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アンドレアス・キッサー
(セパルトゥラ)
独占インタビュー

スタジオでもライヴでもない
異なったシチュエーションで
とてもスペシャルでユニークなアルバムに
仕上がったと思う

                                   

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文:川嶋未来 Photo by Marcos Hermes

ロックダウン化に行われたいわゆる”Quarantine Session”をまとめたアルバム、『セパルクアルタ』をリリースするセパルトゥラ。デヴィン・タウンゼンド、デイヴ・エレフソン、フレデリク・ルクレール、フィル・キャンベルに至るまで、多数の豪華ゲストが参加し、セパルトゥラの名曲の数々をプレイした本作について、ギタリストのアンドレアス・キッサーに聞いてみた。

 

 

ー コロナの状況はいかがですか。(2021年6月18日現在)

 

アンドレアス:政府も混乱しているし、大統領もそう。おそらくブラジル史上最悪の大統領さ。だけど、それぞれの州知事がワクチンの接種を頑張って進めているからね。俺もやっと来週一回目のワクチン接種をするんだ。という訳で、とてもゆっくりだけれども、状況は少しずつ改善していると言えるよ。

 

― 非常に基本的な質問なのですが、「セパルクアルタ」とはどのような意味なのでしょう。

 

アンドレアス:2020年にニュー・アルバム『クアドラ』をプロモートするためのコンサートをすべてキャンセルしなくてはいけないということになった時、しかもわずか1日ですべて中止が決まって、とても状況は混沌としていた。それから1ヶ月くらいして、「セパルクアルタ」というインターネット上のイベントを始めることにしたんだ。ファンとのつながりを保ち、ニュー・アルバムやセパルトゥラの曲をプレイしたりするイベントさ。『クアドラ』では幾何学や数秘術、『クアドヴィリウム』という本などを取り上げたけれど、このイベントでもそのテーマを取り上げ続けたんだ。「Quarta」というのは「水曜日」という意味で、つまり週の4番目の日ということ。毎週水曜日、ブラジル時間の4時に、4つの要素を持ったイベントで、「4」という数字がとても重要な意味を持っている。『クアドラ』でのコンセプトを継承しているんだよ。という訳で、「セパルクアルタ」という名前にしたんだ。毎週水曜日にファンとのつながりを持つユニークなイベントをやるということで。

 

ー ポルトガル語で水曜日が「クアルタ」なのですね。

 

アンドレアス:その通りだよ。

 

ー さまざまなゲスト・ミュージシャンが参加していますが、どのようにして参加アーティストを決めたのでしょう。

 

アンドレアス:もともとは『クアドラ』の曲をプレイしていたんだよ。それぞれの家で、自分たちのパートを録音してね。そしてそのうち友達に声を掛けるようになった。過去に知り合った素晴らしいミュージシャン、素晴らしい人たちに。それで毎週水曜日、違った曲、主題、ゲストでやるようになっていったんだ。ファンとやりとりするだけでなく、ゲストを交えてジャムをするようになっていったのさ。当初はそれでアルバムを作ろうとは考えていなかった。ただイベントをやって、SNSを通じてファンとのつながりをキープしようと思っただけだった。ところが20年の終わり頃になると、ずいぶんと素晴らしい音源が溜まっていることに気づいて、全部リミックスしてアルバムにすることにしたんだ。友人たちに「次の水曜日は空いてるかい?」なんて聞いてね。参加してくれたミュージシャンたちはみんなハッピーでエキサイトしていたよ。多くの素晴らしいゲストが参加してくれた。結局出来上がったものは、とてもユニークなものになったよ。これはライヴでもなければ、かと言ってスタジオ作品でもない。みんな世界中のあらゆる場所で演奏して、それを一つの作品に仕上げたのだからね。素晴らしいことだよ。アルバムには15曲入っていて、ゲストもたくさん。とてもハッピーだよ。無から何かを作り出した感じだからね。すべてを中止して、1年に渡るツアーもすべて止めた。そしてセパルクアルタを思いついて、セパルトゥラはこれに救われたようなものさ。おかげでバンドとしてつながりを持って、お互いに話し合うこともできた。ツアーしたり、バックステージで話す代わりにね。セパルクアルタは、セパルトゥラを生かしてくれた素晴らしいイベントだし、そこからアルバムも生まれたのだから素晴らしいよ。

 

ー レコーディングはどうやってやったのですか。やはり最初にエロイがドラムを録音して、という感じですか。

 

