マイケル・シェンカー4年ぶりの来日公演に行ってきた。2022年11月22日、場所は中野サンプラザ。マイケル+中野サンプラザと言うと、何だか因縁めいたものを感じてしまうが、それももうずっと昔の話。今回はマイケルの音楽活動50周年記念のツアー。前回の18年のツアーでは、ヴォーカリスト4人を帯同したマイケル・シェンカー・フェストとしての来日であったが、今回はマイケル・シェンカー・グループ名義。ヴォーカルもロニー・ロメロ1人。20年の来日予定がコロナで中止になっただけに、ファンにとって待望の来日公演である。
開演時間の7時ほぼジャストに会場は暗転。AC/DCの「Highway to Hell」が流れる。通常オープニングのSEには、アーティストのお気に入りの楽曲が使われるもの。だがマイケルによれば、「あくまでショウが始まるという合図」以上の意味は一切ないどころか、「AC/DCのファンでも何でもない」と断言するのだから、さすがはマイケル、他のアーティストとは一味も二味も違う。まずはロニー・ロメロ以外のメンバーがステージに登場し、いきなりの大名曲「Into the Arena」に、場内は初っ端から大盛り上がり。マイケルもそれに答え、トレードマークのフライングVを掲げて弾き倒す。マイケルの”Please welcome Mr. Ronnie Romero”というMCに導かれ、ロニーが登場。このイントロはマイケル・シェンカー・グループのデビュー・アルバムの2曲目、「Cry for the Nation」だ。さらに間髪入れず、「Doctor Doctor」!言うまでもなく、UFOの代表曲。これをこんな前半に披露するのか!オープニングからこれだけ名曲を連発されるライヴもそうそうない。と言うか、名曲、代表曲が山ほどあるマイケルだからこそできるライヴ構成なのだろう。曲のラストでは、マイケル、ロニー、スティーヴ・マン、バレンド・クルボワの4人によるフォーメーションも。
続け様に「We Are the Voice」へとなだれ込む。マイケル・シェンカー・フェスト名義、19年の『Revelation』収録のアップテンポなナンバーで、アルバムでもロニーがヴォーカルをとっていた。目立ったMCもなく、演奏は続いて行く。次は「Looking for Love」。81年のマイケル・シェンカー・グループのセカンド・アルバム収録の名曲だが、これまであまりライヴでは披露されてこなかった。この曲、ロニー・ロメロは若井望とのMetal Soulsでもカヴァーをしているのだが、マイケルがそのビデオを見て、今回のツアーのセットリストに組みこまれたのだ。続いては「Red Sky」。『Assault Attack』(82年)の収録曲であるから、オリジナルはグラハム・ボネットが歌っていたもの。とにかくロニーの歌唱力は凄まじく、ゲイリー・バーデンの曲も、グラハムの曲も、楽々歌っている感がある。マイケルのコンサートというと、ヴォーカリストの危うさもファンの密かな楽しみという感もあったが、今回はそれもお預け。と言うか、ロニーの凄さにそんなことすら忘れてしまう。とやっとここでガッツリとMC。ロニーが初めてマイケルと一緒に書いた曲だという「Sail the Darkness」を紹介。『イモータル』(21年)の収録曲だ。この曲のイントロ・フレーズである”There’s no return”を様々なキー、そして様々なフェイクを加え披露するロニー。さながら彼の独演会だ。その美声、歌唱力にはただただ圧倒されるばかり。続いては、最新アルバム『ユニヴァーサル』(22年)から、タイトル通りの性急なナンバー、「Emergency」。新しめの曲が続いたところで一転、今度は「Lights Out」!誰もが知るUFOの名曲中の名曲に、場内のテンションの高まりもとどまるところを知らない。スティーヴ・マンが忙しくギターとキーボードを弾き分けているのも面白い。
