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ブリトニー・スレイズ
(アンリーシュ・ジ・アーチャーズ)
独占インタビュー

今回初めてシンセを取り入れたの。
ジャンルをブレンドすることにためらいはなかったけど、今回は特定のサウンドにこだわった。

                                   

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文:川嶋未来 写真:Shimon Karmel

ニュー・アルバム『アビス』をリリースするカナダのパワー・メタル・バンド、アンリーシュ・ジ・アーチャーズ。4オクターヴの声域を誇るフロントウーマン、ブリトニー・スレイズに話を聞いてみた。

 

 

ー ニュー・アルバム『アビス』がリリースになります。前作と比べてどのような点が進化していると言えるでしょう。

 

ブリトニー:今回のアルバムでは、間違いなく曲にまとまりがあるわ。基本的なやり方は『Apex』のときと同じで、まず私が物語を書いて、その章をそれぞれ曲にしていった。速い曲であるとか、どんな感情的インパクトがあるべきかとか、何についてなのかとか、曲作りガイドラインを示しながらね。一番の違いは、アンドリューが牽引役として、アルバムほとんど全体のメインリフを書いたということ。つまり、私とアンドリュー2人で協力してアルバムの曲を書いていったの。だから、方向性がしっかり定まったと思う。新しいテクニックも試したわ。今回初めてシンセを取り入れたの。どの曲にもシンセが入っているわ。私たちはジャンルをブレンドすることにためらいはなかったけど、今回は特定のサウンドにこだわったというのかしら。もちろんデス・メタル、パワー・メタル、スラッシュ、アコースティック、フォーク何でもアリという私たちのスタイルは残っているけれど、とてもまとまりのあるレコードになっている。あらゆる点において、過去の作品とは違うレベルに仕上がっているわ。

 

 

— 今回もコンセプト・アルバムなのですよね。

 

ブリトニー:そうよ。

 

— ストーリーを簡潔に教えてもらえますか。

 

ブリトニー:前作『Apex』では、メイトリアークとイモータルという2人のメイン・キャラクターが登場した。イモータルは敵役のような感じ。彼は彼を目覚めさせたものに永遠に仕えなくてはいけないという呪いをかけられているの。『Apex』のオープニングで、イモータルはメイトリアークによって、何千年もの眠りを覚まされる。メイトリアークは、イモータルに彼女の4人の息子を探させるの。不死の儀式を行うために。今回の『アビス』では、再びイモータルは眠りについていて、新しいマスターによって目覚めさせられる。前作でメイトリアークに殺された息子の1人の孫によって。復讐を果たすためにイモータルを目覚めさせたということ。イモータルは自分を殺すために目覚めさせられたのかと思ったけれど、実はその孫はイモータルと協力してメイトリアークを倒すことを望んでいる。つまり、イモータルとその孫の、メイトリアークや彼女の世界、邪悪さを打倒するというミッションについてのお話よ。

 

— こういうストーリーはどのようなところからインスピレーションを得るのでしょう。

 

ブリトニー:コミックブック、映画、ビデオゲーム、本。あらゆるものからインスピレーションを受けるわ。私が感銘を受けたものからは何でも。だから、このストーリーに登場するメイン・キャラクターたちも、いろいろなところからのインスピレーションよ。初めから女性の敵役が欲しいと思っていて、メイトリアークは『ウィロー』という映画に登場する女王バヴモルダがモデルなの。とても古い映画だけど、大好きな作品。あと、80年代の仕事に貪欲なキャリアウーマンのイメージもある。イモータルは、今私が読んでいる『East of West』というコミックブックに登場するウルフがモデル。彼は暗くて不吉だけれども、良い人なの。この2人がベースにあって、彼らが衝突をして、残りのストーリーを考えていった感じ。基本的にはこの2人がお互いに反応しあっていくというものよ。

 

 

