アメリカが誇るハードロック・バンド、アルター・ブリッジがニュー・アルバムをリリース。と言うことで、スラッシュとのコラボでも知られるヴォーカリスト/ギタリストのマイルス・ケネディに話を聞いてみた。
ー ニュー・アルバム『ポーンズ&キングス』がリリースになります。前作と比べて、どのような点が進歩していると言えるでしょう。
マイルス:進歩か(笑)。いつも進歩があることを期待しているけれど、数年前から作り方を変えていて、前作くらいから、デモ作りにより時間をかけるようになったんだ。バンドに渡す前にね。マークと俺が主なソングライターなのだけど、より時間をかけて、デモに磨きをかけるんだ。以前はアイデアの断片とか、核の部分だけだったりしたのだけど、少なくとも俺に関しては、バンドに渡す前に洗練したものにできるようになってきたと思う。みんなの時間を無駄にせず、ベストな結果が得られるようにね。
ー レコーディングはパンデミック中に行われたのでしょうか。
マイルス:パンデミックから抜け出す頃さ。マークはわからないけれど、俺は21年の12月くらいから3-4月にレコーディングを始めるまで曲を書いていて、その時点ですでにパンデミックは終わりかけていたよ。
ー パンデミックやロックダウンは曲作りに影響したと思いますか。
マイルス:ツアーもなく、たくさん時間があったということはある。このアルバムの前に、自分のソロとスラッシュとの作品も作って、グルーヴの中にいると言うのかな、たくさん曲を書いたよ。マークも同じだろう。曲作りのための筋肉をずっと使っていたから、このアルバムを作る準備は万全だったと言えるね。
ー 『ポーンズ&キングス』というタイトルにはどのような意味が込められているのですか。タイトルトラックは、ダヴィデとゴリアテの物語に基づいているとのことですが。
マイルス:聖書のダヴィデとゴリアテの物語そのままではなく、何か巨大だと思われるものを克服するというコンセプトさ。つまり元気づけの曲。負け犬を奮い立たせるもの。とても倒せそうにない恐ろしい敵に対峙した時にね。ダヴィデとゴリアテは、小男が大男を倒すわかりやすいお話だからね(笑)。
ー 歌詞に関しては、どのようなところからインスピレーションを得るのでしょう。
マイルス:うーん、時によるな。アルター・ブリッジに関しては、多くは個人的なもの。俺やマークが人生で経験してきたこと。自分たちの周りの世界で起こっていること対する立場を表明したり、だけどあまり直接的にならないように注意はしているよ。あまりに直接的だと、時代遅れになりうるから。今起こっていることについてコメントしたものは、10年後に聴いたら共感を得られないかもしれない。だから、インスピレーションを受けたものを、あまり直接的にならないよう、ある程度曖昧なものにするんだ。これがアルバムを作るごとに学んだテクニックだよ。
ー 先ほどソロやスラッシュとの作品の話が出ましたが、歌い方や曲作りについて、プロジェクトによって違いはあるのでしょうか。
マイルス:曲作りについては、間違いなく違いはある。スラッシュの場合は、彼がリフやコード進行のデモを送ってきて、そこに俺がメロディや歌詞をつける。アルター・ブリッジでは、基本的に俺が音楽的アイデアを考えて歌って、あるいはマークが曲を考えて俺が歌う。曲によってプロセスは少々異なるけどね。ソロではすべて俺次第。パートナーがいないから、ソロではやることが多くなる。
ー 3つの中で一番のお気に入りを選ぶとしたら、どれになりますか。
マイルス:(笑)。それは難しい質問だな!そうだね、ソロでやる挑戦はとても気に入っているよ。1人で曲作りをするというのは、信じられないような仕事だよ。それがとても気に入っている。一方で、コラボレーションも大好き。共犯者がいなければ(笑)、レコードはかなり違った内容になるだろう。だから、コラボレーションも楽しいんだ。まあでも3つのうちどれがお気に入りかと聞かれたら、黙秘するしかない。どの子供がお気に入りかと答えるようなものだからね。言ったらトラブルになってしまうよ(笑)。
ー そもそも音楽にハマったきっかけは何だったのでしょう。
マイルス:信じられないかもしれないけれど、母親が俺に楽器をやらせたがってね。まだ俺が小さい頃。俺はやりたくなかったのだけど、音楽はいつも大好きだった。最初の音楽に関する記憶は、セサミストリートに出ていたスティーヴィー・ワンダー。「何だこれは、凄いぞ!」なんて思って。それから9歳か10歳の頃、母親が自分は小さい頃にチャンスがなかったからと、俺に楽器をやらせたがって、トランペットを借りてきたんだ。14歳でギターを始める前、わりと長い間トランペットをやっていたんだ。
ー トランペットが初めて演奏した楽器だったんですね。
