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アンドレアス“ゲッレ”ジェレミア
(タンカード)
独占インタビュー

特にサウンドに関して、今回とても満足しているよ
前作ももちろん気に入っているけれど
サウンドに関しては今回少々の進歩があると思う
いや、大きな進歩かな(笑)

                                   

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文:川嶋未来

ドイツのベテラン・スラッシャー、タンカードがニュー・アルバムをリリース!ということで、ヴォーカリストのゲッレに話を聞いてみた。

 

 

ー ニュー・アルバム『パブロフス・ドーグズ』がリリースになります。過去のアルバムと比べて、どのような点が進化していると言えるでしょう。

 

ゲッレ:うーん、それはとても難しい質問だな。こういうことはジャーナリストやファンがジャッジすべきことだからね。実はこのアルバムは20年にリリースする予定だったのだけど、19年の時点で全然曲が揃わなかったんだ。1曲か1曲半しかできなくて。それで延期をしたのだけど、20年にコロナが始まってしまい、数ヶ月間バンドとして何もやらなかったんだ。リハーサルもなし。21年になってからまた曲を書き始めて、前回同様マーティン・ブーフヴァルターをプロデューサーに迎えてアルバムをレコーディングした。サウンドの仕上がりにはとても満足しているよ。今回ベースのサウンドを少々変えたし、ヴォーカルにもとても時間をかけた。ギターはとてもヘヴィだけれど、ヴォーカルにはメロディもある。どうだろう、自分でジャッジするのは難しいな。みんなみたいに「俺たちのベストの作品だ」って言うのもね。俺たちとしてはとても気に入っているし、ファンやジャーナリストたちも気に入ってくれるといいな。

 

ー 今言われたように、今回ヴォーカルのメロディがとても目立っているように思います。

 

ゲッレ:タンカードがアルバムを作る時は、みんなで集まって「どういうサウンドにしようか?」みたいなことはやらないんだ。ただ心から湧き上がる曲を書いていくだけ。俺もギター・パートを受けて、ヴォーカルのメロディ・ラインを書いていく。メロディックなヴォーカルを自然と要求するギター・パートがあったということさ。もちろんスラッシュ・メタル・ヴォーカルもあるし。ファストで、ヘヴィで、スラッシーなアルバムさ。つまり、アルバムを作り始める時に何か計画がある訳じゃないんだ。ただとにかく始めてみて、どんな結果になるのかを見るだけ。特にサウンドに関して、今回とても満足しているよ。前作ももちろん気に入っているけれど、サウンドに関しては今回少々の進歩があると思う。いや、大きな進歩かな(笑)。

 

ー 前作から5年というのはタンカード史上最長ですよね。

 

ゲッレ:そうだね。パンデミックもあったし、19年にはレコーディングの準備が万端でなかったということもある。でも、一番の大きな理由は年を取ってきたということだよ(笑)。2年に1枚アルバムを出すというのは、さすがにクレイジーな状況になってきた。もう55歳だからね。いつもより時間がかかってしまったけれど、一番大切なことは、アルバムの出来に満足することさ。適当にクソみたいな曲を書いて、アルバムを出すこともできるけれど。昨日セカンド・シングルの「エクス・フルエサー」が公開になって、リアクションも悪くないから、リリースが楽しみだよ。

 

ー ベースのサウンドを変えたというのは、具体的にどんな風にでしょう。

 

ゲッレ:前作でもベースは聴こえたけれど、今回はもっとはっきり聴き取れるようになっているというのかな。実際彼らがどんな変更を加えたのかは、俺は知らないのだけど(笑)。何時間もかけてベースのサウンドを決めていて、最終的に正しい決定をしたと思うよ。

 

ー 先ほど言われたように、今回もプロデューサーにマーティン・ブーフヴァルターを起用しています。彼のどのような点を気に入っているのでしょう。

 

ゲッレ:アルバムごとにプロデューサーを変えるバンドもいるけれど、俺たちの場合は『One Foot in the Grave』がうまくいったからね。マーティンはとても落ち着いていて、プロフェッショナルな一方、とても楽しい人物なんだ。何か問題が起こっても、彼がクールダウンさせてくれるんだ。今回も大変な作業だったけれど、スタジオでは楽しかったよ。

