近年ヨーロッパを中心に大きな注目を集めるブラジルの(と言っても現在メンバーの3/4はヨーロッパ出身なのだが)ネルヴォサ。20年初頭、ギタリストのプリカ・アマラル以外のメンバーが脱退。新たに超強力なメンバー3人を加え制作された4枚目のアルバム、『パーペチュアル・ケイオス』がリリースになるということで、プリカに色々と話を聞いてみた。
ー ニュー・アルバム『パーペチュアル・ケイオス』がリリースになります。以前の作品と比べ、どのような点が進化していると言えるでしょう。
プリカ:今回のアルバムは、とても詳細にまでこだわった作品で、それは私にとって重要なことだった。今回はメンバーが一新されて、彼女たちはあらゆる意見や変化に対してとてもオープンだったの。とてもやりやすかったわ。それにアグレッションも増していると思う。何しろこんな状況でしょう。パンデミックによるインスピレーショ、感情が色々と掻き立てられたから。
― 新メンバーたちはどのようにして選んだのですか。
プリカ:彼女たちのことは以前からインスタグラムでフォローをしていて、とても気に入っていたの。メンバーが抜けた時に、自分のお気に入りの女性ミュージシャンのリストを作って(笑)、彼女たちはそのトップにいたのよ。お気に入りの女性たちがメンバーになってくれて、とてもハッピーだわ(笑)。
ー メンバー全員すぐに加入を承諾したのでしょうか。
プリカ:みんなすぐにOKしてくれた。もちろんビデオ・コールなどを通じて、たくさん会話は重ねたけれどね。色々話すことはあって、シンプルなことではないから。スケジュールのこともあるし、詳細を議論する必要があったわ。だけど彼女たちは「イエス、イエス」という感じで(笑)。
― そもそも以前のメンバー2人が脱退した理由は何だったのですか。
プリカ:彼女たちは違うことをやりたかったの。私とは意見が違って、バンドのやり方とか、多くのことが違っていた。
音楽に関する夢や意志は同じだったけれど、それ以外のすべてが違っていたわ。だから、別々の道を進むことにしたのよ。元々はとてもうまく行っていたのだけれど、ある日そうではなくなって。ドラマーについては、ヴォーカリストが抜けてはバンドはうまくいかないということで、一緒に抜けてしまったの。
― 今回のアルバムの歌詞は、どのような内容を扱っているのでしょう。
プリカ:メインのトピックは、人間の行動様式について。様々な書き方はしていて、パーソナルな内容もあれば、怒っている人間とか、悪い行為を行う自分たちのまわりにいる人だとか、悪意を持っている人々とか。政治的な内容もあるわ。「ジェノサイダル・コマンド」なんかがそう。ブラジルを筆頭に、悪い大統領というのは世界中にいる。人々や人々の健康に反するようなことを平気でやる。「レベル・ソウル」はポジティヴな内容よ。くだらないことに構わず、人生を楽しみたい、生き方を指示されたくない、宗教に囚われたくない、というような感じ。人々は宗教に囚われすぎている。私は決して宗教には反対ではないけれど、私自身は宗教を信じないわ。宗教が人々をアグレッシヴにするということもある。そういうことを歌詞にしているの。15曲も書いたから、様々なトピックを扱っているわ。ボーナストラックが国によって違うから、収録されているのはそれよりも少ないけれど。
ー タイトルトラックは資本主義批判なのでしょうか。
プリカ:いえ、そうではないわ。人間の歴史において、私たちは常に間違いを犯し、様々なものを破壊してきた。そして、どんなに時間が経とうとも、その過ちをまた繰り返してきた。だから、「永遠の混沌」なのよ(笑)。人間の行動様式のせいで、何度でも過ちが繰り返されるということ。
― 「タイム・トゥ・ファイト」はコロナについてですか。
プリカ:そう、コロナについてでもあるけれど、ブラジルの政府についてでもあるわ。ポジティヴに、そういうものと戦いましょうということ。ブラジルの政府は本当にクレイジーで、彼らの好きなようにさせるべきではない。団結して強くなり、戦わなくてはいけないのよ。
― 歌詞を書くにあたって、ブラジル人であるということが非常に大きく影響をしているということでしょうか。
プリカ:それは間違いない。私はとても腐敗した国に住んでいて、クレイジーなこと、間違ったことがたくさんある。今の大統領は、史上最悪の人物の一人よ。世界で最悪の大統領。独裁者だし、あんな人物のことを話さなくてはいけないというのはとても残念。私はブラジルが大好きだし、ブラジル人であることに誇りに思っている。だけど、大統領は最悪。おかげで歌詞に関するインスピレーションはたくさん得られているけれどね。他のラテンアメリカの状況もあまり変わらないだろうけれど。
ー アートワークについてはいかがですか。やはり歌詞の内容とリンクしていると言えるでしょうか。
