イタリアのデス・メタル・バンド、ザ・モダン・エイジ・スレイヴァリーがニュー・アルバムをリリース!まだまだ日本での知名度は高くない彼らだが、シンフォニックな要素も取り入れた独特のデス・メタルは、同郷のフレッシュゴッド・アポカリプスに比肩するもの。ヴォーカリストのジョヴァンニ・ベルセッリに話を聞いてみた。
ー 自分たちの音楽スタイルをどのように説明しますか。
ジョヴァンニ:そうだな、自分たちはデス・メタル・バンドだよ。だけど、最近はブラック・メタルのフレイヴァーがあると思う。ヴォーカルではなく、音楽の中にね。ファースト・アルバムではデスコアだった。セカンド・アルバムは、間違いなくデス・メタル。だけど、セカンド・ギタリスト、ルドヴィコとドラマーが加入すると、彼らがオーケストラル・パートを持ち込んでくれたので、ブラック・メタルのフレイヴァーが加わったんだ。俺のヴォーカルはまったくブラック・メタルではないけれどね。ともかく、もし定義するとしたら、俺たちはデス・メタル・バンドさ。
ー 影響を受けたバンドはどのあたりでしょう。
ジョヴァンニ:もちろんメンバーによって影響を受けたバンドは違う。ヴォーカリストである俺が一番インスピレーションを受けたのは、オールドスクールなバンドたち。例えばパンテラとかね。間違いなくフィリップ・アンセルモだよ。それからスリップノットのコリー・テイラー。音楽ということになると、カンニバル・コープスやアボーテッドなどのデス・メタル。それからイタリアのバンドで、俺たちの友人でもあるフレッシュゴッド・アポカリプスの名も挙げておきたいな。
ー シンフォニックなパートというのは、例えばクラシック音楽などからの影響はありますか。
ジョヴァンニ:セカンド・ギタリストのルドヴィコは、ディレインなどでもプレイしていて、彼がオーケストラ・フレイヴァー、オーケストラ・パートを持ち込んだんだ。間違いなく彼にはクラシックのバックグラウンドがある。コンサルヴァトワールでも勉強したからね。彼がオーケストラル・パートの舵を握っているよ。フレッシュゴッド・アポカリプスなどもシンフォニックな要素があるけれど、俺たちの場合、オーケストラはあくまで二次的なもの。俺たちがやっているのはデス・メタルだから。オーケストラは味付けさ。少なくとも俺の意見としてはね。ミックスする時も、オーケストラを前面に出すのではなく、あくまで雰囲気を出すものとして扱っているよ。
ー バンド名を「ザ・モダン・エイジ・スレイヴァリー」としたのは何故ですか。どのような意味が込められているのでしょう。
ジョヴァンニ:このバンド名は、エーリヒ・フロムの『自由からの逃走』からのインスピレーションさ。民衆は責任を負うことを放棄し、人に決定を委ねるということ。歴史上、そうやって多くの独裁者が生まれてきた。自由というのは大きな責任となるから、我々は人に決定を委ねてしまうんだよ。現代における奴隷制というのは、肉体的な奴隷のことではない。現代社会では自由を手にすることはできるけれども、我々は時にそれを恐れ、人に決定を委ねるということ。
ー ファシズムなどが生まれるメカニズムの話ですね。
ジョヴァンニ:その通り。ファシズムやナチズムはそうやって生まれたんだ。選択の自由を剥奪されることが、時に肩の荷をおろすように感じられるんだよ。
ー 今回のアルバムは、ドイツのファイアーフラッシュ・レコードからのリリースです。
ジョヴァンニ:俺は実はロボット技術者で、仕事の関係でドイツに行っていた時に、(レーベル・オーナーの)マルクスに会ったんだ。それでアルバムのプリプロダクションを渡して、「もし良かったから、君のレーベルからアルバムを出したいのだけど」って話したんだよ。そしたら気に入ってくれたみたいでね。マルクスは音楽業界のことをよく知っているから、素晴らしいよ。
ー ニュー・アルバムは過去の作品と比べ、どのような点が進歩していると言えるでしょう。
ジョヴァンニ:そうだな、一番の進歩の一つは、ミックスのバランスをとるのに、今回は随分と時間をかけたからね。プロデュースは、今回もギタリストのルカ・コッコーニが手がけたのだけど、サウンドはとても良くなっていると思う。個人的にはドラムのサウンドがとても気に入っているよ。前作も好きだけれども、今回はさらに良いサウンドになっている。ヴォーカルもいい。フェデリコもドラミングを頑張っていて、突出した出来になったよ。とても速いアルバムだし。ライヴで見てもらえればわかるけれど、彼の肉体的な動きも凄いんだ。見ても聴いても凄いのさ(笑)。
ー タイトルの『1901 | ザ・ファースト・マザー』というのは何を表しているのですか。
ジョヴァンニ:1901年というのは、哲学で近現代が誕生したとされる年のこと。つまり、バンド名への言及にもなっている。1901年はヴィクトリア女王が死んだ年で、これを歴史における近現代の誕生とする人もいるんだ。ファースト・マザーというのは、このアルバムは、さまざまな哲学者などから自由にインスピレーションを受けた内容になっているんだ。これはトリロジーの最初の作品で、だからファーストというのは3枚目の最初ということ。1枚目は戦前の哲学者を扱っていて、次は戦後、3枚目は未来的な哲学者という内容になる予定さ。
ー 歌詞の内容は非常に抽象的で、何について歌われているのかを特定するのは難しいですが。
