アイルランドが誇るペイガン・ブラック・メタル・バンドPrimordialがニュー・アルバムをリリース!ということで、シンガーのアラン・アヴリル(A.A.・ネムテアンガ)に話を聞いてみた。
ー そもそもバンドの始まりはどのようなものだったのですか。
アラン:おそらくキアランとポールが87年の終わり頃、バンドを始めたのだと思う。そして91年の中頃、レコード屋のチラシを通じて俺が加入して、93年にデモを作ったんだ。もう30年以上も前の話さ。それ以降、ほとんど同じメンバーで続けてきているよ。93年なんて、つい昨日のことのように感じるけどね。
ー あなたが加入した頃は、どんな音楽性だったのですか。すでにブラック・メタルをやっていたのでしょうか。
アラン:当時俺たちは、いわゆるセカンド・ウェイブのブラック・メタルに熱狂していたからね。テープトレードを通じて、Master’s Hammer、Beherit、Necromantia、Mayhemなんかを聴いて、インスピレーションを受けていた。まあ91年の頃だとMorbid Angel、Deicideとかだったな。そういうものにBlack Sabbath、Candlemass、Troubleみたいなトラディショナルなものも取り入れていったんだ。さらにそこにアイルランドっぽい要素、コードなんかも入れてね。もちろんビッグでエピックなBathoryも。初期は色々カバーをやっていたな。Celtic FrostやVenom。そういう中で、オリジナルの曲も書こうとしていた。
ー つまり初期からケルト的音楽とメタルを混ぜようという意図は持っていたということでしょうか。
アラン:あったと思う。俺自身は他のメンバーほど、そういう要素に興味はなかったけれどね。いわゆるペイガン・ブラック・メタルみたいな感じで、文化的、歴史的要素は常にあった。ブラック・メタルというテンプレートの上に、そういった要素を重ねていって。「ケルティック」という言葉は少々奇妙で、それがズバリ何を意味しているかはわからないこともあるのだけれど、少なくとも他のメンバーにとってアイルランドの音楽というのは重要だった。転がっていくような拍子、独特のベースライン、変わったコードとか、アイルランド伝統的な音楽から来ているんだ。
ー バンド名をPrimordialとしたのは何故ですか。
アラン:もともとはForsakenという名前だったのだけど、イケてなかったからね。マルタに同名のバンドもいたし。俺が「Primordial Beginnings」という、クソみたいな歌詞の曲を書いてね。それで、バンド名もPrimordialでいいんじゃないかみたいな感じで。特にバンド名に深い意味はないんだ(笑)。
ー あなたのステージネームNemtheanga(ネムテアンガ)というのはどのような意味なのでしょう。
アラン:「Nem」が古いアイルランド語で「Evil」。「Theang」というのはスペル的に’tongue’に似ていることからわかる通り、「言語」という意味。91年か92年頃、キアランに「『Nemtheanga』っていう名前にしなよ」って言われて、「それだ!」って思ったんだ。当時手紙を書く時なんかに少々邪悪な名前にするのがイカしてるみたいのがあったよね。それでNemtheangaにしたのさ。イカしてるからね。少なくとも16歳の頃は(笑)。
ー アルバムを重ねるにつれ、あなたはどんどんとクリーン・ヴォーカルを取り入れていきました。これはどのような理由からだったのでしょう。
アラン:デモやリハーサルのテープに入っていた「The Darkest Flame」という曲で、Celtic Frostの「Mesmerized」みたいなスタイルのヴォーカルを試そうとしたんだ。『Into the Pandemonium』の。Christian Death、Fields of the Nephilim、The Sisters of Mercyをミックスした、ゴスっぽいやつ。Candlemassみたいなものも好きだったけれど、ああいう風には歌えないと思ってね。それで、そう、Monumentumのデモみたいに歌ってみようと。そういうものを取り入れて、さらに少々Nemesisみたいのを混ぜたんだよ。そうやっているうちに、「思ったよりも歌えるな」なんていう感じになってね。最初はヘヴィメタルとは違ったクリーン・ヴォーカルだったけれど、やっていくうちに、もっとヘヴィメタル風になっていったんだ。
ー バンドにとって、07年の『To the Nameless Dead』が大きなターニング・ポイントだったと言えるでしょうか。
アラン:ターニング・ポイントはいくつかあったけれど、その前のアルバムからMetal Blade所属になって、『To the Nameless Dead』が出ると、ライヴでの出番も後の方になっていったし、レコードもたくさん売れるようになった。ライヴのお客さんも増えたし、メディアへの露出も増えた。明らかな変化が感じられたよ。最も人気のアルバムが、わりかし新しいもので良かったよ。みんながファースト・アルバムを聴きたがっているという訳ではなくね。