プリカ:まさにタイトル通りの内容よ。死神がいて、頭蓋骨が積み上がっていて、暗くて、すべてが破壊されていて。
― 今回デストラクションのシュミーア、フロットサム・アンド・ジェットサムのエリック、そしてエントゥームド A.D.のギレルメの3人がゲスト参加しています。
プリカ:彼らとはとても仲が良いの。シュミーアはバンドの初期からずっとサポートしてくれて、彼はネルヴォサの歴史において、とても重要な人物。彼に歌ってもらうということは、とても重要なことだった。参加をお願いしたら、とても喜んでくれて。シュミーアは、スラッシュ・メタルをプレイする上で、大きなインスピレーション源の一人だし、デストラクションのことも大好き。エリックは、最も美しい声の持ち主よ。メタル・シーンだけでなく、音楽すべての中において。ギレルメとも、とても仲の良くて、彼は本当に素晴らしいギタリストでもあるわ。
― 今回もマーティン・フリアがプロデュースを担当しています。彼のどのような点が素晴らしいのでしょう。
プリカ:彼はとてもナイスガイで、前作でも一緒にやったのだけど、私たちにとって最高のプロデューサーなの。以前に一緒にやったプロデューサーはみんな大好きだけれど、マーティンはみんなを快適にさせる術を知っているし、どうやれば最高のものを引き出せるかもわかっている。彼は色々とインスピレーションを引き出してくれて、このアルバムにとってもとても重要な人物。今回は私がコ・プロデューサーという形で、彼の手伝いをしたのだけど、とても仕上がりには満足しているわ。メンバーも変わってプレッシャーも大きかったし、時間も限られていたけれど、とても作業を楽しめた。最高の仕事ができたと思うわ。
― 曲はすべてあなたが書いているのですか。
プリカ:私が全部書いているわ。細かい部分は他のメンバーに任せているけれど。例えばディーヴァは歌詞の手助けをくれたり、ヴォーカル・ラインを書いたり、エレニはドラム・パートを書いたり、ミアはベースラインを書いたりと、みんなで作ってはいるけれど、リフということに関しては、私一人で作っているわ。
ー メンバー全員が違う国に住んでいますが、曲作りはどのように行ったのでしょう。やはりメールなどを通じてですか。
プリカ:そうよ。ネルヴォサはここ4年くらいはそういうやり方でやってきているの。前作『Downfall of Mankind』も、WhatsAppなんかを使って作ったわ。リフを書いてドラマーに送って、ファイルが返ってきて、私がいくつかのパートを直して、もっとスラッシュっぽくしたり、それからベーシストにファイルを送って、ベースパートを作って、それからヴォーカリストに渡して、みたいに。私が歌詞を送って、あるいは彼女が歌詞を書くこともあったわ。
― 現在もブラジル在住なのですか。他のメンバーは全員ヨーロッパ在住ですが、あなたはヨーロッパに引っ越す予定はないのでしょうか。
プリカ:ヨーロッパとブラジルを行き来しているけれど、将来的にはヨーロッパに引っ越したいと思っている。今はこんな状況だし、ブラジルで暮らす方が安いから、今はブラジルにいるけれど(笑)。状況が戻ったら、ヨーロッパに行くわ。
― どの国ですか。
プリカ:わからないけれど、イタリアかスペインかしら。
ー イタリア語、スペイン語はポルトガル語に非常に近いのですよね。
プリカ:スペイン語はとても簡単で、流暢に話せる。イタリア語はちょっと難しいのよ。ポルトガル語やスペイン語に似すぎていて、そのせいで逆に混乱してしまうの(笑)。70%は理解できるのだけど、話そうとしてもスペイン語になってしまったり(笑)。
ー メンバー全員が女性ということにこだわりを持っていますか。
プリカ:10年にバンドを始めた時から、女性だけのバンドということにはこだわっているわ。そもそもバンド名が女性だし。ポルトガル語には単語に性があって、ネルヴォーザというのも”アングリー・ガールズ”という意味なのよ。だから、男のメンバーがいたら変なことになってしまうの(笑)。
― エクストリームな音楽との出会いはどのようなものだったのでしょう。
プリカ:随分と前のことだから忘れてしまったけれど(笑)、初めてスレイヤー、メタリカを聴いて、一瞬で好きになった。「オーマイゴッド、これは本当に素晴らしいわ!」って。それでこういう音楽をもっと聴きたい、こういう音楽をプレイしたいと思って。
ー ブラジルではメタルがとても盛んなのですよね。
プリカ:ブラジルは巨大な国だから、メタルシーンも巨大ではある。だけど、あくまでシーンはアンダーグラウンドのものよ。私にとってはとても素晴らしいもので、メディアや雑誌もたくさんある。だけど、テレビでロックやメタルがプレイされることなどはないわ。ポップスしかかからない。そういう意味ではメタルシーンは小さなものだけれど、他の国のメタルシーンと比べたら、とてもビッグでストロングよ。