ジョヴァンニ:わざわざ歌詞を読んでくれたんだ。どうもありがとう(笑)。音楽業界では歌詞に関心を払わない人も多いからね。ギタリストのルドヴィコと俺で、あらゆる種類の奴隷状態というものを想像したんだ。例えば、兵士になることを強制され、戦争に隷属状態になるとか。インスピレーションを求めてブレーズ・サンドラールの詩を読んだりして、「キルド」を書いた。「オキシジェン」は、ドラッグの奴隷になることについて。「オキシジェン」もダブルミーニングになっていて、「オキシ」というのは鎮痛剤として使われる「オキシコドン」(=オピオイド)のことであり、「オキシジェン」と取れば呼吸に必要な酸素ということになる。だけど、歌詞の内容は精神薬についてさ。「リリベス」は有害な恋愛関係について。本来は好ましいはずの恋愛が、精神的に有害になること。「ナイトリック」は、仕事の奴隷になることについて。自分のキャリアに執心しすぎるようなことさ。俺も少々そんな感じだけれど(笑)。確かに歌詞は読んでも何のことなのかはわかりづらいだろうね。
ー すべての曲には哲学者や詩人の言葉の引用が記されています。「リリベス」ではパール・ジャムの歌詞も引用されていますね。
ジョヴァンニ:引用の中には歌詞の内容と関係のないものもある。パール・ジャムを引用したのは、俺が大ファンだからさ(笑)。あれは「Nothingman」という曲の歌詞の一部で、「リリベス」は特に誰か哲学者からインスパイアされた訳ではなかったから、何か引用を入れる時に、この曲は何を思い出させるだろうと考えてね。それが「Nothingman」だったんだ。一曲目の「プロ・パトリア・オリ」では、ウィルフレッド・オーウェンを引用した。この曲のラテン語は「祖国のために死ぬことは美しく光栄である」という意味なのだけど、オーウェンはこれを「国のために死ぬのは良いことではない」という文脈て使っているんだ。
ー アルバムのアートワークは何を表しているのですか。
ジョヴァンニ:あれはギタリストのルドヴィコの手によるもので、あそこに描かれているのはヴィクトリア女王。頭蓋骨を手にしているものが左、砂時計を手にしているものが右、それから目玉と杖を手にしているものが中央に配置されている。中央は子宮も表している。これはトリロジーの最初の作品だとルドヴィコに伝えて描いてもらったんだ。
ー 今回Kornのカバーが収録されています。
ジョヴァンニ:これまですべてのアルバムにカバーを収録してきた。ファーストではエントゥームド、セカンドではセパルトゥラ、サードではパンテラ。今回は、プロデューサーでもあるギタリストに、「ブラインド」のヘヴィ・ヴァージョンをやってみてはどうかと伝えたんだ。Kornやセパルトゥラ、パンテラみたいな伝説的ビッグバンドのカバーをやる場合、オリジナルと同じようにやるのでは意味がない。オリジナルが完璧なだけに、ただの劣化版になってしまうからね。だから、自分たちのオリジナルのフレイヴァーを加えなくてはならない。何か違ったものにしないとね。伝説的なバンドで俺たちのバックグラウンドとなる時期、つまり90年代。俺たちももう若くないんだ(笑)。それを俺たちのスタイルでやる。だから、今回ブラストビートやグロウル、スクリームを加えたよ。このカバーは賛否両論を呼ぶだろうね。気に入ってくれる人もいるだろうし、そうでない人もいるだろう。伝説的なバンドをカバーする場合、たいていそうなるのだけど(笑)。常にリスクがあるのさ。反応が楽しみだよ。個人的には楽しいレコーディングだった。今回初めてクリーンっぽいヴォーカルも試したし。俺たちのいつものカバーとは違うスタイルのものだったしね。
ー お気に入りのアルバムを3枚教えてください。
ジョヴァンニ:お気に入りの3枚か。考えさせてくれ。そうだな、パンテラの『Far Beyond Driven』。スリップノットの『Iowa』。それから、うーん、アモルフィスの『Tales from the Thousand Lakes』。ベヒーモスも入れたいんだけどね。どのアルバムを入れるか決められない(笑)。バンドということであれば、間違いなくベヒーモスも入るよ。
ー では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
ジョヴァンニ:日本のファンへのメッセージか。ぜひ、ザ・モダン・エイジ・スレイヴァリーを聴いてみてくれ。びっくりすると思うよ。荒々しくて速いし、俺たちは自分たちのやっていることを信じているから。ぜひ日本にも行ってライヴをやりたいね。俺たちが本領を発揮するのはライヴなのさ。俺たちが何者なのかを知るには、ライヴを見てもらう必要がある。ぜひアルバムを聴いて、俺たちにチャンスをくれ。俺たちは自分のやっていることに、本気で取り組んでいるんだ。
文 川嶋未来
【CD収録曲】
- プロ・パトリア・モリ
- KLLD
- イレディエイト・オール・ジ・アース
- ザ・ヒップ
- リリベス
- オーヴァーチュア・トゥ・サイレンス
- オキシジェン
- ナイトリック
- ヴィクトリアズ・デス
- ジ・エイジ・オブ・グレイト・メン
- ブラインド (コーン カヴァー)
【メンバー】
ジョヴァンニ・ベルセッリ (ヴォーカル)
ルカ・コッコーニ (ギター)
ルドヴィコ・チョッフィ (ギター)
ミルコ・べンナッティ (ベース)
フェデリコ・レオーネ (ドラムス)