スウェーデンのプログレッシヴ・メロディック・デス・メタル・バンド、スカー・シンメトリーが9年ぶりのニュー・アルバムをリリース!と言うことで、ヴォーカル、ギター、キーボード等を担当するメイン・ソングライターのペル・ニルソンに話を聞いてみた。
ー スカー・シンメトリーの音楽には多くの要素が含まれています。あえてそのスタイルを定義するとしたら、どうなりますか。
ペル:そうだな、メロディック・デス・メタルと言われることが多いし、実際出自はそこだけれど、それだけでは十分ではないので、プログレッシヴという言葉を足している。プログレッシヴ・デス・メタル。この言葉の方が、俺たちのやっていることの多くにフィットするからね。だけど、それでも十分かはわからない。バンドを続けていく中で、色々な要素を足していったからね。ファースト・アルバムの曲は、最近の作品よりもずっとシンプルだった。と言うのも、ファースト・アルバムはテストみたいな感じだったから。バンドを始めたばかりで、お互いのことすらよく知らなかったんだ。偶然出来上がったようなバンドだったからね。俺とドラマーのヘンリク、以前のギタリストであるジョナスと一緒にAltered Aeonというプロジェクトをやっていて、とても楽しかったから一緒にバンドをやろうということになった。Altered Aeonは基本的にヘンリクのバンドで、彼がすべての曲を書いていて、彼に誘われてギターを弾くことになったんだ。スカー・シンメトリーは、クリーン・ヴォーカルとハーシュ・ヴォーカルをフィーチャしたバンドにしようということだけは決まっていて、だからファースト・アルバムは少々安全運転というのかな。あまり手を広げるようなことはしなかった。その後、アルバムごとに色々な要素を取り入れていったんだよ。
ー スカー・シンメトリーは、具体的にどのようなバンド、アーティストから影響を受けていると言えるでしょう。
ペル:うーん、わからないな。曲を書く時に、具体的なバンドを思い浮かべることはないんだ。現在スカー・シンメトリーの曲はすべて俺が書いている。以前はジョナスが書いていたのだけれど。クリスチャンがヴォーカル・メロディを書くこともあった。俺の書く曲は、俺が人生で聴いてきたものすべてのミックスだと思う。もちろんメタルからの影響は大きいし、核はやっぱり俺が好きなメタル。それに80年代のポップスや、ジャズ/フュージョン、クラシック、映画のサントラなどをミックスするのさ。時々3声のヴォーカル・ハーモニーが出てくるけれど、ああいうのは例えばTOTOなどを思わせるものかもしれない。メタルとは随分遠いよね。ギター・ソロにはフュージョンからの影響もある。
ー メタルというのは具体的にどのあたりですか。
ペル:俺のお気に入りは、そうだな、間違いなくシンフォニー・エックスは大好き。俺が書くリフには、確実にマイケル・ロメオからの影響が聞き取れる。彼からのインスピレーションは大きいよ。それから若い頃に聴いた古き良きスラッシュ。メタリカとかメガデス。90年代初頭のデス・メタル。カンニバル・コープスやモービッド・エンジェルとかね。ストックホルムのデス・メタルの。ヨーテボリのバンドからの影響はあまりないけれど。なぜか当時、ヨーテボリのバンドはあまり聴かなかったな。
ー むしろエントゥームド等を好んでいたということですか。
ペル:そう。90年代初期に、ヘンリクと俺はストックホルム・スタイルのデス・メタル・バンドをやっていたよ。
ー フュージョン/ジャズやクラシックは、どのあたりがお好きなのでしょう。
ペル:アラン・ホールズワースだね。クラシックはドビュッシー。
ー スカー・シンメトリーの音楽の中に、ドビュッシーからの影響は聞き取れると思いますか。
ペル:聞き取れるんじゃないかな。俺は映画のサントラも大好き。ハンス・ジマーやジョン・ウィリアムス、トレヴァー・ラビンとかね。そういう中でコード進行などを聞いて、これは良いなというものがあると、記憶しておくんだ。それで曲を書いている時に、「そうだ、あれを使えるぞ」なんて考えたり。もちろんそのまま使う訳ではないけれど。そういうものが積み上がって、まったく違ったコンテクストになるのさ。違った楽器、違ったキー、違ったテンポでね。
