強烈な北欧メロディを奏でるフィンランドのメロディック・デス・メタル・バンド、スオタナがニュー・アルバムをリリース!と言うことで、ギター担当のヴィレとベーシストのラウリに話を聞いてみた。
ー インターネット上の情報では、バンドは2005年に結成されたとなっています。これは正しいですか。
ヴィレ:合っているよ。当時は俺のソロ・プロジェクトみたいな感じだったんだ。
ー バンド名を「スオタナ」としたのは何故ですか。これはどういう意味なのでしょう。
ヴィレ:「サタン」の方言みたいな感じ(笑)。
ラウリ:これは言葉遊びで、最初の3文字は「沼」という意味になるので、フィンランド語で「沼」と「サタン」を合わせた言葉になるから。
ー つまり造語なのですか。
ラウリ:ある意味ね。
ー そのプロジェクトを始めた時、どんな音楽をやろうと思っていたのでしょう。どんなバンドからインスピレーションを受けましたか。
ヴィレ:間違いなく一番はカルマ。他にもカタメニアみたいなフィンランドのメロディック・デス・メタル。それからソナタ・アークティカやストラトヴァリウスみたいなパワー・メタルも大好きで、影響を受けていたよ。このあたりのバンドを混ぜ合わせたんだ。
ー 最近は影響は変わってきていますか。
ヴィレ:方向はわりと同じだけど、進歩はしていると思う。
ー あなたたちの音楽は非常にシンフォニックですが、クラシックやフィンランドの民俗音楽など、メタル以外からの影響はあるのでしょうか。
ヴィレ:俺はないな。(猫がじゃれている。)ちょっと猫をどけるね(笑)。俺としてはないけれど、キーボーディストがクラシックのバックグラウンドがあるから、その影響は出ているかもしれないね。
ラウリ:君の書くメロディには、フィンランドのトラディショナルな音楽が感じられるよ。メランコリックな。
ー 個人的にとてもフィンランド的なメロディに聴こえるのですが、これは意図的なものではなく、自然と湧き上がって来るということなのでしょうか。
ヴィレ:意図してやっている訳ではないから、自然とそうなっているのだと思う。
ー さらにスオタナの音楽からはブラック・メタルのフィーリングも感じられます。特にヴォーカル・スタイルはブラック・メタルに近いのではないかと。
ヴィレ:そうだね、ヴォーカルはかなりブラック・メタルだし、さっきも言ったようにパワー・メタル的なメロディもあるけれど、ベースはメロディック・デス・メタルだと思っている。
ラウリ:俺としてはメロディック・デス・メタルとブラック・メタルのミックスで、そこにパワー・メタルを少々加えたものだと思っている。
ヴィレ:それはうまい表現だね(笑)。
ー ファースト・アルバムのリリースは2015年です。なぜ結成から10年もの年月を要したのでしょう。
ヴィレ:うーん、さっきも言ったように最初はワンマン・バンドだったからね。アルバムを作ろうというプランはあったのだけど、色々と時間がかかってしまったんだよ。本当のバンドにするために。おかげでたっぷり曲を書く時間があったよ。今回のアルバムにも、当時書いた曲が入っているんだ。もちろんアレンジし直したけれど。
ラウリ:時間はかかっていたけれど、彼は時間を無駄にしていた訳ではなく、曲作りをしていたということさ(笑)。
ー ニュー・アルバムに入っている古い曲というのはどれですか。
ヴィレ:「ジ・エンシェント」だよ。
ラウリ:タイトル通りだね(笑)。
ー 最終的にバンド形態になったのはいつなのでしょう。
ヴィレ:2013年頃。デモを14年に出して、15年にアルバムが出たんだ。
ー ニュー・アルバム『オウナス I』がリリースになりますが、この作品は過去のアルバムと比べてどのような点が進歩していると言えるでしょう。
ラウリ:これまでで一番多様性のあるスオタナのアルバムだと思う。もちろん一線は越えていないけれど、さまざまな方向に枝葉が広がっている。ブラック・メタルの要素も増えていて、パワー・メタルからの影響も大きくなっているよ。
ヴィレ:ラウリがすべて言ってくれたから、付け足すことはないよ。
ー 13分超の「リヴァー・オウナス」はアルバムのハイライトだと思います。
ヴィレ:アルバムの終章という感じで、たくさんの感情を詰め込んだから、13分という長さになってしまった。歌詞も曲も、作っている時に自然とその長さになってしまったんだ。この曲は、俺たちのホームタウンにあるオウナス川について。
ラウリ:この川については大きなストーリーがあって、3つの川に分かれてバルト海に流れ込んでいるんだ。その3つの川のうちの一つは、かつてたくさん鮭が住んでいた。ところが第二次世界大戦後、フィンランドではダムを利用した水力発電が盛んになり、ダムが水を堰き止めた結果、上流の鮭が全滅してしまったんだよ。だからこの曲の歌詞は、とても陰鬱なもの。自然破壊や人間が自然に与える影響についてさ。一方で歌詞には明るい面もあって、人々は自然にもっと気を使うべきだというメッセージも込められている。ダークなテーマだけれど、トンネルの向こうには光があるということだよ。
ー 収録されている曲の歌詞は、どれも自然破壊をテーマにしているようです。これはコンセプト・アルバムと考えて良いのでしょうか。
ヴィレ:そうだね、歌詞のコンセプトはそういうもので、うん、そうだな、コンセプト・アルバムと言っていいんじゃないかな。
ラウリ:どの曲も北の自然に関するものであり、それを違ったパート、アングルで語っているんだ。
ー アルバムのタイトルは『オウナスI』です。ということは、パート2、パート3があるということでしょうか。
ラウリ:パート2は間違いなくある。パート3については現状では何とも言えないけれど(笑)。
ー オウナス川についてのテーマが続いていくということですか。まだ言い足りてないことがあるのでしょうか。
ラウリ:「オウナス」というのは川だけじゃないんだ。これはフィンランドの北側でよく使われる言葉だから、川についてだけではないんだよ。
ー 「オウナス」というのはどういう意味なのですか。
ラウリ:英語で説明するのは難しいな(笑)。
ヴィレ:俺もどう説明して良いのかわからない。「オウナス」とつく地名は多いし、その名を冠した会社もあるし。ある種の深いフィーリングなんだよ。
ー つまりフィーリングを表す言葉なのですか。
ヴィレ:この単語の後ろにはある種のフィーリングがあるんだよ。だけど説明するのは難しい。ラウリは説明できる?
