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クリストス・アントニウ
(セプティックフレッシュ)
独占インタビュー

セプティックフレッシュにおいて
オーケストラの存在はとても重要なんだ
ある意味バンドのメンバーだよ
時にオーケストラをテンプレートにして
曲を作り上げることもあるんだ

                                   

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文:川嶋未来 Photo by Stella Mouzi

ギリシャが誇るシンフォニック・デス・メタル・バンド、セプティックフレッシュがニュー・アルバムをリリース。今回ももちろん本物のオーケストラと合唱隊をフィーチャし、これ以上なくゴージャスな作品に仕上げている。ということで、オーケストラのアレンジメントも手がけるギタリスト、クリストス・アントニウに話を聞いてみた。

 

 

ー ニュー・アルバム『モダン・プリミティヴ』がリリースになります。過去の作品に比べて、どのような点が変化、進歩していると言えるでしょう。

 

クリストス:アルバムを作る時は、いつでもチャレンジなんだ。常にフレッシュなサウンドを得るために、新しい道を見つけようと努力をする。一生懸命やって、イマジネーションに導いてもらうようにするんだ。今回のアルバムは、前作『コデックス・オメガ』からも進歩しているよ。変化という点に多いては、大きなものはない。スタイルを変える訳ではないからね。だけど、過去とのつながりを維持しながらも、新しい要素はあるよ。

 

ー 新しい要素というのは具体的にどのようなものでしょう。

 

クリストス:例えば、今回兄貴(セス・シロ・アントン)は12弦ギターを多用している。作曲も主に12弦ギターを使ってやっていたよ。これは過去にやったことがないもの。作曲のプロセスやオーケストレーションに関しては、ほんの小さなディテールも変化を生み出せるものなのさ。オーケストレーションという点では、今回初めてダブルのクワイヤやダブルのオーケストラを試したし、民族楽器も使ってみた。こういうことが過去のアルバムと違ったカラーを生み出していると思う。

 

ー アルバムのタイトル『モダン・プリミティヴ』には、どのような意味が込められているのでしょう。アルバムのテーマは何ですか。

 

クリストス:ストーリーやコンセプト・アルバムになっている訳ではないけれど、タイトルの主要なアイデアは、我々人類は長い時間をかけて進歩をし、大きな力を得てきたけれど、その力は自らをも滅ぼしかねないということ。これはパンデミックや、今起こっている戦争を見てもわかることさ。すべてのものは脆弱で、このタイトルが持つメッセージというのは、人類は近代化したかもしれないけれど、同時に非常に原始的であるというものさ。

 

ー オープニング・ナンバーの「ザ・コレクター」などはエジプトについて歌っているようですが。

 

クリストス:この曲の主人公は、オシリスの14のパーツを集めることに取り憑かれている者。伝説によれば、オシリスはセトに裏切られ殺されて、死体を14のパーツに切り刻まれたとされているんだ。主人公のコレクターは、これをすべて集めることによって神になろうとしているのさ。

 

ー 「ハイエロファント」と「セルフ・イーター」は対になっているのでしょうか。

 

クリストス:そう。「ハイエロファント」が始まりで、「セルフ・イーター」がその続きになっている。「ハイエロファント」というのは、古代ギリシャで尊敬されていた司祭のこと。とても位の高い人間なのだけど、この曲では信者たちに、神の言葉が聞こえると嘘をついているんだ。そして最終的には神になる。「セルフ・イーター」では、神の力を得ることになるけれど、結局その力は自らをも滅ぼすものだというお話。

 

 

 

ー 「ニューロマンサー」はウィリアム・ギブソンの小説に基づいているのでしょうか。

 

クリストス:もちろんそうさ。

 

ー アートワークは何を表しているのでしょう。

 

クリストス:これも兄貴の手によるものなのだけど、これに描かれている人間の頭が、近代化と原始的な側面の両方を表していることがわかると思う。近代化が破壊を引き起こす可能性があるという、アルバムのメインのメッセージがここでも描かれているんだよ。

 

 

ー あなたの音楽的バックグラウンドを教えてください。そもそもエクストリーム・メタルとシンフォニックな要素をミックスしようと思ったきっかけはどういうものだったのでしょう。

 

クリストス:俺はイギリスで勉強をして、作曲の学位と博士号を取得したのだけど、インスピレーションというのはあらゆるところからやって来るものさ。先生にはしょっちゅう「教科書が重要でないこともある。可能な限り多くの音楽を聴くことが大切だ」と言われたよ。そうやって自分自身の音楽のボキャブリーを得ることで、音楽を作ることができるんだ。俺たちがやっているのはメタルだけれど、俺はバンドのシンフォニックな要素を担当するという贅沢ができる。メンバーはみんなサウンドトラックやクラシックのファンだし、俺たちはメタルとクラシックを融合するのに長けているからね。再結成以降のセプティックフレッシュは、主にそれを主眼に置いているのさ。

 

ー お好きなクラシックの作曲家はどのあたりでしょう。

 