ー 「スカー・シンメトリー」というバンド名にしたのは何故ですか。
ペル:これはヘンリクが考えた名前。彼はすべての歌詞を手がけているから、彼はそういうことに長けているんだよ。彼はインタビュー中で、いくつかの違った説明をしているのだけど、その中の一つは、俺たちの音楽は、ハーシュなサイドとメロディックなサイドから出来上がっているよね。つまり2つの極があるということ。それで、「スカー(傷跡)」というのはハーシュな感じで、「シンメトリー(左右対称の)」の方は、バランスがとれた、中立的な、良い言葉だからだと。だけど、「ただ響きが良かったから」なんて答えている時もあるんだよ(笑)。
ー ニュー・アルバム『ザ・シンギュラリティ(フェイズII-ゼノタフ)』がリリースになります。前作のリリースが2014年ですから、9年もの間が空いています。何故こんなに時間がかかったのでしょう。
ペル:16年には新曲を書き始めて、16年、17年にはドラムやリズム・ギター、ほとんどのヴォーカル等、主要なパートは録音していたんだ。だけど、17年の終わりに、何だか燃え尽きた感じになってしまってね。俺1人でビジネス、バックラインやフライトの予約、予算管理とか、ツアーに関するマネジメントすべてをやっていたから、少々疲れてしまった。それでしばらく他のことをやりたくなって。当時、「ゲスト参加の依頼はたくさん来るのに、どうして他のバンドからツアー参加とか、加入の依頼は来ないんだろう?」なんて考えていたのだけど、面白いことにその翌週、ノクターナル・ライツから電話があって、バンドに入らないかと。俺も「それはいいな。ギターだけ弾けばいい。他のことはやらなくて良いのだから」なんて思って、引き受けた。そんなに時間をとりそうもなく、スカー・シンメトリーも続けられそうだったし。さらに数週間後、メシュガーからも電話があった。「アメリカでメガデスをサポートするツアーがあるのだけど、ギターを弾いてくれないか」って。お気に入りのバンドの話に戻ると、メシュガーも大好きなんだ。だから、俺にとっては素晴らしい話で、当然イエスと答えたよ。そんな訳で、特にメシュガーのツアーで、突然忙しくなってね。スカー・シンメトリーをやる時間がなくなってしまった。毎年いくつかのショウはやっていたけれどね。19年に父親になったこともあって、時々新曲をレコーディングしたりはしていたけれど、アルバムを仕上げようという気持ちにはなれなかったんだ。気持ちが他のところに行っていたから。21年にフレドリックがメシュガーに復帰することになったのだけど、その決断が結構ギリギリでね。彼らが俺を必要とするかどうか、なかなかわからなかったんだ。俺としても、もうやりたくないという気持ちと、でも頼まれたらノーとは言えないという気持ちもあって。何しろ大きなギグだったから。結局フレドリックが戻ることが決まって、ニュークリア・ブラストもそれを知っていたから、物凄く興奮した様子で「スカー・シンメトリーを復活するのか?もしするならぜひアルバムをリリースしたい」って連絡が来たんだ。それで俺も背中を押されたというか、アルバムを仕上げようと思い立って、新しいマネジメントやブッキング・エージェントとも契約して。新しいクルーも雇って、すべて新しくやり直した感じだった。それでアルバムも完成したのだけど、不幸な出来事があって、さらに1年リリースが遅れてしまった。ジャケットを描いてくれるアーティストも決まっていたのだけれど、彼のお母さんが亡くなってしまったんだ。しばらく時間が欲しいと。待っていたのだけれど、残念ながら彼は再び仕事に取り掛かることはできなかった。お母さんを亡くしている訳だし、当然彼の精神状態の方が、仕事よりも大切だからね。今回のアルバム・ジャケットを描いてくれた別のアーティストを見つけたのだけれど、彼も当時他の仕事を手がけていたから、少々待たなくてはならなかったんだ。それで一年ほど遅れてしまった、少々がっかりしていたのだけど、こうやってついにリリースできたからね。今はすべてがうまく行っていて、メシュガーとスウェーデン・ツアーもしたよ。アリーナでプレイしたんだ。ツアーの最初の日に、シングルもリリースして、すべてがうまくアレンジされているよ。ファンは辛抱強く待っていてくれて、リアクションも素晴らしい。結局はうまく行ったと思う。だけど、次のアルバムを出すのに9年はかけないよ。
