アイスランドを代表するヘヴィメタル・バンド、ソルスターフィアがニュー・アルバム『エンドレス・トワイライト・オブ・コディペンデント・ラヴ』をリリースする。ブラック・メタル、シューゲイズ、ポストロックなどなど、様々な音楽を貪欲に取り込んだ独特すぎるスタイルは、当然本作でも健在。リーダーでありギター/ヴォーカル担当のアザルビョールン・トリッグヴァソンに話を聞いてみた。
ー ニュー・アルバム『エンドレス・トワイライト・オブ・コディペンデント・ラヴ』が発売になります。過去のアルバムと比べてどのような点が進化していると言えるでしょう。
アザルビョールン:どうだろう。数年前にメンバー・チェンジがあって、新しいケミストリーが生まれた。『ベルドゥレーメン』を作った時点で、すでに次のアルバムが楽しみだったんだ。つまり、このアルバムのことは3年前の時点から楽しみにしていたということ。さらにバンドらしいバンドになってきているし、新しいドラマーが加わって何百回のライヴも経験した。まあ、そうは言っても多くの違いはないよ。同じ人間が曲を書いて、同じ楽器を演奏している訳だからね。ソルスターフィアの新しい曲というだけ。明日新曲を書けば、まったく違うものになる可能性もあるし。バンドのこの瞬間を捉えた作品だよ。
― では、何か新しく加えた要素はありますか。
アザルビョールン:新しい要素というのは特にないな。しばらくやっていないことをやったというのはあるけれどね。ブラック・メタルもあれば、ドゥーム・メタルもある。だけど以前に遅い曲もやったことがあるし、ブラック・メタルもやった。何かを捨てたというつもりはないけど、少々新しいものを追加したくらいで。
― その新しいものというのはどのようなあたりなのでしょう。
アザルビョールン:ジャズやブルースみたいな曲もあるからね(笑)。これはサプライズかもしれない。過去にも色々サプライズはあったと思う。『Köld』ではクイーンみたいなヴォーカルやハモンドオルガンなんか使って、「何なんだこれは?」みたいに思われたかもしれない。俺たちは奇妙なものが好きだし、自分たちにとってもサプライズになるものが好きなんだよ。ニュー・アルバムに入っている「オル」はブルースだし、というかブルースとまでは言わないけれど、とても良い曲で、俺たちにとってもサプライズだったよ。とても気に入ってる。このあたりが新しい要素と言えるかな。
― 「共依存愛の終わりなき黄昏」というアルバム・タイトルは非常に難解ですが、どのような意味が込められているのですか。
アザルビョールン:俺たちはポリティカルなバンドではないけれど、鬱や中毒などのメンタル・ヘルスについての認識が高まっているということを感じていてね。鬱や中毒というのは遺伝することもあるだろう。親からアルコール中毒が遺伝したり。それから子供時代に問題があることもある。父親が母親がアルコール中毒の場合、家に帰って来て、早い段階で空気を読むようになる。学校から帰って来て、父親が酔っ払っていると、本能的に今晩母親が殴られるかもしれないとか、自分が殴られるかもしれないから部屋にこもっていた方がいいな、机の下でこっそりご飯を食べた方がいいな、なんて考えるようになって、子供をめちゃくちゃにしてしまう。そうやって成長して、知らず知らずのうちに自分もアルコール中毒になってしまう。これが共依存の発端だ。共依存というのは、つまり別のもの、他の人間が自分をコントロールしているということ。父親とかね。一方、大人になってからも共依存は存在する。恋人、同僚、バンドメンバー。本当はノーと言いたいのに、イエスと言ってしまう場面はある。他の人を喜ばせ、波風を立てたくない。他人から認められたい。まるで人生で居場所がないように感じる。こういうものも共依存さ。色々な意味がある言葉だよ。現れては消える。大きな問題になることもあれば、そうでないこともある。共依存の終わりなき黄昏。黄昏というのは明るくもあり、暗くもある。タイトルは、「Eternal Darkness of Toxic Relationship(有害な人間関係の永遠の闇)」というような意味さ。
― これがアルバムのコンセプトということでしょうか。
アザルビョールン:いや、そういう訳ではないけれど、バンドメンバーの半数は、子供の頃からアルコールの問題を抱えていた。どの曲も鬱や闇、アルコールや中毒というものと関係はあるけれど、コンセプト・アルバムという訳ではないよ。
― 個人的な体験に基づいている歌詞なのですね。
アザルビョールン:その通りだよ。
ー アートワークはどのような意味が込められているのですか。
アザルビョールン:アートワークは、150年間誰も見たことがなかった絵なんだ。去年ウェールズの博物館の倉庫で見つかった絵なんだよ。これは『Lady of the Mountain』という絵で、女性の強さを象徴している。女神ブリタニアとか、フランスのマリアンヌとかと同じ。着飾った女性が鳥たちと山にいるというコンセプトは知っていて、写真も見たことがあったのだけど、そのストーリーは知らなかった。去年の終わりか今年の初めに、『Lady of the Mountain』の原画が150年ぶりにウェールズの博物館で見つかったという記事を新聞で見つけてね。「これは凄い。こんな美しい絵は見たことがない。これはアルバム・カバーに使うしかない」と思ったんだ。アイスランドを象徴している絵だよ。山の中の女性がいて、カモメやカラスがいて。本当に美しい絵だったからね。
ー アートワークとタイトルは関係がないのですね。
アザルビョールン:この絵はアルバムのタイトルとは無関係だよ。
― 今回アルバムのタイトルを英語にしたのは何故ですか。
