ドイツが誇るテクニカル・デス・メタル・バンド、オブスキュラがニュー・アルバム『ア・ヴァレディクション』をリリース。ということで、リーダーでギタリスト/ヴォーカリストのシュテフェン・クメラーに話を聞いてみた。
ー ニュー・アルバム『ア・ヴァレディクション』がリリースになります。以前のアルバムと比べて、どのような点が進化していると言えるでしょう。
シュテフェン:今回のアルバムは、過去のアルバムに比べて新鮮で自然なアルバムになっていると思う。特に楽器の感じがオーガニックになっているよ。個人的には、とてもストレートな一方バラエティに富んだ作品になっていると思う。アルバムの曲を書いてそれを制作するのがとても楽しかった。一番の改善点は、真のバンドが真の音楽を演奏しているように聴こえるようなアルバムになったことさ。
ー ギターのクリスティアンとベースのヨルンがバンドに復帰していますが、彼らはそもそもなぜ脱退をしたのですか。
シュテフェン:ヨルンが抜けたのは、確か2010年だったかな。『Omnivium』をレコーディングした後にね。当時彼は普通の仕事もしていて、俺たちのツアーをこなすのが不可能になったんだ。何しろ年間150本くらいライヴをやっていたから。それに当時彼はペスティレンスにも加入していたし。それで結局両方のバンドを辞めて、一切のバンド活動をストップしていたんだ。つまり経済的な問題だったんだよ。クリスティアンは、局所性ジストニアという病気にかかってね。手が思うように動かなくなってしまった。それにやっぱりツアーも大きなプレッシャーになったようだ。あまりに長いツアーがフラストレーションになり、さらに俺たちが目指していた音楽的方向性も気に入らなかったんだ。
ー それが今回復帰を決意したのは何故だったのでしょう。
シュテフェン:俺から彼らにお願いしたんだ。というのも、バンドは当時とはまったく違ったレベルになっているからね。2009-2011年頃、北米やアジア、それからもちろんヨーロッパとワールドワイドなツアーをやっていた時は、まだバンドの地位を確立している時期だったから、色々と大変だった。クルーもツアーバスも無くて。今はまったく状況が違う。彼らが去った後も、俺はバンドを続けて、状況を改善していったんだ。前作もとてもうまくいったし、とても心地よい状況になっているからね。ツアーをしたり、アルバムを書いたりするにしても、ずっとストレスが少なくなっているんだ。きちんとしたクルーがいて、きちんと睡眠が取れれば、まったく違ったフレームワークでやることができる。それから音楽についても、10年前はもっとずっと心が狭かった。自分たちで色々と制限を設けていたんだ。「このリフはオブスキュラには合わないな」とか、「これはブラック・メタルすぎる、テク・デスにはそぐわない」なんて言っていた。だけど今回のアルバムでは、そういう制限をすべて無視して、ただ自分たちの好きな音楽を作ることができた。そのせいで、アルバムがさらにバラエティに富んだものになったと思う。アルバムを最初から最後まで通して聴けば、それぞれの曲がまったく違ったものになっていることがわかるだろう。これも良かったんだと思うよ。それぞれのメンバーが、それぞれの表現を自由にできるようになったという点でね。とてもポジティヴなアティチュードを持ったアルバムになったと思う。全員にとってwin-win-winのシチュエーションになった。とてもうまく行ったよ。
ー 今回のアルバムのテーマについて教えてください。タイトルは「ヴァレディクション=告別」となっていますが。
シュテフェン:「告別」というテーマは、色々と違った解釈が可能だ。前作で4枚のアルバムに及ぶコンセプトが完結した。さらに今回プロデューサーも変えて、アートワークの担当も変えたし、レコードレーベルも変えた。バンドとしても大きなターニングポイントだったし、個人的にも色々と変化があった。パンデミックもあるし、家族の不幸もあった。ステージを共にしたミュージシャンが亡くなったりもした。ショーン・レイナートやショーン・マローン、他にも非常に親しいベーシストも死んでしまった。こういったことすべてがこのテーマにつながっているんだ。さらに音楽も、さっき言ったように、非常に人間的でオーガニックなものになっているよ。過去のアルバムでは、トピックももっと抽象的なものだったけれど、今回は個人的な内容なんだ。抽象的なアイデアの後ろに隠れるのではなく、個人的なことを歌いたかった。音楽、歌詞、アートワーク、写真すべてがバランスを保っているよ。「告別」というのは、人生においてとても詩的なもので、目を見開いて人生を見つめてみれば、何かと別れるということは、時にポジティヴなものになりうる。今回のアルバムでも「イン・アドヴァーシティ」や「ホエン・スターズ・コライド」にはポジティヴで明るい雰囲気がある。人生において、ネガティヴなものを手放すということは、新しいスタートになるということなんだ。そういう意味で、「告別」は時に楽観的なものになりうるということ。だからこれはネガティヴなアルバムではない。楽観的でポジティヴで、時に怒りに満ちた(笑)アルバムだよ。
