ニュージャージーのベテラン・スラッシュ・メタル・バンド、オーヴァーキルが4年ぶりのニュー・アルバム『スコーチド』をリリース。と言うことで、ヴォーカリストのボビー“ブリッツ”エルズワースに色々と話を聞いてみた。
ー ニュー・アルバム『スコーチド』がリリースになります。特に過去作と比べた場合、どのような作品だと言えるでしょう。
ボビー:そうだな、このアルバムで聴けるのは、まあ自分の作品を客観的に聴くのは常に容易ではないのだけれど、この作品には多様性があると思う。トラディショナルなヘヴィメタルだけでなく、ロックンロールや古いブルース、プログレッシヴなスラッシュが聴こえるだろう。過去にやってきたこと、グルーヴからスラッシュまで、すべてをカバーしている。これはパンデミックのせいだと思う。パンデミックのおかげで、時間をかけてアルバムを作ることができたからね。ツアーができない状態で、アルバムをリリースしたくはなかったから。オーヴァーキルみたいなバンドは、アルバムをリリースするだけでなく、同時にツアーをすることも大切だからな。ツアーができず、アルバム制作に時間をかけられたことで、多様性が生まれたのだと思うよ。
ー 前作から4年と、オーヴァーキルにしては長いギャップですが、これはパンデミックのみが理由だったということですか。
ボビー:そうだよ。20年の3月にはデモができていて、各メンバーからインプットがあったのだけど、さっきも言ったように、俺たちはただアルバムをリリースする訳にはいかない。アルバムを出すからにはツアーをしないとね。「レコードを出しました」というだけでは、埋もれてしまう。きちんと認識されないんだよ。例えばメタリカなんかは、気が向いた時にアルバムをリリースしてツアーができるだろ。そのメタリカのニュー・アルバムと同じ日に、俺たちのアルバムもリリースされるんだから、面白いよね(笑)。リリースペースという点では、まったく逆の方向性なのに。
ー ブルースの要素が特に表れている曲はどれだと思いますか。
ボビー:ブルースと言うか、メタル流ブルースと言うのかな。70年代にトニー・アイオミやオジー・オズボーンにインタビューをしたら、彼らは自分たちはブルース・バンドだと言っただろう(笑)。今回のアルバムで言うと、例えば「ウィキッド・プレイス」。とてもブルースっぽいリフの曲さ。「フィーヴァー」にもブルースっぽいリフがある。「スコーチド」の中間セクションもそうじゃないかな。アルバム全体を通してブルースっぽい雰囲気はあると思うよ。ブルースと言っても、マッスル・ショールズとかマディ・ウォーターズなどではなく、ロックンロールを通じたブルースと言うのかな。
ー 確かに「フィーヴァー」は通常のオーヴァーキルのサウンドとは異なっていて、サイケデリックな風味すらあるように感じました。
ボビー:それはクールな意見だな。サイケデリックというのは言われたことがなかった。シンガーとして、あの曲はチャレンジだったよ。通常のオーヴァーキルとは違った歌い方が必要だったから。最初は考えすぎて、メロウ・パートをムーディなウィスパー・ヴォイスで歌っていたのだけど、出来は最悪だった。何やってるんだ、まったく俺らしくないじゃないかって。それで、部屋をウロウロと歩きながら、ただ口を開けてシャッフルのリズムに合わせて歌っていたら、やっとしっくり来た。最初はとても不自然だと感じられたものが、とても自然になったんだ。この曲のムードはいつものオーヴァーキルとは違ったもので、ギターのチューニングも、Eの弦をAにしている。だから、小さなスピーカーで聴いていても低音が凄く出ていて、大きくて重いハンマーみたいな感じだった。そのムードを頭に入れて、自分のやることをやったら、D.D.(B)のリフとデイヴ(G)のリードとピッタリ合って、少々スペシャルなものに仕上がった。色々と考えすぎるより、ただやってみたのが良かったんだろうね。
ー 「ツイスト・オブ・ザ・ウィック」は、チャントなども入っていてとても不気味な仕上がりです。
ボビー:あれもまた別のタイプの違ったアプローチさ。グレゴリアン・チャントみたいな、中世っぽいコーラス。1991年の『Horrorscope』でもあれに似た、ドローンのようなディープ・ヴォイスを使ったけれど。あの曲はいくつかのパーツがあって、トラディショナルなスラッシュが、プログレッシヴになり、さらにメロディがあって、そしてあのチャント。つまりあの曲には4つの要素があって、それがあれをユニークなものにしている。ポイントは、そういう多様な要素を取り入れながらも、奇妙な感じにしないこと。そういう意味で、あの曲は成功だったと思う。とても仕上がりに満足しているよ。実はあのチャントは数個の声だけしか使っていなくて、それをコンピューターで処理したんだ。D.D.の良い友達であるSymphony Xのマイケル・ロメオが手伝ってくれてね。
ー 「スコーチド」というタイトルにはどのような意味が込められているのですか。