ー 前作と比べて、今回のアルバムはどのような点が進歩、変化していると言えるでしょう。
ペル:前作が出た時、その仕上がりには本当に満足していたんだ。それも、9年もの時間がかかった理由の一つだと思う。ある時突然前作に対する気持ちが冷めて、数ヶ月間それから遠ざかっていて。で、また聴いてみたら「これは結構クールだな」なんて思ったり。今回の作品はトリロジーの2作目なのだけど、同じような作品3枚からなるトリロジーにはしたくない。それぞれの作品は、スカー・シンメトリーが持つ違ったコーナーを探索するものにしたんだ。もちろん同じバンドが作ったものだから、共通点も多いけれど、前作はとてもプログレッシヴで、メロディックだった。キーボードもたくさん入って、キラキラしていた。今回は、もっとヘヴィでブルータルな方向性。ブラストビートもたくさんある。過去の作品のどれよりも、ブルータルな方向性を持った作品になっていると思うよ。
ー トリロジーのコンセプトを説明してもらえますか。
ペル:前作は、もちろん非常に誇張されてはいるけれど、現実にある程度即した内容になっていた。シンギュラリティに到達した、ディストピア的な未来。AIが人類の知能を超越していて、人間は脳をAIと接続して、自分自身をアップグレードしていたネオヒューマンになっている。だけど、彼らは感染すると邪悪な人間になってしまうウィルスに冒されているんだ。その邪悪な人間であるネオヒューマンと、やはり悪意を持ったAIが、新しいテクノロジーを受け入れることを拒否した従来の人間に戦いを仕掛けてくる。これが前作の内容で、非常にダークでディストピア的な内容になっている。一方今回は、さらにSF的な内容で、ウルトラテレストリアルと呼ばれる、遠くの銀河、別次元からやって来た宇宙人が登場する。彼らは長い間人類を監視していて、時々その進化にも干渉していた。彼らはAIとの問題も監視していて、このままでは人類は破滅してしまうということで、突然姿を表し、人間サイドに立って戦いに干渉し始めた。だけど、彼らは本当に人類の救世主なのだろうか。人類にとっては好ましくない、彼らなりの魂胆があるのではないか。これが今回のお話だよ。
ー タイトルの「Xenotaph」というのはどういう意味なのでしょう。
ペル:普通のスペルだと「Cenotaph(慰霊碑)」なのだけれど、これを”X”に変えて、「別世界の」という含みを持たせたんだ。言葉遊びだよ。
ー 別次元の宇宙人の登場を示唆したということですか。
ペル:そうだよ。
ー アートワークに描かれているのも、その宇宙人なのですね。
ペル:そうだよ。あれはもちろん宇宙人ではあるのだけれど、天使っぽい感じも欲しかったんだ。だから翼がある。前作のアートワークはネオヒューマンを、ダ・ヴィンチのウィトルウィウス的人体図風に描いたものだったから、今回もウルトラテレストリアルを似たようなポーズで描きたかったんだ。
ー ラストの曲では、ウルトラテレストリアル・クワイヤとして大量の参加者の名前がクレジットされています。
ペル:とてもビッグなクワイヤが欲しくて、クラウドソーシングをやったんだ。「Xenotaph」と「Unbound」という言葉を歌ってもらうために、曲の一部をループにしてアップロードしてね。1曲まるまるはあげたくなかったから。それをみんながダウンロードして、人によって携帯で録音したり、人によってはスタジオで録ったり。中には何百回も歌ってくれた人もいた。それを切り取って、自分のレコーディング・アプリに積み上げていったんだ。中にはバックのノイズがたくさん入っていたりとか、非常に低いクオリティだったから、そういうのはとても小さくミックスしなくてはならなかったし、スタジオ・クオリティのものは大きくできた。何千トラックにもなったからね。素晴らしかったよ。とても巨大なクワイヤになった。