ー 現在のPrimordialのスタイルを言葉で説明するとしたらどうなりますか。
アラン:そうだな、おそらくエピックで悲劇的で勇壮な、ペイガン・カルチャーにインスパイアされたブラック・メタル、エピック・メタルと言ったところかな。とてもアイランド的で、悲劇的。エピックなヘヴィメタルではあるけれど、Primordialはファンタジーではなく、文化的、歴史的遺産をベースにしている。Primordialは、現実逃避に聴くためのバンドではないよ。ニッチ的な、他のバンドとは違うスタイルをやっていると思う。
ー 「アイルランド的」というのは、具体的にどのようなものなのですか。どのような要素がPrimordialの音楽をアイルランド的にしていると言えるのでしょう。
アラン:まずは123456という転がるようなリズム。これはヘヴィメタルではほとんど使われないアイルランド特有のもの。コードやタイミングも通常のヘヴィメタルとは違う。こういうのはThe ChieftainsやThe Bothy Bandなどのトラディショナルなバンドからの影響なのだと思う。さらに文化的なものもある。文化的、地理的、歴史的なインパクトもバンドのサウンドに影響を与えるだろうからね。Sighもそういう影響があって、日本的なサウンドになっているだろう?少なくとも俺たちにはオリエンタルなフィーリングが感じられる。俺たちのサウンドには世俗的で悲劇的、破滅を感じさせるフィーリングがあって、これはアイルランドという国の地形などを捉えているのだと思う。そういう訳で、とてもアイルランド的なサウンドになっているんだよ。
ー なるほど、6/8拍子的なリズムはヴァイキング期のBathoryからの影響かと思っていたのですが、アイルランドの伝統なのですね。
アラン:「Sons of the Morrigan」がこのリズムを使っている代表曲で、バウロンというハンドドラムでやるリズムなのさ。これがドラムのパターンに影響を与えている。そう、Thin Lizzyの「Emerald」を聴いてみればわかるよ。あれにはアイルランドの伝統的なフィーリングがあるからね。
ー 最近は具体的にはどのようなバンドからインスピレーションを受けているのでしょう。
アラン:Primordialに影響を与えているバンドは、初期から変わっていないと思うよ。今でもBlack Sabbath、Celtic Frost、Venom、Bathory、Iron Maiden。レコード・コレクションが94年で止まっているメンバーはいなくて、俺たちはずっと新しいエクストリーム・メタル・バンドも聴き続けている。まあ、かつてみたいにすべてのバンドを知っているとは言えないけれどね。かつてはすべてのバンド、ロゴを知っていたものだけど。それでもアンダーグラウンドの世界についていこうとはしているよ。俺たちは今でもPrimordialのスタイルを作ろうとしていて、極端に音楽性を変えようとは思っていない。民族楽器を使ったり、奇妙なアルバムを作ろうとは思わない。あくまでエピックで悲劇的、勇壮で、さらに世界の終わりのような破滅的なロマンティックさが漂う作品が作りたいんだ。
ー ニュー・アルバム『How It Ends』がリリースになります。過去の作品と比べ、どのような仕上がりになっていると言えるでしょう。
アラン:今回のアルバムは、よりハードでよりヘヴィ、もう少々怒りに満ちていて、さらにエピック、アグレッシヴになっていると思う。前作よりも、実験的な部分は減っていると言って良いのかな。とにかく怒り、自暴自棄感は増していると思う。プロダクションもビッグになっているし。ヘヴィなブラック・メタル的部分へと回帰していると言っても良いかもしれない。前作の『Exile Amongst the Ruins』には少々実験的な部分もあって、ダークだった。今回もダークではあるけれど、もっと怒りに満ちていると言うのかな(笑)。
ー タイトルの『How It Ends』にはどのような意味が込められているのですか。
アラン:まあこれは謎めいたタイトルで、みんな「これはバンドの終わりということ?」みたいに言うけれど、そうじゃない。これは謎めいた内容で、疑問形を用いて「これが社会の終わり方なのか?」、「これが言葉の終わり方なのか?」みたいに問うていく。アルバム全体のコンセプトは「liberty=自由」なんだ。自由の追求。自由の追求というのは、英語で最も重要な言葉さ。アルバムは、そのために人々は何をするのかと問うている。それが一般的なテーマ、質問になっているのさ。
ー この作品はコンセプト・アルバムと言えるのでしょうか。
