サウス・カロライナのテクニカル・デス・メタル・バンド、ナイル。9枚目となるニュー・アルバム『ヴァイル・ナイロティック・ライツ』がリリースする彼ら。毎回アルバムに付属する、リーダー、カール・サンダースによる、もはや名物となっている詳細なライナーノーツは本作でも健在。(日本盤付属の全訳では2万字超!)なので、『ヴァイル・ナイロティック・ライツ』について詳しく知りたければ、そのライナーノーツを読むのが一番。もはやインタビューで聞くべきことなどほぼ残されていない状況であるので、今回はもっと一般的な、カールの音楽的バックグラウンドやエジプトへの興味の背景などについて聞いてみた。バンド名にも表れているように、エジプトをはじめとした中近東への傾倒がよく知られているナイルだが、実のところサウンドトラックからクラシックに至るまで、その射程は非常に広いのだ。
ー ニュー・アルバム『ヴァイル・ナイロティック・ライツが』リリースになります。いつものようにあなたの詳細なライナーノーツがついていて、日本盤にはその全訳が付属します。ライナーノーツに本作に関することはすべて書かれていると思うので、改めてインタビューをするのも難しいのですが。
カール:(笑)。訳がつくのはいいね。今ちょうど気分がいいんだ。起きてコーヒーを飲んで、インタビューを受ける準備もバッチリだよ。いつでも始めてくれ。
― 以前のアルバムと比べた場合、ニュー・アルバムはどんなところが進化していると思いますか。
カール:そうだな、バンドの団結、チームワーク、チーム・スピリットだね。メンバー全員が一緒に作品を作ろうと集中していたというのが、過去の作品と比べ非常に深い相違だと思う。曲の書き方にも影響が出たしね。アイデアを出し合って、一緒に演奏をしてみて。
― 新メンバー、ブライアン(キングズランド)が加入しています。彼はバンドにどのようなものを持ち込んだと言えるでしょう。
カール:彼はたくさんの新しいギターのアイデアを持ち込んだよ。彼のスタイルは、もちろん俺たちに合わせている部分もあるけれど、彼自身のアイデアもたくさん入っている。非常に助かったよ。バンドとして長いことプレイをしていると、新しいものが欲しくなってくるからね。誰かに違ったアイデアを持ってきてもらうというのは、とても大きなインスピレーションになったよ。
― 「ザス・セイエス・ザ・パラサイツ・オブ・ザ・マインド」では民族楽器が聞こえますが、ウードでしょうか。
カール:(笑)。あれはウードではなくて、バグラマ・サズだよ。あの曲ではアコースティック・ギターも使われているけれど、弾き方が、何と言えばいいかな、普通のやり方じゃないんだ。ウードみたいな音も聴こえると思うけど、あれは実はギターなんだよ。
― なるほど。ウード、バグラマ・サズ以外にも、何か民増楽器を演奏するのですか。
カール:バグラマとギターだけだよ。基本的に俺が演奏するのは。バグラマは俺のソロ・アルバムでも聴けるし、俺のソロ・アルバムでも聴ける。とても特徴のあるサウンドだからね。
― ウードやバグラマは、ギターが弾ければ弾けるものなのでしょうか。それともまったくの別ものですか。
カール:ギターのテクニックを流用することはできるよ。そういう意味で、俺はウード・プレイヤー、サズ・プレイヤーというよりも、ウードを所有しているギター・プレイヤーというべきかもしれない(笑)。
― 非常にシンフォニックなアレンジメントが施されている曲もありますが、あれらは本物のオーケストラ楽器ではなく、ソフトシンセでしょうか。
カール:そうだよ。今の時代、VSTはあそこまでのクオリティになっているのさ。予算的な観点からすると、ビッグサウンドがほしいときに、ソフトシンセを使うというのはとても意味があることさ。今はテレビ用の音楽もソフトシンセで作られているくらいだからね。彼らは本当のオーケストラを使うことができるにもかかわらずだよ。それが現代のやり方なのさ。
ー ブラスのサウンドなど、一切本物に遜色ないですよね。
カール:(笑)。そうなんだよ。ここ何年かのテクノロジーの進化には、驚かされるよ。本当に仰天するね。
「ヴァイル・ナイロティック・ライツ」 OFFICIAL LYRIC VIDEO
「ロング・シャドウズ・オブ・ドレッド」 OFFICIAL LYRIC VIDEO
― ライナーノーツでは、ハワード・ショアや伊福部昭の名前も挙がっていました。ナイルというと、デス・メタルと民族音楽という印象が大きいですが、映画のサウンドトラックからの影響も大きいのですね。
カール:(笑)。ときに、ほかに代理できるものがないからね。ビッグでエピックなサウンドが欲しければ、ビッグでエピックにするしかない。
― 他にはどんなサウンドトラックのコンポーザーがお好きですか。
カール:もちろんジョン・ウィリアムズ。彼を無視することなんてできないだろ?カモン!『コナン』のサウンドトラックをやったのは誰だっけ?このサウンドトラックは今でもよく聴いているんだよ。そう、ベイジル・ポールドゥリス!