ラウリ:難しいよ。ラップランドの方言のようなもので、本当に多くの意味があって、オウナス川もあればオウナス湖もある。小山もある。ダメだ、本当に説明しようがないよ!非常に古い言葉で方言だから、日々の暮らしの中で使うものではないんだ。ある種のフィーリングを表すとしかいいようがない(笑)。壮大なフィーリングなのだけど。もっときちんと答えを用意しておくべきだったな(笑)。「強烈な北の大地への帰属意識」とでも言えばいいかな。
ー アートワークに描かれているのはオウナス川ですか。
ラウリ:いや、違う。オウナス川にはダムはないからね。オウナス川にはダムは作ってはいけないことになっている。ダムがあるのはケミ川だよ。アートワークは想像上のもので、例えるなら、ダムが作られたオウナス川といったパラレル・ワールドみたいなものさ。
ヴィレ:あのアートワークはシンボリックなものさ。オウナス川にダムはなく、自由に流れているけれど、とても静かで何かが欠けているようにも思えるし。
ー カルマのヴェリ・マッティ・カナネンがゲスト参加しているとのことですが、彼が参加しているのはどの曲でしょう。
ヴィレ:彼はアルバムのイントロ、「レイク・オウナス(ザ・ビギニング)」を作曲してくれたんだ。
ー 彼が参加した経緯はどのようなものだったのですか。
ラウリ:俺はカルマのサウンド・エンジニア、ブッキング・エージェント、マネージャーなんだよ(笑)。だからとても簡単だった(笑)。「このアルバムのために何してくれる?いくらでやってくれる?」って。あっという間だったよ(笑)。
ー オーストリアのブラック・メタル・バンド、Summoningのカバーが収録されています。
ヴィレ:そうだな、オリジナルの曲は素晴らしくて、とても長いアトモスフェリック・ブラック・メタルで、とても美しいメロディがある。それを一度解体して組み立て直して、もっと速く、短くシンプルな俺たちのヴァージョンにしたんだ。スオタナ流にアレンジしてみたら素晴らしかったから、他のメンバーにも聴かせたら、ぜひやろうと。
ラウリ:そう、曲を「スオタナイズ」したんだよ。
ー お気に入りのアルバムを3枚教えてください。
ラウリ:難しい質問だなあ。ヴィレから先に行ってくれ。
ヴィレ:そうだな、1枚目はおそらくソナタ・アークティカの『Winterheart’s Guild』かな。あれには人生を変えられたよ。2枚目はカルマの『Swampsong』。3枚目はKenzinerの『Timespace』かな。
ラウリ:1枚目は簡単。エンペラーの『Anthems to the Welkin at Dusk』。このアルバムには1つも悪いリフがない。いわゆるAll Killer, No Fillerというやつさ。2枚目以降は本当に難しい。たくさん良いアルバムがあるからね。それでも選ぶとしたら、ラプソディの『Dawn of Victory』。3枚目はネヴァーモア『Dead Heart in a Dead World』にしよう。
ー では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
ヴィレ:君から先に。
ラウリ:俺もそう言おうと思ってたのに(笑)。そうだな、俺たちの音楽を楽しんでくれるといいな。早く日本に行きたいよ。と言うのもパンデミックの直前に、Suomi Feastで日本に行く予定だったのだけど、イベントがキャンセルになってしまったから。ぜひまた日本に行く機会を楽しみにしているよ。これ以上コロナが俺たちと日本の間を引き裂くことがないように。日本のブッキング・エージェントの皆さん、ぜひ連絡をください。ヴィレ、何かつけ加えてくれ。
ヴィレ:うーん、何を言おう。ニュー・アルバムをぜひ買ってくれ!
文:川嶋未来