ー セパルトゥラのアンドレアス・キッサーは、パラリンピックの閉会式でギターをプレイしたのですよね。
プリカ:それは知らないわ。ツアーをしていたかもしれないし、テレビも全然見ないの。でも、あり得ると思う。セパルトゥラは、ロックも含めてブラジルで最も重要なバンドだから。
ー ネルヴォサに影響を与えたバンドを5つ教えてください。
プリカ:スレイヤー、セパルトゥラ、ヴェイダー、エクソダス、それからテスタメント。5つだけ選ぶのは難しいけれど(笑)。
― お気に入りのギタリストは誰でしょう。
プリカ:ジミ・ヘンドリクスね。彼は一番の天才ギタリストよ。それからテスタメントのアレックス・スコルニック。彼も信じられないギタリストね。ダイムバッグ・ダレル。ゲイリー・ホルト。右手の使い方は彼からの影響が大きいわ。ブラック・サバスのトニー・アイオミ。すべてのリフは彼から生まれたのだから(笑)。フィーリング的にはデイヴィッド・ギルモア。
ー バンドとしては、スラッシュ以外からの影響も受けているのでしょうか。今ジミ・ヘンドリクスの名前が挙がりましたが。
プリカ:あるわ。私はブルースも大好き。バディ・ガイとか。あと、70年代の音楽は何でも好き。メタルではなくて大好きなバンドとなると、グランド・ファンク・レイルロード。彼らのことは本当に大好きで、音楽へのフィーリングの入れ方がとても気に入っている。曲の構成の仕方とか、リフを何回繰り返すべきかとか、そういう点で影響を受けているわ。
― そういう音楽からの影響は、ネルヴォサの曲に直接的に現れていると言えるでしょうか。
プリカ:ええ。『Agony』に入っていた「Wayfarer」などでは、ブルースの影響がわかると思う。今回も、「レベル・ソウル」はモーターヘッドっぽいけれど、70年代のサウンドも少々聴けると思うわ。
ー ブラジルのシーンはどんな感じですか。
プリカ:インターネットのおかげでとても良くなってきていると思うわ。ブラジルは大きな国だから。ブラジルは一つの国でヨーロッパ全体みたいなものなの。それぞれの州がそれぞれの文化を持っていて。今はインターネットのおかげでお互いをよく知ることができるし、組織化されてきていると思うし、色々なことを実現できるようにもなった。良いバンドもたくさんいる。だけど、経済が悪化したせいで、シーンの状況が悪くなってきているというのもあるわ。ファンたちの情熱はヨーロッパやアメリカに負けていないけれど、経済のせいでバンドをサポートするお金が十分にないのよ。
ー ブラジルのおすすめの若いバンドはいますか。
プリカ:Living Metalというバンドがとても良いわ。トラディショナルなヘヴィメタルをプレイしていて素晴らしい。とても若いバンドよ。Eskrötaは女性のメンバーがいて、ポルトガル語で歌っている。D.R.I.みたいなクロスオーバーをプレイしていて、素晴らしいバンド。あとは何がいるかしら。たくさんバンドがいるから。Torture Squad。古いバンドなのだけれど、今のヴォーカリストでは女性で、本当に凄いの。私のお気に入りのシンガーよ。
― お気に入りのアルバムを3枚教えてください。
プリカ:メタリカの『Kill ‘Em All』。スレイヤーの『Reign in Blood』。それからセパルトゥラの『Schizophrenia』。エクソダスの『Bonded by Blood』もいいわね。スラッシュだとこのあたりがお気に入り。
― では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
プリカ:日本のファン全員にサンキューと言いたいわ。日本に行った時もたくさんのサポートをしてくれたし。また日本に行くのが待ちきれない。すでにいくつかのプロモーターと話をしているの。状況が改善したら、必ずまた日本に行くわ。サンキューというのをやめられないわ。日本のファンたちは本当に素晴らしいから。
文 川嶋未来
【CD収録曲】
- ヴェノマス
- ガイデッド・バイ・イーヴィル
- ピープル・オブ・ジ・アビス
- パーペチュアル・ケイオス
- アンティル・ザ・ヴェリー・エンド
- ジェノサイダル・コマンド
- キングス・オブ・ドミネーション
- タイム・トゥ・ファイト
- ゴッドレス・プリズナー
- ブラッド・イーグル
- レベル・ソウル
- パースード・バイ・ジャッジメント
- アンダー・ルインズ
- エグズィハ ※日本盤限定ボーナストラック
【メンバー】
プリカ・アマラル (ギター)
ディーヴァ・サタニカ (ヴォーカル)
ミア・ウォラス (ベース)
エレニ・ノタ (ドラムス)