もうこのあたりからイントロクイズ状態。最初の1-2音を聴いただけで、曲名がわかるクラシック・ナンバーの連発。「Armed and Ready」などはその代表だろう。マイケル・シェンカー・グループのデビューアルバムのオープニング・ナンバーだけに、あのイントロには思い入れの深いファンも多いはず。続く「Assault Attack」のイントロも本当に素晴らしい。あれほど強烈なイントロも、そうそうないだろう。「自分にとってはどれもキーが低めの曲だから、歌うのが難しい曲はない」と言っていたロニーだが、唯一この曲だけは「原曲ではグラハムがスクリームしっぱなしなので、少々大変」なのだそう。この曲でもスティーヴのギターとキーボードの切り替えが忙しい。そしてまたまた間髪入れずに「Rock Bottom」へ。ロック史上最強のリフを持つ曲の1つだろう。途中Eのワンコード上で、マイケルが5分近く圧巻のギター・ソロを披露。マイケル最大の見せ場だ。ここまで70分間、ほとんどブレイクらしいブレイクもなく、一気に駆け抜けてきた感じ。この曲のラストでメンバー紹介があり、これで一旦本編の終了かと思わせたが、さにあらず。すぐにロニーが「モウイッキョク?」と日本語でオーディエンスに問いかける。続いては「Shoot Shoot」。最高にカッコいいロックンロール・ナンバーだ。ロニーはメタルだろうがハードロックだろうが、そしてロックンロールだろうが、すべて見事に歌いこなしてみせる。そして「Let It Roll」へ。モウイッキョクだけじゃなかったのか!もう演奏は止まる気配もない。そのまま「Natural Thing」、「Too Hot to Handle」、「Only You Can Rock Me」と、誰もが知る名曲中の名曲が途切れなく演奏されたのだから、これが至福の時でなくて何であろう。最後にマイケルが「See you next time. Until then, keep on rocking!」とだけ言って、ショウは終了。本当にあっという間の90分であった。
ラストはUFO6曲連発で締め。全17曲中約半数の8曲がUFOのナンバーというセットリストであった。これはマイケルによれば、今回は50周年のツアーであり、UFOこそが自分の音楽活動の原点であるからとのこと。さらに最近の若いファンの中には、マイケルがUFO(やスコーピオンズ)にいたことを知らないものも増えているため、その啓発の意味も込めているという。また今回非常に印象的であったのが、マイケルによるMCがほぼ無かった点。前回のツアーではわりと饒舌であったような記憶があるのだが、これもマイケルによれば、「言うべきことがある時は言うし、ない時は何も言わない」とのこと。それにしても素晴らしいライヴであった。コロナの不安も続き、なかなかライヴにも人が集まりづらい中、今回の日本ツアーは全公演がソールドアウトだというのだから、マイケル人気は抜きん出てると言えるだろう。
文:川嶋未来 / 写真:Mikio Ariga
【セットリスト】
2022.11.22(火)中野サンプラザ
- Into the Arena
- Cry for the Nations
- Doctor Doctor
- We Are the Voice
- Looking for Love
- Red Sky
- Sail the Darkness
- Emergency
- Lights Out
- Armed and Ready
- Assault Attack
- Rock Bottom
- Shoot Shoot
- Let It Roll
- Natural Thing
- Too Hot to Handle
- Only You Can Rock Me
【メンバー】
マイケル・シェンカー (ギター)
ロニー・ロメロ (ヴォーカル)
スティーヴ・マン (ギター/キーボード)
ボド・ショプフ (ドラムス)
バレンド・クルボワ (ベース)
【CD収録曲】
- エマージェンシー
- アンダー・アタック
- コーリング・バアル
- ア・キング・ハズ・ゴーン
- ジ・ユニヴァース
- ロング・ロング・ロード
- レッキング・ボール
- イエスタデイ・イズ・デッド
- ロンドン・コーリング
- サッド・イズ・ザ・ソング
- オ・ルヴォワール
- ターン・オフ・ザ・ワールド ※世界共通ボーナストラック
- ファイター ※世界共通ボーナストラック
- ヘルプ ※日本盤限定ボーナストラック
- ロンドン・コーリング(オルタナティヴ・ヴォーカル・ミックス) ※日本盤限定ボーナストラック