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グラフ・フォン・ベルゼバブ
(Mystic Circle)
独占インタビュー

ブラックウォーと俺が作業することで
化学反応も起こるし
俺一人ではこういう作品は作れない
ブラックウォーと一緒にやるから
こういうサウンドになるんだ

                                   

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文:川嶋未来

ドイツの伝説的2人組ブラック・メタル・バンド、ミスティック・サークルがニュー・アルバムをリリース。と言うことで、ヴォーカル/ギター/ベース/キーボード担当のグラフ・フォン・ベルゼバブに話を聞いてみた。

 

 

ー 前作はカムバック作ということで、16年ぶりのアルバムとなりました。今回は2年連続でアルバムのリリースです。物凄く早いペースですが、そのクリエイティヴィティはどこからやって来るのでしょう。

 

ベルゼバブ:うーん、よくわからないけど、どんどん曲ができるんだよ。俺たちはメンバーが2人しかいないから、いわゆるバンドという形態ではない。2人で会うと、曲を書いてデモを録音する。実は次のアルバム用のデモもすでに完成しているんだ。それを含めて、再結成以降のアルバム3枚はトリロジーと言える。コンセプトとしてではなく、例えばアートワークを同じアーティストが描いているといった、ある種の繋がりにおいてね。ブラックウォーと俺は興味のあることも同じで、音楽だけではなくホラー映画や神秘的な話などにハマっていて、一緒にいると大きなインスピレーションになるんだ。とにかく俺たちにとって曲を書くことは難しいことじゃない。

 

ー 今回のアルバムを、特に前作と比較して、どのように描写しますか。

 

ベルゼバブ:聴いてもらえればわかると思うけれど、今回の作品は、前作の延長でありながら、さらに広い音楽性を持っている。不協和音を使ったメタルのメロディやホラーからのインスピレーションがあって、歌詞のストーリーもバリエーションに富んでいる。アンチキリストやサタニックなものだけでなく、神秘的な話、ホラーっぽいものもある。「スキンウォーカー」のような古い話や、「モスマン」のような謎の化け物の話とかね。音楽も歌詞も幅が広がっているのさ。現代のテクニックを使えば、ホラー映画のサウンドトラックみたいな音を出すのも難しくないし。まさにミスティック・サークルとしてやりたいことだよ。

 

ー 今回『エルツデーモン』と、ドイツ語のタイトルになっています。これはなぜなのでしょう。

 

ベルゼバブ:これは良いタイトルだし、力強いものであると思う。英語にすると”Archdemon”(=大悪魔)で、ルシファーやバフォメットみたいに、位の高い地獄の悪魔のこと。俺にとってこのタイトルは、アルバムのヘヴィさを表しているものなんだ。ドイツ語は語感がハードだからね。アルバムはとてもエクストリームでプロダクションも良く、暗くてホラー、そしてメロディック。大悪魔の1人を召喚したら、きっとこのアルバムを聴いてくれると思うよ。

 

ー 一方で歌詞はすべて英語です。

 

ベルゼバブ:俺にとっては、ドイツ語で歌詞を書いて歌うという方が難しいんだ。だから英語に訳している。なぜかはわからないけれど、ドイツ語で歌うというのはしっくり来なくてね。ドイツ語で歌っているバンドもいるけれど、良いのもいるし、そうでないのもいるという感じ。今回みたいにタイトルにパンチとしてドイツ語を使うのは良いのだけれど、ドイツ語で歌うというのは満足できないんだ。次回のアルバムでも、曲のタイトルにはドイツ語を使っているけれど、現状ドイツ語で歌詞を書くということはないな。92年のデモでは2曲ドイツ語で歌ったけれど。

 

ー 先ほど少し話が出ましたが、「スキンウォーカー」はネイティヴ・アメリカンの話ですよね。

 

ベルゼバブ:そう。「スキンウォーカー」は、ネイティヴ・アメリカンに伝わる伝承で、シャーマンが儀式をして、狼や鹿にスキンウォーカーを取り憑かせて相手を呪うというもの。とても興味深い話だよ。

 

ー 「 ザ・スケアクロウ」はホラー映画からのインスピレーションですか。

 