アラン:コンセプト・アルバムとは言わないけれど、何となくのテーマがある。「PILGRIMAGE TO THE WORLD’S END」は、アイルランド人が囚人をオーストラリアやニュージーランドに送っていたという話だけれど、同時に19世紀の様々な国における経済難民や戦争難民のことでもある。
ー アイルランドの詩人、Joseph Plunkettの詩も引用されています。
アラン:Joseph Plunkettはアイルランドで非常に有名な詩人で、処刑される直前に結婚をした。アイルランドでは有名な曲「Grace」は、その結婚相手を歌ったもの。彼はロマンティック・ナショナリスト的存在で、民衆のヒーローだった。自由の追求、言論の自由の追求、そういったものの象徴として彼を引用したんだ。現代社会にも響く、歴史的な存在に触れたかったというのもあるよ。
ー アルバムのアートワークは何を表現しているのでしょう。
アラン:1920年代のロシアのプロパガンダ・ポスターみたいなものにしたかったんだ。シンプルでカッチリとした構図で、だけどアイルランドっぽいもの。レコーディング・スタジオの近くによく通っていたパブがあって、そこに小麦を手にした農民の絵があってね。それを見て「これだ」と思ったんだ。
ー お気に入りのヴォーカリストは誰ですか。
アラン:ディオやハルフォードなども好きだし、70年代のヴォーカリストも大好き。UFO、Thin Lizzy、Slade。60年代終わりから70年代にかけての、真にクラシックなヴォーカリストたち。ポール・ロジャースとか。60-70年代のソウルフルなブルース・ヴォーカリストも好きなんだ。それから初期のSamaelとかMaster’s Hammerとか。Carnivoreも好きだし。ワイルドなヴォーカルが好きなんだよ。古いNeurosisも好きだし、Negative Approachみたいなパンクロック、ハードコアも好き。さまざまなスタイルが好きなのだけど、重要なのは、歌詞カードがなくてもすべての音節が聞き取れること。ただのノイズではなくね。それからさっきも言ったみたいに、Fields of the NephilimやThe Sisters of Mercy、Christian Deathからの影響も大きい。『Into the Pandemonium』でのトム・G・ウォリアー。Nemesis、Candlemass、Trouble、Saint Vitus。これらすべてのものがミックスされているのさ。
ー オールタイムのお気に入りのアルバムを3枚教えてください。
アラン:ワオ、オールタイムの3枚か。まずは『Blood Fire Death』かな。あとは、そうだな、『Welcome to Hell』、『Melissa』かな。明日聞かれたら、『Stained Class』、『Piece of Mind』と答えるかもしれないけれど。Metallica、Carnivoreも捨てがたいな。
ー ずいぶんとCarnivore好きですね。
アラン:そうだよ。
ー どちらのアルバムが好きですか。
アラン:両方好きだけど、ファーストかな。ヴォーカルがヴァイオレントだし。「World War III and IV」とか。新しいバンドとなると、Wovenhandあたりになるのだけれど、古いものだとFields of the Nephilimの『The Nephilim』とかVenomとか、『Morbid Tales』、『Mellisa』とか、メイデンのファーストとか、80年代のメタルヘッドにとっては「当たり前」の作品になるな。『Seven Churches』、『Altars of Madness』とかね。
ー では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
アラン:これまでいつも「日本のマーケットに君達の居場所はないよ」って言われ続けてきたのだけど、そろそろ日本に行ってプレイする時期だと思うんだ。アイルランドのバンド、そうそう、Gama Bombは日本でプレイしたんじゃないかな、ともかく状況を是正したいんだ。もしかしたら今回のアルバムが、日本のファンの心に響くんじゃないかな。わからないけれど、そうなるといいな。
文 川嶋未来
【CD収録曲】
- ハウ・イット・エンズ
- プラウズ・トゥ・ラスト、ソーズ・トゥ・ダスト
- ウィ・シャル・ノット・サーヴ
- トライディシウンタ
- ピルグリメイジ・トゥ・ザ・ワールズ・エンド
- ナッシング・ニュー・アンダー・ザ・サン
- コール・トゥ・ケルヌンノス
- オール・アゲインスト・オール
- デス・ホーリー・デス
- ビヴィクトリー・ハズ・1000・ファザーズ、ディフィート・イズ・アン・オーファン
【メンバー】
A.A.・ネムテアンガ (ヴォーカル)
キアラン・マクウィリアム (ギター)
ポール・マクアムライ (ベース)
サイモン・オレアラ (ドラムス)