 

ー 今回も歌詞はとてもヴァラエティに富んでいて面白いものも多いです。例えば、先ほどの「エクス・フルエンサー」はどのような内容なのでしょう。

 

ゲッレ:あれは、SNSの世界に囚われた女性について。InstagramやFacebookばかりをやって、その世界にだけ生きていて、実社会との関わりを失ってしまっている若者のことさ。曲の最後で、彼女はその檻に気づくのだけどね。今俺たちもこうやってZoomで話しているけれど、1日20時間もSNSを使っている人もいるだろう。あの曲は、そういうことについて少々批判的に書いている。

 

 

 

ー 「メタル・キャッシュ・マシーン」はいかがでしょう。

 

ゲッレ:あれはとても面白い内容で、ビッグなバンドが香水とかを作って金儲けをしているだろ(笑)。タンカードらしいユーモアのある曲さ。今回もシリアスな内容と面白いものを混ぜ合わせているのだけど、インタビューでも言われるんだ。「君たちはシリアスな歌詞も書くんですね」って。87年の『Chemical Invasion』の頃から書いているんだけどね。タンカードはしばしば、スラッシュ・メタルとビールみたいなイメージで捉えられがち。もちろん自分たちのせいなんだけどさ(笑)。特に80年代、『Chemical Invasion』や『Morning After』で、そういうイメージを前面に出していたから。90年代にそのイメージを払拭しようとしたけど、完全に失敗した(笑)。今では自分たちのそういうイメージをジョークにしているのだけど、血や暴力まみれのタンカードのアルバム・カヴァーなんて想像できないだろう?そういうのは俺たちには合わないから、アルコールというイメージも別に構わないのだけど、ジャーナリストには「87年からシリアスな歌詞を書いている」と伝えているよ。ちなみに個人的にアルバムで一番のお気に入りの曲は、ラストの「オン・ザ・デイ・アイ・ダイ」さ。朝起きると、余命24時間だと告げられた時に、どんなことを考え、何をすべきかという内容。少々クレイジーな歌詞だけど、こういうメッセージはアルバムの最後に来るべきだからね。オープニング・ナンバーではなく。

 

ー 年齢を重ねてくると、死というものが現実になってくると思うのですが、そういう心情から書かれたのでしょうか。

 

ゲッレ:いや、そうじゃない。いつもギター・パートを聴いて、それに合わせてSatan、Kill、Dieなんていう適当なメタルらしい単語を当てていくんだけど(笑)、この曲ではたまたまそれが”On the day I die”だったんだよ。そのフレーズから、歌詞の内容を考えていったんだ。

 

ー そもそもヘヴィな音楽にハマったきっかけは何だったのですか。

 

ゲッレ:その前に、さっきの君の質問に答えていなかったな。年齢を重ねると死というものを考えるようになるかという質問。若い頃、年寄りは一日中病気の話しかしないなと思っていたのだけど、実際にこの年齢になってみると、友人たちと話すのは結局病気の話なんだよ(笑)。1時間もかけて膝が悪いという話をしたり(笑)。それはともかく、初めてハードな音楽を聴いたのは、1978年のことだった。(ベースの)フランクとは、確か73年くらいから友人で、学校に入った時から知っているんだ。78年に、俺たちはAC/DCのライヴ盤、『If You Want Blood, You’ve Got It』に出会ったのさ。それからNWOBHMを聴いて育った。アイアン・メイデンとかジューダス・プリーストみたいなビッグなバンド。タンクやジャガーみたいな、もっとマイナーなバンドもたくさん聴いていたよ。83年にメタリカのファースト、スレイヤーのファースト、エクソダスのファースト(注:これは85年)、エキサイターのファーストが出た。エキサイターのファーストを忘れちゃいけないよ。あれは今でも俺のトップ5に入るアルバムさ。この辺を聴いて、「何なんだこれは!」って思って。こういうスラッシュ・メタルの創世記のバンドに大きな影響を受けた。

 

ー やはりタンカードの初期には、今言われたスレイヤー、エクソダス、エキサイターあたりからの影響が大きかったということでしょうか。

 