ベルゼバブ:『ジーパーズ・クリーパーズ』などからインスピレーションを受けているけれど、ダイレクトに内容を反映している訳ではない。中身はオリジナルさ。カカシって怖いだろう?畑に立っていて、カラスが乗っかっていたり。そしてジッと見つめて来る。それが生を持って追いかけてきたら怖いだろうと思ってね。悪魔がカカシに取り憑いて、人を襲うという話。

 

 

 

ー 影響を受けたホラーのサウンドトラックはどのあたりでしょう。

 

ベルゼバブ:やっぱり80年代の作品かな。ダリオ・アルジェントの映画とかね。古い映画のサウンドにはとてもムードがあって恐ろしい。モダンなオーケストラのサウンドも使うけれど、80年代のサウンドというのが、アルバムに特別なムードを与えていると思う。

 

ー Fabio Frizziやゴブリンあたりですか。

 

ベルゼバブ:もちろん。ゴブリンは素晴らしいバンドだよ。イタリアに「トランシルヴァニア」というゴシック・クラブがあってね。以前そこのオーナーとやりとりそしていて、大晦日にそこでダリオ・アルジェントがピアノやオルガンを弾くというイベントがあることがわかった。見に来ないかと誘われたのだけど、行けなくて。行けたら最高だったよ。ダリオ・アルジェントという俺たちのヒーローに会えたかもしれないのだから。新しい作品はイマイチだけれど、『デモンズ』、『インフェルノ』、『サスペリア』みたいな古い作品は本当に素晴らしい。そうそう、新しい『サスペリア』は見た?

 

ー いえ、まだ見ていないんですよ。良かったですか。

 

ベルゼバブ:本当に素晴らしかったよ!あと『死霊のはらわた』のリメイクも良かった。とてもブルータルで。

 

ー テレビ・シリーズの方は見たのですが。

 

ベルゼバブ:あれも良かったよね!

 

ー あれは面白かったです。

 

ベルゼバブ:映画のリメイクも良かったよ。だけど『フライトナイト』のリメイクはイマイチだったな。

 

ー CGがなかった分、80年代の映画は独特の雰囲気というのがありましたよね。

 

ベルゼバブ:それはあるね。新しいのだと『死霊館』も良かった。『The Nun』も良かったな。最近はブルータルなものより、神秘的な雰囲気のあるものが好きなんだ。『The Nun』もとても雰囲気があって良かったよ。

 

ー 今回歌詞の中でアントン・ラヴェイを引用しています。あなたのサタニズムに関する見解はどのようなものでしょうか。

 

ベルゼバブ:俺たちはサタニズムのセクトというものに興味はないけれど、アントン・ラヴェイの書いたものは興味深い。彼はとてもイカしていて、60年代のとても保守的な時代のアメリカで、権威に楯突いたロックンロールな人物さ。保守的な教会とかにね。君の質問に答えると、サタニズムは、若い頃の俺には反逆だったけれど、今はもっと瞑想的なもの。バフォメットの置物などは、俺にとって非常に力強いものの象徴だし、その世界に入り込むと、色々なイメージが浮かんできて、力を保持できる。反逆の力として使うことができるんだ。瞑想的にね。このバカバカしい保守的な世界に対する力になるのさ。

 

ー 先ほど言われたように、今回も前作と同じくブラジルのアーティスト、Rafael Tavaresが手がけています。前回はアートワークと歌詞にリンクがないとのことでしたが、今回はやはり大悪魔が描かれているのでしょうか。

 

ベルゼバブ:そう、これは大悪魔。さっきも言ったように、これはトリロジーの2作目なんだ。ブラックウォーがアーティストにラフなスケッチを渡して、そこから自由な発想で描いてもらった。とは言え、俺たちは歌詞からヴィジュアルに至る面まで、きちんとしたコンセプトを持っているから、すべてをきちんとコントロールしているのだけれどね。音楽や歌詞だけでなく、CDのレイアウトも含め、すべて一つのヴィジョンになっているから。Rafaelは素晴らしいアーティストで、今回の仕上がりにもとても満足しているよ。前作との統一感もあるし。

 

 

ー 今回もニルス・レッサーをプロデューサーに迎えています。

 

