自身の音楽活動50周年を記念するツアーで4年ぶりの来日を果たしたマイケル・シェンカーに、インタビューを敢行。今回のツアーのことやミュージシャンとしての心構え、さらにはAC/DCについてなど、どんなトピックであっても、独自の視点で非常に興味深い答えを返してくれた。
ー 前回の日本公演は中止。ファンにとって待ちに待っていた今回の公演、昨日の観客の反応はどうでしたか?
マイケル:まず、あんなにたくさんのファンたちに再会できて素晴らしかったよ。何か変な感じがしたのだけど、コンサートをやり遂げてみてそれが何かわかったんだ。何かがおかしいと思っていてね。マスクだよ!オーディエンスがマスクをしているのを見たことがなかったから。とても違っていたけれど、とても素晴らしかった。だけど、みんなの笑顔が見えなかったからね。僕はみんなの笑顔のためにプレイするから。それが報酬なんだ。あんなにたくさんのマスクをしている人たちの前でプレイするのは、とても変わったシチュエーションだったな。
ー こういう状況は日本特有のものですか。
マイケル:そう、日本だけだよ。
ー 日本のファンとの強い絆についてあなたはどう考えていますか?
マイケル:マスクがなければ素晴らしいものなのだけどね(笑)。何が起きているのかを見たり感じたりするのが難しいんだ。手の動きや口元の動きしかわからないから。表情というのはとても重要なのさ。
ー 今回の公演はあなたの音楽活動50周年でしたが、もう50周年という感覚ですか、まだ50周年という感覚のどちらですか?
マイケル:あっという間さ。年をとるほど時の流れは早くなる。台風、ブラックホール、排水溝。全部同じ。(註:中心部の方が流れが早いということ)年を取ると、あらゆることが早くなっていくんだ。残念ながらね(笑)。
ー キャリアの最初の頃、50年後もまだプレイしていると思いましたか。
マイケル:いつもわかっていたよ。それが僕の人生だから。それが僕というものなのさ。
ー ニューアルバムは素晴らしい仕上がりでしたが、あなたは今なお成長しながらソングライティングを続けていますね。自身はその自分の成長をどうみていますか。
マイケル:というよりも、自分自身であり続けるということだよ。自分自身であり続けるということは時間を超越していて、僕は成長しているのではなく、ギターはうまくなっているかもしれないし、少々やり方を変えて過去にやっていないことをやったり、違った表現が出てきたりはする。だけど、基本的に僕が人生でやってきたのは、自分自身であること。僕はいかなるトレンドも追わないから、内面から出て来るものはどれもある意味ユニークで、それは僕が僕であり続けるからであり、僕以外の誰も僕ではないから。僕のやることをやれるのは僕だけで、そうやって僕は僕という人間のユニークさを表現しているんだ。誰でもできることだけれど、これをやろうとするものは多くないよ。
ー つまり成長とはみなさないということですね。
マイケル:年とともに成長するなんていうことはないよ。精神においてはね。自己表現は時を超越していて、常に現在があるだけさ。
ー 他の人にとってはなかなか難しいことだと思います。
マイケル:そうだろうね。名声やお金、成功を追い求めているなら、それをやるのは無理。うまくいかないよ。いつも近道を探して、他人と競争して、ということになるから。僕は競争もしないし近道もしない。近道をする理由がないんだ。自分自身でいるだけだから。
ー あなたの周りにはいつも素晴らしいミュージシャンがいますが、今回ツアーのメンバーも素晴らしいですね。あなたはどういう基準でツアーメンバーを選んでいますか?
マイケル:僕が選んでるのではないよ。彼らの方からやって来るんだ。そして去って、またやって来て、去って、また来る。誰かが去ると、別の者が現れる。いつも誰かが現れるのさ。
ー つまりとても自然な営みだということですか。
マイケル:そう、自然と起こる。誰かが他のことをやらなくてはならず、参加できなくなったり、例えばロニーは他に3つのバンドをやっている。僕はそれをダメだと言うことはできるけれど、ロニーが参加できるなら、ロニーとやればいい。ヨーロッパでプレイした時、彼はスペインに来ることができず、ヨーロッパ・ツアーに参加できなかったのだけど、幸いロビン・マッコーリーの予定が空いていたんだ。ロビン・マッコーリーも素晴らしいし、ロニーも素晴らしい。2人とも素晴らしいよ。彼らは参加できるのであれば、参加したいと考えている。ロビンもロニーも参加できないとなったら、大変だけれど。新しいシンガーを見つけて、一からリハーサルをしてということになるからね。
ー 一緒にやる相手を選ぶにあたって、何か基準はないのですか。音楽的なこと、あるいは人間的なことであったりとか。
マイケル:声、それから良いカリスマ性があること。シンガーはカリスマがあるべきだから。まあでも良い声をしていることだね。
ー あなたは数多くのボーカリストと仕事をしてきましたがロニー・ロメロの魅力はどこにありますか?