アンドレアス:そう。まずドラムを録って、そのファイルを俺に送ってもらって、俺がギターを足して、パウロがベース、デリックがヴォーカルのファイルを送ってきて、そうやってバラバラに録ったものを、俺がまとめたんだ。ホームメイドという感じで、ほとんど自分たちでやったんだ。プロフェッショナルなスタジオの人たちの手はあまり借りずにね。ビデオの編集は、俺たちのウェブの管理人、ブルーノ・レアンドロがやってくれた。素晴らしい仕事をしてくれたよ。Q&Aの管理も、ビデオの編集も。セパルクアルタのロゴも作ってくれた。チームで仕事をした感じだよ。みんながそれぞれのパートを受け持って。俺はサウンドをまとめて、ブルーノはビデオをやって。まあそれが全部という感じだよ。面倒なことは特になく、とてもシンプルにやったんだ。みんなプロフェッショナルだったから、わりと簡単にやれた。締め切りも守ってくれて、とてもクールだったし、楽しかったよ。こういうやり方のレコーディングというものを学ぶ、とても良い経験だった。

 

ー ゲストには色々指示はしたのでしょうか。それとも各自好きにプレイしてもらったのですか。

 

アンドレアス:特にソロについては、みんな好きに弾いてもらったよ。例えば「マスク」ではデヴィン・タウンゼンドがとてもユニークなソロを弾いている。ペリフェリーのマークも。もちろんフィル・キャンベルは「オーガスマトロン」で彼自身のソロを弾いていて、とても素晴らしかった。アレックス・スコルニックもアルバムには無いソロを弾いているよ。フリーに、オープンにやってもらって、おかげでユニークなバージョンに仕上がった。さっきも言った通り、スタジオでもライヴでもない異なったシチュエーションで、とてもスペシャルでユニークなアルバムに仕上がったと思う。俺たちのキャリアで、以前もそしてこれからもこんな作品は無いよ。

 

― 当然と思えるゲストもいれば、意外なミュージシャンも参加しています。例えばダンコ・ジョーンズなどは、エクストリーム・メタルのミュージシャンでは無いですよね。

 

アンドレアス:だけど、ダンコはエクストリームな人間なんだよ(笑)。彼は素晴らしい人物で、仲も良くて、セパルトゥラの大ファンなんだ。俺たちよりもセパルトゥラの歴史に詳しいくらいさ(笑)。ダンコ・ジョーンズではハードロックっぽいことをやっているけれど、彼の体にはたくさんのヘヴィメタルが詰まっているんだよ。とてもエネルギッシュで、ヴァイブも素晴らしい。さらにインテリジェントでスマートでもある。「セパルネイション」を提案したのは俺たちで、彼はいつもとは違う歌い方をしてくれた。素晴らしい仕上がりだよ。とても美しく、リッチな仕上がりさ。彼のやり方でセパルトゥラを表現してくれた訳だからね。ぜひこれらのゲストを迎えて、ライヴをやりたいとも思っているんだ。

 

 

 

― エミリー・バレトというのはどのようなアーティストなのですか。

 

アンドレアス:エミリーが参加した曲(フィア・ペイン・ケイオス・サファリング)は、唯一『クアドラ』からのもので、実は彼女はアルバムにも参加しているんだよ。ファー・フロム・アラスカという北ブラジルのバンドのシンガー。まったくメタルではなく、非常にオルタナティヴな音楽をやっているけれど、素晴らしいシンガーで、英語でもうまく歌える。人間としても素晴らしいんだ。彼女と出会ったのは『クアドラ』のレコーディング終了直前で、「フィア・ペイン・ケイオス・サファリング」はヴォーカルの良いアイデアが無かったのだけど、彼女の提案のおかげで方向性が決まったんだ。彼女と一緒にこういった形で再びこの曲をプレイできて良かったよ。ファー・フロム・アラスカはアンダーグラウンドでとても人気があって、ブラジル国外にもファンがいるんだ。

 

― ジョアオ・バローニとシャルルズ・ガヴァンはブラジルでとても有名なドラマーのなのですよね。

 

アンドレアス:二人ともブラジルで最も有名なドラマーさ。シャルルズ・ガヴァンはTitãsの元ドラマーで、『Chaos A.D.』では彼らの「Polícia 」という曲をカバーした。この曲はしょっちゅうプレイしていて、今でもやっているよ。Titãsはブラジルで最も有名なバンドの一つさ。ジャオ・バローニはOs Paralamas do Sucessoというバンドのドラマーで、彼らも南ブラジルで物凄い人気のバンドだよ。どちらとも長い間仲が良くて、セパルトゥラの曲も気に入ってくれている。「ハタマハタ」は特にブラジルっぽい曲だしね。オリジナルのレコーディングではCarlinhos Brownというパーカッショニストが参加している。この曲では、3人のブラジルのドラマーとプレイするという良い機会にもなったよ。ライヴではドラムを3つもセットするなんて不可能だからね。まあ不可能ではないけれど、大変だよ(笑)。スタジオでも同じ。ドラム3つセットしてマイクを立ててというのは容易ではない。セパルクアルタというフォーマットだからこそ、こんなことが実現したんだよ。テクノロジーというのは本当に素晴らしいね(笑)。