ー エリラン・カントールによるアートワークは、「告別」というテーマとどのようなつながりがあるのでしょう。
シュテフェン:エリランはとても時間をかけてこのアートワークを仕上げてくれた。実は『ア・ヴァレディクション』は新しいトリロジーの最初となるアルバムなんだ。エリランとはたくさんの意見交換をしたよ。どんなカラーをテーマとするかとか。今回のアートワークでは、胎児のような格好をしている人物がいる。そしてもう一人の人物が、彼を抱きかかえている。つながること、そして離れることを非常に詩的に表現しているんだ。これまでに「ソラリス」とタイトル曲のビデオを発表しているけれど、どちらもコンセプトは同じ。エリランのアートワークも、メインのテーマがどういうものかを表しているんだ。つながること、そして離れることのバランス、そのほろ苦さ。中心の人物は自分、それを持っている人物は子供と考えることもできる。俺の場合、真ん中が俺で、それを持っているのは娘。過去のアートワークのように抽象的なものではないんだ。
ー 先ほど言われたように、今回初めてフレデリック・ノルドストロームをプロデューサーに迎えています。何故彼を起用したのですか。彼との仕事はどうでしたか。
シュテフェン:アット・ザ・ゲイツ、イン・フレインムス、アーチ・エネミー、ディム・ボルギル等、フレデリックが90年代にプロデュースしたアルバムは、リリースからすでにかなりの時間が経っているけれど、これらが今リリースされたとしても、同じくらいのインパクトがあると思うんだ。だけど俺は90年代初頭や中盤を振り返っている訳ではないよ。プロデュースを彼に頼もうとした決定打は、イギリスのバンド、アーキテクトだった。違うジャンルのバンドだけれど、フレデリックはすべてのバンドに自分のサウンドを押し付けるのではなく、それぞれのバンドの作品が個性を持つような仕上がりになっている。とても重要なことさ。海外でレコーディングしたというのも初めての経験だった。スウェーデンに行って、違うプロデューサー、違う文化、違う言語の中でレコーディングしたんだ。一種の冒険だったけれど、雰囲気はとてもポジティヴなものだった。フレデリックはとても経験豊富だからね。彼の音楽の分析の仕方がとても気に入ったよ。それにとても面白い人物だし。次のアルバムも、間違いなく彼と一緒に作るつもりさ。
ー オブスキュラはヴォコーダーを使いますが、これはシニックからのインスピレーションなのでしょうか。
シュテフェン:もともとヴォコーダーを取り入れたきっかけはシニックだよ。2009年のセカンド・アルバムからヴォコーダーを使っているけれど、使い方は変わってきている。ニュー・アルバムでもヴォコーダーでコーラスやメロディを歌っているけれど、今回はあまり目立たないようにしているんだ。バンドにとって、ヴォコーダーはコーラスとキーボードの中間のようなものになってきている。あまり大きくミックスしていないので、普通のコーラスのように聴こえるんじゃないかな。ヴォコーダーは俺たちのトレードマークのようになってきているけれど、ルーツはもちろんシニックだよ。
ー オブスキュラというバンド名にしたのは何故ですか。
シュテフェン:「オブスキュラ」というのはラテン語で闇という意味なのだけど、カナダのGorgutsのアルバム・タイトルからとったんだ。当時この名前のバンドは他にいなかったし、短くてキャッチーな名前だと思ったから。それにこのアルバムは、聴いていると頭痛がしてくるけれど、また聴きたくなる作品だからね(笑)。素晴らしいバンドの素晴らしいアルバムだから、これにしようと思ったのさ。
ー オブスキュラが影響を受けたバンド、ジャンルはどのあたりでしょう。
シュテフェン:特にこれといった制限はないよ。新しいアルバムについて言えば、フレデリックとこんなジョークを言っていたんだ。彼にこのアルバムについてどう思うかと聞いたら、「B.O.M.」だと。Best Of Metalさ。この作品にはホワイトスネイクからメタリカ、ディセクション、ベヒーモス、アット・ザ・ゲイツに至るまで、ハードロックからエクストリーム・メタルまで、すべての要素が聴こえるからだと。ぜひこの路線でやって行きたいと思っている。左右を見渡してみれば、興味深いものがあるからね。
ー クラシックやジャズ・フュージョンなどからの影響はありますか。