ベルゼバブ:彼はとても経験が豊富で、3人目のメンバーという感じ。ブラックウォーと2人でデモを作って、それをニルスのところに持っていくと、一気にレベルが上がる。とても仕事もやりやすいし。とてもイカした人物で、素晴らしいミュージシャンでもあるんだ。

 

ー 現在ミスティック・サークルは2人編成ですが、新たにメンバーを入れるつもりはまったくないのでしょうか。

 

ベルゼバブ:ない。バンドはブラックウォーと俺だけ。ライヴをやるならば、ゲスト・ミュージシャンを迎えるけれど。2人で完全にバンドをコントロールするから、パーマネントのメンバーを入れると、問題が起こりかねないからね。2人のパートナーシップも素晴らしいし。

 

ー 前作リリース後、ライヴ活動はやっているのでしょうか。

 

ベルゼバブ:まだやっていない。オファーはあるのだけれど、まだ機は熟していない。もしライヴをやるならば、きちんとしたショウにしたいから。俺たちのヴィジョンをきちんとステージでも表現したいんだ。その時が来たら、ライヴもやるよ。

 

ー ミスティック・サークルを作ったバンドを5つ挙げるとしたらどうなりますか。

 

ベルゼバブ:おそらくブラックウォーはヴェノム。俺はアイアン・メイデン、ディーサイド、アリス・クーパー。他にもたくさんあるよ。初期のパラダイス・ロスト、セメタリー、アンリーシュト、ギャング・グリーン、アグノスティック・フロント。

 

ー ギャング・グリーンとはまた意外です。

 

ベルゼバブ:ゴリラ・ビスケッツも。

 

ー 素晴らしいバンドですね。

 

ベルゼバブ:AC/DCのようなメインストリームなバンドも。彼らは最高のライヴ・バンドさ。アイアン・メイデンも。87年の『Somewhere in Time』ツアーの時に彼らを見たよ。W.A.S.P.とのツアーだった。

 

ー 私も『Somewhere in Time』のツアーを見ましたが、日本では単独で、W.A.S.P.はいませんでした。

 

ベルゼバブ:初期のメタリカも良かった。今は普通のロックになってしまったから興味がないけれど、最初の2枚、あるいは『Master』まではブルータルだったからね。KISSも。俺たちの世代は、君はいくつ?

 

ー 53になったところです。

 

ベルゼバブ:それならわかるだろう。俺らの若いころは「ブラック・メタルしか聴かない」みたいなのではなく、ロックからエクストリーム・メタルまで何でも聴いただろ。オビチュアリー、モーゴスとか、ボルト・スロウワー、ナパーム・デス。若い頃に好きだったこういうバンドと一緒にライヴをする機会を得られて、とてもラッキーだよ。エントゥームドも大切なバンド。最初の2枚は素晴らしい。

 

ー ミスティック・サークルにとってメロディは非常に重要な要素だと思うのですが、これはどこにルーツがあるのでしょう。

 

ベルゼバブ:わからないな。メロディックなメタルからの影響もあると思うけれど、自分たちのやり方で不協和なメロディにしているからね。イーヴルなサウンドであるべきだから。「こういう曲を書こう」と考えるのではなく、頭で聴こえたものを曲にしていくから、どこにルーツがあるのかはよくわからないな。ブラックウォーと俺が作業することで化学反応も起こるし。俺一人ではこういう作品は作れない。ブラックウォーと一緒にやるからこういうサウンドになるんだ。

 

 

 

ー お気に入りのアルバムを5枚教えてください。

 

ベルゼバブ:そうだな、当時1日に2回は聴いていたのがアイアン・メイデンの『Live after Death』。目を閉じて、ブルース・ディッキンソンと一緒にLAのステージにいるところを想像しながら聴いていたよ(笑)。ディーサイドのファースト。本当に素晴らしいアルバムさ。それからAC/DCのライヴ。ボン・スコットのパリのやつね。KISSの『Alive』。ロックだと、ピーター・フランプトンやジミ・ヘンドリクスも好き。あとブロンディ(笑)。

 

ー ブロンディは素晴らしいですよね。

 

