『Iron Maiden』、そして『Killers』。ヘヴィメタル史に残る名作2作でヴォーカリストを務めたポール・ディアノ。そんな彼のライヴ・アルバム『ヘル・オーヴァー・ヴァルトロップ – ライヴ・イン・ジャーマニー』がリリースになるということで、色々と話を聞いてみた。
— 『ヘル・オーヴァー・ヴァルトロップ – ライヴ・イン・ジャーマニー』がリリースになりました。これは14年前のライヴですが、なぜ今、日の目を見ることになったのでしょう。
ポール:ドイツにいる俺のサウンド・エンジニア、トーマスから電話があってね。「あのフェスティヴァルのことを覚えてるかい?」って。それで、「うーん、どれ?」って答えたら、ヴァルトロップのやつだと。何となくは覚えていた。ステージ上のサウンドがとにかく悪くてね。ところが、彼によれば出音は素晴らしくて、録音したテープを見つけたから、ちょっといじってみたと。それで聴かせてもらったら、素晴らしくてね!これならリリースした方が良いのではないかと。演奏のミスなんかもそのままにしてあるけど、とても良い出来だよ。本物のライヴ・アルバムさ。
— ファンからのリアクションはいかがでしょう。
ポール:とても良いよ。今、健康上の問題を色々と抱えているから、あまりレビューなどは見ないようにしているのだけど。ストレスを感じたくはないからね(笑)。とにかく反応はいいよ。世界中の人がアルバムを買ってくれているようだし。ドイツだけでなく、アメリカとかでも。どこでこれがリリースされる予定なのかは把握していないけど、ゆっくりと確実に様々な国で出ているみたいだね。
— そもそもの音楽との出会いはどのようなものだったのですか。
ポール:オー・マイ・ゴッド!俺はずっと音楽が大好きだった。母親がたくさんのレコードを持っていてね、いつも家には音楽が流れていたよ。エルヴィスとかね。俺もエルヴィスの大ファン。母を通じてファンになったのさ。俺が子供の頃は、素晴らしい音楽がそこらじゅうにあふれていたものさ。50年代にはエルヴィスがいて、いわゆるロックンロールの時代だった。その後、ビートルズやローリング・ストーンズが出て来て、俺が音楽好きを自覚するようになるころには、イギリス、アメリカ両方から大きな流れとなっていたよ。俺は自分の部屋でレコードに合わせて歌っていたから、母が小さなプラスチックのビートルズ・ギターを買ってくれてね(笑)。それでギターの弾き方を学んだ。どんなレコードとも同じように歌うことができたけど、自分自身の声というのを見つけたのはパンクが出て来てからさ。それでみんなが色々なことを試すようになり、俺も「ワオ!これはいいね。俺もこれがやりたい!」って思って。こんな感じさ(笑)。
— 自分自身がシンガーであると自覚した瞬間はいつでしょう。
ポール:今言ったみたいに、自分の部屋で歌っていて、音をはずさなかったからね。アイアン・メイデンのローディもやっていたルーピーという友人、彼は学校が同じで親友だったのだけど、それから他の数人の友人たちと最初にバンドをやったときに、みんなロクに楽器も演奏できなかったから、誰が何を担当するかを手探りでやっていたんだ。俺はドラムがやりたかったから(笑)、ドラムを担当して、ギター担当の友人がヴォーカルも兼任していた。だけど、本当に酷かったから、担当換えをしたんだ。それでスティーヴ(ルーピー)がドラム、俺はベース兼ヴォーカルということになったんだけど、凄く難しかったからヴォーカルに専念することにした。俺しか音をはずさない奴がいなかったから。どうにかね(笑)。
— どのようなシンガーがお気に入りだったのでしょう。影響を受けた、あるいはロールモデルのような存在はいたのでしょうか。