アザルビョールン:変なタイトルではあるからね。たまたまそうなっただけで、あまり深く考えた結果ではないんだ。実際「長すぎるし変すぎる。しかも英語だし」っていうメンバーもいた。だけど、以前も『Masterpiece of Bitterness』みたいな長くて変なタイトルをつけたことはあるし、これも英語だった。俺たちは変なことが好きだから。俺たちがやることにルールがあるわけではないし、しばらく英語のタイトルは使っていなかったし。それにアルバムのほとんどはアイスランド語で歌われている。タイトルとしてはこれがピッタリだと思ったんだよ。それから、メンタル・ヘルスに対する認知をさらに高めたいという思いもあった。タブーを破るというのかな。男の自殺率というのは高い。男は文句を言うべきでないとか、男は感情的になるべきでないとか、こういう古い下らない考え方のバリアを破りたかった。強くなくてはいけないなんて言われて、結局は自殺をしてしまう。
― 今言われたように、今回はほとんどがアイスランド語で歌われている中、1曲だけ英語の曲がありますね。
アザルビョールン:俺たちはもともとはアイスランド語で歌っていて、だんだん英語でも歌うようになっていった。『Köld』でクリーン・ヴォーカルを使うようになったのだけど、クリーンで歌うととても個人的に感じるんだ。だから、ドラゴンがどうのとか、空飛ぶ馬が、みたいなことは歌えない。個人的な内容となると、ハートから湧き出る内容になるんだ。となると、毎日考え、話す言語でということになるのさ。一方で、俺たちは分裂症的なバンドでもある。ロックンロール・バンドという側面もあるから、英語でも歌いたくもなるし、実際英語でも歌ってきた。「Necrologue」や「Love is the Devil」とか。英語でも歌いたくはあるんだけど、やっぱりクリーンで個人的な内容を歌うとなるとアイスランド語になるんだよね。英語で歌うというのはロックンロール的なもの。まあ、今回入ってる英語の曲はまったくロックンロールではなく、静かなものだけど。ヴォーカルライン、メロディを書くときは、ただ思いついた言葉で歌うんだ。英語、アイスランド語、あるいはただのメチャクチャとか。「ハー・フォール・フロム・グレイス」は英語で歌っていて、英語の感触や発音がしっくりきたんだ。必ずアイスランド語で歌わなくてはいけないという訳でもないからね。
― 今回もプロデュースはビルギル・ヨン・ビルギルソンです。彼はメタルのプロデューサーではないですが、ビルギルとの仕事はどんな感じですか。
アザルビョールン:ビギーはまったくメタルではなく、アンビエントなんかが好きなのだけど、彼との仕事は素晴らしいよ。彼はフィーリングがよければ、そのテイクをOKにするんだ。テクニック的にパーフェクトである必要はない。フィーリングが第一。初めて彼と会ったのは『Svartir Sandar』の時で、少しエンジニアの手伝いをしてくれた。スタジオは彼のもので、実際にプロデュースをしたのはFredrik Reinedahlだったけれど。次の『オウッタ』ではビギーにプロデュースをしてもらって、このアルバムでは初めてストリングスを使ったんだ。『Svartir sandar』の時も、ストリングスを使おうという話はしたのだけど、実現しなかった。ビギーはストリングスを使ったレコーディングの経験も豊富で、AMIINAというバンドのメンバーにストリングスをプレイしてもらった。AMIINAはよくシガー・ロスとツアーもしているバンドなんだ。ビギーがエンジニアをやって、AMIINAのメンバーにプレイしてもらうというのは、とても自然で美しいサウンドになる。だけど、『オウッタ』のあと、また同じことを繰り返したくはなかったから、次のアルバムではイギリスに住んでいるコロンビア人のゴメスにアイスランドに来てもらって、ビギーと一緒に仕事をしてもらった。『オウッタ』ではビギーと一緒にやったけれど、今とは違うドラマーだった。今回はビギーとやったけれど、ドラマーが新しい。同じラインナップで同じプロデューサーではやりたくないから、次は違う人物とやることになると思うけれど。
ー ソルスターフィアの音楽を作ったバンドを5つ挙げるとしたらどうなりますか
アザルビョールン:5つのバンド!そうだな、フィールズ・オブ・ザ・ネフィリム。ダークスローン。スマッシング・パンプキンズ。あとは、うーん、ピンク・フロイド。オートプシー。
ー ではソルスターフィアの音楽を言葉で説明するとどうなりますか。自分たちはヘヴィメタル・バンドだと思いますか。
アザルビョールン:俺たちは歪んだギターを使って、しかも少々ダウンチューンもしているし、そういう意味ではヘヴィメタル・バンドだと思う。ベースもヘヴィだし、速い曲もやっているし、スクリーミング・ヴォーカルも使っている。だから、メタル・バンドではあるけれど、ジューダス・プリーストとは違う。俺たちはロックンロール・バンドではあるけれど、AC/DCやリトル・リチャードとは違う。俺たちはブラック・メタル・バンドでもシューゲイズ・バンドでもない。描写しようとすればするほど、バカみたいな感じになってしまう。ポスト・メタル、ポスト・ロック、どんどんと複雑になって訳がわからなくなる。単純にヘヴィメタル・バンドだと言ってしまうと、「ドラゴンフォースやジューダス・プリーストみたいな感じ?」なんて聞かれるけど、そうではない。究極的な目標は、例えばナイン・インチ・ネイルズ。彼らのことはインダストリアル・バンドとは言わず、単にナイン・インチ・ネイルズだよね?ピンク・フロイドは70年代ロックとは言われず、単にピンク・フロイドだ。シガー・ロスも単にシガー・ロス。ソルスターフィアも単にソルスターフィアだと言ってもらえれば、それは最高の賛辞だよ。君はどう描写する?
