フィンランドのサイケデリック・ブラック・メタル・バンド、Oranssi Pazuzuがニュー・アルバムをリリース!と言うことで、ベース・ヴォーカル担当のオントに話を聞いてみた。
ー ニュー・アルバム『変身』がリリースになります。過去のアルバムと比べて、どのような点が進化、変化していると言えるでしょう。
オント:そうだな、今回はとても違ったアプローチを取ったと思う。そう、何と言うかバンド的な音楽、ジャムをして曲を書くというアプローチから距離を取って、もっとエレクトロニックなものにした。新しいサウンドを見つけようとしてね。新曲のほとんどはそうやって書いたよ。スタジオに3度入り、その短いセッションの中で断片を録音して、それから家に帰ってそれらをエディットし、オーバーダブをしていったんだ。俺たちにとって、とても実験的なやり方だった。過去のアルバムでは、ライヴ・レコーディングみたいにストレートに、バンドとしてプレイをしてレコーディングをしていたからね。もちろんその後にたくさんのオーバーダブはしたけれど。今回はもっと細切れという感じだった。バンドではあるけれど、もっとズタズタな感じ(笑)。
ー となると、ライヴで再現するのは難しいのでしょうか。
オント:チャレンジにはなるだろうね。サンプラーやドラム・マシンなんかを使って。大変だろうけれど、どれもライヴでやれると思うよ。
ー 過去の作品に比べると、今回どれも曲が短めですが、これは意図的なものでしょうか。
オント:そうだよ。今回はもっとストレートで激しいフィーリングが欲しいというのがあった。おそらくアグレッシヴとも言えるだろう。テンポも過去のアルバムよりも、少々速くなっている。そう、だからこれは意図的なもので、過去には本当に長い曲もやっていたけれど、今回はそれは控えた。
ー タイトルは英語にすると「Shapeshifter(変身能力を持つもの)」になるのでしょうか。これはどのような意味が込められているのですか。
オント:まずこれは、アルバムの2曲目のタイトルでもある。そして同時に、これはアルバムをよく表現しているものでもある。ある部屋にいて、ドアを開けて進むと、そこはまったく違った空間。突如光も音も、すべて違ったもの。まわりの環境がすべて違って、何か違った空間に変容していくような感じ。今回のアルバムの曲は、そんなイメージを達成しようとしたから。どの曲も、そこに入ると違った空間なのさ。そしてそれは、存在が違ったステージを進んでいくことも表現している。
ー 具体的な歌詞の内容はどのようなものですか。
オント:歌詞はどれもかなりサイケデリックで多次元的(笑)。だから、色々な内容がある。曲のタイトルは「生化学者」、「塗油式」、「墓場の風」、みたいな感じ。いくつかテーマがあるから、コンセプト・アルバムという訳ではなく、それぞれの曲で異なったフィーリングを歌っている。例えば一曲目のタイトルは「生化学者」という意味で、これは群衆をコントロールする力を持つ人物のことで、彼は人々を彼自身の未来を創造するマテリアルとして利用するのさ。タイトル曲の「シェイプシフター」は、自分の存在を何か新しいものへ変える人物のこと。変身についてさ。これは生から死への変身や、他のものでもありうる。こんな風に、色々なコンセプトが含まれているんだ。
ー 歌詞はすべてフィンランド語ですが、英語にしない理由は何ですか。
オント:母国語だからね。その方が自然なんだ。フィンランド語で思考する訳だし、少なくとも俺にとってはフィンランド語で歌詞を書く方が、英語よりもずっと簡単なのさ。まあ、ファンの多くがフィンランド語を理解しないのに、フィンランド語で歌うのは面白いみたいな話をバンド内ですることはあるけれど。一方でそれにも良い面がある。フィンランド語がわからないと、歌詞の内容を理解できないけれど、その分解釈の自由が増えるとも言えるからね。それに、フィンランド語は俺たちの音楽にとても合っているから、聞く人はイマジネーションを使うことができる。
ー フィンランドよりも国外のファンの方が多いのですか。
オント:そうだと思う。フィンランドは俺たちによって良い国だけれど、他の国の方がファンは多いと思う。
ー アートワークについてはいかがでしょう。これは何が描かれているのでしょうか。
オント:アルバム・カバーか。あれはわりと抽象的だけれど、俺にとっては洞窟、何かの生物の内側にある洞窟みたいに思える。見るたびに違って見えるけれど、洞窟と滝、だけど生きているようにも見えるな。洞窟の中の生き物か、洞窟そのものが生物なのかもしれない。俺たちの音楽の、アーティスティックな描写だと思う。
ー タイトルとのつながりはあるのでしょうか。
