ドイツのデス・メタル・バンド、Necrottedがニュー・アルバムをリリース。ということで、シンガーのファビアン・フィンクに話を聞いてみた。
ー まずはバンドの歴史を教えてください。結成は2008年とのことですが。
ファビアン:そう、2008年に俺と以前のギタリストで始めたんだ。俺たちは同じ学校に通っていて、まだ15歳だった。バンドをやったらクールだろうって。Summer Breeze Open Airの影響で、あんなビッグ・フェスティヴァルでプレイできたら凄いだろうと思って。後にSummer Breezeにも出演することができたけれど。それで地元のライヴハウスに出たり、ツアー・バンドのサポートをしたり。
ー 当時はどのような音楽をやろうとしていたのですか。やはりデス・メタルやデスコアだったのでしょうか。
ファビアン:当時はただ音楽をやりたいというだけだったな。デスコアやメタルコア、デス・メタル、スラッシュ・メタル、ブラック・メタル、何でも好きで、何か特定のものをやろうとは考えていなかった。ただ曲を書いて、感じるままにやっていたよ。そして個人的な音楽的影響が変わるにつれ、バンドの音楽性も変わっていった。ただ好きな音楽をプレイすれば良いのだと、ずっと思っているから。好きな音楽を聴いて、好きな音楽をプレイする。それが何と呼ばれるものでも関係がない。俺たちは自分たちの音楽をただデス・メタルと呼んでいるよ。デスコアとか、ブラッケンド・デス・メタルと呼ぶ人もいるだろうけれど、俺たちにとってはどうでも良い。俺たちの音楽を気に入ってくれる人がいて、自分たちがやっていて楽しければね。
ー 具体的にはどのようなバンドからインスピレーションを受けているのですか。
ファビアン:個人的にはドイツのメタルコア・バンド、Heaven Shall Burn。彼らから受けた影響は大きいよ。俺たちがバンドを始めた2008年頃、最大のメタルコア・バンドだったしね。他にはWhitechapel、それからバンドとしては、Thy Art Is Murderの影響が大きい。まあ、他のメンバーはきっと違うバンド名を挙げるだろうし、そういうものが混ぜ合わさって、俺たちの音楽が出来上がっているんだよ。
ー バンド名をNecrottedとしたのは何故でしょう。
ファビアン:バンドを始めた当時は、Myspaceがとてもビッグでね。あの時初めて世界中のバンドが、自由に自分たちの曲を発信できるようになったよね。まだ使われていないバンド名を探すのがとても難しかったんだ。それで、とてもユニークなバンド名にしようということになって、死を意味する’necro’と、腐敗したという意味の’rotted’を合体させたのさ。この世界の現状を表すのにピッタリだと思ったし、他に同じ名前のバンドもいないだろうから。とても良いチョイスだったと思うよ(笑)。
ー ニュー・アルバム『Imperium』がリリースになります。過去の作品と比べ、どのようなアルバムに仕上がっていると言えるでしょう。
ファビアン:うーん、これは良い質問だな。今回の作品で最も大切なのは、前作で確立した自分たちのサウンドを、さらに推し進めたことだと思う。前作の『Operation: Mental Castration』は、バンドの歴史においてとても重要な作品。というのも、コロナのせいで、このアルバムの曲を作りレコーディングする時間がたくさんあって、サウンドを大きく変えたんだ。ブラック・メタル・パートを大幅に取り込んでね。今回のアルバムでは、さらにその方向性を推し進め、さらにブラック・メタルの要素を取り入れているよ。それから、前作にも増して、ドイツ語の歌詞を試している。というのも、ドイツ語は、ブラック・メタル・パートの高音スクリームにピッタリだと思うんだ。一方で、ディープでロウなスラミング・デス・メタル・パートには英語が合う。このコンビネーションは、過去にやっていなかったことさ。
ー 前作がバンドにとっての真のスタートだったということでしょうか。
ファビアン:まあ、ある意味再スタートだったと思う。もちろん同じバンドだし、同じメンバーだけれど、パンデミックがあって、多くのバンドが解散したり、活動を休止した。俺たちはパンデミック中に、自分たちのスタイルを見つけることができた。何しろリハーサルがハイライトだった訳だから(笑)。みんなに再び会えて、音楽を作れる。普通の年ならば、ツアーに出て、フェスティヴァルに出て、リハーサルをやる時間もない。20年は、リハーサル・ルームに戻れるだけでも嬉しかった。まるで15歳の頃に戻ったようだったよ(笑)。そういう意味で、あれはマインド的にも再出発という感じだった。パンデミックのおかげで、新しい力を得たというのかな。パンデミックを経て、より強力なバンドになったよ。