マイケル:ロニーは素晴らしいよ。若いし、存在感もあるし、レンジも広い。絶対音感もあるし。「セイルズ・イン・ザ・ダークネス」の”There is no return”というフレーズを、音を聴かずに完璧なピッチで歌うからね。それに彼はモノマネもうまい。誰のようにも歌うことができるんだ。僕はたくさんのヴォーカリストと一緒にやってきたけれど、彼はフィル・モグみたいにも歌える。声の本質的キャラクターを捉えることができるんだ。とても合っているよ。リッチー・ブラックモアにピッタリなら、僕にもピッタリということさ。リッチーが彼を見つけて、リッチーもたくさんの素晴らしいヴォーカリストたちと一緒にやってきたよね。リッチーもロニーみたいなヴォーカリストが必要だったんだ。グラハムやロニー・ジェイムズ・ディオみたいに歌える人物が。僕も同じシチュエーションで、僕とって完璧にフィットするヴォーカリストなんだ。
ー セットリストはどのようにして決めているのですか。長いキャリアの中から選ぶのは難しいでしょうか。
マイケル:いや、これまではそれほど難しくなかった。だけど、パンデミックになって長い間プレイできず、少々ルーチンを失ってしまったからね。セットリストはとってあるけれど、日付が入っていないものもあって、どの曲をいつプレイしたのかわからないことがある。何をセットリストに入れるべきか、しばらくやっていない曲はどれかを知るのに、少々時間がかかるんだ。みんなが聴きたがるけれど、セットに入れられない曲もたくさんある。だから新しいツアーになると、やり過ぎた曲をはずして、聴かれるべき別のを入れるんだ。
ー 今回のセットにはUFOの楽曲がたくさん入っていましたが、これは何故ですか。
マイケル:50周年の一部だからね。ちょうど50年前、僕は飛行機に乗って、ドイツからロンドンに行き、UFOに入った。そして1973年に、UFOで最初のアルバムを録音して、74年にリリースされたのだと思う。UFOの曲を再録しようと思っているんだ。50周年記念でね。フライングVの50周年記念でギブソンも招待しようとも思っているよ。こういうことや、僕自身の音楽も合わせて、いくつか計画があるんだ。
ー 昨晩のステージでは、あなたはほとんど喋りませんでした。いつもはもっとMCをたくさんやる印象があるのですが。
マイケル:いいかい、僕についてはいかなることも予想すべきではないよ(笑)。次どうなるかはわからないのだから。喋るべきでも喋らないべきでもなく、喋る理由があれば喋るし、そうでなければ喋らない。今回はあまり喋る理由がないんだ。兄貴のこととかについて、ちょっと喋り過ぎたからね(笑)。もうあれはお終い。喋り続ける必要はない。言うべきことは言ったから。今現在は50周年をやっていて、セットもピッタリで、基本的にここ日本でこのツアーは終わり。来年はいくつかのフェスティヴァルに出て、次のアルバムをいつ録音するかを考えなくちゃいけなくて、そしてまたそこから始まっていく。その時はもっとUFOの曲をやるだろう。その時点で、僕が書いたUFOの曲を再録していたら、セットはMSGの曲とミックスしたまた違ったものになっているだろう。それが僕の関心事なんだ。50周年だから、そこを大切にしたい。新しい世代の中には知らない人もいる。UFOの作曲クレジットは、シェンカー/モグとなっていて、マイケル・シェンカーとはなっていない。ルドルフ・シェンカーかもしれないし、他のシェンカーかもしれない。リミックス・ヴァージョンでは、クレジットすら入っていない。だから新しい世代は誰が曲を書いたかわからず、UFOというのが大きなブランド・ネームになっている。72年から78年の間、僕が注入したエネルギーに基づいてね。それ以降は何も起こっていない。ブランド・ネームはその間だけのもの。僕がいたからさ。だけど今日、中国、インド、ロシア、たくさんの新世代の子たちはあれらのアルバムで誰が演奏しているのかも知らない。50年も前のことだから。君は生まれる50年前の出来事を知っているかい?僕も1920年に何が起こったかなんて、まったくわからないよ(笑)。今日の人々たちも同じ。話をでっち上げたり歪めたりもあるし。僕の兄貴は僕をコピーして、黒と白のフライングVを使って、ルックスも真似をして、僕という存在からパワーを盗んだ。僕が作り上げたイメージからとって、それを歪めて。インターネットでマイケル・シェンカーと検索してみると、スコーピオンズやUFOに関することは出てこない。だから、みんな僕の音楽は80年代に生まれたと思っているんだ。だけど、実際は70年代に大きな大きな歴史があって、それが80年代に影響を与えている。