― ライナーノーツでは、ワーグナーを思わせる記述もありますよね。「神々の黄昏」とか「ライトモチーフ」とか。
カール:(笑)。ワーグナーは古典だからね。あれがワーグナーのことだというのはみんなわかるはずさ。音楽をやるならば、あれらの用語は理解しなくてはいけないよ。リヒャルト・ワーグナーと彼のオペラ。Holy smokes! 彼がまったく新しいエピックなスタイルを始めたのだから。
― 初めての音楽との出会いはどのようなものだったのですか。
カール:初めての出会いは9歳のころ、俺は当時サンフランシスコに住んでいたから、ヒッピーのムーヴメントがあってね。60年代の終わりに。俺の最初のギター教師たちは、みんなヒッピーみたいな感じだった。アコースティック・ギターをかきならしてね。俺が音楽を始めたのは、そんな感じだった。
ー ではメタルとの出会いについてはいかがでしょう。
カール:それは10代のころだね。レッド・ツェッペリンやブラック・サバス、キッス、エアロスミスとか。本当にハマったよ。「ああ、これは最高だ!」ってね。
― そこからスラッシュ、デスへと移行していったわけですね。
カール:そう、自然の進化だった(笑)。メタリカやスレイヤー、エクソダスみたいなバンドを見つけて。彼らは別次元の興奮をもたらしてくれたし、別次元のチャレンジだった。それから数年後、デス・メタルが出てきてね。これはギタリストにとって、さらなる挑戦だったよ。
― メタリカやエクソダスが出てきたときに、あなたはまだサンフランシスコにいて、直に体験したのでしょうか。
カール:いや、そのころはすでにサウス・カロライナに移ってた。
― ワールドミュージックへの傾倒は、どのようにして始まったのですか。エジプトなどの歴史への興味から派生したのでしょうか。
カール:ワールドミュージックに興味を持ったのは、ナイルのオリジナル・ドラマー、Pete Hammouraに出会ったからだったと思う。彼の家族はレバノン人だったから。彼とはとても仲が良くて、彼の家に遊びにいくと、家族がいてね。レバノンの料理を食べたり、レバノンの音楽を聴いたりした。俺にとってとても興味深いものだった。西洋音楽とはまったく違うものだったからさ。彼とはいつもこんなアイデアについて語り合っていたんだ。「もし、これらの音楽をエレキギターとビッグ・ドラムで演奏したらどうなるだろう」って。
― 中近東ものものだけでなく、世界中のワールドミュージックを聴かれるようですが。
カール:この地球には本当にさまざまな音楽があるからね。無限と言って良いほどに。すべてを知ることはできないくらい良い音楽は存在しているよ。もちろん、みんながすべてを聴く必要はないと思うよ。「みんな何でも聴くべきだ」とは言わない。でも、もし音楽が好きならば、この地球には本当にたくさんの音楽があるということは知るべきだと思う。
ー ラヴィ・シャンカールやヌスラット・ファテ・アリ・ハーンなどもお好きとのことですが。
カール:そうだよ(笑)。
ー メタルファンも聞くべきワールドミュージックのアーティストを何人か教えてもらえますか。
カール:うーん、メタルヘッドが聴くべきワールドミュージックかあ。
― そうじゃなくても良いですが。
カール:(爆笑)。俺はパレスチナのトリオ、ジュブランが大好きなんだ。3人のパレスチナ人がウードを演奏しているんだ。彼らの音楽が大好きでさ。彼らのウードのリフは、ナイルみたいだよ。メタル・バンドとしてナイルが好きならば、ル・トリオ・ジュブランの音楽にも同じアイデアを聴くことができるはずさ。
― ル・トリオ・ジュブランのことはライナーノーツにも書いてましたよね。他にもお勧めはありますか。
カール:ワールドミュージックの話を始めたら、1日がかりになるよ(笑)。トルコのサズ奏者、Orhan Gencebayは大好きだね。
― メタルという観点では、具体的にどのようなバンドから影響を受けたのでしょう。特にテクニカルな面について、いかがですか。
カール:テクニカルな面でか。やっぱりスコーピオンズだね。テクニカルなギターという面で、俺が最初に好きになったのは彼らだった。ギタープレイや、その弾き方が大好きでね。テクニカル・メタルとなると、俺はクラシックなのが好きで、古いカンニバル・コープス、古いモービッド・エンジェル、サフォケイション、クリジウンとか。こういうのが俺にとってメタルなんだ。
― ライナーノーツで詳説されているとおり、ナイルの歌詞のアイデアは非常に複雑で深いものです。一方で、歌詞そのものはむしろシンプルですが、これはライナーノーツで書かれていたように、コンセプトをメタル用に凝縮し蒸留しているといことなのでしょうか。
