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クリストフェル・ユンソン
(セリオン)
独占インタビュー

同じことを繰り返そうというのとは違うかもしれない
俺たちの意図は
ファンが気に入るであろうと思う曲を書くことだった

                                   

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文:川嶋未来

スウェーデンのヘヴィメタル・バンド、セリオンがニュー・アルバム『リヴァイアサンII』をリリースする。これは『リヴァイアサン・トリロジー』という3部作の第2部にあたるもの。デス・メタルから出発し、その後フル・オーケストラをも導入するというプログレッシヴでアーティスティックな道を歩んできたセリオン。リーダーでありギタリストのクリストフェル・ユンソンに色々と話を聞いてみた。

 

 

ー ニュー・アルバム『リヴァイアサンII』がリリースになります。このシリーズは、過去にやったことを敢えて繰り返すという、非常に面白いコンセプトになっていますが、これはどのように思い付いたのでしょう。

 

クリストフェル:同じことを繰り返そうというのとは違うかもしれない。俺たちの意図は、ファンが気に入るであろうと思う曲を書くことだった。これまでセリオンは、ただ自分たちがやりたいことをやってきて、その結果、レコードのセールスは上がったり下がったりだった。だけど、俺たちは商業的な成功や失敗は気にせず、ただやりたいことを続けてきたんだ。ところが、『ビーラヴド・アンチクライスト』の後、何をすれば良いのかわからなくなってしまった。アーティスティックな欲望をほぼ満たしてしまったというのかな。どうすれば良いのかわからず、新たなチャレンジが必要だと思って、これまでは好きなことをやってきたから、ファンの望むものをやるということこそ新たなチャレンジだと思ったんだ。しかも、それを事前予告するとなるとね。例えばアルバムの評判が良くなくても、「これが俺たちのやりたいことだ」と言い訳することができる。だけど、「君たちが気に入るアルバムを作る」と宣言しておいて、評判が悪かったら恥ずかしいだろう?と言う訳で、ファンのためのヒット・アルバムを作るというのがアイデアだったんだ。実際にやってみるとどんどんと曲ができて、アルバム2枚分になった。さらに作業を進める中で、さらに曲ができていって、結局アルバム3枚分になった。それでトリロジーにすることにしたんだ。その中でも曲調が分かれていたから、『リヴァイアサンI』にはダイレクトな曲、大袈裟でストレートな、ヴォーカル中心の曲を入れた。そして『リヴァイアサンIII』はもっと冒険的でプログレッシヴで、少々ヘヴィな内容になる。そして今回の『リヴァイアサンII』は、このどちらにも当てはまらない曲が入っていて、『I』よりも少々ダークでメランコリックなものになっているよ。それぞれのアルバムにはそれぞれの味があって、違ったファンにアピールすると思う。俺たちはこれまで様々なスタイルの曲をやってきたから、誰に尋ねるかによって、どれがセリオンのベスト・アルバムかという答えは変わってくる。Spotifyなどのストリーミング・サービスで見てみると、ダイレクトな曲ほど人気があるようだ。ポップと言うのかな。だけど、ダイハードなファンに尋ねれば「Land of Canaan」のような冒険的な曲が良いと言うだろう。だから、3枚のアルバムで、すべてのファンが何かを見つけられるようにしたのさ。『リヴァイアサンI』の評判はとても良いようだよ。ストリーミングもそうだし、フィジカルのセールスも悪くない。CDマーケットは消失しかけているけれど、多くの国のチャートで最高位を記録したんだ。今のところとても良い感じさ。

 

ー このトリロジーは同時に録音したのですか。それとも別々なのでしょうか。

 

クリストフェル:実はごちゃごちゃなんだ。いくつかの曲は同じ時に録音されていて、その後曲を入れ替えたり。だから、『リヴァイアサンIII』の一部は『リヴァイアサンI』と同じ時の録音だったりする。

 

ー 今回も多くのゲストが参加しています。エクリプスのエリック・モーテンソンも参加していますが。

 