ゲッレ:もちろんさ。ファースト・アルバム『Zombie Attack』では、パンクの影響も大きかったけれど。当時のギタリスト、アクセルがパンクの大ファンだったから。『Chemical Invasion』では方向転換をして、曲はもっと速くなって、スラッシュ・メタルからの影響が顕著になった。

 

ー 「Total Addiction」は当時最高速の曲の一つでしたよね。

 

ゲッレ:その通りさ(笑)。あれは速かったね。

 

ー パンクからの影響というのは具体的にどのあたりのバンドでしょう。

 

ゲッレ:アクセルはジ・エクスプロイテッドやUKサブスなんかが大好きだったよ。ジ・エクスプロイテッドは今もやっているんだよね。

 

ー やっています。ツアーも積極的にこなしているようですし。タンカードというバンド名はどのように決めたのでしょう。当時、ほとんどのスラッシュ・メタル・バンドがイーヴルなイメージを追求する中、ビールというイメージも異彩を放っていましたが。

 

ゲッレ:もともとはアヴェンジャー、それからヴォルテックスというバンド名だったんだよ。82年当時、もちろんインターネットなんてなかったし、ヘヴィメタル・バンドについての本もなかったけれど、それでもイギリスにアヴェンジャー、オランダにヴォルテックスというバンドがいることを見つけ出してね。ベースのフランクと、当時のギターのアクセルが辞書で「Tankard」という単語を見つけて、ビールのジョッキを意味する古い言葉だと。ビールが好きだったから、その名前にすることにしたんだ。クレイジーだけど。最初のデモは『Heavy Metal Vanguard』というタイトルで、これはありがちなヘヴィメタルっぽいタイトルだった。85年当時、スピード・メタルとか、スラッシュ・メタルとか、ポーザーのバンドも山ほどいて、それで面白いと思ってセカンド・デモのタイトルを『Alcoholic Metal』にしたんだよ。それでそのビールのイメージというのを、『Chemical Invasion』や『Morning After』で展開していったのさ。だけど、85年当時、深く考えていたわけではないんだ。ただ面白がっていただけで。何何メタルみたいなのが山ほどあったからさ、「オーケー、俺たちはAlcoholic Metalにしよう」というだけのことだった。

 

 

ー ソドムのデモ、『Witching Metal』のパロディだった訳ではないのですか。

 

ゲッレ:いや、ソドムは関係ない。ただ何何メタルというのが大量に発生していたからさ。

 

ー ギャング・グリーンの「Alcohol」のカヴァーもやりましたよね。

 

ゲッレ:当時ギャング・グリーンが好きでね。『Zombie Attack』では俺たちも「Alcohol」という曲をやっていてから、同じタイトルの曲をカヴァーするのも良いと思って。今でもギャング・グリーンは大好きだよ。

 

ー さらにドイツのスパームバーズのカヴァーもやっています。『Zombie Attack』ではパンクの影響が顕著だったとのことですが、その後もパンクやハードコアの影響はあるにはあったのでしょうか。

 

ゲッレ:そうだね、少々はあったと思う。基本的には83年頃のファースト・ウェイヴのスラッシュ・メタルからの影響が一番だったけれど。俺個人的にはスパームバーズが大好きで、彼らはスラッシュ・メタルではなく、パンクなのかハードコアなのかはよくわからないのだけど。当時スラッシュ・メタルだけでなく、色々な音楽を聴いていたよ。今でもスピード/スラッシュを聴くことが多いよ。あとはトラディショナルなヘヴィメタル。

 

ー やはり80年代のメタルを聴くことが多いですか。

 

ゲッレ:そうだね、アンヴィルやオーヴァーキルとか。こういうバンドを聴いて育ったからね。今でもオーメンは大好きだよ。

 

ー オーメンも最近また積極的にツアーをしているようですね。

 

ゲッレ:そうみたいだね、新しいシンガーが入って。オリジナル・シンガーに近いみたいだね。ニュー・アルバムを出してくれると良いのだけど。それからエキサイターにもニュー・アルバムを出してもらいたい。

 

ー お気に入り、あるいは影響を受けたヴォーカリストは誰でしょう。

 

