パンテラ、ダウン、スーパージョイント、そして今年来日を果たしたフィリップ・H・アンセルモ&ジ・イリーガルズ。数々のバンドを率いてきたフィリップ・アンセルモのニュー・プロジェクト、エン・マイナーがデビュー・アルバムをリリースする。これまでのバンドとは違い、ヘヴィなギターをフィーチャーせず、ひたすらダークな音楽をプレイするエン・マイナーについて、色々と話を聞いてみた。
— そちらの状況はどうですか。(注:インタビューが行われたのは6月5日。)
フィル:ウィルス、そして今度は暴動だろ。仕方がないけど。とりあえず俺たちは健康だよ。君はどう?熱が出たりした?
— いや、私は大丈夫です。知り合いにもかかった人はいません。日本は他の国に比べると、だいぶ状況は良いようです。理由ははっきりしないのですが。
フィル:ここ10年、20年、日本に行くといつも人々はマスクをしていたからな。こっちは親父もかかったし、妹2人もかかったよ。
— それは大変でしたね。症状は重かったのですか。
フィル:ああ、酷かったよ。
— ロックダウン中は何をしていたのですか。
フィル:のんびりしていたよ。家を直したり。家のことを色々やっていた。(犬が吠える)家の中で吠えるな!
外はだいぶ暑くなって来たよ。俺は夏が大嫌いなんだよ。どうしたもんかね。
— 日本も暑いですよ。私は夏も冬も嫌いですけど。
フィル:わかるよ。今日はエン・マイナーの話だっけ?
— そうです。そもそもエン・マイナーというバンドを始めたきっかけは何だったのでしょう。
フィル:こういうプロジェクトはこれまでもずっとやってきたんだ。ただ楽しむためだけにだけど。以前はBody and Bloodという名前だった。その時書いた曲を何年もの間、色々なメンバーとジャムをやってきて。曲は異なった形態、スタイルになっていった。ある時、俺とスティーヴ・テイラー、イリーガルズのギタリストだけど、彼に出会ってこういうスタイルの曲をどんどん書きためていったんだ。彼はこういうスタイルがとても得意でね。それで本格始動したというか。スティーヴがベーシストとピアノ・プレイヤー、というかキーボード・プレイヤーと知り合いで、彼らは兄弟なんだ。ジョイナーとカルヴィン。彼らがバンドに加わって、それからダウンにいたギタリスト、ボビーがチェロ・プレイヤーのスティーヴ・バーナルを紹介してくれた。ケヴィン・ボンドはボディ・アンド・ブラッドのメインのメンバーでもあったから彼も加わって。彼とはいつもジャムをやっていたからね。俺とスティーヴとケヴィンで。アルバムではジミー・バウワーがドラムを叩いていたんだけどね、アイヘイトゴッドが忙しくなりすぎて、その後ライヴではイリーガルズのドラマーが叩いてるよ。まだ名前を挙げていないのは、最新のギタリスト、ポール・ウェブだな。彼は本当にグレイトなプレイヤーで、人間的にも良い奴なんだ。このアルバムに取り掛かり始めたのは、おそらくもう5−6年も前のことで、まあ良くあることだけど、ファースト・アルバムが出る頃にはすでにアルバム2枚分のマテリアルが完成しているというフラストレーションの溜まる状況になっているのさ。状況が落ち着いたら、早くまたみんなで集まりたいんだけどね。
ー エン・マイナーの音楽を説明するとしたらどうなりますか。個人的には非常にニック・ケイヴ的なものを感じたのですが。
フィル:それは間違っていないけど、他にも色々な影響はあるよ。70年代、80年代の、うーん、ニューウェイヴという言葉は使いたくないから、俺はポイズンウェイヴと呼んでいるんだけどね。あるいは、”アンチ・ポップ”。現代の楽器を使っているけど、作るのはポップな音楽ではなく”アンチ・ポップ”なもの。パーティ・ミュージックではなく、キル・ザ・パーティ・ミュージック。俺はエン・マイナーの音楽をそう表現している。
— 具体的にはどんなバンド、アーティストから影響を受けたのでしょう。
フィル:難しいな。本当にたくさんのアーティストからの影響があるからね。君が言ったみたいにニック・ケイヴからの影響はよくわかるだろう。それからスワンズ。初期のU2。シット、言い漏れがないようにしたいんだが。ハーモニーなんかには初期のザ・ムーディ・ブルーズからの影響もある。60年代から80年代の様々な音楽からの影響があるよ。