ー ニュー・アルバムも極限まで多様性に富んでいますからね。なかなか説明が難しいです。
アザルビョールン:そうだね。嵐の中にいるのと、外側から嵐を眺めるのは違うだろう?俺は中にいるわけだから、ブラック・メタルの次にブルースをやるのは変だと言われるのも理解はできるけど、人は怒る時もあればハッピーな時もある。それでも同じ人だよね?晴れの日もあれば雪の日もある。暖かい日もあれば寒い日もある。それと同じように俺たちは曲を書いていて、それぞれがまったく違うスタイルになることもあるということ。深くは考えていなくて、俺たちはモービッド・エンジェルもデュラン・デュランも同じように好き。アバもニール・ヤングも好き。スタイルはどうでも良いんだ。良い音楽は良い音楽なんだよ。
― あなたたちはもともとブラック・メタルからスタートしましたよね。その後、だんだんと他の音楽を取り入れていくきっかけは何だったのでしょう。
アザルビョールン:ごく初めの頃、95年のデモを作った頃は、俺もギターを弾いた経験がなくて、まだ練習をしている段階だった。バーズムみたいなリフが書けて、それをとても誇りに思っていた。デモの出来についてもとても誇りに思っていたよ。95年の12月に『Til Valhallar』というMCDを録音したのだけど、その時にスコットランドのシューゲイズ・バンド、モグワイからの影響が入ってきた。モグワイやフィールズ・オブ・ザ・ネフィリム、スマッシング・パンプキンズ。レディオヘッドからの影響もあったよ。ギター・テクニックの面でね。色々なミュージシャンが違ったギターの弾き方をしているのを聞いて、影響を受けたんだ。どう言えばいいかな、『Til Valhallar』はメイヘムの『De Mysteriis Dom Sathanas』から大きく影響されているけれど、レディオヘッドのギター・プレイからの影響もあるし、スマッシング・パンプキンズからの影響もある。ビリー・コーガンがメイヘムに入って『De Mysteriis Dom Sathanas』を録音したみたいな感じだよ。めちゃくちゃなクロスオーバーだけどさ。
― 最近よく聴いているアルバムを3枚教えてください。
アザルビョールン:良い質問だね。何だろう。そうだな、最近よく聴いているのはウルフブリゲイドの最新アルバム。スウェーデンのクラスト・バンド。なかなかアルバムを通して聴くという時間は取れないのだけど、この作品はジムでぶっ通しで聴いているよ。あとは、ジューダス・プリーストの『Firepower』。エントゥームドの『Clandestine』もよく聴いている。
― では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
アザルビョールン:久しぶりに話せて良かったよ。君とは前回東京で会ったんだよね。日本に行くのはとても非現実的なことだった。まさか日本に行けるなんて思ってもいなかったから。またぜひ行きたい。俺にとってはバンドで日本に行くというのは、例えばディープ・パープルの『Made in Japan』みたいに、ビッグなバンドだけがやれることだと思っていたから。それからカテドラルのセカンド・アルバム、『Ethereal Mirror』の日本盤に、ボーナス・トラックが入っていてね。とてもクールだと思った。というのも、彼らはディープ・パープルほどはビッグじゃなかったからね。そういうバンドが日本盤を出してボーナス・トラックが入っているなんて素晴らしいことさ。そして俺たちも『ベルドゥレーメン』の日本盤にボーナスDVDがついて、自分たちも格が上がった気がしたよ。日本でアルバムを出してボーナス入りなのだから。日本にまた行きたい。前回は48時間しか滞在できなかったんだ。アイスランドから飛んでいって48時間だけだよ!次回は少なくとも1週間はいたいね。楽しみにしているよ。
文 川嶋未来