ヘヴィメタル界のまだ見ぬ大物と言えばこの人、キング・ダイアモンド。日本に来てくれない(一度来かかったことはあるけど)のであれば、こちらから見に行くしかない。ということで、2019年12月1日、ロサンゼルスでのライヴを見てきた。ゴシック+正統派メタルという斬新なスタイルで話題のIdlehandsにUncle Acid and the Deadbeatsという、意外ながらも豪華なラインナップのオープニングが終了すると、ステージには幕が。何しろキング・ダイアモンドだ。幕の向こうでは、ゴージャスなセットが組み上げられていることは容易に想像できる。それだけに、期待に胸が高鳴るというもの。ユーライア・ヒープの「The Wizard」から、ニュー・アルバムのイントロとなる「St. Lucifer’s Hospital」へとBGMが移っていく。そしてついに幕が開くと、おなじみのバルコニー+階段に加え、病室のような地下牢のようなセットが!07年の『Give Me Your Soul… Please』以来13年ぶりとなるニュー・アルバム『The Institute』を来年リリース予定ということで、今回の全米ツアーはその予告編のような位置づけなのだ。ちなみに”Institute”とは、「研究所」、「研究施設」という意味。
Masquerade of Madness from upcoming album “The Institute”
通常はドラマーがまず一番に登場し、その後ベース、ギター、そして最後にヴォーカリストが登場するものだが、キング・ダイアモンドの場合はまったくの逆。いきなり診察台(?)に寝転んだキングが登場。しかも腕には点滴が。注目の1曲目は「The Candle」!86年の(キング・ダイアモンド名義での)デビュー作、『Fatal Portrait』のオープニング・ナンバーだ。当然冒頭から場内大合唱!!かと思ったら、意外とそうでもない。アメリカ人と言えど、ファルセットで歌うべきなのか普通に歌うべきなのか、戸惑いがあるのだろうか。続いては90年の『The Eye』から「Behind These Walls」。ここでは修道女が登場。魔女容疑をかけられた修道女への迫害が、『The Eye』のテーマだ。「The Eye」というネックレスを手にすると、修道女たちが拷問され焼かれた過去が見えるというお話である。この曲がプレイされるのは、わりと意外。今年のツアーで初めてセットに載ったのではないだろうか。
続いては「Funeral」(イントロ)、「Arrival」、「A Mansion in Darkness」と、87年の超名作セカンド『Abigail』のオープニング再現!「アビゲイル」とは、ラフェイ伯爵に殺された赤ん坊の名。『Abigail』はミイラ化したアビゲイルを収めた棺桶が眠る屋敷に引っ越してきた夫婦の物語である。ステージ上には「Abigail」と書かれた棺桶が登場。そしておなじみのアビゲイル人形を使ったパフォーマンス。それにしてもキングの声は良く出ている。
Arrival (Live at Graspop)
30歳年下のキングの奥様もバックコーラスで参加。『Songs for the Dead Live』のDVDでは正直あまりよく声が聞こえなかったが、今日は存在感バッチリ。見事にキングのヴォーカルをサポートしていく。「A Mansion in Darkness」では、アビゲイルに憑依された妻、ミリアム役の女性も登場。ランプを手に、暗い屋敷を彷徨ってみせる。
A Mansion in Darkness
続く『Voodoo』(98年)のタイトル曲では、女性ダンサーが登場。エスニックな名曲で盛り上がったあとは、メンバー紹介。当然アンディ・ラ・ロック(G)にはひときわ大きな歓声が。ちなみにキング・ダイアモンドの場合、ギターなどの交換に出てくるクルーたちも黒装束。細部まで配慮がいきわたっているのだ。続いては、再びファーストからの定番、「Halloween」で場内大合唱。そして、先日公開された新曲「Masquerade of Madness」。これがまたキング節全開で、否が応でも新譜への期待が高まる。主人公であろう仮面をかぶせられた女性も登場して場内を盛り上げる。
BGMで「Out From the Asylum」がかかると、出た、車椅子の老婆!これにはオーディエンスも大興奮!一斉にスマホが掲げられる。さすが21世紀。『”Them”』(88年)と『Conspiracy』(89年)の2枚のアルバムは、老婆とキングをめぐる1組のホラー・コンセプト・アルバム。『”Them”』のオープニングの2曲、「Out From the Asylum」、「Welcome Home」は、そのタイトル通り、老婆が精神病院を退院し、家に帰ってくるシーンの描写なのだ。続く「The Invisible Guest」、「Sleepless Nights」も、そのコンセプト・アルバムの一部を成す楽曲。