— 先ほど言われていたように、バンドにはチェロ奏者がいますよね。これは何故なのでしょう。
フィル:この楽器の音はとても美しいし、色々な使い道がある。それに、スティーヴは本当に才能があって、彼は部屋に入って曲を提示すると、音楽やスタイルを完全に理解するタイプなんだ。奴と一緒にいるのも本当に楽しいんだよ。
— あなたのヴォーカルはどのようなアプローチをしたと言えるでしょう。頭にあったヴォーカリストなどはいますか。
フィル:もちろんニック・ケイヴからの影響は大きい。それからスワンズのシンガーも。だけど、それがすべてではないよ。このデビュー・アルバムでやったことはとても違っていて、さっきも言ったようにザ・ムーディ・ブルーズとか、うーん、困ったな。なかなか他のヴォーカリストと比べるのは難しいよ。ある程度俺の独自のスタイルだからね。
— アルバム・タイトルの「冷たい真実が惨めな歓迎をすり減らした(尽きさせた)時」というのはどのような意味なのでしょう。
フィル:これは「ブルー」という曲の中の一節なんだ。これは不自然な青について、つまり死、不自然な死についての曲。早死に、予想外の早すぎる死と言えばいいかな。ホエン・ザ・コールド・トゥルース・ハズ・ウォーン・イッツ・ミゼラブル・トゥルース・アウト。このアルバムの歌詞を書いていたとき、俺はドン底にいたんだ。体調もとても悪くて、精神もとても暗いところにいた。そんな時にこの一節を思いついたんだよ。当時の俺が経験していることを集約したようなものさ。
— 若い頃は死というのは非現実的なものだったのですが、私も50になり、それがすごく身近なものに感じられるようになってきました。
フィル:俺もだよ。もちろん若い頃は自分は不滅だという感覚で、まったく気にもしていなかった。しかし、年をとるにつれ、君は50歳で、俺は今月52になるわけだけど、俺たちにはあと何年残されているだろう。10年か、もしラッキーならば20年か。誰にも分からない。この世界にいられるのももうそんなに長くないのかと思うと、少々怖いよな。死というものが現実味を帯びるわけさ。
— 歌詞の内容はどのようなものですか。「デッド・カント・ダンス」なんていうひねりの効いたものもあれば、「ブラック・マス」のようなストレートなタイトルもありますが。
フィル:歌詞については抽象的にしておきたいんだ。うーん、「ブラック・マス」は誰にでも独自の瞑想のやり方があるというのかな。精神から外の世界を完全にシャットアウトする純粋な解放とでも言えばいいかな。気ままさに耽るというか。俺にとってはそれが俺の人生における大きな部分で、「ブラック・マス」という言葉を使ったのは、宗教、例えばサタニズムというものを見たときに、その多くのものは興味深く、俺を引きつける一方、俺はいかなる宗教の真実、現実への献身も拒否する。イデオロギー、あるいは人生の考え方の1つさ。自分の選んだルールを適用するということ。俺にとってはそれが「ブラック・マス」、つまり気ままさに耽ること。少なくともその一部なんだ。
— アートワークは何を表しているのでしょう。指揮者が描かれていますが。
フィル:あれは俺がバンドを指揮しているところさ。リハーサルに行って、音楽をプレイする。エン・マイナーにおいて最も重要なことは、可能な限り繊細にプレイするということ。ダイナミクスを思い切り強調して、とにかく繊細に。8人のメンバーがいて、新曲をプレイするとき、どうプレイされるべきかを知っているのは俺だけ。指し手は俺なのさ。プレイしながら、俺はドラマーやギタリストに大声で指示することもできる。俺がバンドを指揮しているんだ。俺がたくさんのバンドでプレイしてきたことは知っているだろう?エン・マイナーのヴァイブは、みんなでリハーサルをやったり、あるいはステージに上がると、まるでドラッグみたいなものさ。中毒性があって夢中になってしまう。アートワークを説明するとしたらこんな感じかな。
— バンド名の「エン・マイナー」はどういう意味なのですか。
フィル:おそらくフランス語から来ていると思うんだけど、”en masse”という言い回しがあるんだ。「大挙して押し寄せる」という意味。俺にとっては、エン・マイナーといのはマイナー・キーでプレイするということ。つまりマイナー・キーの曲が雪崩のようになってくるという意味さ。