カール:君の言ったことは非常に正しいと思うよ。曲の目的というのは、そうだな、オーディエンスが脳をシャットダウンしてしまうのではなく、きちんと聴けることが重要だと思うんだ。ギターがあまりにテクニカルすぎたり、言葉があまりに複雑すぎるになりすぎたりすると、アイデアがきちんと伝わらないことがある。これは食べものも同じで、スープにあまりにたくさんのものを入れてしまうと、食べられなくなってしまうだろ。シンプルにとどめておくべきものもあるということさ。複雑なアイデアも、人々が理解できる言葉で表現できるんだ。賢いとか賢くないとか、そういうことではない。俺たちはみんな人間で、脳はある種の情報の流れを受け入れることができるんだ。あまりに多くの情報を詰め込みすぎて、人間の脳の容量を超えてしまうと、何も伝わらなくなってしまう。だから、歌詞に関しては、複雑なアイデアも、誰にでも理解できる方法で表現できるということだよ。
― エジプトに興味を持つようになったきっかけは何だったのですか。
カール:子供のころ、父親とよく映画を見ていたんだ。彼はビッグでエピックな映画が大好きだったから。『ベン・ハー』、『ピラミッド』、『ソドムとゴモラ』、『十戒』とかね。俺の子供時代、とても大きなインスピレーションの源になったのさ。古代とか、その壮大さとかがね。
― 古代エジプトやローマの歴史に関する知識というのは、アメリカではある程度誰でも持っているものなのですか。
カール:みんなテレビは持ってるからね。俺たちはみんな同じミイラの映画を見て育っているし。アメリカというより、地球どこでも常識なんじゃないかな。火星での出来事ではなく、この地球で起こったことなのだからね。人々はそれらについて知っているのさ。それにインターネットの時代になって、世界はますます狭くなったからね。みんなあらゆる情報へアクセスできるようになっているだろ。20年前と比べても、ずいぶんと様変わりしているよ。
― 日本でも、もちろん世界史の授業などで、エジプトやローマのことは習います。しかしこれらが誰もが共有している基礎知識、常識という感じではない気がします。
カール:君の言うとおりかもしれないな。アメリカも似たような状況ではあるよ。まあ人々は基本的な知識という意味では十分なものは持っていると思う。みんながエジプト学の専門家になるわけではないしね。誰でもナイルを聴くことができるし、そこから学ぶこともあると思うし。
― お気に入りのアルバムを3枚教えてください。
カール:お気に入りの3枚かあ。ジューダス・プリーストの『ペインキラー』なんかはどうだろう。それからモービッド・エンジェルの『Blessed are the Sick』。あとはゴアフェストの『False』。
― お生まれは何年なのですか。
カール:1963年だよ。
― では、ヘヴィメタルからスラッシュ、デスまですべてをリアルタイムで経験されているのですね。
カール:(笑)。その通りだよ。すべてを体験できた年齢さ。ときどき自分の年齢のことを忘れてしまうけどね。俺はただメタルが好きな男さ。
― 私ももう49なのですが、自分が49であるという実感は皆無ですよ。
カール:わかるよ!本当クレイジーだよね。ある朝目覚めてみると、もはや数字なんて意味がないものさ。年齢はただの数字で、もはや意味を持たないよ。
― 時が過ぎるのが早すぎて。
カール:本当に早いね。Tempus fugit.「光陰矢の如し」とはよく言ったものだよ。
― では最後に、日本のファンへのメッセージをお願いします。
カール:最後に日本に行ったのは、もう6年前かな。そろそろまた日本に行かないとね。ニュー・アルバムも出ることだし、ぜひまた日本に行きたいよ。実を言うと、俺にとって日本は地球上でお気に入りの場所なんだよ。美しい国だし、文化も大好き。日本に行って、日本のファンに会うのはいつも楽しみなのさ。
文・取材 川嶋未来
11月1日発売
ナイル『ヴァイル・ナイロティック・ライツ』
【DVD+CD】 GQCS-90793 / 4582546590444 / ¥2,500+税
【カール・サンダースによる詳細なライナーノーツの全対訳付き/歌詞対訳付き】
【CD収録曲】
- ロング・シャドウズ・オブ・ドレッド
- ジ・オックスフォード・ハンドブック・オブ・サヴェージ・ジェノサイダル・ウォーフェア
- ヴァイル・ナイロティック・ライツ
- セヴン・ホーンズ・オブ・ウォー
- ザット・ウィッチ・イズ・フォービドゥン
- スネイク・ピット・メイティング・フレンジー
- レヴェル・イン・ゼア・サファリング
- ザス・セイエス・ザ・パラサイツ・オブ・ザ・マインド
- ホエア・イズ・ザ・ラスフル・スカイ
- ジ・インペリシャブル・スターズ・アー・シッケンド
- ウィ・アー・カースド
【メンバー】
カール・サンダース(ギター/ヴォーカル/キーボード)
ブライアン・キングズランド(ギター/ヴォーカル)
ジョージ・コリアス(ドラムス/パーカッション)
ブラッド・パリス(ベース/ヴォーカル)