クリストフェル:彼はアルバムのミックスも手がけているよ。(ヴォーカルの)トマスの推薦で。『リヴァイアサンI』をやる時に、サウンド的にはモダンなものにしたいと思ってね。俺はそういうことには疎いのだけど。それで彼のバンドをチェックしてみたんだ。名前は聞いたことがあったし、だいぶ前にファースト・アルバムの曲をいくつか聴いていたけれど、改めて聴いてみたらとても素晴らしくて、衝撃だった。プロダクションも素晴らしいし、彼の声もとても気に入った。『リヴァイアサンI』での仕事も素晴らしかったから、トリロジーのミックスはすべて彼に任せようと。『II』をやるにあたって、いくつか誰にヴォーカルを任せたら良いのかわからない曲があってね。実を言うと「パズズ」はアリス・クーパーに歌ってもらうつもりで書いたんだ。だけど、受けてもらえなかった(笑)。だいぶ前にプロデューサーとギタリストに送ったんだけどね、返信がなかった。だからアリス自身が聴いてくれたかどうかもわからないのだけれど。アリス・クーパーは受けてくれなかったけれど、とても良い曲だから使わないのはもったいなくて。だけど、当時のセリオンのアルバムにはフィットしなかったので、今回ヴォーカル・ラインを書き直した。オリジナルのアリスのイメージを払拭するのは大変でね。どういう声が合うのかわからず、色々なヴァージョンを試したのだけど、なかなかうまくいかなかった。それでエリックを試してみたらどうかと思い付いたんだ。最初の構想とは随分違うヴォーカリストだけれど、試してみたら、素晴らしかった。サビも歌ってもらったのだけど、ちょっとAORすぎる感じもあって、だけどそれも良かったから、それはボーナス・トラックにした。とにかく彼のヴォーカルは素晴らしいから、またぜひお願いすることになるよ。素晴らしいメロディックなシンガーであると同時に、並外れたヘヴィメタルのシンガーでもあると思う。彼がもっとヘヴィな音楽をやらないなんて、大きな損失さ。彼には様々な才能があるよ。それからオープニング・トラックの「イオン・オブ・マート」は、もともとエントゥームドのL.G.に歌ってもらおうと思っていたんだ。だけど、悲しいことに癌になって死んでしまった。しばらく連絡をしていなかったから、癌だと知らなくてね。この曲にはL.G.の声しかないと思っていたから困ってしまった。それでトマスにブルータルに歌ってもらったりもしたのだけど、しっくり来ず、エリックに試してもらったら、とても良い結果になった。ブラッキー・ローレスみたいな感じで。本当に幅広いことができるので、驚かされたよ。普通得意なことがあると、それがコンフォート・ゾーンになって、そこに固執してしまう。エリックは色々と幅広いことがやれるのさ。

 

 

 

ー 今回のトリロジーを『リヴァイアサン』というタイトルにした理由は何ですか。

 

クリストフェル:実は2000年頃に『リヴァイアサン』というタイトルのアルバムを考えていたのだけど、実現しなかった。それで今回のベスト的なアルバムを作ろうという構想が決まった時、つまり古いヴァイブを持ったヒット・アルバムを作ろうと考えた時、「リヴァイアサン」というタイトルを思い出してね。これにしようと。過去へのつながりができるだろ。

 

ー 歌詞はPer Albinsson という人物が手がけています。彼について教えてください。

 

クリストフェル:彼はとても古くから友人で、実は彼は92年に俺たちの最初のヴィデオ・クリップである「Pandemonic Outbreak」も、彼のチームが作ってくれた。93年の「A Black Rose」も。「Too Mega Therion」や「Summer Night City」もそう。彼は詩人で、文学にも造詣が深い、インテリジェントな人物なんだ。俺と興味の対象が似ているし。『ビーラヴド・アンチクライスト』をやった時に、トマスは詩人タイプではないから、うまく歌詞が書けなかったんだ。それでPerこそが適任だと思って任せたら、とても素晴らしい仕事をしてくれてね。その後も一緒に仕事を続けることにしたんだ。彼はお菓子の自動販売機みたいな感じで、お金をいれるとさっとチョコレートやキャンディが出てくる。俺が「実はもう一曲分歌詞が必要なんだ」と言うと、「ノー・プロブレム」と言って、数時間で歌詞を書き上げてしまうんだ。トマスはもっと散発的で、曲を送っても、数週間返信がないこともあれば、一気に4-5曲仕上げてくることもある。