ゲッレ:特別にお気に入りというのはないけれど、オーメンの最初のシンガー(J.D. Kimball)はもちろん大好き。それからロブ・ハルフォードも。彼はメタル界最高のシンガーの1人さ。他にも良いシンガーはたくさんいるけれど、ロブ・ハルフォードは、実は数日前にライヴを見たのだけど、今も素晴らしい声をしているよ。70代なのに、素晴らしい。それからマノウォーのエリック・アダムス。初期マノウォーでの彼の歌は素晴らしかったね。他にもたくさんいて、全員を挙げる時間はないけれど、誰か1人となればロブ・ハルフォードかな。

 

ー お気に入りのメタルのアルバム3枚を教えてください。

 

ゲッレ:エキサイターの『Heavy Metal Maniac』。オーメンの『Battle Cry』。エクソダスの『Bonded by Blood』。

 

ー 全部ファースト・アルバムですね(笑)。

 

ゲッレ:もちろんだよ!

 

ー では最後に日本のタンカード・ファンへのメッセージをお願いします。

 

ゲッレ:まず、40年に渡るサポートに感謝したい。今年は結成40周年で、40年もバンドを続けられたなんて信じられないよ。これもファンがチャンスをくれたからさ。ニュー・アルバムを楽しみにしててくれ。日本にはまだ2度しか行けてないんだ。99年と、数年前の大阪。日本での経験は素晴らしいものだったから、ぜひまた行きたいよ。カンパイ、ミンナゲンキ。日本語はこれしか知らないけれど(笑)。大阪のあのフェスティヴァルはまだやっているの?

 

ー コロナ中はやっていませんでしたが、また復活すると思いますよ。

 

ゲッレ:小さいフェスティヴァルや小さいクラブにとって、この2年間は大変だったと思う。再度ロックダウンになったら、もう生き残れないところも多いんじゃないかな。ドイツでは、チケットを買っても実際には会場に来ない人も多い。コンサート自体が何度も延期になっているし、コロナを恐れている人もいるからね。ここ1-2年は、プロモーターやクラブ、小さめのバンドにとって厳しい年になるだろう。ドイツではまた議論が行われていて、もしかしたら秋にまたクラブを閉鎖なんていう可能性もあるんだ。本当に変な時代だよ。コロナ、ウクライナでの戦争、そして今度は台湾だろ。みんなおかしくなっているのさ。ヘヴィメタルを聴けば、みんな平和になれるのに。

 

ー まさに「ロックダウン・フォーエヴァー」ですね。

 

ゲッレ:あれも面白い曲だよ(笑)。実にタンカードらしいユーモアのある曲さ。あれのヴィデオ・クリップも作っていて、9月に公開される予定。歌詞の内容は、物凄いウィルスが現れて、一生ステイホームになってしまうというもの。外出ができないから、ただピザを注文して、自分のコレクションのメタルを聴く以外にないというストーリー(笑)。

 

 

 

ー そしてカラオケ・ゲームをやるんですよね。

 

ゲッレ:そう。実は1度目に日本に行った時に、カラオケをやったんだよ。カラオケ・バーに行って、歌を歌って、ビールを飲みまくって。めちゃくちゃ楽しかったよ(笑)。ぜひまた日本に行きたいね。クラブ・ショウでもフェスティヴァルでも。

 

 

文 川嶋未来

 

 


 

 

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2022年9月30日発売

タンカード

『パブロフス・ドーグス』

CD

【CD収録曲】

  1. パブロフス・ドーグ
  2. エクス・フルエンサー
  3. ビアバリアンズ
  4. ダイアリー・オブ・ア・ニヒリスト
  5. ヴェインズ・オブ・テラ
  6. メメント
  7. メタル・キャッシュ・マシーン
  8. ダーク・セルフ・イントルーダー
  9. ロックダウン・フォーエヴァー
  10. オン・ザ・デイ・アイ・ダイ

 

【メンバー】
アンドレアス“ゲッレ”ジェレミア(ヴォーカル)
アンディ・グッチャー(ギター)
フランク・トールワース(ベース)
オラフ・ジゼル(ドラムス)