ドイツの伝説的ブラック・メタル・バンド、ミスティック・サークルが復活、16年ぶりのアルバムをリリース!ということで、バンドのリーダーであるベルゼバブに話を聞いてみた。
ー そもそもエクストリームな音楽にハマったきっかけは何だったのですか。
ベルゼバブ:難しいな。最初はもっとリラックスした音楽、AC/DCなんかを聴いていた。80年代の初めね。その頃アイアン・メイデンやW.A.S.P.なんかが出てきて、俺はアイアン・メイデンの大ファンだったよ。アリス・クーパーのダークな面も大好きでね。その後はデス・メタル。デスやオビチュアリー。パラダイス・ロストも初期は素晴らしかった。俺にとってのエクストリーム・メタルのハイライトは、ディーサイドの『Decide』だった。あれには本当ブッ飛んだな。とにかくブルータルで。俺はずっとダークな音楽、霊的な話、ホラー映画なんかが好きでね。それで92年に俺のパートナーのブラック・ウォーと、このバンドを始めたのさ。
ー スラッシュ・メタルは通過しなかったのですか。
ベルゼバブ:うーん、タンカード、ソドム、ホーリー・モーゼスなんかは好きだった。スレイヤーはもちろん(笑)。アメリカのハードコアも好きだったよ。サークル・ジャークスやマッド・ボール、ミスフィッツとか。もちろんスラッシュ・メタルも好きだった。
ー ブラック・メタルとの出会いはどのようなものだったのでしょう。
ベルゼバブ:正直、ミスティック・サークルは、ピュアなブラック・メタル・バンドだとは思わない。というのも、ヘヴィメタルの要素が多いからね。メロディの面で、典型的なブラック・メタル・バンドとは違うよ。もちろん歌詞や音楽的にもダークで、不協和音も使うけれど、ピュアなブラック・メタルではない。ダーク・フューネラルなどは大好きだし、ロード・アーリマンとは連絡もとっていて、彼らはとてもクールな人たちさ。ブラック・メタルというのは闇のアートのフィールドであって、それ自体は好きだけれどね。
ー 「ミスティック・サークル」というバンド名にしたのは何故ですか。
ベルゼバブ:俺たちは神話や伝説、サタニックな話、ホラー映画なんかが大好きで、「ミスティック・サークル」という名前は、これらをすべて包括しているように思えるからさ。とてもこの名前を気に入っているよ。例えば「ピュア・スローター」なんていうバンド名よりも、多くのものを包含しうる名前だからね。
ー ミスティック・サークルは、ドイツ初のブラック・メタル・バンドの1つと捉えて良いのでしょうか。
ベルゼバブ:難しいな。90年代にはたくさんバンドがいたからね。世界的に名前が知られていたバンドの一つだとは思うけれど。多分ね。『Dracheblut』や『Infernal Satanic Verses』は、世界的に知られていたから。とにかくたくさんのバンドがいたよ。素晴らしいバンドもね。
ー 当時はどんなバンドから影響を受けていたのでしょう。
ベルゼバブ:やっぱりディーサイド、アイアン・メイデン。パラダイス・ロストからの影響もあったかもしれない。モーゴスやオビチュアリーのようなデス・メタルからの影響もあった。パンクからの影響もあったかもしれない。
ー いわゆる90年代のブラック・メタルよりも、デス・メタルからの影響が大きかったということですか。
ベルゼバブ:バンドを始めた頃は、いわゆるブラック・メタルというものも存在していなかったからね。もちろんダークスローンなどはいて、素晴らしかったけれど、彼らから影響は受けなかったな。でも、ヴェノムからの影響はあった。俺はヴェノムの大ファンだから。俺たちはあらゆる種類のエクストリーム・メタルだけでなく、ヘヴィメタルやロックからも影響されている。個人的にはAC/DCからも大きく影響されているからね。『Back In Black』は父親に聴かせてもらって、それ以来何千回も聴いているよ。『If You Want Blood, You’ve Got It』なんか最高だよね。
ー シンフォニックなパートはどこからの影響なのでしょう。クラシック、あるいはホラーのサウンドトラックでしょうか。