ー 今回のアルバムから新ギタリストとしてベンジャミン・エリスが参加している一方、ベーシストがいません。これは何故なのでしょう。
ペル:ベンジャミンは16年に正式メンバーになったけれど、14年からツアーには参加していたんだ。その時に、やはりツアーに参加していたベース・プレイヤーも正式メンバーにしたのだけれど、彼は19年に抜けてしまった。その時フィンランドでライヴをやって、そのまま日本に行く予定になっていた。ところが、ツアーが始まる2週間前に、彼が他のバンドとの予定があるから参加できないと言い出したんだ。彼は良い奴で、友人なのだけど、いい加減なところがあってね。「誰か別のベーシストを見つけてくれ」なんて言うのだけど、そんなことできる訳がない。飛行機も予約済みだし、日本のVISAも取っているからさ。それを取り直す時間なんてない。参加できないなら君はクビだと伝えたんだ。俺たちはいつもシンセをバッキング・トラックに入れていたから、と言うのもアルバムでは俺がシンセを弾いているからね、それで仕方ないから、ベースもバッキング・トラックに入れたんだよ。ツアーをキャンセルしなくても良いように。俺たちは超ビッグなバンドではないから、時に小さなステージでやることもある。ベーシストがいないと、その分ステージにスペースができて、やりやすいんだ。それで、今のところライヴもベーシスト抜きでやっている。いずれ加入させるとは思うけれど。ベンジャミンは長い間一緒にやって来ているけれど、アルバムに参加したのは今回が初めてなんだ。彼はソロだけを弾いている。曲は彼がオフィシャル・メンバーになる前に書かれていて、俺がすべてのソロを弾くつもりだったから、さらにソロを増やす余地を探さなくてはならなかった。今回のアルバムにギター・ソロがたくさん入っているのは、そういう訳なのさ。
ー オールタイムのお気に入りのメタル・アルバムを3枚教えてください。
ペル:たくさんあるけれど、最近『Master of Puppets』を聴き直したんだ。最近はメタリカをあまり聴かないから、久しぶりに聴いたのだけれど、と言うか、メタル自体あまり聴かない時もある。メタルは仕事だから、仕事でない時は、他のものを聴きたくなるからね。『Master of Puppets』を聴き直して、本当によくできているなと思ったよ。あとは、シンフォニー・エックスの『V: The New Mythology Suite』も大好き。素晴らしいアルバムだよ。それから『Rust in Peace』かな。あれは時代を超越した作品だね。
ー では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
ペル:日本でプレイしたのは一度だけだけれど、素晴らしい体験だったよ。日本のお客さんは、他の国とはまったく違った。実際に涙を流しているお客さんがいたんだよ。しかも1人じゃない。涙を流すなんて、本当に音楽に熱狂しているのだと思った。とても美しいことさ。プレゼントもたくさんもらって、物凄く歓迎されていると思ったよ。すでにまた日本に行くプランを立てているところさ。今年か来年ね。とても楽しみしているよ。
文 川嶋未来
【CD収録曲】
- クロノノーチラス
- スコーチド・クアドラント
- オーヴァーワールド
- オルターガイスト
- ライヒスフォール
- デジフレニア・ドーン
- ハイパーボリアン・プレインズ
- グリッドワーム
- ア・ヴォヤージュ・ウィズ・テイルド・メテオス
- ソウルスキャナー
- セノタフ
【メンバー】
ロバート・カールソン (ヴォーカル)
ラーズ・パームクヴィスト (ヴォーカル)
ペル・ニルソン (ギター)
ベンジャミン・エリス (ギター)
ヘンリク・オールソン (ドラムス)