ー ブラック・メタルからの影響というのは、具体的にどのあたりのバンドからですか。
ファビアン:俺たちが影響を受けている中で、最も「ブラック・メタル」なのはBehemoth。彼らはブラック・メタル・バンドとしてスタートして、今ではデス・メタルというか、独自のサウンドになっているけれどね。それからDark Funeral。ギタリストが大ファンなんだ。
ー アルバムのタイトル『Imperium』にはどのような意味が込められているのでしょう。
ファビアン:『Imperium』というのはドイツ語で「empire(帝国)」という意味。今回は歌詞にドイツ語も多用したから、これがピッタリのタイトルだと思ったんだ。このアルバムはコンセプト・アルバムで、まあ俺たちの作品はどれもそうなのだけれど。前作の『Operation: Mental Castration』が新しいお話の始まりで、あれは主人公が未知の力によって精神を再教育されるというもの。その主人公は前作の最後で自殺をしてしまうのだけれど、今回のアルバムはその続きになっている。今回彼はヴァーチャルな世界で目覚めるのだけれど、そこではさらに倫理的な腐敗が進んでいる。そこで彼はヴァーチャルな世界を操る方法を学んでいくんだ。映画の『Matrix』みたいに。そして絶対権力者になっていく。完全に精神がおかしくなって、そのヴァーチャルな世界を支配するのさ。このディストピアのフレームワークに、俺たちの現実の世界の社会的問題を取り込んでいるんだ。
ー アートワークはそのお話を表現したものなのでしょうか。
ファビアン:そうだよ。歌詞では現代社会の問題、政治問題を取り上げている訳だから、アートワークも現代的なものにしたかった。アートワークを手がけたのはロビンという友人で、彼は3Dアートのクリエイターなんだ。前作のアートワークは主人公が手術室にいるというものだった。今回は、彼はデジタル世界、ヴァーチャルな世界で立ち上がっている。だけど彼の背中にはたくさんのコードがつながっていて、これは社会的、経済的、政治的な問題に縛られていることを示している。音楽は雰囲気を表現しなくてはいけないし、歌詞は俺たちが議論したい内容をインプットするもの。アートワークも同じ。音を聴いて、歌詞を読んで、アートワークを見る。そのいずれもがこの作品を手にしたファンに影響を与えるということ。
ー Acranius、Abbie Falls、Defocusのメンバーらがゲスト参加していますね。
ファビアン:Acraniusは長年の友人で、19年には一緒にツアーをして、たくさんのショウ、フェスティヴァルをやった。休みの時も会うくらい仲が良いんだ。Acraniusのヴォーカリスト、Björn(Frommberger)は、このアルバムのミックスとマスターを手がけてくれた。Abbie Falls、Defocusとは今年の4月に一緒にツアーをしてね。Defocusはホームタウンが同じだからよく知っているんだ。Abbie Fallsはチェコ出身の素晴らしいバンド。ツアーはクレイジーで最高に楽しかったから、その記念として彼らのシンガーに歌ってもらったんだ(笑)。
ー オールタイムのお気入りのアルバムを3枚教えてください。
ファビアン:おー、オールタイムの3枚か。順位はどうでもいい?Heaven Shall Burnの『Iconoclast』。それから、そうだな、Behemothの『Demigod』。あとはBring Me The Horizonの『That’s the Spirit』。あまりメタルっぽくないけれど、彼らは常に新しいことを試みるバンドで、そういう点において大きなインスピレーションを受けているよ。
ー では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
ファビアン:いつか日本に行って、その素晴らしいコミュニティの雰囲気を直に感じたい。いつか日本に行けないかと、本当に楽しみにしているよ。日本のファンが、新しいアルバムを気に入ってくれるといいな。そして俺たちの音楽を見つけて新たなファンになってくれる人がいたら嬉しいね。
文 川嶋未来