滝のような汗を流している。12年のデビュー・シングル収録の「The Chalice」では、死神とおぼしき扮装をしたキャラクターが登場。その手にはchalice(聖杯)が握られている。
ここで本編の終了。ベース/ヴォーカル担当のジャーヴィスが「コンニチハ、シンジュク!」と初MCを披露する。そして、この日サポートを務めたEnd Allのヴォーカリストをステージに呼び寄せ、『Darkness Remains』収録の「Maiden Hell」をプレイ。歌詞の中に大量にアイアン・メイデンの曲名を織り込んだ、メタル・ファンなら大興奮間違いなしのスピーディなナンバーだ。ラストはもちろん「Night Demon」で締め。Iron Maidenの「Iron Maiden」に匹敵するような、バンドの代名詞的超名曲で、場内は大合唱の嵐に。あっという間の70分。終演後は「良かったね〜」、「凄かったね〜」という会話がそこら中で聞こえてきた。ここまでメタル成分の高いライヴもそうそうないのではないかと思わせる、文字通りアツすぎる夜であった。
文:川嶋未来 / 写真:UPP-tone music
【セットリスト】
2023.4.28(金)新宿Zirco
- Prelude
- Outsider
- Obsidian
- Beyond the Grave
- Rebirth
- Escape from Beyond
- A Wake
- The Wrath
- Welcome to the Night
- Screams in the Night
- Black Widow
- Are You Out There
- The Howling Man
- Dawn Rider
- The Chalice
- Maiden Hell
- Night Demon
【メンバー】
ジャーヴィス・レザビー(ヴォーカル、ベース)
ブライアン・ウィルソン(ドラムス)
アルマン・ジョン・アンソニー(ギター)
【CD収録曲】
- プレリュード
- アウトサイダー
- オブシディアン
- ビヨンド・ザ・グレイヴ
- リバース
- エスケイプ・フロム・ビヨンド
- ア・ウェイク
- ザ・ラース
- ザ・サン・ゴーズ・ダウン(シン・リジィ カヴァー)[日本盤限定ボーナストラック]
- ザ・ラスト・デイ[ボーナストラック]