ベルゼバブ:パンクも色々好きなんだ。ラモーンズ、ゴリラ・ビスケッツ。そうそう、あとアリス・クーパーの『Raise Your Fist and Yell』。あれは人生で一番たくさん聴いたアルバムの一つ。87年にライヴを見た。ケイン・ロバーツがギターを弾いていたよ。ホラー風味たっぷりで、アリス・クーパーもまだ若かった(笑)。素晴らしいショウだったな。他にもたくさんあるよ。

 

ー ロック、パンク、デス・メタルと色々聴いてきて、結局ブラック・メタルをプレイするという選択をしたのは何故だったのでしょう。

 

ベルゼバブ:うーん、俺たちがピュアなブラック・メタルをやっているかはよくわからないな。特にダークスローンあたりと比べるとね。自分ではエクストリーム・ミュージックだと思っている。俺にとってはディーサイドもブラック・メタルだったし、また音楽性は違うけれどヴェノムもそうだろう。音的にはおそらくモーターヘッドっぽいロックンロールだけれど。自分としてはエクストリーム・メタルをやっているつもりで、それがブラック・メタルなのかは聴いている人たちが決めてくれればいいよ。俺がブラック・メタルで気に入っているのは、ウォー・ペイント。あれやコスチューム、スパイク、レザーなどを装着すると別人になれるし、音楽と共に俺たちの持っているピクチャーにピッタリ。ジーンズでステージに上がるより、ずっと良いだろ。俺はいつも絵に例えるのだけれど、俺たちというバンドは一つの大きな絵であり、音楽その他すべてがそこにピッタリハマらなくてはいけないんだ。だからウォー・ペイントをしてミスティック・サークルの世界に入るのさ。俺にとってブラック・メタルというのは、サタニックなもの、神秘主義的なものを扱うもので、音楽性というより歌詞に依る。もちろんブラック・メタルらしい音楽スタイルというはあると思うけれど、例えばクレイドル・オブ・フィルスなどはピュアなブラック・メタルじゃないだろ。彼らはゴシックからの影響も大きいし、俺たちの場合はトラディショナルなメタルからの影響が大きい。ただダークでエクストリームな音楽さ。今回のアルバムでは今まで一番遅い曲もやっている一方、「スキンウォーカー」なんかは物凄く速い。BPM240とか260じゃないかな。君だったら俺たちのスタイルをどう描写する?

 

ー ピュアなブラック・メタルではないにしても、ブラック・メタルが一番近いジャンルだと思います。少なくともデス・メタルやスラッシュ・メタルではないですし。

 

ベルゼバブ:そうだね。声のせいもあるだろうな。反論もあるだろうけれど、俺にとってはディーサイドも完全にブラック・メタルさ。あの歌詞やサタニックな反教会のイメージとかね。ヴォーカルはデス・メタルだけれど、俺にとってはブラック・メタルなのさ。

 

ー それはよくわかります。ディーサイドやモービッド・エンジェルなどは本当にイーヴルでしたよね。

 

ベルゼバブ:そうそう。ヴェノムにしても今で言うブラック・メタル・ヴォイスは使っていないし。

 

ー 最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。

 

ベルゼバブ:2枚目の日本盤がリリースされるということで、とても誇りに思っているし、とても楽しみにしているよ。日本でももっと有名になって、ぜひ日本でライヴがやりたいよ。俺たちはどちらもまだ日本に行ったことがないんだ。ファンはとても献身的だとか、日本については良い話しか聞かない。アルバムを気に入ってもらえるといいな。

 

文:川嶋未来

 


 

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2023年3月17日発売

Mystic Circle

『Erzdämon』

CD

【CD収録曲】

  1. エルツデーモン(パート 1)
  2. フロム・ヘル
  3. アンホーリー・トリニティ
  4. ザ・スケアクロウ
  5. アスモデウス・アンド・ザ・テンプル・オブ・ゴッド
  6. ウェルカム・トゥ・ザ・ミッドナイト・マス
  7. ザ・モスマン
  8. スキンウォーカー
  9. ザ・プリンセス・オブ・ザ・デッドリー・シンズ(エルツデーモン・パート 2)

 

【メンバー】
グラフ・フォン・ベルゼバブ (ヴォーカル、ギター、ベース、キーボード)
A・ブラックウォーアーゴン (ヴォーカル、ギター、ドラムス、キーボード)