マイルス:そうなんだよ。
ー では、自分がシンガーとして生まれたのだと認識したのはいつですか。
マイルス:うーん、いまだその時を待っているよ(笑)。いつの日かシンガーになれると良いのだけど(笑)。子供の頃、自分はある程度歌が歌えると気づいたけれど、シンガーにはなりたくなかったんだ。シンガーというのはフロントマンで、俺はドラマーと一緒にギターをプレイして、時々ソロを弾く方が良かったから。自分で曲を書くようになって、シンガーが多くいる地域に住んでいたこともあって、自分で歌うことを学んだ方が良いと気づいたんだ。
ー トランペットとギター以外の楽器も演奏するのですか。
マイルス:とても下手くそだけどピアノ。音楽学校に通っていた時に、ピアノの授業を何年か受けたのだけど、真面目にやらなくて、後悔しているよ。ピアノが上手く弾けたら良いのだけど、真面目に授業を受けなかったから。
ー ギタリストの視点から、マーク・トレモンティというギタリストをどう見ますか。
マイルス:ギタリストという視点から言うと、彼は自分のサウンドを作り出していて、その素晴らしいところは彼のプレイだとすぐにわかるところさ。スラッシュもそう。聴けば彼らだとわかる。これは簡単なことではないよ。彼は素晴らしいリフ・ライターで、彼のリフへのアプローチや音楽的ヴィジョンをずっと気に入っている。それにここ何十年かで、彼はリード・プレイヤーとしての本領も発揮するようになった。おそらく20年前は、自分のことをリード・プレイヤーだとは考えていなかっただろう。あれから時間をかけて、良いリード・プレイヤーへと成長したのさ。彼のそういう進化を見るのはとてもクールだったよ。
ー お気に入りのヴォーカリスト、ギタリストは誰でしょう。
マイルス:うーん、たくさんいるよ。ヴォーカルとなると、ロックでない多くのヴォーカリスト。エラ・フィッツジェラルドも大好きだし、ビリー・ホリデイ、スティーヴィー・ワンダーも。ジェフ・バックリィからの影響も大きいよ。もちろんロバート・プラント、王者フレディ・マーキュリーも。ギタリストとなると、ロック関連だとジミー・ペイジ、エディ・ヴァン・ヘイレン。俺はビートルズのジョージ・ハリソンの大ファンでもある。彼のギターのアプローチには何かがあるんだ。彼はその曲のためにギターを弾いていると言うか、彼のパートはその曲にとって完璧なものなんだ。スライドギターとか、本当に彼特有のもので、頭から離れないし、痛いほど美しい。彼の存在は大きいよ。
ー 先ほど楽器についての話は出ましたが、聴いていた音楽となるとどうでしょう。子供の頃はどんなものを聴いていたのですか。
マイルス:子供の頃は、そうだな、ラジオでかかっているものを多く聴いていたな。レコードを買うようになるまでは、FMのラジオを聴いていた。初めて買ったレコードは、クイーンの『News of the World』で、次は確かボストンのファースト・アルバムだったと思う。他にもビートルズのシングルやエルトン・ジョンなんかも持っていて、それから10代になると、ハードロックに出会ったんだ(笑)。ジューダス・プリースト、アイアン・メイデン、ヴァン・ヘイレン、ツェッペリンとか。始めの頃はそんな風に進んでいったのさ。
ー 最近はどんなものを聴いているのですか。
マイルス:すっかり取り憑かれていて、夏が始まる頃から、つまりここ1ヶ月ほど毎日ビートルズばかりを聴いている。妻と一緒にシルク・ド・ソレイユの『Love』というショウを見に行ってね。ラスヴェガスで行われたとても美しいショウで、ビートルズの曲だけが使われていて、あれを見たあと、これまでに書かれて録音された最高の曲だと思って、ソングライターとして感銘を受けた。そこから抜け出せなくなって、今朝も初期のアルバムを聴きながら、曲を分析していたんだ。ビートルズ大学に通っているようなものさ(笑)。
ー どの時期が一番お好きですか。
マイルス:キャリアの後半だね。実験的なことを始めた『Revolver』以降。『Abbey Road』が一番好きかもしれない。だけど全部が良いからね、どれが一番かというのは難しいな。
ー 映画『ロックスター』に出演されていますよね。
マイルス:そうなんだよ。楽しかったよ。撮影が2000年で、当時演技の経験なんてなかったのに、マネージャーから「映画の話が来ているけれど、興味があるか」と言われて、演技の経験もないのに何で俺がと思ったのだけど、歌えてその役柄になれる人物が欲しいと。それで飛行機で行って、やったんだ。「君の演技が気に入っているよ」なんて言われるのだけど、俺は別に演技をした訳でもなく、俺はただあの場でエキサイトしていただけなんだよ(笑)。マーク・ウォールバーグなんかもいてさ。ただあの役柄になったみたいに感じていただけ。何で俺はこんなところにいるんだ、すげえって。20年経っても話題にのぼるだろうなんて思いもしなかったからね。誰も思わなかっただろう。ある意味カルトなクラシックになったから。あの映画の話をするのは楽しいよ。みんなあれは地毛だと思っているけれど、カツラだよ(笑)。