 

ー フレデリク・ルクレールは今でこそクリエイターのベーシストですが、もともとはドラゴンフォースのメンバーであり、セパルトゥラとの接点は少々意外ではありますが。

 

アンドレアス:フレッドも素晴らしいミュージシャンで、クリエイターに入ってベースを弾いているというのはクールなことだよ。きっと色々と素晴らしいアイデアを提供するに違いない。彼とは友人で、何年か前にバックステージで、俺たちが「スレイヴス・オブ・ペイン」をさっぱりプレイしないって文句を言っていて(笑)。それで、それなら次回会った時にプレイできるようにしておくから、ステージに飛び入り参加してくれなんていう話をしてね。ところがツアーはすべてキャンセルになってしまったので、それならセパルクアルタでやろうということになったんだよ。彼は完璧に演奏してくれた。ソロに至るまで完璧に再現していて、セパルトゥラの音楽という完璧に理解しているよ。「スレイヴス・オブ・ペイン」のギターは簡単じゃないからね。素晴らしい演奏をしてくれたよ。それにこれで彼も文句を言うのを止めてくれるだろうし(笑)。

 

― 現クリプタのフェルナンダ、ヘイトフルマーダーのアンジェリカ、トーチャー・スクワッドのマヤラとブラジルを代表する女性エクストリーム・メタル・ヴォーカリストも勢揃いしています。

 

アンドレアス:その通りさ。ブラジルには素晴らしい女性ミュージシャンがたくさんいる。フェルナンダはネルヴォサの出身で、今はクリプタというバンドをやっていて、アルバムを出したところだよ。アンジェリカはヘイトフルマーダーのメンバーで、これも本当に素晴らしいバンドさ。メイはトーチャー・スクワッドのメンバーで、これも素晴らしいバンド。彼女たちとも仲が良くて、みんなセパルトゥラのファンなんだ。特にヘヴィメタルの世界では女性の存在というものが大きくなってきていて、シンガーだけでなく、ギター、ベース、ドラムでも優れたミュージシャンが出てきているよ。「ヘイトレッド・アサイド」も、あまり演奏していない曲で、これはもともと『Against』の時にジェイソン・ニューステッドと一緒に書いた曲なんだ。モーターヘッドから影響を受けた素晴らしい曲で、ジェイソン、デリック、そして俺という3人で歌ったもの。このスペシャル・バージョン用に、今回3人の才能あるシンガーに参加してもらったんだ。

 

 

 

― 演奏する曲はどうやって選んだのですか。

 

アンドレアス:ゲストと話し合って決めた。「俺たちはこれをやろうと思っているけどうどうか」って提案したりね。さっきも言った通り、フレッドなんかは数年前の会話がきっかけだし、(マット)ヒーフィーの場合は、トリヴィアムですでに「スレイヴ・ニュー・ワールド」をカバーしていたし。ゲストからの提案にもオープンだったよ。「ラタマハタ」はとてもパーカッシヴな曲だからドラマーに参加してもらったりで、曲ごとに色々なパターンがあって、何か公式があって選んだ訳ではないよ。ゲストに心地よく参加してもらいたかったから、何も強制することはなかった。やりたくないということであれば、問題無かったよ。みんな楽しんでくれたようで、ヴァイブ、フィーリングはとてもクールなものだったな。

 

ー シャドウズフォールのジェイソン・ビットナーやジンジャーのロマンが参加した回もあったと思うのですが、これらがアルバムに収録されていない理由は何なのですか。

 

アンドレアス:曲がたくさんありすぎたからね。アルバムには15曲入っているし、詰め込みすぎたくはなかったんだ。どの曲を入れてどの曲を入れないということに、大きな理由は無くて、今回入れなかった曲も、将来シングルなどで発表するかもしれない。とても興味深い内容だからね。

 

ー アートワークは非常に美しいものですが、これは何を表しているのでしょう。

 

アンドレアス:アートワークはとても素晴らしくてハッピーだよ。エロイが見つけた新しいアーティストなんだ。彼が何人かのアーティストの作品を見せてくれて、その中でこのエドアルド・ヘシーフィが一番気に入った。俺たちと同じくベロオリゾンテの出身で、とてもユニークなスタイルを持っている。まるで美術館に飾ってあるような絵だよ。彼には自分たちのシチュエーションを説明した。すべてをキャンセルして、無の状態からこのイベントを始めたと。それで彼が、セパルクアルタのコンセプトからあの絵を考えたんだよ。素晴らしいよ。死んだ鳥から生きている花が咲いているのさ。死から生が生まれているんだよ。自分たちというバンド、人々とのつながりを再定義したということ。俺たちやミュージシャンだけでなく、生き続けるためにコロナでこの世界すべてが再定義される必要があったということさ。花は新しい種、新しい生活の見方、人とのつながり、新たな希望といった、俺たちをセパルクアルタへ導いてくれたものを表しているんだ。このアートワークの評判もとても良いんだ。アルバム全体への評判も良いけれど。