 

ー 具体的にどのような歌詞にするのか、指示は出すのですか。

 

クリストフェル:アイデアや曲のタイトルを伝えることはあるよ。曲のメロディに合わない言葉を直してもらったりすることもある。彼はリサーチも得意なんだ。彼が知らないトピックの場合も、1-2日できちんと調べて歌詞を仕上げてくるのさ。

 

ー そもそもエクストリームな音楽にハマったきっかけは何だったのでしょう。

 

クリストフェル:だんだんとエクストリームなものを聴くようになっていったんだよ。元々はヘヴィメタルを聴いていて、だけど若い頃はどんどんと過激なものを聴きたくなるものだろう?メタリカやスレイヤーが出てきて、彼らはさらにヘヴィでとてもクールだった。それからクリエイターやデストラクションなどの、ドイツのスラッシュはさらにブルータルでね。ある日ラジオでバソリーを聴いたことを覚えている。友人のほとんどは、「エクストリームすぎる!」っていう感じだったけれど、俺はカセットに録音して、とても気に入っていた。すでにヴェノムは聴いていたけれど、彼らは音楽的にはそれほどエクストリームではなかったよね。サタニックな歌詞を持ったパンキーなヘヴィメタルという感じで。バソリーが初めて聴いた、本当にエクストリームなメタルだった。それからケルティック・フロストとも出会って。その後モービッド・エンジェル、オートプシー、カーカスなんかが出てきた。初期のデス・メタルさ。俺がデス・メタルに惹かれた理由は、初期の頃はみんな演奏能力も高くなくて、だけど自由な発想があったところ。スケールに沿って演奏する必要もなく、感じるままにやれば良かった。ところが何年か経つと、合理化されてしまったと言うのかな。「こうでなくちゃダメだ」みたいなドグマが出てきてしまった。それで俺もデス・メタルへの興味を失ってしまって、他の要素を自分の音楽に混ぜるようになったんだ。

 

ー セリオンを始めた頃は、どのようなバンドから影響を受けていたのですか。

 

クリストフェル:当時はスレイヤーとメタリカさ。特にスレイヤーの「Hell Awaits」のライヴ・ヴィデオを見てね。あれは俺にとって完全なゲーム・チェンジャーだった。実はセリオンは俺の最初のバンドで、だから俺も初心者だったんだ。他のメンバーも同じ。演奏能力が低かったから、何と言うかヴェノムとかモーターヘッドみたいな感じになってしまった。『Kill ‘Em All』とヴェノム、モーターヘッドのミックスと言うか。1年もすると、演奏能力も上がってきて、デス・メタルをプレイするようになったんだ。その頃にはケルティック・フロストとも出会っていて、すっかり心酔していたよ。

 

ー セリオンというバンド名は、ケルティック・フロストからですか。それともクロウリーでしょうか。

 

クリストフェル:ケルティック・フロストからさ。何を意味しているのかも知らなかったけれど。当時まだ16歳で、『To Mega Therion』のジャケットが、持っているレコードの中で一番カッコ良かったからね。ところで日本では、ああいう宗教的なカヴァーはどう見なされていたの?あのアートワークを両親に見せたら、彼らは気分を害した?

 

ー いえ、それはなかったですよ。日本ではそもそもキリスト教を信仰している人口も少ないですからね。例えばペンタグラムや逆十字は単純にカッコいいというだけで、あれが反抗の印ということにはならないので。

 

クリストフェル:日本では仕事に5分遅れる方が反抗的なのかもしれないね。故意に5分遅刻してみせるとか(笑)。スウェーデンでは遅刻しても誰も気にしないけれど、逆十字のシャツを来ていたら、人間のクズみたいに思われるのさ。まあ、でも最近は変わってきているけれどね。俺が子供の頃はずっと酷かったよ。信じられるかい、80年代にヤギの描いてあるTシャツを学校に着て行ったら、家に帰されて着替えてこなければならなかったんだよ?そういうバンドは若者を堕落させるなんていうテレビ番組までやっていて。そういうバンドをスウェーデンに来させないようにしようなんていう運動まであった。学校の先生たちも、「そんなTシャツは学校に着てきてはいけない」なんて言っていたよ。だから当時俺は、そういうTシャツを服の下に着ていって、友達に捲り上げて見せていたよ。「W.A.S.P.を着てきてるぜ!」なんて言って。日本では、仏教への冒涜みたいのはないの?

