ヨーロッパを中心に大きな人気を誇るオール・フィーメイル・スラッシュ・メタル・バンド、Nervosaがニュー・アルバムをリリース。ということで、リーダーのプリカ・アマラルに色々と話を聞いてみた。
ー ニュー・アルバム『Jailbreak』がリリースになります。過去の作品と比べ、どのような点が異なっている、あるいは進歩していると言えるでしょう。
プリカ:このアルバムを作る時にまず考えたのは、バラエティに富んだものにしようということ。Nervosaはスラッシュ・メタル・バンドであり、スラッシュ・メタルはさまざまな音楽を取り込むことができる。そこを私は気に入っているのだけれど、今回前作の『Perpetual Chaos』よりも、さらにバラエティのある作品にしたかったの。それから、2番目に大きな変更点は、セカンド・ギタリストを加入させたこと。これによる相違は大きいわ。それに、今回私がヴォーカルをとったということも、大きな違いを生んでいると思う。
ー 今回あなた以外のメンバーが総入れ替えになっていますね。
プリカ:それぞれのメンバーが、違った感情や人生に関する選択を持っている。彼女たちをNervosaに誘った時、中には長いプロフェッショナルなツアーを経験したことがないものもいた。実際加入してみると、これが自分のやりたいことではなかったみたいな感じになりうるのよ。Nervosaのようなバンドに加入すると、他のことをやる時間が一切なくなってしまう。やっとツアーが終わったかと思うと、すぐ次のツアーがあったり、曲を書いたりレコーディングをしたり、インタビューもしなくてはいけない。私はこのバンドのために、人生の他のことすべてを犠牲にしてきたから、そのペースを落とすことはできない。だから、どうしてもこういうメンバー・チェンジは避けられないの。もちろん彼女たちの決断は理解できるわ。最も大切なものはリスペクトだから。お互いの考えをリスペクトすること。だから、今回のメンバー・チェンジも、私にとっても彼女たちにとっても何も問題のないことよ。
ー 新しいメンバーはどのようにして見つけたのですか。
プリカ:SNSでたくさんの女の子たちをフォローしていて、彼女たちが演奏しているのを見るのが大好きなの。お互いをヘルプしながら、私も彼女たちからインスピレーションを受ける。SNS上で毎日新しいミュージシャン、新しい世代が現れているのを見ているわ。素晴らしいことよ。今回の新メンバーたちも、SNSで見つけたの。SNSを通じて、このバンドを再建するのはこれで2度目。これもメンバー・チェンジが起こってしまう理由の一つだとは思う。彼女たちとは会ったことがないから、まず最初に友情を育まなくてはいけない。今回はアプローチを少々変えたの。色々と学ぶことがあって、過去と同じ過ちを繰り返したくなかったし。最初からあまりオープンには行かず、まずは時間をかけて距離を縮めていった。今回のラインナップにはとても満足している。とても献身的だし、自分たちのやりたいことをわかっているのよ。
ー あなたは今もブラジルに住んでいるのですか。
プリカ:いえ、今はギリシャに住んでいるわ。
ー だからメンバーはヨーロッパのミュージシャンたちを集めているのですね。
プリカ:実はそうではないの。20年にメンバー・チェンジをした時は、まだブラジルに住んでいて、ブラジルのミュージシャンを入れようとしたの。ブラジルには才能のあるミュージシャンがたくさんいるのだけれど、十分にプロフェッショナルでなかったり、バンドのために仕事や大学を辞めることができなかったり。それで、Nervosaにふさわしい女性を見つけることができなくて、それでヨーロッパに引っ越した方がバンドにとっても良いと思って。つまり、ヨーロッパのミュージシャンたちを集める前にヨーロッパに引っ越したということ。
ー 今回初めてあなた自身がメイン・ヴォーカルも務めました。
プリカ:とても大きなチャレンジだったわ。短い時間で歌い方を学ばなくてはいけなかったから。バッキング・ヴォーカルでは、低い声しか出していなくて。ブラジルの重要なバンド、Torture Squadのシンガー、Maraya Puertasから少々ヴォーカルを習うことができて、彼女が高音、中音での歌い方から、そして自分自身のトーンのキープの仕方を教えてくれたの。他の誰かをコピーするのではなく、自分のスタイルでのやり方を。これも『Jailbreak』のインスピレーションになったわ。自分自身でないもののふりをするなって。彼女の存在は大きかった。レコーディング中、プロデューサーのMartin Furiaも色々とガイドをしてくれて、色々な歌い方を試してみたから、これもアルバムにさらにバラエティを持たせることになったのよ。
ー 今回のアルバム・タイトル『Jailbreak(=脱獄)』にはどのような意味が込められているのでしょう。
プリカ:これは、社会のルールを破るということ。例えばSNSなんかは、人々を型にはめてしまうものでしょう?みんなが同じ顔をして、同じ言葉を使って、同じ写真を撮っている。フォロワーやいいね、視聴数なんかを気にして。そして、自分自身であることを忘れてしまっている。これがタイトル曲の意味するところ。もちろんSNSに限ったことではなく、仕事なんかも、世の中が定職につくべきとしているからというだけで、やりたくない仕事をしたり。そういう社会の鎖を断ち切って、自分自身を誇りに思い、ハッピーになりましょうということ。