ポール:ロールモデルか。オー・ゴッド!俺は色々な音楽を聴くからね。パンクのアティテュードも大好きだった。ジョン・ライドンはもちろん、ジョーイ・ラモーンも。まあ、彼の歌い方には少々イラっとさせられる部分はあるけど。一方でパヴァロッティも好きさ。だから難しいな。ニール・ヤングの大ファンでもあるし。彼は最高の声質の持ち主ではないけれど、わかるだろ?スコーピオンズのクラウス・マイネ、クイーンズライクのジェフ・テイト、ロブ・ハルフォードみたいなシンガーにはとても魅かれる。素晴らしいシンガーはたくさんいるし、俺もいつかそんなシンガーになれたら素晴らしいだろうと。名前を挙げるべきシンガーはいくらでもいる。何かレコードを聴いて、それが俺のお気に入りのレコードやバンドになるかもしれないし、新しいシンガーを発見する可能性はいつでもある。だけど、一番のお気に入りとなるとやっぱりグレン・ヒューズかな。グレンの声は最高だよ。あとはもちろんディオ。今でもロニー・ジェイムズ・ディオは俺にとって最もパーフェクトなヘヴィメタルのシンガーだと思うし、グレン・ヒューズの声にはソウルがあって、信じられないほど素晴らしい。5年前にツアー中、ブエノス・アイレスで彼に会ってね。バックステージに会いに行ったのだけど、素晴らしい人物だったよ。俺は彼がトラピーズで歌っていたころからのファンなのさ。あのバンドも大好きだった。自分のヒーローに会うというのは良いことさ。
— 70年代のイギリスで青春時代を過ごすというのはどのような経験でしたか。パンク、そしてNWOBHM。音楽ファンにとってはもはや伝説の時代ですよね。
ポール:そう、本当に素晴らしい時代だったよ!革命というのはしばしば起こるものではないけど、イギリスでは何度もあったようだ。さっき名前を挙げたビートルズにストーンズ。そしてツェッペリン、フロイド、クイーンのような素晴らしいバンドが出て来て、その後人々は25分のギターソロ、1時間も続くのではと思えるようなドラム・ソロに飽き始めて、それでパンクが起こったというわけさ。奇妙な時代で、イギリスでは様々な問題があった。しょっちゅうストライキがあって、電気のない家もあった。たくさんの不安があったけど、みんな自分たちのできることをやっていた。とてもエキサイティングであると同時に、そういう奇妙な時代だったんだよ。俺たちはアパートに住んでいてね。学校から帰って来てエレベーターに乗るんだけど、時間内に乗らないとエレベーターに閉じ込められてしまうんだよ。電気が止まって、2−3時間エレベーターの中(笑)。学校から帰ってくると自分の部屋に行って、音楽を聴く。素晴らしい時間だったよ!もちろんクソみたいなことはたくさんあったけど(笑)、今思うと良い、素晴らしい時だった。さっきも言ったとおり、もう革命なんてなくて、すべてやりつくされてしまっただろう。もしかしたらここ5−10年のうちに、何かが起こって凄いことになるかもしれないけど。どうなんだろう。イギリスでは、世界を変えてしまう本当に良い音楽の波が時々現れる。まさに革命さ。パンク革命の最中もヘヴィメタルは存在していたけど、一気に変わったのはNWOBHMとなってからさ。こんなことを言うと波紋を呼ぶかもしれないけど、ジューダス・プリーストやデフ・レパード、サクソンなんかはすでに何枚もアルバムを出していた。俺たちがアイアン・メイデンを始めころは、俺たちは他の誰よりもはるかに速く、はるかに複雑なテンポ・チェンジをやったから、みんな俺たちをどうカテゴライズすべきかわからなかったのさ。NWOBHMというカテゴリーは、俺たちのために考えられたんだよ。アイアン・メイデンを、そして俺たちのやり方に飛びついた他のバンドたちをどう表現して良いかわからなかったから。俺たちは別に構わなかったけどね。俺たちは他のどんなバンドとも違って、どんなバンドよりも素晴らしい先駆者だったのだから。
ー アイアン・メイデンは、ヘヴィメタルとパンク、そしてプログレをミックスしたという言い方をされますが、意識的にではなく、自然とああいうスタイルになったのでしょうか。