クリストス:俺は20世紀の現代音楽が好きなんだ。ペンデレツキやクセナキス。サウンドトラックの作曲家だとエリオット・ゴールデンサール、ハンス・ジマーとか。あ、一番大切な作曲家を忘れていた。俺が作曲を勉強しようと思ったきっかけは、イゴール・ストラヴィンスキー。『春の祭典』を聴いた時は衝撃だったよ。あれは傑作さ。今聴いても現代的だし。

 

ー そもそも音楽にハマったきっかけは何だったのですか。メタルでしょうか。それともクラシックだったのですか。

 

クリストス:最初はメタルだった。俺は若くて、少々反社会的な面もあって、それで音楽が持つ「世界を変えてやる」というような革命的なところに惹かれた。それでヘヴィメタルが俺のパーソナリティや考えを代弁してくれるものだと思ってね。最初はスレイヤーやメタリカなどを聴いていて、その後イングヴェイ・マルムスティーンやマーティ・フリードマンなんかのギタリストを聴くようになって、そして彼らを通じてクラシックに興味を持つようになったんだ。彼らはバロック音楽やクラシックから大きな影響を受けていたからね。それでだんだんクラシックの世界へと足を踏み入れていったんだ。譜面を読めるようになったのは、18歳になってからさ。それからイギリスに行ってクラシックの勉強をしたんだよ。

 

ー ではセプティックフレッシュの音楽に影響を与えているメタル・バンドとなると、どのあたりでしょう。

 

クリストス:俺たちはモービッド・エンジェルの大ファンなんだ。それにデス、アイアン・メイデン、パラダイス・ロストを加えた4つが、俺たちに最も大きな影響を与えたバンドだよ。だけど、もちろんただ彼らをコピーする訳ではなく、自分たちのフィルターを通して、セプティックフレッシュのアイデンティティを作り出しているんだ。とても大切なことだよ。影響を受けることは素晴らしい。だけど、それを正しくフィルターすることで、自分自身の音楽言語を獲得できるんだ。

 

ー クセナキスやペンデレツキの音楽が、セプティックフレッシュに影響を与えていると思いますか。

 

クリストス:うーん、オーケストレーションという点では影響があると思う。オーケストラで特別なエフェクトを作り出した時は、こういった作曲家たちを参照するよ。もちろん俺たちはクセナキスみたいな音楽をやる訳にはいかないからね。アヴァンギャルドのムーヴメントに属するバンドではないから。サスペンスやダークな雰囲気を出すために、エフェクトという形でこういった作曲家を参照することはあるけれどね。

 

ー クラシカルな影響という点では、やはり映画のサウンドトラックの方が大きいということですね。

 

クリストス:そうだね。バンドには俺たち兄弟とソティリスという3人のコンポーザーがいて、みんなサウンドトラックのファンなんだ。彼らに現代音楽的なものを無理強いすることはできないし。俺たちがやっていることは結局メタルなのだし。そういう意味で、サウンドトラックからの影響は大きい。

 

ー お気に入りのサウンドトラックは何でしょう。

 

クリストス:そうだな、俺たちの音楽に大きな影響を与えた作品と言えば、ポーランドの作曲家、(ヴォイチェフ)キラールの『ドラキュラ』だね。あとはエリオット・ゴールデンサールの『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』。好みは変わって来るけれどね。90年代にはダニー・エルフマンが大好きだった。今はハンス・ジマーだね。『バットマン』のスコアは素晴らしいよ。

 

ー バンド名を「セプティックフレッシュ」としたのは何故ですか。どのような意味が込められているのでしょう。

 

クリストス:実は、自分たちで決めた名前じゃないんだ。俺としてはこの名前を誇りに思っていないし、気に入ってもいない。俺たちのやっている音楽を表す名前ではないからね。正直、なるべくバンド名のことは忘れるようにしているよ。90年代の初め、友達がこの名前を提案したんだ。俺たちもまだ子供だったからね、それでいいやとしてしまったんだよ。最初は2単語だったのだけれど、『Communion』以降は1単語にくっつけている。少なくとも、見栄えはその方がマシだから。「セプティックフレッシュ」なんていう名前を聞くと、誰もがエクストリーム・ゴア・ミュージックあたりを思い浮かべるよね。俺たちのスタイルはまったくそういうものではないのに。

 

ー 2003年に一度解散していますが、これは何故だったのですか。

 

クリストス:人生において、誰しも何らかの決定をしなくてはいけないポイントがある。『Sumerian Daemons』をリリースしたレーベル、ハマーハートも良くなくてね。よく知らないけれど、その後彼らは倒産したんじゃないかな。彼らからのサポートもロクになくて、そして俺は作曲家の仕事でイギリスに行かなくてはならなくなった。兄貴もアートワークの仕事に集中していた。それで、ダラダラと続けるよりも解散しようということになったんだ。もうファンに提供するものも無いという風に感じていたし。でも、結果としてこのブレイクが良かったんだよ。人としても成熟できたし、音楽ビジネスについての見識も深くなった。良いレーベルとも契約できた。一度解散したことは、正しい決断だったと思うよ。

 