Sleepless Nights (Live at The Fillmore)
「とても古い曲を」という紹介でプレイされた「The Lake」は実に渋い選曲。もともとは「Halloween」のシングル盤のB面に収録されていたナンバーで、今年のツアー以前ではほとんどプレイされたことがない。ここでは「湖に消えた」というシスター・マーガレットが登場し、キリストの十字架像を手にキングとやりあってみせる。『The Eye』(90年)の「Burn」(これもそこそこ渋い)では、ヴァイオリンを手にした女性が登場(当て振りだけど)。ヴァイオリンの音色が重要な役割を果たす曲だし、「They say the devil is here tonight, then let him play his violin so wild」という歌詞も出てくるからだ。そして、ついにショウはクライマックスへ。ラストの「The Black Horsemen」は、わずか1か月前に亡くなったティミ・ハンセンに捧げられた。ティミはマーシフル・フェイト時代からキングを支えた名ベーシスト。『Abigail』のベースも、もちろんティミだ。名コンセプト・アルバムを締める「Black Horsemen」は、スケールの大きい複雑なナンバー。ショウのエンディングとしても最高。そして、もちろんライヴ自体も大満足。唯一、マーシフル・フェイトのナンバーがプレイされなかったのだけが残念であったが、贅沢を言い出したらキリがない。来年はマーシフル・フェイト再始動もアナウンスされており、それもあって今回はキング・ダイアモンド名義の楽曲だけにとどめたのだろう。
終演後キングに「前回のアクシデントは知っていますが、いつか日本に来てください」と伝えると、「自分もぜひ日本には行きたいんだ。待っててくれるファンも多いんだろう?」という非常に前向きな答えが。何とかならないものだろうか。
文 川嶋未来
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歴史的名盤『Abigail』完全再現含む 最新ライヴ映像作品
キング・ダイアモンド『ソングス・フォー・ザ・デッド・ライヴ』
2枚組ライヴDVD+CD 7,150円(税抜 6,500 円)
【DVD収録内容】
《DVD 1:グラスポップ・メタル・ミーティング[2016年6月17日]》
- アウト・フロム・ジ・アサイラム
- ウェルカム・ホーム
- スリープレス・ナイツ
- ハロウィーン
- アイ・オブ・ザ・ウィッチ
- メリッサ
- カム・トゥ・ザ・サバス
- ゼム
- フューネラル
- アライヴァル
- ア・マンション・イン・ダークネス
- ザ・ファミリー・ゴースト
- ザ・セヴンス・デイ・オブ・ジュライ・1777
- オーメンズ
- ザ・ポゼッション
- アビゲイル
- ブラック・ホースメン
- インサニティ
《DVD 2:ザ・フィルモア・フィラデルフィア[2015年11月25日]》
- アウト・フロム・ジ・アサイラム
- ウェルカム・ホーム
- スリープレス・ナイツ
- アイ・オブ・ザ・ウィッチ
- ハロウィーン
- メリッサ
- カム・トゥ・ザ・サバス
- ゼム
- フューネラル
- アライヴァル
- ア・マンション・イン・ダークネス
- ザ・ファミリー・ゴースト
- ザ・セヴンス・デイ・オブ・ジュライ・1777
- オーメンズ
- ザ・ポゼッション
- アビゲイル
- ブラック・ホースメン
- インサニティ
【CD収録曲】
《ザ・フィルモア・フィラデルフィア[2015年11月25日]》
- アウト・フロム・ジ・アサイラム
- ウェルカム・ホーム
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- アイ・オブ・ザ・ウィッチ
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- ア・マンション・イン・ダークネス
- ザ・ファミリー・ゴースト
- ザ・セヴンス・デイ・オブ・ジュライ・1777
- オーメンズ
- ザ・ポゼッション
- アビゲイル
- ブラック・ホースメン
- インサニティ
【メンバー】
キング・ダイアモンド (ヴォーカル)
アンディ・ラ・ロック (ギター)
マイク・ウィード (ギター)
ポンタス・エグバーグ (ベース)
マット・トンプソン (ドラムス)