多くの人はそれに気づいていないから、歴史を今日に取り戻す必要があると思ったのさ。みんなが歴史を理解できるようにね。失われてしまっているから、重要なことだと思う。6番目のメンバーだったにもかかわらず、『Lovedrive』に僕の写真は載っていない。僕はUFOとの最後のアルバムを78年に録音して、これは79年にリリースされた。スコーピオンズとの最後のアルバムも78年に録音をして、これも79年にリリースされた。そして僕は両方のバンドを抜けて、1年間空白の時間を過ごした。髪を切って、別人になった。多くの人にはわからないだろうけれど、79年に両方のアルバムがリリースされたというのは特筆すべきこと。僕がシーンから姿を消している間にね。そういうちょっとしたことを振り返って、起こったことはさらにきちんと認識して、みんなにもそれを知ってもらうのは良いことさ。僕にとって、今これをやるのは興味深いことだと思うんだ。
ー ニューアルバムに収録された楽曲はライヴで更に映える良さを感じさせましたが、実際ライヴでやってみてどうでしたか?やはり、ライヴでさらに良さが際立ちましたか。
マイケル:アルバムとは違うよ。プレイする場所の環境もあるから、サウンドが違うんだ。人々への聴こえ方が、アルバムとは違う。スタジオ・アルバムとライヴは別物なのさ。
ー あなたの音楽やギタープレイは、後続のアーティストやファンに素晴らしい影響を与えています。今、マイケルの創作活動のインスピレーションの源はなんですか?自分自身ですか。
マイケル:自分のインスピレーションがどこから来ているのかはわからないけれど、おそらく内面からじゃないかな。僕は歌詞を書かないからね。歌詞を書くなら、どんなことが起こっているかみたいな外部からインスピレーションを得るのかもしれないけれど、音楽を書くのはもっとスピリチュアルなものだから。内面から出てくるもの、結局自己表現だよ。
ー あなたは自分のスタイルを貫いてきました!今、多くの若者たちが自信をなくして生き方を探しているような気がします!そういう若者たちにマイケルから何かアドバイスをお願いします。
マイケル:それは人生に何を求めるか次第だよ。有名になりたい、成功したい、他人と競争したいというのであれば、僕はアドバイザーとして不適切だろう。僕はそういうことをしないから、何を言うべきかわからない。だけど、もし君がスピリットというものをもっと感じて、僕は表現することが好きだからね、ギターを弾いて何かを作り出すだけでハッピーなんだ。それに加えて何が起こるかは、おまけでしかない。絵を描いたり、服のデザインをしたり、ギターをプレイしたり、君がもしアーティストなら、すでにやっていることを楽しんでいるはずであり、それ自体が報酬なのさ。それで賞を得たり、ギタリストとして雑誌に載ったりしても、それはおまけ。アートそれ自体が楽しめるものなんだ。と言うのも、理論上、そして事実上、アートは楽しまれるべきもの。楽しんで作られた真のアートであれば、君はすでにその中ですべてを手にしている。幸せという観点から言うとね。だけど、もし君が何かを追い求めて、ラットレースに参加するのなら、僕は明確な理由でその道は通らなかったからね。ラットレースには多くの幸せが約束されているとは思わないよ。
ー 最近はYouTubeなどを通じて大量の情報を簡単に得ることができます。最近のミュージシャンの状況は、かつてよりも良いものになっていると思いますか。若いミュージシャンへのアドバイスはありますか。
マイケル:すべてのものを一つの鍋に入れることはできない。有名になって成功したい、お金、名声が欲しいというギタリストがいる。一方でただ創造を楽しむアーティストがいる。その結果として得るものはおまけとしてね。だから、人は自分自身に、何を欲しているのか問うべきなんだ。自分は金持ち、有名になって成功したいのか。多くの人はこっちを選ぶだろう。おそらく80%の人が。90%かもしれない。5%、10%、8%程度の人が自己表現を楽しむことを選ぶだろう。画家であれ、デザイナー、音楽家であれね。ほとんどの人たちはステレオタイプで、少数の人が、えーと、単語を忘れてしまったな。ステレオタイプの一部ではなく、彼らはただ本能やハートに従って、好きなことをやる。多くの人はそれをやらないけれど、コロンブスのような人は、人よりも遠くまで行った。フロントランナーとして。フロントランナーが先に行って、何か良いことがあると、多くの人が追従する。同じことをやろうとしてね。
ー ライヴのオープニングにAC/DCの「Highway to Hell」を使用していましたね。これはあなたの選曲なのですか。