ポール:そうだよ。初期の頃はもっとパンク寄りだったけどね。俺のアティテュードがヘヴィメタルというよりパンクだったから。スティーヴが書く曲は本当に素晴らしいよね。彼は今でもエピックで良い曲を書くし、それがプログレッシヴであったとしてもまったく構わない。アイアン・メイデンにはこれらすべてのことをやる才能があると思うんだ。そういうことを試して見事に失敗するバンドも多いけど、アイアン・メイデンはそうじゃなかった。バンドを始めた頃から長い複雑なインストもやっていたからね。今も彼らが同じようなことをやって、もうちょっとプログレッシヴなサウンドにして、そこにヴォーカルを加えれば素晴らしいものになるさ。間違いないね。スティーヴは素晴らしいソングライターだから。
— NWOBHMのムーヴメントはいかなるものだったのでしょう。何か新しいムーヴメントが生まれているんだという感じはありましたか。
ポール:オー・ゴッド!素晴らしかったよ。いいかい、俺はステージに上がる前、たいてい緊張していたんだ。俺とスティーヴはとても緊張していたものさ。何しろあんな光景は見たことがなかったから。テレビでとか、俺はレッド・ツェッペリンのビデオを買ったりもしていたけど、お客さんは歓声をあげたり拍手をしたりしているけど、みんなそれなりにきちんとしているだろ。ところが俺たちのライヴときたら、全員がもう完全に狂ったようでさ!大声を出して叫んで、跳ね回ってダンスして。本当に凄かったんだ。だから、あと5分でステージなんていうと本当に怖くてね。自分と同じくらいの年のキッズたちが最高に盛り上がって暴れて。「ワオ!これは凄い!だけど同時にちょっと怖いな」って(笑)。
— 今の音楽シーンをどう思いますか。例えば70年代、80年代と比べて良くなっていると思いますか。
ポール:思わないよ(笑)。残念だけど、行き詰まってしまっているというのかな。まったく新しいものは出てきてないだろ。ここ10〜15年で最大のセンセーションはスリップノットだったんじゃないかな。彼らは素晴らしかったし、他にもいくつか良いバンドはいたけど、数は多くない。リンキン・パークも良かったけど、最近そういうバンドは出てきてないね。素晴らしいバンドがいないと言っているんじゃないよ。俺の興味を引くようなものがないだけさ。実は、俺は時代を遡って行ってるんだ。最近古いものをたくさん聞き始めているんだよ。ディープ・パープル、レッド・ツェッペリン、ニール・ヤングとかばかりを聴いている。サバスとかディオとか。最近のもので欲しいと思う音楽はないね。
— あなたは今年8月30日のビアマゲドン・フェスティヴァルでステージを引退との発表をされています。しかし、コロナの影響で今年のコンサートは軒並み中止になってしまっていますよね。
ポール:まだ中止のアナウンスはされていないと思うのだけど、正直なところ開催は不可能だと思うよ。危険だからね。残念ながらすべては政府次第さ。俺も少なくとも立ち上がれるまでにはなりたいと思っていたのだけど、コロナのせいですべての手術がキャンセルになって、もうめちゃくちゃだよ。もう車椅子生活も6年になるけど、正直こんなに時間がかかっているなんて恐ろしい。本当についていなくてさ、敗血症になったときに2年間も手術をせずに放っておかれて、さらに病院でMRSAに感染させられて。しかも2度だよ。医者には「君はCovid-19にかかったら死ぬ」と言われているから恐ろしくてどこにも行けやしない。家にいてデリバリーを頼んで、人が家に来るときはマスクをして。そんなわけでリハーサルもやれていないんだけど、メンバーは各自家で練習しているよ。俺も先日アイアン・メイデンのファースト・アルバムをやっと見つけてさ(笑)、やる曲を聴くことができたんだけど、『The Soundhouse Tapes』の「Invasion」が見つけられなくてね。ライヴ・バージョンはあったから、それで歌詞を聞き取らなくてはいけなそうだよ(笑)。あの曲はもう40年やっていないからね。希望は持ってる。さっきも言ったとおり、まだフェスティヴァルはキャンセルにはなっていないからね。スペインのやつは無くなると思うけど。8月11日、12日にスペインのマルベラのフェスに出るはずだったんだ。俺がツアーをやらないのは、車椅子だと色々と大変だからさ。