オント:わからない(笑)。あるかもしれない。とにかくアーティスティックなものさ。アーティストに俺たちの音楽を自由に解釈してもらったからね。俺たちの音楽を聴いて、見えたものを描いてくれと。
ー エンジニアのJulius Mauranen氏は、メタル界ではあまり見ない名前ですが、どのような人物なのでしょう。
オント:彼はメタル系のプロデューサーではないんだ。ヘルシンキ在住で、昔からの知り合い。16年から3枚のアルバムを手がけてもらっていて、これで4枚目なのかな。彼との仕事が好きな理由は、彼にはダイナミクスや、ああいうちょっとしたノイズみたいなものに対するセンスがあって、そういうものがステレオで動き回るみたいなミックスができるから。ヘッドフォンで聴くと、奇妙なサウンドが頭の周りをぐるぐると回る感じになる。関係もとても良いよ。ヘルシンキのプロフェッショナルなエンジニアで、ブラック・ポップ・ミュージックなんかを手掛けているけれど、何か特定のジャンルをやっている訳ではない。奇妙なノイズみたいなものの大ファンなのさ。
ー 現在のOranssi Pazuzuの音楽を無理やりにでもカテゴライズするとどうなりますか。
オント:激しくてラフなエッジを持った、心の中の内なる宇宙のための音楽かな。心を動かすための音楽であり、また同時に君の精神の中をトリップさせ、君自身、そしておそらく他の存在を映し出すもの。何を言っているかわからないかもしれないけれど(笑)、これが俺の考え。
ー 自分たちのことはメタル・バンドとは思わないですか。
オント:あまり思わないな(笑)。メタルからの影響も大きいけれど、俺たちは何か一つのジャンルを代表する訳ではないよ。多くの影響を混ぜ合わせているバンドというだけ。メタルから影響を受けているし、ある種のメタルも大好きだけれど、他の要素も多い。
ー ツアー用に近い音楽性を持ったバンドを見つけるのは難しいですか?
オント:どうだろう。メタルではないけれど、音楽のダークな面から影響を受けているバンドはたくさんいるからね。フランスのAluk Todoloとは共演したことがあって、彼らは俺たちに近いアプローチを取っている。彼らもいわゆるメタル・バンドではないけれど、メタルから多くの影響を受けている。それからInsect Arkとはアメリカ・ツアーをした。彼らはインストのバンドで、ドゥームっぽいけれどシネマティックな音楽を作っているんだ。俺たちはあらゆるバンドとプレイしたいし、多くのメタル・バンドとも共演してきた。ジャンルというのは俺たちにとってはどうでも良いんだよ。
ー 具体的に最近はどのようなアーティストや音楽から影響を受けているのでしょうか。
オント:もちろん繰り返しというのが俺たちの音楽において重要なもので、それによって催眠的なフィーリングを作り出そうとしている。CanやFaust、Neu!といった古いクラウトロックのアーティストたちがやったようにね。それから日本のBoredomsも。彼らからの影響は大きいよ。このあたりが一般的な影響で、ニュー・アルバムに関しては、Death Gripsをよく聴いていたんだ。とても実験的なヒップホップ。とても激しくてミニマルで、そういうやり方がとても気に入っていてね。アルバムによってサウンドは違うのだけれど、ある要素を際立たせたり、とても可能な限り激しくヴァイオレントなものを作るという点において、Death Gripsからの影響はとても大きかった。それからサウンドスケープの作り方に関しては、Portisheadのサード・アルバムから影響を受けた。彼女たち、特にサード・アルバムには、さっき話したみたいな、曲の中に一つの部屋から別の部屋に移っていくみたいな感覚の遷移がある。この2アーティストからの影響はとても大きいよ。
ー オールタイムのお気に入りのアルバムを3枚教えてください。
オント:それは難しいな。俺はThe Beatlesの大ファンだから、何か一枚選ばないと。そうだな、やっぱり『Rubber Soul』かな。プログレから一枚選ぶとすると、Genesisの『The Lamb Lies Down on Broadway』。メタルからはDarkthroneの『Panzerfaust』。
ー では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
オント:新しいアルバムを興味深いと思ってもらえるといいな。いつか日本でプレイしたいよ。
文 川嶋未来
【CD収録曲】
- 生を錬金しうる者
- 変身
- 塗油式
- 墓場の風
- 暴かれる真実
- 永遠を宿す蛇
- ローリング・ヘイズ
【メンバー】
ユン-ヒス (ヴォーカル/ギター)
イコン (ギター/サンプラー/シンセサイザー)
オント (ベース/シンセサイザー)
コルヤック (ドラムス)
イーヴル (ピアノ/ヴォーカル)