 

ー 多くの人は仏教徒ではありますが、あくまで形式的なものですからね。葬式を仏教の方式に則ってやるというような感じで、決してその教義を本気で信じている訳でもないですし。

 

クリストフェル:神道も?

 

ー それも同じです。初詣には神社に行くけれど、クリスマスもお祝いする、なんていう感じです。

 

クリストフェル:最近のスウェーデンも似たようなものだけれどね。教会も綺麗だから行くとか、洗礼も名前をつけるためにやるなんていう感じで、宗教的な理由で教会に通う人もいなくなってきているよ。

 

ー セリオンがデス・メタルから離れて行ったきっかけは何だったのでしょう。先ほどドグマ化したデス・メタルに興味を失ったという話がありましたが、他にも何か理由はあったのでしょうか。

 

クリストフェル:俺にとってはケルティック・フロストさ。ケルティック・フロストが、俺をデス・メタルの道へと誘ったけれど、彼らはまた『Into the Pandemonium』で、デス・メタルからの脱却の仕方も教えてくれた。今では『Into the Pandemonium』は、デス・メタルの中に70年代のシンフォニック・ロックの要素を取り入れただけの作品だとみなされているけれど、トム・ウォリアーこそが初めてそういうことをやった人物なのさ。まあ、どんな偉大な音楽も、時間とともに多数の中の一つの作品になってしまうのだけれど。ジミ・ヘンドリクスもロックを完全に変革した訳だけれど、今日ではクラシック・ロックのヒット曲を書いた人物という感じだろう?トム・G・ウォリアーも、当時は革命的だったんだよ。70年代のロックをメタル、というかエクストリーム・メタルに取り入れるなんてね。それにあのアルバムは、Horus Sound Studioでレコーディングされていて、これはEloyのメンバーが設立したスタジオなんだ。あのアルバムには目を開かされたよ。「ヘイ、デス・メタル・バンドをやっているからって、人の言うなりになる必要なんてない。好きなことをやればいいんだ」ってね。他の奴らに最低だって言われたからって、それが何だと言うんだ。俺たちはデス・メタルとしては大きな成功を得られなかった。確かにアンダーグラウンドでは俺たちの名前は知られていたと思うけれど、ファースト・アルバムはヨーロッパで5000枚、アメリカでもおそらく4-5000枚売れた程度。世界中で1万枚も売れていない。とてもビッグなバンドとは言えなかった。その後アルバムを出すたびに、俺たちは一定のファンを失い、だけど同時に新たなファンを獲得していった。最初の3枚のアルバムはだいたい同じくらい。3枚目の『Symphony Masses: Ho Drakon Ho Megas』はヨーロッパで7-8000枚売れて、『Lepaca Kliffoth』は16000枚くらい売れたはず。そしてあのアルバムを作った時に、デス・メタルはもう過去のものだと感じたんだ。俺のヴォーカル・スタイルも、バンドにとって障害なんだと感じるようになった。あのアルバムを作ることで、セリオンの未来がどういうものであるべきなんかがわかったんだ。だけど、俺がやりたいことを実現するにはお金がかかる。当時ニュークリア・ブラストとサインをして、そのオーナーであるマルクス・シュタイガーに相談をしてみたんだよ。「同じような音楽性を続けるのでは、契約通りにアルバムを作れそうにない。合唱隊とかを入れてアルバムを作ってみたいんだ」ってね。俺たちは決してセールスの良かったバンドではなかったから、さらに予算を要求する立場にはなかったのだけど、マルクスは「それはクールなアイデアだね。やりたいことをやるといい。スタジオに入って好きにやって、請求書を俺に送ってくれ」と言ってくれたんだ。おそらくいくらかかるか、見当がついていなかったのだろう(笑)。俺たちはニュークリア・ブラストで最も売り上げの良くないバンドの一つだったにもかかわらず、当時レーベル史上最大の予算をもらったんだよ。確か58000ドイツマルクかかったはず。当時のニュークリア・ブラストにとっては大金だよ。請求書を見て大きな衝撃を受けたに違いない。だけど、結果としてあのアルバム(『Theli』)で、俺たちはブレイクすることになった。タイミングも良かったと思う。もし3年早くあれを作っていたら、おそらくまたセリオンが変なアルバムを作ったというだけで、誰も買おうとしなかっただろう。だけど当時、同じものばかりになってしまったデス・メタルやブラック・メタルに人々が飽き飽きしていて、みんなが新しいものを探し求めていた。ティアマットが『Wildhoney』を出し、ムーンスペルやザ・ギャザリングも新しいことを始めていた。パラダイス・ロストやアモルフィスもそう。新しいサウンドが爆発していて、『Theli』もその中の一つだったのさ。