シュテフェン:10年くらい前は、ジャズもよく聴いていた。あと、実験的、無調な音楽も。ベルクやシェーンベルクとかの十二音音楽とか。俺が聴くものは数年ごとに変わっていく傾向にあって、最近よく聴いているのはナイト・フライト・オーケストラやソイルワーク。多分年をとってきたのかな(笑)。
ー そもそも音楽にハマったのはきっかけは何だったのでしょう。
シュテフェン:8歳か9歳の頃、寮制の学校に行っていてね、そこで音楽の勉強を数年間したんだ。合唱隊やソロで歌ったり、ピアノを習ったり。中でも最も重要なトレーニングは、聴音だった。先生がピアノでメロディを弾いて、それを書き取るんだ。それを9歳か10歳の頃に数年間やったので、とてもためになったよ。10代になると、エレクトリック・ギターを弾くようになった。16歳の時で、少々反抗的になっていたんだ。そこからヘヴィメタルの道に入ったんだよ。俺は友人たちと違って、何か一つの楽器だけを勉強するという気にはなれなかったので、大学では音響やメディア・テクノロジーの勉強をしたんだ。だから、音質に関して他のメンバーとは違った聴き方ができるんだ。
ー ではエクストリーム・メタルにハマったのは何故ですか。
シュテフェン:うーん、おそらく地元の図書館のおかげだと思う。こっちの図書館では、クラシックからメタリカ、スレイヤーに至るまで、あらゆる音楽が揃っているんだ。
ー ハマるきっかけとなったバンドは何だったのでしょう。
シュテフェン:色々なバンドだよ。13-15歳の頃、メガデスやスレイヤー、メタリカのような、聴いて当然のバンドから入って、そこからどんどんエクストリームはものを探していった。当時インターネットもなかったから、友達からの影響でね。CDやレコードをトレードしたものさ。あの頃はみんなブラック・メタルやデス・メタルを聴いていた。ディセクションやシニック、エイシスト、ペスティレンス、デス、コントロール・ディナイドとか、チャック・シュルディナーのさまざまな作品を聴いて育ったんだ。これらのバンドは、今でも俺や俺の作曲に影響を及ぼしているよ。若い頃に聴いていたバンドというのは、かならず後に戻ってくるからね(笑)。
ー やはりプリミティヴなブラック・メタルより、テクニカルなものがしっくり来たのですか。
シュテフェン:いや、どっちも好きだよ。もう一つThulcandraというバンドも18年やっていて、どっちのバンドもそれぞれのジャンルで成功している。二つのバンドのサウンドは全然違って、オブスキュラはテクニカルでプログレッシヴ、洗練されているとは言わないけれど、すべてがパーフェクトでよく考えられたものでなくてはいけない。Thulcandraは逆で、心から湧き上がったままを演奏するロックンロールで、オールドスクールなヘヴィメタルのヴァイブを持っている。この2つのバンド以外では、俺はいかなるプロジェクトもやらない。この2つのバンドが、俺が10代の頃に聴いていたものすべてを表現しているからね。この2つのバンドをやれるのがとてもハッピーだし、とてもバランスが取れているんだ。
ー 音楽理論は勉強しましたか。
シュテフェン:ピアノを習っていた時は、ある程度は勉強をしたよ。だけど、10代になって、習ったことをすべて捨てようと思ったんだ。とにかくラウドにファストに、可能な限りハードでエクストリームに演奏しようと思ってね。最終的にはすべてがミックスされたものになったのだけど。なるべく心から湧き上がる曲を書こうとしているのだけれど、オブスキュラの音楽は、色々と要求が多い。曲を弾くのに物凄く練習しなくちゃいけないんだよ(笑)。
ー 曲作りに理論は使わず、思いついたままを曲にするのでしょうか。
シュテフェン:なるべくそうするようにしている。俺はとても広いアレンジを心がけていて、曲を大きなブロックで考えるようにしている。例えばポップスだと、A-B-A-B-サビ-アウトロみたいな形式があるよね。俺たちはプリプロの段階ですべて譜面を書く。だからギターブックやベースブックを売っているんだ。スタジオに入るまでにすべてを書き記す。そして、心から湧き上がった曲に、非常にクリアなアレンジメントを施すんだ。音楽理論を使ったり、非常に演奏が難しいパートがしっくり行く位置に配置したりとか。
ー お気に入りのアルバムを3枚教えてください。
シュテフェン:デスの『Human』。ディセクションの『Storm of the Light’s Bane』。それからメタリカの『Ride the Lightning』。
ー では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
シュテフェン:今回のアルバムが出たらまた日本に行って、長く滞在したいね。ドイツとはまったく違った国だから。また日本に行くのが待ちきれないよ。
文 川嶋未来