— アートワークは古いアメリカのコミックや、80年代のメタルのジャケットを思い起こさせますが、そのあたりの狙いがあるのでしょうか。

 

ブリトニー:もちろん(笑)。80年代へのノスタルジーというか、ファンタジー小説の表紙みたいでしょ。一目見ただけで、ある程度のストーリーがわかるようにしたかったの。新しい音楽を見つける場合、アートワークというのはとても大切よね。他の人はわからないけれど、少なくとも私はYouTubeやSpotify、あるいはレコード屋で新しいバンドを探すとき、アートワークをまず見るわ。アートワークを見れば、そのバンドがどんなスタイルなのか、どんなジャンルなのかがわかるから。だから、私たちもアートワークでストーリーを伝えたかったし、すぐに注意を引けるものにしたかったの。

 

— 前作に引き続き、ヤコブ・ハンセンがエンジニアを務めていますが、彼との仕事はいかがですか。

 

ブリトニー:彼は本当に素晴らしいのよ。彼や彼の技術をとても信頼しているし、彼に任せてれば、一切の心配をする必要がないわ(笑)。彼が「心配するな、修正しておくから。うまくやる」と言う場合、必ずその通りになる。彼はできると言ったことは必ず実現してくれるから、彼に仕事を頼むのに躊躇する理由なんてまったくない。過去に何度か「本当に大丈夫?もう何テイクか録った方がいいんじゃない?」ということもあったのだけど、彼は「いや、大丈夫。ここまでテイクで問題ない」って。できあがった曲を聴いてみたら、「オーマイゴッド!あなたの言う通りだったわ」なんていう感じだった。それに、今回は彼と2度目の仕事だったから、やり方もわかっていたし、全員同じ方向を向いて完成させることができた。彼、そして彼の才能を絶対的に信じているの。

 

— バンド名(射手たちで猛攻撃をかけろ)というのはどのような意味が込められているのでしょう。

 

ブリトニー:えーと(笑)、なかなかみんなが賛成するバンド名が思いつかなかったの(笑)。ある時リハーサル中に、1人のメンバーが「アンリーシュ・ジ・アーチャーズはどう?」って言い出して、それは良いアイデアだっていうことになった。私たちにはパワー・メタル的な要素もあるし、もちろんデス・メタル的要素もあるけれど、私の歌詞は歴史からも大きな影響を受けていて、私は中世の歴史オタクなの。だから、その名前にピンと来たのよ。名前を考えたのはずっと昔のギタリスト、マイクなのだけど、彼がその名前を提案したときにこれは良いと思った。切迫感のある響きも気に入ったし。それでみんなも賛同して、だから閃きの瞬間があったとかではなくて、みんなで何となく決めたのよ。

 

 

— 音楽との出会いはどのようなものだったのですか。あなたのバックグラウンドはクラシックなのですよね。

 

ブリトニー:そうよ。私は言葉を喋れるようになる頃には、すでに歌い始めていた。父もミュージシャンで、私が生まれる前に何年もバンドでプレイして歌っていた。母方にもたくさんのミュージシャンがいる。兄もドラマーだし、そういう血が私にも流れているというのかしら。十分な年齢になるとすぐに地元の合唱団に入ったから、人生の最初の10年間はクラシックを歌っていたのよ。だけど、8歳のときにヘヴィメタルに出会って、ピンと来た。高校を卒業する頃になると、さらにたくさんのヘヴィメタルを聴くようになっていたわ。ライヴにもたくさん行くようになって、私の声、経験を自分の好きな音楽のために、つまりヘヴィメタルのために使いたいと思った。私はクラシックが大好きだし、合唱団も恋しい。クラシックというのは古くならないものだし、とてもパワフルでもあるし。でも、パワー・メタルを歌うのはとてもハッピーだし、この運命からは逃れられないわ(笑)。

 

— ヘヴィメタルとはどうやって出会ったのですか。残念ながら、ヘヴィメタルは普通に生活をしていて出会うようなメインストリームな音楽ではないですが。

 