 

ー あなたはオーケストレーション担当としてもクレジットされていますが、クラシック音楽の教育などは受けているのですか。

 

クリストフェル:完全に独学だよ。ギターのレッスンすら受けたことがない。すべて自分で考えている。本は買ったけれどね。英語で何と言うのかな、直訳すると、「音楽の一般知識」みたいな本(笑)。60年代に書かれたもので、これも通読した訳ではなく、辞書みたいに必要な時に参照する感じ。オーケストレーションをする時に、楽器の音域を調べたり。存在しない音域を書いてしまわないようにね。あと譜面を書く際に、移調楽器の知識も必要だろ。『Theli』を作った時は、まだこの本を持っていなくて、コンピューターのプログラムを使ってみたのだけど、使い物にならなくてね。プロデューサーに、正しいヴォーカルのスコアの書き方を教えてもらったんだ。そこから少しずつ勉強していって、小規模のストリング・オーケストラから始めて、そこに楽器を足していって、今も勉強中さ。頭の中に鳴っているサウンドをどう再現するのか知らなくてはいけないからね。クラシックの作品を聴いて、どの楽器がどんなサウンドなのかを学んだり。頭の中で音が鳴っていても、それが何なのかわからないこともある。例えばトランペットとフリューゲルホルン。実際俺が欲しいサウンドは、フリューゲルホルンだったのだけど、ずっとトランペットだと思っていた。『Deggial』を作った時に、トランペット担当がフリューゲルホルンも持ってきていて、それを試した時に、「俺が欲しかったのはこれだ!」なんて思ったものだよ。『Lemuria』や『Sirius B』をやるまでは、試行錯誤の連続だった。あの2枚のアルバムは大きな試練だったよ。あの時は巨大なオーケストラのために曲を書いて、オーケストラが何人編成だったかは思い出せないけれど、トータルで170人以上が関わっていた。バンドと32人のクワイヤがいたから、その残りがオーケストラ。それだけ多くの人が関わっていると、「ごめん、間違えていたから15分ほど待ってくれ」という訳にもいかない。15分でも莫大なコストがかかるのだから。いつも3000ページにもわたるスコアを書いて、いくつかの小さなミスがあるだけにとどめていることを、誇りに思っているよ。自分が書いた曲を、あれほど巨大なオーケストラが演奏するのを聴くのは、とてもパワフルな体験だった。だけど、それ以降は、もちろんオーケストラと仕事をするのは素晴らしいことだけれど、今ではVienna Orchestra Sample Libraryなんかがあるからね。それで十分だとも感じる。そういうソフトが物凄く進化したおかげで、本物と区別がつかなくなってきているから。

 

ー シンフォニックなインスピレーションはどのようなところから得ているのでしょう。クラシック音楽、あるいは映画のサウンドトラックなのでしょうか。

 