ボビー:アメリカのスラングに”scorching(アツい)”というのがあって、”She is scorching.”、“That music is scorching.”、“The riff is scorching”、“The car is scorching.”なんて言う。スラングなのだけど、タイトルトラックが出来上がった時に、「スコーチド」と名付けたんだ。ただその言葉が気に入ったというだけで、他にさしたる理由もなく。この曲は熱を感じること、過去を振り返ること。簡単に言えば、イカしたタイトルだと思って、他のメンバーも同意して、それでこれがアルバム・タイトルにもなったんだ。
ー 歌詞の内容についてはいかがですか。すべて読んだのですが、どれも非常に抽象的で、何について歌われているのか特定が難しいです。
ボビー:俺は基本的に内容については説明しないんだ。抽象的なままにしておく方が気に入っているからね。どれも俺の個人的な視点から書かれていて、俺の歌詞というのは、そうだな、俺の魂を浄化してくれると言うのかな。数年に一度、俺の体の中に溜まったネガティヴなものを取り出すのさ。それを抽象的にやった方が、興味深いものになるからね。一般的に言えば、例えば「ザ・サージョン」や「フィーヴァー」なんかは、直接的にパンデミックから影響を受けている。当時のフィーリングが気に入らなかったんだ。暗い気持ちになっていて。オーヴァーキルには常にポジティヴな面がある。俺たちにはアグレッションがあるけれど、デプレッションはない。だから、「ザ・サージョン」なんかも暗い内容にはせずに、感染を治療するようなもの、例えば中間部は明らかに瀉血について。瀉血というのは古い慣習で、悪い血を抜くことで、新しい綺麗な血を作るというやつ。パンデミックを克服しようということさ。「フィーヴァー」も、歌詞の通り井戸から毒を飲むということではなく、起こっていることに対して立ちあがろうという内容。これは俺の人生、俺たちの人生、俺たちは井戸の毒は飲まない。オーヴァーキルとしてだけでなく、個人的にもね。この曲の歌詞には2020年3月12日という日付が出てくる。この日は、ロックダウンが宣言された日なんだ。家に帰ってそのことを教えられて、とても信じられないと思った。だから、これら2曲の歌詞は現実と、そうだな、ファンタジーとは言わないけれど、状況を改善することに対する抽象的な見方のミックスなんだ。
ー 「ウィキッド・プレイス」には「メンソール・ジュリエット・ピルエット」、「ブロック・モーター・マウント」等、謎の言葉が出てきますが、これらは一体何なのでしょう。
ボビー:(笑)。この曲自体は狂気や、アメリカ、その他の国々でも起きている政治的な問題について。”Shaking like a small motor mount baby”というのは、俺は古い車もコレクションしているんだよ。スモール・ブロックというのは、350キュービック・インチのシヴォレー・エンジンのことで、俺は古いコルヴェットを持っているんだ。このエンジンを古い車に積むと、車がガタガタと揺れる。ビッグ・ブロックは396キュービック・インチだから、もっと揺れる(笑)。この曲は狂気についてで、男は銃に弾を込めて政治的な状況を変えてやろうとしているのだけど、彼はそれをやる度に、常にガタガタと震えているということだよ。
ー カバー・アートワークはお馴染みのトラヴィス・スミスの手によるものです。具体的な指示は出したのでしょうか。
ボビー:自分の尾を食べる蛇ということは伝えた。ウロボロスという蛇で、おそらくギリシャのシンボルなんだと思う。彼はそのアイデアを元に、俺たちのコピーライトであるコウモリ、と言うかデーモンが自分の尾を食べているものを描いてくれたのだけど、イマイチでね。それで2つが対峙しているものにした。最初は自分の尾を食べる蛇とだけ伝えて、そこから「これはいい」、「これはイマイチ」という感じで最終的なものに発展していったんだ。「スコーチド」というタイトルが決まると、トラヴィスが炎を加えて、あれは実際にブラシを使って描いたのだと思う。彼はいつもタイトルが決まると、そのタッチを加えてくれるんだ。今回のカバーは、オーヴァーキル史上最高のものに仕上がったと思うよ。とても良いカバーさ。
ー 『Killbox 13』以来20年ぶりにコリン・リチャードソンがミックスを手がけています。
ボビー:彼のことはずっと信頼しているからね。いつでも家に帰れるというか、『Killbox』はとてもヘヴィで、俺たちもとても誇りに思っている作品さ。それ以前にも『Bloodletting』や『From the Underground and Below』でも一緒にやったし。彼とはずっとコンタクトはしていて、パンデミック以前から今回は彼に頼もうと決めていた。2019年の終わりには、彼とやることが決まっていたんだ。そこからスケジュールが遅れてしまったけれど、彼もツアーができないという状況を理解してくれてね。とても素晴らしい仕事をしてくれたよ。