ー クリス・ジェリコのバンドにも一曲参加していますよね。
マイルス:確か2004年、マークとアトランタのTree Studioにいた時に、クリスも同じスタジオにいたんだ。それで一曲参加しないかと誘われて、彼らの部屋に行って、マークはギターを弾いて、俺は確かサビを歌ったんだったと思う。
ー タトゥーにもこだわりがおありとのことですが、日本の刺青にも興味をお持ちですか。
マイルス:実は、日本で刺青を学んできた友人がいるんだ。彼にタトゥーを入れてもらったことはないのだけど、話はしていて、日本のはプロセスが全然違うのだと言っていた。歴史もあるし、正真正銘の芸術形態だから、スケジュールが合えばやってみたい。日本式でないタトゥーは、もうこれ以上入れるつもりはないんだ。もうさんざん経験したから、やるならばオリジナルの方法を試してみたい。
ー 今日のロック・シーンをどう見ますか。80年代、90年代と比べていかがでしょう。
マイルス:80年代、90年代と比べると、間違いなく違うものになっている。ストリーミングなんかもあるしね。かつてはレコードをプロモートするために、ツアーをやった。70年代、80年代はね。ところが今は、基本的にツアーをプロモートするためにレコードを作るのさ。まったく逆になっている。資金的な面でも変化がある。ビジネスとしても厳しくて、レコード会社も80年代みたいに大量の資金を注ぎ込むことができない。そういうクレイジーな時代は去ってしまった。でも、それは良いことだと思うよ。人々は正しい理由で音楽をやって、つまるところ俺たちはただこの世界で生き残ろうとしていて、キャリアが長いのであれば、正しい理由、つまり音楽を本当に愛しているからやるべきなんだ。かつてはロックスターやその生活に憧れて音楽をやる人たちもいたけれど、時代が変わって、今では音楽を愛していなくてはやれないからね。俺も音楽を愛しているし、バンドメイトもそう。
ー 若いミュージシャンにアドヴァイスはありますか。最近はYouTube等の影響で、演奏能力は飛躍的に高まっているものの、ある種のオリジナリティが失われている感じもします。
マイルス:それはとても良いポイントだと思う。テクニックという点では本当に優れている。たくさんの情報があるからね。俺が若い頃、ギターを始めようと思ったら、まずは耳を使って弾いてみて、それから教則ヴィデオを見て、なんていう感じだったけれど、今はソロについて知りたいと思ったら、スマホのボタンを押すだけ。それは素晴らしいことではある。そういう情報を引き出せるようになる以前は、自分のサウンドを進歩させるしかない部分があった。1人で練習して、曲を書いて、自分という存在を作り出す。それは今でも可能なんだ。視聴できる音楽だけじゃなく、その他気を散らされる情報についても同じ。俺はこの6ヶ月、スマホを使わないようにしていた。あまりにスマホの画面をスクロールばかりしていて、もっと曲を書いたり、演奏したり、ミュージシャンとして自分のアートに時間を割くべきだと思ったから。アーティストとして自分は何者なのかを知る障害になるものがたくさんあるんだ。簡単なことではないけれど、若いプレイヤーへのアドヴァイスとしては、じっくりと時間をかけて洗練していくこと。非常に難しいことだけれど、自分自身というものを見つけ始められれば、そう、さっき君がマーク・トレモンティについて質問したけれど、マークのどこが優れているかと言うと、いくつかの音符を弾けば、彼だとわかるところさ。時間をかけて彼という存在を作り上げているから。そこが難しいところ。たくさん時間をかけて、それを追求するんだよ。
ー オールタイムのお気に入りのアルバム3枚を教えてください。
マイルス:オールタイムのトップ3か。マイルス・デイヴィスの『Kind of Blue』。これは間違いなく入る。少々変なリストになるかもしれないけれど、スティーリー・ダンの『Aja』。これも大好き。それから、そうだな、マーヴィン・ゲイの『What’s Going On』。
ー では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
マイルス:最後に日本に行ってから、随分と時間が経ってしまっているから、また日本に行ってロックしなくちゃならないな。近々みんなに会えることを楽しみにしているよ。
文 川嶋未来