クリストフェル:もともとはヘヴィメタル・バンドの持っているそういう要素からさ。マノウォーの『Battle Hymns』とか、オジー・オズボーンの「Diary of a Mad Man」の最後のパートとか。「Revelation (Mother Earth)」もそうだし、こういうエピックな曲。どうしてこういうエピックなパートがもっと多用されないのかと思っていた。それから70年代のシンフォニック・ロックと出会った。EloyやKlaatuみたいなプログレッシヴなバンド。Pavlov’s Dogのシンフォニックな部分とか、ピンク・フロイドの『Atom Mother Heart』とか。ああいうオーケストラの使い方は、大きなインスピレーションだった。それから、子供の頃に聴いていた音楽を再発見もした。60年代のキャット・スティーヴンスとか。「School Is Out」、「I’m Gonna Get Me a Gun」みたいな曲をやっていて、どちらも素晴らしいオーケストラの使い方がされていた。この2曲から学んだことは多いよ。曲の中で、ただサンドイッチするのではなく、いかにオーケストラを自然に聴かせるかという点においてね。サンドイッチというのは、ただパンにバターを塗って、そこにただチーズを挟むだけということ。キャット・スティーヴンスの曲では、オーケストラが完全に曲の一部になっていて、オーケストラを除いてしまうと、曲として成立しないようなやり方をしていた。つまり、ロック・バンドがオーケストラの一部になっているということ。他にも何かあったはずだけど、今はぱっと思い出せないな。

 

ー 人生を変えたアルバムを3枚教えてください。

 

クリストフェル:難しいな。だけど、ヴォイヴォドの『Killing Technology』が、その中の1枚であることは間違いない。ヴォイヴォドには音楽、ギター・プレイの見方というものを変えられたよ。ハーモニーの使い方とかね。それから、そうだな、アクセプトの『Restless and Wild』。これも俺の音楽に対する見方を完全に変えてくれたアルバム。3枚目はそうだな、難しいけれど、Klaatuの『Hope』かな。これにも音楽の見方を変えられた。彼らは5枚ほどアルバムを出しているのだけど、基本的にこれだけが気に入っている。オーケストラとロックを融合した作品で、これから音楽というものが旅、冒険になりうるのだと教えられた。曲の最初では、一体どんなところに連れていかれるのか、目的地がどこなのか、予想もつかない。たいていの場合、曲が始まると、それがどんな曲なのか想像がつくよね。例えばモーターヘッドの「Ace of Spades」などは、曲が始まった途端に、どんな曲なのかわかるだろう?

 

ー では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。

 

クリストフェル:本当にまた日本に行きたいよ!これまでに2度行ったけれど、どちらも素晴らしい経験だった。ラウドパークはなくなってしまったんだよね?

 

ー 残念ながらなくなりました。

 

クリストフェル:他には何かメタルのフェスティヴァルはある?

 

ー ダウンロードの日本版があります。

 

クリストフェル:ぜひ俺たちも出たいね。それからもちろんヘッドライナーとしてのライヴもやりたい。少なくとも東京と大阪で。日本のマーケットは難しい一方、とても良いマーケットでもある。日本のファンは、きちんと自分たちの好みというものを持っていると思うんだ。メタリカがブラック・アルバムでブレイクした時も、日本ではハロウィンの方が人気があったんだろう?あの頃ハロウィンは、ヨーロッパでは小さなクラブでプレイしていたんだ。日本ではメロディックなメタルが人気があって、イングヴェイ・マルムスティーンも人気があるよね?ここでは彼は小さなクラブでプレイしているけれど、日本だとアリーナだろう?だからレコードレーベルは、日本のマーケットに大金を投じるのは意味がないと思っているんだ。日本のファンたちは、自分の耳で、聴きたいものを選ぶのだから。レコード・レーベルに操られないのさ。彼らは何を買うのか、自分たちで決めているんだ。それはとても良いことだと思うし、セリオンは日本のファンをリスペクトしているよ。

 

 

文 川嶋未来

 

 


 

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2022年10月28日発売

セリオン

『リヴァイアサンII』

CD

【CD収録曲】

  1. イオン・オブ・マート
  2. リタニー・オブ・ザ・フォーレン
  3. アルケミー・オブ・ザ・ソウル
  4. ルナー・カラード・フィールズ
  5. ルシフゲ・ロフォカレ
  6. マリジン・ミン・ナール
  7. ハデス・アンド・エリジウム
  8. ミッドナイト・スター
  9. カヴァーン・コールド・アズ・アイス
  10. コデックス・ギガス
  11. パズズ

 

【メンバー】
トマス・ヴィクストレム (ヴォーカル)
ロリ・ルイス (ヴォーカル)
クリストフェル・ユンソン (ギター)
クリスティアン・ヴィダル (ギター)
ナーレ・ポールセン (ベース)
ビョーン・ホーグルンド (ドラムス)