ベルゼバブ:俺たちはホラー映画の大ファンだからね。ホラーのサウンドトラックも大好きだよ。
ー お気に入りのサウンドトラックは何でしょう。
ベルゼバブ:たくさんありすぎるけど、ダリオ・アルジェントが大好きなんだ。彼と一緒に仕事をすることが夢なんだけどね(笑)。『サスペリア』などは最高だよ。
ー 2008年に一度解散していますが。
ベルゼバブ:実際は2007年に解散したんだ。単純な理由で、もうバンドを続ける気がしなかったのさ。ツアーをしてアルバムをレコーディングしてというのを繰り返していて、やる気がなくなってしまった。やる気を喪失したから、音楽も書けなくなってしまった。それでやめた。自分の気持ちに正直に従ったのさ。もう十分だった。
ー その後は何をしていたのですか。
ベルゼバブ:主にパンク・バンドに10年間ほどいて、ツアーをやっていた。だけど、音楽は書いていなかったよ。
ー 今回復活しようと思ったきっかけは何だったのでしょう。
ベルゼバブ:1992年に一緒にバンドを始めたパートナーに再会してね。バンドを復活させる2年くらい前のことさ。彼が「ミスティック・サークルをまたやる気があるのなら、何曲が出来上がっているのだけど」と言われてね。それで話し合って、オールド・スピリットを復活させようと。翌日数曲デモ録りをしてみたら、とても出来が良くて。オールド・スピリットが感じられたから、これを発表しようということになって、運良くアトミック・ファイアと契約もできた。パートナーは99年にバンドを去っているから、今回のアルバムは、(99年リリースの)『Infernal Satanic Verses』に直接つながる作品なんだ。
ー アトミック・ファイアとはどのように契約をしたのでしょう。
ベルゼバブ:マルクス・ヴォスギーン(アトミック・ファイアーのCEO)とは長い友人だからね。曲を送ったら気に入ってくれて、新しいレーベルを始めるというので話をして、もしアルバムを作るのなら契約をしようと。
ー アルバムは2人だけで作られています。バンド編成をとらなかったのは何故ですか。
ベルゼバブ:自分たちの芸術を語り合える人間が5人いなかったからさ。もちろんライヴをやることになったら、ゲスト・ミュージシャンを雇うことになるけれど、バンドのメンバーは2人だけ。どちらか片方がやめたら、そこでバンドはおしまいさ。
ー 新作は過去の作品に比べてどのような点が異なる、あるいは進歩していると言えるでしょう。
ベルゼバブ:個人的にはテクニカルな面やサウンドが改善していると思う。だけど、さっきも言ったように、これは1999年の『Infernal Satanic Verses』からダイレクトにつながる作品だからね。あの作品の次にリリースされるべきだったアルバムだよ。今回はクラシック音楽からの影響はあまり使わず、不協和音程やホラーのサンプルをたくさん使った。サントラからの影響が大きいから、『Dracheblut』や『Infernal Satanic Verses』よりもダークな作品だと思う。君はどう思った?
ー プロダクション的に間違いなくミスティック・サークル史上最高のものになっていますよね。非常にパワフルで。
ベルゼバブ:ダークスローンのようなロウな音質にしなかった理由はそこなんだ。最近のマシーン・ヘッドみたいなフルパワーが欲しかったんだ。そういう音質を想定して曲を書いたのさ。
ー 今回タイトルを『ミスティック・サークル』としたのは何故ですか。
ベルゼバブ:単純にカムバック・アルバムだし、非常に強力な作品だと思ったからさ。ハロウィンの『Helloween』みたいなもので、作品にとても誇りを持っているし。それほど大袈裟なことでもないのだけれど(笑)。
ー ポゼストのカヴァーが収録されています。
ベルゼバブ:ポゼストはエクストリーム・ダーク・サタニック・メタルのゴッドファーザーの1つだからね。スラッシュ・メタルだけれど、当時は非常にブルータルで、ルーツだから。俺たちが若い頃、ポゼストというのは大物だっただろう。それにあの曲はイカしているしね。友人のゴモラというバンドのペーター・ケーニッヒにも参加してもらったんだ。このバンドは知ってる?