 

 

ー コロナ終息後も、このイベントは今後も続けていくのでしょうか。

 

アンドレアス:どうだろう。俺としてはやっぱりステージに上がりたいよ(笑)。ただ、こういう場合の対処の仕方はわかった。このイベントを続けていくとは言わないけれど、何かがあった場合、こういうやり方ができるんだとわかったことは素晴らしい。SNSを通じたファンとのつながりもさらに良いものになったしね。新しいウェブサイトも作って、色々と投資もした。だけど、やっぱりステージに上がりたいな。11月、12月にはヨーロッパ・ツアーも決まっているし、来年のフェスティヴァルも色々決まっている。そこが俺たちの居場所なんだ。

 

ー ロックダウン中は新しい曲を書いたりもしましたか。

 

アンドレアス:ほとんどの時間をセパルクアルタに費やしていたよ。イベント、ゲスト、ビデオ、パフォーマンスとかね。だけど、俺は常に曲は書いていて、エレクトリック・ギターやアコースティック・ギター、ドラムマシンなんかを使って、色々とアイデアをためてはいるよ。先月だったかな、エロイとは新しい曲のアイデアを交換してデモも作ったけれど、まだ本当に初期段階のもので、新しいアルバムのアイデアには至っていない。曲へと発展していく細胞ができてきているだけさ。俺は常に曲を書いていて、スマホにアイデアを録音したりはしているんだ。アルバムを作る段階になったら、そこから意味のありそうなものを集めて作業するんだよ。今の段階では、まだ新しいアルバムを作ろうという時期には至っていない。『クアドラ』をリリースしたけれど、まだそれをサポートするライヴを一回もやっていないしね。まずそのツアーをやって、それから新しいアルバムという雰囲気を作り上げていきたいんだ。

 

ー オススメのブラジルのバンドをいくつか教えてください。

 

アンドレアス:クローストロフォビア。素晴らしいバンドで、新しいアルバムがもう数日中に出るんじゃないかな。さっき言ったリオのバンド、トーチャー・スクワッドやヘイトフルマーダー。ネルヴォサやクリプタのニュー・アルバムも素晴らしい。Andrallsも素晴らしいスラッシュ・メタル・バンド。Nervochaos。それからもちろんRatos de Porão。とても有名なバンドだけれど、メタルのヴァイブがあるハードコア・パンクのバンドさ。ブラジルのシーンはとても強力で、クールなことがたくさん起きているよ。素晴らしいミュージシャンがスペシャルなことをやっているんだ。

 

― では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。

 

アンドレアス:日本は俺たちのお気に入りの国の一つさ。『マシーン・メサイア』で日本に行った時も素晴らしかった。『クアドラ』、『セパルクアルタ』でまたすぐに日本に行けるといいな。ずっとサポートしてくれてどうもありがとう。早く会えることを期待しているよ。アリガト。

 

 

文 川嶋未来

 


 

 

 

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2021年8月13日発売

セパルトゥラ

『セパルクアルタ』

CD

【CD収録曲】

  1. テリトリー (feat. デイヴィッド・エレフソン)
  2. カット・スロート (feat. スコット・イアン)
  3. セパルネイション (feat. ダンコ・ジョーンズ)
  4. インナー・セルフ (feat. フィル・ラインド)
  5. ヘイトレッド・アサイド (feat. アンジェリカ・バーンズ、マヤラ・プエルタス、フェルナンダ・リラ)
  6. マスク (feat. デヴィン・タウンゼンド)
  7. フィア・ペイン・ケイオス・サファリング (feat. エミリー・バレト)
  8. ヴァンダルズ・ネスト (feat. アレックス・スコルニック)
  9. スレイヴ・ニュー・ワールド (feat. マシュー・K・ヒーフィー)
  10. ラタマハタ (feat. ジョアオ・バローニ、シャルルズ・ガヴァン)
  11. エイプス・オブ・ゴッド (feat. ロブ・キャヴェスタニィ)
  12. ファントム・セルフ (feat. マーク・ホルコム)
  13. スレイヴス・オブ・ペイン (feat. フレデリク・ルクレール、マルセロ・ポンペウ)
  14. カイオワス (feat. ラファエル・ビッテンコート)
  15. オーガズマトロン (feat. フィル・キャンベル)

 

【メンバー】
アンドレアス・キッサー(ギター)
デリック・グリーン(ヴォーカル)
エロイ・カサグランデ(ドラムス)
パウロ Jr.(ベース)