ー マスタリングを手がけたMaor Appelbaumとは初仕事です。
ボビー:マスタリング・エンジニアが必要になったのはとても久しぶりで、驚いたんだよ。ミックスのエンジニアは、たいていマスタリングもやれるからね。コリンと彼のパートナー、クリス・クランシーに、「いや、俺たちはマスタリングはやらない」と言われて、俺とD.D.はとてもびっくりした。Maorのことはずっと知っていたのだけど、コリンから彼が良いのではと言われてね。すでに電話番号は知っていたから、連絡したのさ。彼も素晴らしい仕事をしてくれたよ。今回のレコードのプロダクションやマスタリングは、オーガニックというのが適切な言葉だとは思わないけれど、間違いなく昔を思わせるフィーリングがある。現代的なパンチはあるけれど、ギターの雰囲気などは90年代初頭あたりを思わせるもので、これはミックスとマスタリングによるものだよ。
ー さらに今回はジョニー・ロッドがヴォーカル・プロデューサーとしてクレジットされています。あなたたちはあまりプロデューサーを起用しないタイプだと思うのですが。
ボビー:ジョニー・ロッドと言っても、キング・コブラのジョニーではない。彼は『Ironbound』からずっと一緒にヴォーカルのプロデュースをしてくれているんだ。ずっとやってきてくれているし、それで今回クレジットしたのさ。とても仲が良くて、俺の母親と同じ地域に住んでいたからね。スタジオに行って、母親の家に寄って夕飯を食べるなんていうことができたんだ(笑)。
ー ドラムのジェイソン・ビットナーが参加して2作目ですが、何か変化はありましたか。
ボビー:俺たちのことをより良く理解してくれたと思うよ。長い時間を一緒に過ごしたからね。彼の才能については疑問の余地がない。『ザ・ウィングス・オブ・ウォー』でも素晴らしいドラミングをしてくれたよ。彼は時計のように正確なんだ。12時の時は必ず12時をさす。ジェイソンのプレイは本当に正確なのさ。一方で、『ザ・ウィングス・オブ・ウォー』で一緒にツアーをして、人間的にもお互いをよく知ることで、D.D.の曲作りとジェイソンのインプットにより信頼が増したし、それは俺も同じ。俺も歌詞やヴォーカル・ラインに基づいて、彼に提案もする。今回のアルバムは前作からのステップアップで、さらにバンドらしいプレイになっていると思う。
ー 活動歴は40年を超えますが、今でも新たなインスピレーションを必要としますか。
ボビー:アーティストはインスピレーションを必要とするだろうね。自分たちはアーティストではなく職人だと思っていて、俺たちは自分たちのやっていることを楽しんでいる。それこそが40年続けて来られたモチベーションだと思う。同じことを繰り返したくはないし、まあ同じことをやるケースもあるけれど、常に前作よりも良いものを作ろうとしている。それ自体がインスピレーションになって、まだガスタンクの中に、珍奇なものではない何かが残っていることを証明するチャンスとなる。これは現在のメタル・シーンでは貴重なものだと思うんだ。ニュー・メタルでもメタルコアでもない。スラッシュ・メタルという枠の中でも、何か新しいことはやれる。どんな要素、どんなダイナミクスを加えるかによってね。それは世界全体を、スラッシュ・メタルというジャンルをひっくり返すようなものではないけれど、間違いなく新鮮に響くものさ。前作よりも良いものを作ろうというモチベーションから自然と生まれてくるものだよ。それがインスピレーションなんだ。
ー 声を保つために何か特別なことはしていますか。
ボビー:いや、していない。特に心配もしていないよ。10年前にタバコをやめて、その成果は確実にあるけれどね。『The Electric Age』のレコーディングの後に、タバコをやめたんだよ。2012年に。聴けば違いがわかると思う。自分でも『White Devil Armory』、『The Grinding Wheel』で違いに気づいた。俺の声は、少なくともこの俺にとって、過去10年間でどんどんと良くなってきている。年を重ねているにもかかわらず。ライヴでもスタジオでも、チューニングを下げるようなことはしていないんだ。レコーディングされたままのチューニングで、心地よく歌える。俺はバイクにも乗るし、スカーフも巻かないし、ビールも飲む(笑)。アーティスティックなことはやりたくないんだよ。俺みたいにスモール・ブロック・マウントを搭載している人間は(笑)、楽しいことが好きなのさ。心配するのではなく、楽しみたいんだ。
ー では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
ボビー:88年から日本に行っているけれど、アルバムをリリースするたびに、日本のファンは素晴らしいサポートをしてくれる。日本は世界で最もグレイトなスラッシュ・エリア、メタル・エリアの一つさ。日本との関係を継続していくのを楽しみにしている。君たちが恋しいよ。2023年、ぜひ会おう。
文:川嶋未来