ー 80年代からやっているバンドですよね。
ベルゼバブ:そう、よくリハーサルにも遊びに行っていたから、個人的には大きな影響を受けたバンドさ。彼の声はとてもストロングだし。
ー このバンドはアルバムは出していないのですよね。
ベルゼバブ:数年前に復活して、ミニCDは出しているけれどね。
ー 歌詞はとてもストレートなサタニックなものが主ですが、どのようなところからインスピレーションを得たのでしょう。
ベルゼバブ:あらゆるところからさ。俺の頭の中にあるものから、ミスティカル・ストーリー、ホラー映画、それからメディテーションもやる。目を瞑ると頭の中に何かが浮かんでくるんだ。「レター・フロム・ザ・デヴィル」は、1676年に起こった修道女の事件からインスピレーションを受けている。夜になると悪魔の声が聞こえて、彼女はそれを血の手紙に書き記していたんだ。これは実話とされている霊的な話だよ。
ー アートワークは何を表しているのですか。
ベルゼバブ:ラファエル・タヴァラスという素晴らしいブラジルのアーティストによるもので、彼はタトゥー・アーティストでもあるんだ。司祭が死の書を読んでいて、誘惑の手が伸びている。本は聖書のように見えるけれど、聖書ではなくて、邪悪な本であり、読む者をアンチクライストに変えてしまう。この本を題材にしたミュージック・ヴィデオのトリロジーを作っているんだ。
ー このアートワークはアルバム収録曲の歌詞に基づいている訳ではないのですか。
ベルゼバブ:いや、歌詞には基づいていない。アーティストには、こういうアートワークが欲しいということは伝えてけれど、歌詞は送らなかった。だけど、出来上がったものは素晴らしかったし、歌詞の内容と見比べてみても、一切違和感はなかったからね。
ー アルバム・リリース後の予定はどうなっていますか。具体的にライヴの予定はあるのでしょうか。
ベルゼバブ:いや、来年はライヴの予定は入っていない。もしライヴをやるのなら、ゲスト・ミュージシャンを迎えてビッグなショウをやるけれど。1月には次のアルバムのレコーディングでスタジオに入るよ。サプライズもあるし、新しいヴィデオも作る。素晴らしいアーティストとも一緒にある予定がある。もっとホラーらしい、フリーキーなものにしたいと思っている。色々と計画はあるのだけれど、CDが20枚しか売れなかったら、実現できないな(笑)。
ー お気に入りのアルバムを3枚教えてください。
ベルゼバブ:(笑)。そうだな、AC/DCの『Back in Black』。それからもちろんディーサイドの『Deicide』。あとは、アイアン・メイデンの『Live after Death』。他にも色々あるけれど、人生の中で一番聴いたアルバムとなると、この3枚かな。
ー お気に入りのヴォーカリストとなるとどうでしょう。
ベルゼバブ:そうだなあ。ブルース・ディッキンソンはクールだし、グレン・ベントンの声質も好き。スリップノットのコリー・テイラーも素晴らしいシンガーだ。クリス・バーンズは素晴らしいグラウラーだし、たくさんいるよ。まあパフォーマーという点では、やっぱりブルース・ディッキンソンと80年代のアリス・クーパーかな。
ー では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
ベルゼバブ:俺たちは復活をしたので、新しいアルバムを気に入ってもらえるといいな。サポートしてくれ(笑)。日本盤が出るのはとてもうれしいよ。すべてのバンドが出来ることではないからね。ありがとう。
文 川嶋未来