わかるだろ?車椅子での長距離移動はね。前回日本にも車椅子で行ったし、アルゼンチンにも行ったけど、本当に大変だった。飛行機でトイレに行くとか、ちょっとしたことが大変なんだよ。クルーの手を煩わせるのも申し訳ないし。だから、ライヴ活動はもう長くは続けないと決めたんだ。やめたいとかじゃない。やめたくなんてないよ。やめる決心もついていないし、自分でもどうして良いのかわからない。状況が良くなって、少なくとも1つの手術を受けられれば、座って考えることもできる。でもまだ引退の決心はつかない。つく訳がないよ!まだ人生でやるべきことは残っているけど、ただ今はそれをやるのが難しいというだけ。正直とても心が痛むよ。
— 仮にステージを引退したとしても、スタジオ・ワークは続けるのですよね。
ポール:もちろんだよ!実を言うと、ロックダウンの間も曲を書いているんだ。メディカル・チームが2日に1度私の様子をチェックしにくるから、集中して曲を書くのは少々難しいんだけどね。俺と友人のチョップ、彼はエアフォースというバンドのギタリストで幼馴染みなのだけど、エアフォースには、アイアン・メイデンでもドラムを叩いていたダグ・サンプソンもいるよ。そのチョップが先日いくつか曲を送ってくれてね。今日のお昼から作業しようと思っているのだけど、なかなか良いよ。チョップと一緒に曲を書くのはこれが初めてなんだ。10歳の頃から知っているのに、一緒にバンドをやったことはなかった(笑)。だから、今やっているのさ。誰かと一緒にやりたかったから、チョップに提案してみたら、曲を送ってくれたんだ。まあ、でも俺の時間のほとんどはインタビューに費やしてるよ(笑)。あとはメディカル・チーム。時間はあまりないけれど、俺はじっくり時間をかけてやるよ。急ぐ必要はないからね。
— お気に入りのアルバムを3枚教えてください。
ポール:ブラック・サバスのファースト。うーん、オー・ゴッド、どうしよう、ラモーンズのファースト。それから、えーと、ディオの『Holy Diver』。
— イギリスのパンクよりもラモーンズの方が好きだったのですか。
ポール:そう言う訳ではないけど、俺はラモーンズが大好きなんだよ。唯一脚にタトゥーを入れてるバンドなのさ。このアルバムが好きなのは、これが不安に支配されたパンクではないということさ。もちろん不安に支配されているんだけどさ、あのアルバムは無造作なバブルガム・パンクというか、彼らのアティテュードは、よくわからないけど…とにかくラモーンズは大好きで、うまく説明できないのだけど。音楽的にはU.K.サブスみたいな方が好きだと思うんだけど、ディスチャージやエクスプロイテッドなんかも好きだし、だけど、こういうバンドはパンクのシリアス・サイドだよね。パンクにはラモーンズやバズコックスみたいな楽しいバンドもいるし、非常にレンジは広いんだ。パンクのメンタリティというとピストルズやクラッシュとか、政治的なステートメントということになるだろうけど、俺はラモーンズなら一日中聴いていられるよ。大好きなんだ。何度も見に行ったけど、本当に素晴らしかったよ。
— では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
ポール:どうしよう。ハロー、ポール・ディアノだ。みんな健康でいてくれ。マスクをつけるのを忘れずに。政府の言うことを守って、みんなで生き延びて、またロックンロールをプレイしよう。
文:川嶋未来
【CD収録曲】
- プローラー
- モルグ街の殺人
- インペイラー
- リメンバー・トゥモロー
- チルドレン・オブ・マッドネス
- マーシャル・ロックジョー
- ザ・リヴィング・デッド
- ビースト・アライジズ
- ザ・フェイス・ヒーラー
- オペラの怪人
- トランシルヴァニア
- ランニング・フリー
- ブリッツクリーグ・バップ
- 聖地へ
【メンバー】
ポール・ディアノ (ヴォーカル)
アンディ (ギター)
D.D. (リズムギター)
ゴンゾ (ベース)
ドム (ドラムス)