ブリトニー:あの頃、あなたたちのところにもこういうシステムがあるかわからないけど、コロムビア・レコードがカタログを発行していて、1枚アルバムを買うと、確か3枚タダでもらえるというのをやっていたのよ。1枚の値段で3枚さらにタダでもらえる。それで父はいつもレコードを買っていて、私と兄が1枚ずつもらえるレコードを決めていたの。ある時、実は私ではなく、兄がメガデスの『Countdown to Extinction』を選んだのだけど、届いてみたら、これにハマったのは私の方だった。まだ8歳で、自分の部屋の床に座って、小さなラジカセにテープを入れて繰り返し聴いた。「Symphony of Destruction」は、それまでに聴いた中で最高の曲だったわ。アートワークもクールだったから、座ってブックレットもじっくりと眺めて。本当にあのアルバムは大好きだった。あれが、本当のヘヴィメタルを最初に聴いた時だったわ。もう少し大きくなってから、ジューダス・プリースト、アイアン・メイデン、クイーンズライク、ロニー・ジェイムズ・ディオなんかと出会ったのだけど、ポップ・ミュージックを聴かなくちゃいけないという同調圧力から逃れられたのは高校を卒業してから(笑)。それでメタルヘッドとして花開いたの。

 

ー アンリーシュ・ジ・アーチャーズが影響を受けたバンドとなると、どのあたりでしょう。

 

ブリトニー:アイアン・メイデンからの影響はよくわかると思う。ギタリストは2人ともアングラが大好きだから、それもわかるはず。シンフォニーX、デヴィン・タウンゼンドも少々。ヘヴィな面についてはソイルワークからの影響も大きいわ。クイーンズライクからの影響も少しある。個人的に、そして歌詞的にはアイスト・アース。こんな風に色々なバンドから影響を受けているの。どれか1つのバンドを追いかけている訳ではないわ。その時々に聴いているものから影響を受けるの。今回のアルバムにシンセが入っているのは、最近みんなシンセウェイヴにハマっているから。LeBrock、FM-84、NightStopとかね。素晴らしいシンセウェイヴやレトロウェイヴ・バンドがいる。ニュー・アルバムには、明らかにシンセウェイヴの影響があるわ。

 

— 個人的にヨーロッパ色が強いサウンドだと思っていたのですが、あなたが挙げたバンドの半分くらいは北米のものですね。

 

ブリトニー:私たちはみんなカナダのブリティッシュ・コロンビアに住んでいるから。もともとバンドはヴィクトリアで結成されたのだけど、今は1人を除いて全員ヴァングーバーに住んでいる。確かに私たちはヨーロッパのサウンドも追い求めていたけれど、一方で北米のパワー・メタル・サウンドも取り入れているの。バンドを始めた頃は、誰も私たちのことをヨーロッパっぽいとは言わなくて、むしろアメリカのデス・メタルやメタルコアだと言われていたのだけど(笑)、今はヨーロッパからの影響も多分にあるわ。

 

 

— お気に入りのヴォーカリストは誰ですか。

 

ブリトニー:ロスト・ホライズンのダニエル・ハイマンが間違いなくナンバー1。アイアン・メイデンのブルース・ディッキンソンやクイーズンライクのジェフ・テイトも大好き。元アイスト・アースのマット・バーロウ。もちろんジューダス・プリーストのロブ・ハルフォードも好きだし、お気に入りのヴォーカリストはたくさんいる。クラシックなパワー・メタル・ヴォーカリスト達。

 

— 共感を覚える若いバンドはいますか。

 