ー 他の曲の歌詞は、どのようなところからインスピレーションを受けているのですか。
プリカ:曲によって色々なところからインスピレーションを受けていて、今回のアルバムを作るにあたって、何か一つのテーマを決めようというチャレンジはしたのだけれど、無理だった。コンセプト・アルバムではないし。例えば「Sacrifice」は、何かを得るためには、何かを犠牲にする必要があるということ。人生におけるすべてのものには、良い面と悪い面がある。100%良いもの、100%悪いものは存在しない。「Seed of Death」は、輪廻転生について。私は、死んだ後も生は終わらないと考えているわ。死んでも、また違った形の生として戻ってくるという、少々哲学的な内容。「When the Truth Is a Lie」は、他人を操る人間について。そういう人間は、真実を歪めて嘘を作り出す。つまり、真実から嘘を作り出すのよ。「Superstition Failed」は、例えば何かを勝ち取るために、超常的な力を信じる人たちのこと。そういうことばかり信じていて、実際に何かを実現することができないのよ。信仰自体を否定するつもりはないけれど、それだけに頼ってしまうのはね。自分自身のことも信じないと。他にもいろいろあるわ。「Suffocare」は、有害な人間関係のこと。
ー 「Suffocare」というのは、あなたの造語ですか。
プリカ:私が考えた言葉よ。”suffocate”と”caring”を合体させて。タイトルを見れば、歌詞の内容がわかるでしょう(笑)。
ー 「Kill or Die」は、高速でバイクを飛ばすというような内容ですが、あなたは実際バイクにも乗るのですか。
プリカ:私はバイクが大好きなの。もちろんバイクにも乗るし、脚にはタトゥーも入れている。ギタリストのヘレナもバイクが大好きだし、他の2人も同じ。これは内容としては「Jailbreak」と同じで、自由について歌ったもの。バイクに乗って、日々のストレスを発散してという内容。人生において何かを決断する時、さっきも言った通り、何かを犠牲にしなくてはいけない。つまり”kill”か”die”かということ。決断をしないと、殺られてしまうということよ。
ー アルバムのアートワークも『Jailbreak』的な内容ということでしょうか。
プリカ:もちろんそう。SNSではみんなフィルターを使って、完璧を装っているでしょう?あのアートワークは、マスクを取って、ハッピーになりましょうということ。私には欠点があるし、いつも綺麗にしている訳でもない。そういう自分自身を誇りに思いましょうということ。もっと正直にあるべき。人間年をとるもの。だからと言って、フィルターを使って若いふりをする必要がある?私はそうは思わない。だから、マスクを取ってしまいましょうということよ。
ー 今回Exodusのゲイリー・ホルトがゲスト参加していますね。
プリカ:ゲイリーは長い間私たちのことをサポートしてくれているの。12年、サンパウロでのExodusとのショウが、Nervosaの初めてのインターナショナルなライヴだった。あの時は、私も英語がわからず、彼とは話せなかったのだけれど、一緒に写真は撮った(笑)。20年のパンデミック以降、みんな時間があって、インターネット上での活動が盛んになったでしょ。それでゲイリーとの距離もさらに近くなって、私たちがDecibel Magazineの表紙になった時も、それを投稿してくれて。去年Exodusがサンパウロに来た時も少々話をして、今回のアルバムに誰かゲストをというアイデアが出た時、最初に名前が挙がった1人がゲイリーだったの。それで彼にメッセージを送ったら、とても喜んでくれて、ツアーの合間の短い間にソロを弾いてくれた。本当に嬉しかったし、誇りに思うし、感謝しているわ。私たちにとって、本当に夢がかなったという感じよ。
ー Infected RainのLena Scissorhandsもヴォーカルでゲスト参加しています。
プリカ:彼女は本当に素晴らしいシンガー。16-17年頃にルーマニアでプレイした時に、彼女のバンドを知ったの。素晴らしいバンドだと思って、それから彼女をフォローするようになって、彼女たちも私たちと同じナパーム・レコードの所属だし。今回のアルバムを作る時に、女性のゲストを迎えようと思って。というのも、これまでゲストは男性ばかりだったから、今回は女性にもお願いしようっていうことで(笑)。彼女にメールをしたら、とても喜んでくれて、あっという間にプロフェッショナルに仕上げてくれたわ。私たちも出来上がりにとても満足している。
ー では最後に日本のNervosaファンへのメッセージをお願いします。
プリカ:ああ、日本にまた行くのを待ちきれないわ。今色々と話をしているので、もうちょっとだけ待ってね。ニュー・アルバムも出ることだから、ぜひともまた日本に行かなくては。ぜひ日本のファンたちのために、何か特別なものを見せたいわ。日本での思い出は本当に素晴らしいもの。本当に本当にありがとうと言いたい。
文 川嶋未来