— なるほど、英語で言うと「イン・マイナー」という単語なのですね。
フィル:もちろん単に「マイナー・キーで」というよりも、ずっと多くの意味があるけどね(笑)。
ー エン・マイナーの今後の予定はどうなっていますか。本来ならツアーなども考えていたと思うのですが。
フィル:多分それは、すべてのバンドにとって一番の問題だと思う。おそらくオンライン・ショウはやる予定。それ以外は待機状態だ。まあまず、この作品を気に入ってもらえるかを見てみないとな。このバンドを気に入ってもらえるのか、ライヴを観たいと思ってもらえるのか、まったくわからないから。ステージをやるかどうかを決める前に、ファンの意見を聞かないとね。好きか嫌いか、どちらにせよ。
— 個人的には最高だと思いました。私はニック・ケイヴやスワンズなども大好きですし。
フィル:本当か?俺もそういうアーティストをずっと聴いてきたからね。そうそう、デイヴィッド・ボウイの最後の作品もずっと聴いているよ。本当に素晴らしい作品。聴いてみな、あれは本当にダークなレコードだよ。そう、さっき影響を受けたヴォーカリストの話をしたけど、デイヴィッド・ファッキン・ボウイ!それからザ・スミスやモリッシーも聴いている。モリッシーからの影響もデカいよ。歌詞も含めてあらゆる点でね。モリッシーからの影響はデカい。俺のキャリア中ずっと影響を受けている。
— 他のプロジェクトの予定はどうなっていますか。
フィル:イリーガルズのメンバーは早く集まってジャムをやりたくてウズウズしているよ。コロナのせいで、みんな待機状態だから。早く集まりたいし、いずれは集まれるだろうけど。今は様子見をせざるをえないからね。
ー スレイヤーの元メンバーたちと新バンドをやるという噂が流れていましたが。
フィル:ないよ。ただの噂。それだけ。
— コロナ収束後、音楽業界は変わっていると思いますか。
フィル:変わらざるをえないよ。俺たちの仕事は、会場に可能な限り多くの人を詰め込むことだったから。できるだけ多くの人間にライヴを観に来てもらうことが、仕事の一部だった訳さ。それはもう許されないだろうね。少なくともすぐには。もちろん、ある程度のキャパシティのライヴは再開されるだろうし、完全にこれまで通りになるかはわからないけど、これまで通りに、これまで以上になることを心から望んでいるよ。ライヴ・ストリーミングは増えるだろうね。リハーサル・ルームなどからストリーミングしたり。どうなるだろうね。
— では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
フィル:何よりもまず、みんながヘルシーでハッピーでいることを望むよ。1月に行ったばかりだけど、もうすでに日本が恋しいね。凄く楽しかったから。君たちが恋しいし、愛してる。エン・マイナーのレコードを聴くときは、みんなが広い心を持ってくれるといいな。俺は音楽が、あらゆる種類の音楽が好きだということを知ってほしい。どんな種類の音楽でもプレイするよ。
心を開いて聴いてくれ。ジャパン・フォーエーヴァー!ここアメリカから日本にいいね!を送るよ。
文 川嶋未来
- 1. モーソリーアム
- 2. ブルー
- 3. オン・ザ・フロア
- 4. デッド・カント・ダンス
- 5. ラヴ・ニーズ・ラヴ
- 6. ウォーム・シャープ・バス・スリープ
- 7. メランコリア
- 8. ディス・イズ・ノット・ユア・デイ
- 9. ブラック・マス
- 10. ハッツ・オフ
- 11. ディスポーサブル・フォー・ユー
《日本盤限定ボーナストラック》
(2019年発売 『オン・ザ・フロア』7inch EP収録曲)
- 12. オン・ザ・フロア(『オン・ザ・フロア』7inch EP Ver.)
- 13. ゼアーズ・ア・ロング・ウェイ・トゥ・ゴー/li>
【メンバー】
フィリップ・H・アンセルモ (ヴォーカル / ギター / ベース)
ステファン・テイラー (ギター)
ケヴィン・ボンド (ギター / ベース)
ジミー・バウワー (ドラムス)
スティーヴ・バーナル (チェロ)
カルバン・ドーヴァー (キーボード)
ジョイナー・ドーヴァー (ベース)