ブリトニー:そうねえ、Idle Handsは大好きだけど、彼らはもっとゴシックっぽい凄く暗いメタルをプレイしている。それからあのバンド、名前が出てこない、ちょっとSpotifyのリストを見てみるわ(笑)。Visigoth。彼らは音も近い。Dire Perilもクールだし若いわ。私たちと同じように、アイスト・アースからの影響もあるし。Helion Primeは、私たちと同じようにSFからの影響を受けているわ。カナダには本当にカッコいいTravelerという若いバンドがいる。オールドスクールな、アイアン・メイデンのフィーリングがあるスーパークールなバンドよ。彼らも私たちと近いことをやっていると思う。いわゆるトラディショナルなヘヴィメタルのリヴァイヴァルをやっているバンドはたくさんいる。特に北米にね。だから選ぶのは大変(笑)。

 

— カナダのシーンについてはいかがでしょう。

 

ブリトニー:カナダはその時々でいつも凄く人気のあるバンドが出て来て時代を築いて、という感じなの。カタクリズムとか、ストラッピング・ヤング・ラッズとか、たくさんいるわ。今はシーンに多くの人気のある若いバンドが出て来ていて、カナダの実力というものを示していると思う。シーンはとても活気があって、ライヴもたくさんあるし、メタルヘッドもたくさんいる。とても頑張っているバンド、レーベルと契約して世界へ出て行くバンドも多い。シーンはとても強力だと思うわ。誰かが私たちを見つけて、「君たちもカナダ出身なんだ。カナダには良いバンドがたくさんいるよね」なんて言われると、とても嬉しいわ。

 

— お気に入りのアルバムを3枚教えてください。

 

ブリトニー:うー、それは難しい(笑)。アイアン・メイデンの『Brave New World』は大好き。間違いなくトップ3に入るわ。それからソイルワークの『The Living Infinite』も最高。このアルバムは最初から最後まで、1曲も飛ばさずに聴ける。あと1枚、難しいわ。アイスト・アースの『The Crucible of Man』がおそらくナンバー3ね。

 

— 来日経験がありますが、日本はいかがでしたか。

 

ブリトニー:素晴らしかった。とても楽しかったわ。私たちもまだ若くて、何人かのメンバーは加入したばかりだったから、自分たちのサウンドを見つけ始めている状態だったけれど。今はメンバー間の関係もしっかりできて、自信もある。あの頃はまだ新人だったけれど(笑)、見に来てくれたお客さんたちはとても素晴らしかった。何より熱狂的で、拳を振り上げればみんなついてきてくれて、ノってくれないお客さんは1人もいなかった。手拍子をしても、すぐに反応してくれるし。みんな笑顔で、ショウを楽しんでくれている感じだった。とても素晴らしい体験だったから、ぜひまた日本に行きたいわ。

 

 

— では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。

 

ブリトニー:早くニュー・アルバムを聴いて欲しい。この作品のことをとても誇りに思っているわ。みんなこのアルバムや音楽的方向性を気に入ってくれると思う。スーパーファストなパワー・メタルやミドルテンポのムーディなバラード、10分に渡るエピックな勇ましい曲。色々な曲が入っている。私たちもこの作品を作るのがとても楽しかったから、ぜひみんなにも楽しんで欲しいわね。

 

 

文 川嶋未来


 

 

 

2020年8月21日 世界同時発売

アンリーシュ・ジ・アーチャーズ

『アビス』

CD

 

【CD収録曲】

  1. ウェイキング・ドリーム
  2. アビス
  3. スルー・スターズ
  4. レガシー
  5. リターン・トゥ・ミー
  6. ソウルバウンド
  7. ファスター・ザン・ライト
  8. ザ・ウィンド・ザット・シェイプス・ザ・ランド
  9. キャリー・ザ・フレイム
  10. アフターライフ
    《日本盤限定ボーナストラック》
  11. サングラス・アット・ナイト(コリー・ハート カヴァー)

 

【メンバー】
ブリトニー・スレイズ (ヴォーカル)
スコット・ブキャナン (ドラムス)
グラント・トゥルースデル (ギター / ヴォーカル)
アンドリュー・キングスレー (ギター / ヴォーカル)