マイケル:(笑)。君がそう考えるのは面白いね。と言うのも、この前のアメリカ・ツアーではもちろんクルーも違って、そもそも「Highway to Hell」を使い始めたのは、多分10年くらい前から。これをいつもかけていたのは、あくまで自分たちに、そろそろステージに上がる時間だと知らせるためさ。タイミングを知らせるためにね。昨日は、タイミングを知らせるために、「ところで曲は何を使う?」なんて話していて、「『Highway to Hell』は日本に合うかな?それとも別の曲がいい?」なんて感じだったけれど、特に他の曲もなかったから、いつもと同じにしたんだ。特別な理由はないし、僕が選ぶようなお気に入りの歌詞でもないけれど、あの曲をかけるとお客さんのお気に入りでノリノリになるからね。だけど、僕にとっては何でもいいんだ。ロリー・ギャラガーの「What’s Going On」を使いたくてやったこともあるけれど、あれはレコーディングがとても悪いんだ。PAを通すと音が良くなくてね(笑)。それでやめざるをえなくて、「Highway to Hell」に戻した。そもそも誰のアイデアだったのかもわからない。僕はAC/DCのファンではないし。
ー 違うんですか(笑)。
マイケル:違う。MSGのセカンド・アルバムは、ロン・ネヴィソンと作ったけれど、マット・ランジとやらないかというオファーもあったんだ。マット・ランジは世界で最高のプロデューサーの1人だけれど、僕は「ノーノー、マット・ランジとはやらない。AC/DCみたいなサウンドにしたくないから」って(笑)。AC/DCはもっとステレオタイプな音楽で、とても簡単で誰でも楽しめる。実際誰でも演奏できるし、それがAC/DCのようなステレオタイプな音楽の魅力なのさ。「ワオ、俺にもできそうだ。ちょっと待て。彼はどうやってるんだ?ドンタンドンタン。それならできるぞ!」ってね(笑)。人々は熱狂しているけれど、やっていることはとてもシンプル。俺もああいう風になれるぞって。80年代に多くの未来のミュージシャンが生まれた理由の一つはそれかもしれない。兄貴にもやれるなら、自分にもやれるんじゃないか。ルドルフがやれるなら、自分もやれるんじゃないか。それがキーなのさ。シンプルにしておくこと。人々は教授のお話なんて聴きたくない。理解できないし、多大な集中力も必要になる。だけどストーリーテラーなら、御伽噺なら、みんなが聞いてくれる。惹きつけられるからね。だから80年代のイージーでシンプルな音楽は、基本的に70年代の音楽をシンプルにして、商業的にしたもの。それがステレオタイプとして売れて、多くのミュージシャンたちにプラチナム・アルバムをもたらし、今彼らはスタジアムでプレイしているのさ。ナイスな一緒に歌える音楽だからね。
ー では最後にファンにメッセージをお願いします!
マイケル:Keep on rocking!
文:川嶋未来 / 写真:Mikio Ariga
伊藤政則のロックTV!公式YouTubeチャンネルでフルVer.公開中▶️
【CD収録曲】
- エマージェンシー
- アンダー・アタック
- コーリング・バアル
- ア・キング・ハズ・ゴーン
- ジ・ユニヴァース
- ロング・ロング・ロード
- レッキング・ボール
- イエスタデイ・イズ・デッド
- ロンドン・コーリング
- サッド・イズ・ザ・ソング
- オ・ルヴォワール
- ターン・オフ・ザ・ワールド ※世界共通ボーナストラック
- ファイター ※世界共通ボーナストラック
- ヘルプ ※日本盤限定ボーナストラック
- ロンドン・コーリング(オルタナティヴ・ヴォーカル・ミックス) ※日本盤限定ボーナストラック
【メンバー】
マイケル・シェンカー (ギター)
ロニー・ロメロ (ヴォーカル) [レインボー、ヴァンデンバーグ、DESTINIA]
マイケル・フォス (ヴォーカル)
ゲイリー・バーデン (ヴォーカル)
マイケル・キスク (ヴォーカル) [ハロウィン]
ラルフ・シーパース (ヴォーカル) [プライマル・フィア]
バリー・スパークス (ベース/キーボード)
ボブ・デイズリー (ベース) [レインボー、ゲイリー・ムーア、オジー・オズボーン]
バレンド・クルボワ (ベース) [ブラインド・ガーディアン]
サイモン・フィリップス (ドラムス) [TOTO、ザ・フー、ジェフ・ベック]
ボド・ショプフ (ドラムス)
ボビー・ロンディネリ (ドラムス) [レインボー、ブラック・サバス、クワイエット・ライオット、ブルー・オイスター・カルト]
ブライアン・ティッシー (ドラムス) [ホワイトスネイク、フォリナー]
スティーヴ・マン (キーボード)
トニー・カレイ (キーボード) [レインボー]