ー では再結成をしようと思ったきっかけは何だったのですか。

 

クリストス:音楽というのは毒みたいなものだからね。しかも解毒剤はない。5年ほどのブレイクを経て、俺と兄貴、ソティリスの創設メンバー3人で集まって、またやってみようということになったんだ。それからシーズン・オブ・ミストのマイケル・バーバリアンとも話をしてね。「もし再結成するなら、うちと契約しよう」と言ってくれた。再結成をしてシーズン・オブ・ミストと契約したというのも、やはり正しい決断だったと思う。俺たちも賢くなっていたし、やりたいこともわかっていた。ツアーの準備もできていたし。カムバック後は、何をすべてきかが明確にわかっていたから、それに集中することができるんだ。

 

ー 再結成後に本物のオーケストラを使ってみようというアイデアは、どのように出てきたのですか。

 

クリストス:もちろん予算が必要だったからね。マイケルに相談をしてみたら、やってみようと。俺は自分でオーケストレーションができるから、外部のオーケストレーターを雇う必要もない。つまりオーケストレーターの費用も必要ない。それでこれを俺たちの武器にしようと。セプティックフレッシュにおいて、オーケストラの存在はとても重要なんだ。ある意味バンドのメンバーだよ。時にオーケストラをテンプレートにして曲を作り上げることもあるんだ。俺が他のメンバーにオーケストラのテンプレートを渡して、彼らがその上にメタル・パートを作り上げる。もちろん逆に彼らがメタル・パートをくれて、そこに俺がオーケストラを加えていくこともあるけれど。オーケストラという要素が俺たちにとってどのくらい重要なものかわかるだろう。

 

ー 初期の頃はドラムマシーンを利用していたと思うのですが、これは何故だったのでしょう。

 

クリストス:特にギリシャではドラマーが少ないからね。初期の3枚のアルバムでは、自分たちの欲しいサウンドにするために、マシンのドラムを使うしかなかったんだ。当時は本当に速いテンポの曲をやっていたから。そんな曲をプレイできるドラマーがいなかったし、ライヴもあまりやっていなかったから。再結成前は、100回もやっていないんじゃないかな。ある意味スタジオ・バンドだったんだ。だから、アルバムを作るにあたって、ドラムマシンを使うのが、ベストなソリューションだったんだよ。

 

ー セプティックフレッシュの音楽はギリシャ的だと思いますか。

 

クリストス:ギリシャ的な要素は、あちこちにあると思う。ギリシャの音楽の色は俺たちの血に入っているからね。ギリシャっぽいメロディもあるし、例えば今回の「ニューロマンサー」などは、ギリシャの作曲家から影響を受けたもの。ギリシャの要素のおかげで、バンドにエキゾティックな感触が出ているよ。ギリシャのサウンドはエキゾティックなものだからね。

 

ー お気に入りのアルバムを3枚教えてください。

 

クリストス:これは難しいな。まあ、でもまずは『春の祭典』だね。ナンバー2は、そうだな、モービッド・エンジェルの『Altars of Madness』。ナンバー3には2枚挙げさせてくれ。デスの『Spiritual Healing』、ハンス・ジマーの『Batman Begins』。

 

ー クセナキスの作品だと、どれが好きですか。

 

クリストス:色々好きだよ。『メタスタシス』や『エオンタ』とか。学生だった時は毎日クセナキスの作品に触れていたけれど、さすがに今は毎日聴く訳ではない。彼の楽器のエクストリームな使い方については、たくさん研究したよ。チェロとか、ソロ楽器の作品とか。彼のピアノ曲はあまり好きではないのだけれど。『メタスタシス』は傑作だね。現代音楽が好きなの?

 

ー ええ、好きです。

 

クリストス:タケミツ(武満徹)は素晴らしい作曲家だよね。

 

ー 日本が誇る作曲家の1人です。

 

クリストス:さっきも言ったけれど、音楽の好みというのは変わっていくものなんだ。最近はタン・ドゥンなんかも大好きだよ。素晴らしい作曲家さ。

 

ー では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。

 

クリストス:ずっとサポートしてくれている日本のファンに感謝したい。2013年に日本でプレイしたけれど、状況が許せば東京や大阪にぜひ行きたいね。とても素晴らしい経験だったから。素晴らしい国だし、ファンも素晴らしかった。とても楽しかったよ。

 

 

文 川嶋未来

 

 


 

 

 

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2022年5月20日発売

セプティックフレッシュ

『モダン・プリミティヴ』

CD

【CD収録曲】

  1. ザ・コレクター
  2. ハイエロファント
  3. セルフ・イーター
  4. ニューロマンサー
  5. カミング・ストーム
  6. ア・デザート・スローン
  7. モダン・プリミティヴズ
  8. サイコヒストリー
  9. ア・ドレッドフル・ミューズ

 

【メンバー】
セス・シロ・アントン(ベース/ヴォーカル)
クリストス・アントニウ(ギター)
ソティリス・アヌンナキ・V(ギター/クリーン・ヴォーカル)
サイコン(ギター)
カリーム・レヒナー(ドラムス)