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カール・ウィレッツ(Memoriam)
独占インタビュー

今回のアルバムはやはり前進していると思う
後退するより良いだろう(笑)
間違いなくメモリアムの旅としての進歩だよ

                                   

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文:川嶋未来

元ボルト・スロウワーのヴォーカリスト、カール・ウィレッツ率いるオールドスクール・デス・メタル・バンド、メモリアムが5枚目のアルバム『ライズ・トゥ・パワー』をリリースということで、カールに色々と話を聞いてみた。

 

 

ー ニュー・アルバム『ライズ・トゥ・パワー』がリリースになります。

 

カール:今回のアルバムは、やはり前進していると思う。後退するより良いだろう(笑)。間違いなくメモリアムの旅としての進歩だよ。前作『トゥ・ジ・エンド』からの進歩だけれど、今回はいくつかの変化があった。まずレーベルが変わった。それから新しいドラマーが、今回の方向性のトーンを決めたと言えるんじゃないかな。と言うのも、前作のレコーディングの確か1ヶ月ほど前にスパイクを加入させたんだ。つまり彼は曲を覚える期間が1ヶ月しかなかった。レコーディングというはたいていドラムからスタートするからね。だから、曲を覚えることはできても、彼自身のトレードマークを入れるまでには至らなかった。ある程度はやってくれたと思うけれど、基本的にすでに書かれた曲に従うという感じだった。最後の曲「アズ・マイ・ハート・グロウズ・コールド」には、彼らしいタッチがあって、あれがその後俺たちが進むべき方向性をある程度示していたように思う。今回は一年あったからね。スパイクも、曲作りも含めてアルバムの制作にフルに関与したから、彼のトーン、テクスチャ、トレードマークも持ち込んでくれた。その結果、とても多様なアルバムになったと思う。前作も多様なアルバムだったけれど、今回はさらに多様になっているよ。音楽的にね。

 

ー 個人的には今回の作品は過去に比べてメロディックであるように思ったのですが。

 

カール:その通りだと思うよ。それがスコット(G)のとった方向性さ。彼は自分のリフに自信を持つようになってきていて、数年前に書いて公開していなかった百万ドルに値するリフなんかも使ったのだと思う。彼はとにかく曲を書き続けていて、結果として俺たちは物凄いペースでアルバムをリリースし続けている。7年間で5枚のアルバムを出して、今もうすでに6枚目の曲を書いているよ。凄い速度でアルバムを作っているけれど、そもそもそういうつもりだったからね。80年代終わりの頃の雰囲気を作り出すこと。当時はみんな毎年アルバムを出していただろ。当時クラストは新しい波で。現在オールドスクール・デス・メタルの復興が起こっていて、俺たちもそれを楽しんでいる。スコットは昼に仕事をして、その後車の修理をして、夜通しギターを弾いて曲を書いているんだ。だから、大量のリフから選べるのさ。メロディックなものも含めてね。それからアコースティックのイントロ。最後の曲「ディス・ペイン」の。ああいうことは過去にやったことがなかった。色々違ったことをやるのに恐れはないよ。むしろ色々やりたいくらいさ。楽しみながらやっているから、とてもうまくいっているよ。

 

ー 前作ではキリング・ジョークっぽい曲もやっていましたよね。

 

カール:そうだね。今回はヘヴィなインダストリアルっぽい曲はないけれど、色々な違ったトーンやテクスチャを持ち込んでいる。「アイ・アム・ジ・エネミー」には、パラダイス・ロストみたいなドゥーミーでエピックなフィーリングがある。色々な影響源があるからね。スコットは俺たちよりも10歳若いから、俺が聴かない90年代中盤のテクニカル・デス・メタルなんかも知っている。俺のバックグラウンドはパンクやグラインドコアだし。メンバー全員の好みが違うから、音楽のメルティング・ポットみたいになっているんだ。とても多様性がある。俺たちにとっても、そしてファンにとっても興味深いものになっているから、このアルバムがどう受け止められるか、とても楽しみだよ。

 

ー 前作では初めてヴォーカル・デモを作ってとてもうまくいったとのことでしたが、今回も同じようにやったのでしょうか。

 

カール:そう、ヴォーカルのデモを作ることは、今ではレコーディングの大事な一部になっているよ。ヴォーカリストとして、準備万端でレコーディングに望むのは良いね。どの言葉をどのパートに乗せるのかが決まっていれば、スタジオではそれをうまくやることに専念すれば良い。ミュージシャンにとっても、どこにヴォーカルが入るかがわかっている方がやりやすいし。これまではスタジオに入ってから歌詞を書くなんていうこともやっていたけれど、そうなると必ずしも良い結果が得られるとは言えないから。もちろん今でもスタジオに入ってから歌詞を変えることもあるよ。実際にスタジオで歌ってみると、デモとは違った言葉の方が良さそうだということはある。前もって準備しておけば、頭の整理がついていて、さらにクリエイティヴにやれるのさ。それから今回も、ラス・ラッセルが曲作りの一部を担ってくれた。まずスコットが自宅でリフを録音して、それをDropboxに入れて、みんなにシェアする。そこにはラスも入っていて、極初期のラフな状態から関わっているんだ。だから、その後曲が完成してスタジオに入る時点で、ラスははっきりその曲をどうすれば良いかがわかっているのさ。どこにどうエフェクトをかければ良いとか。俺たちが考えもしなかったことを提案してくれることもある。彼は不可欠なサイレント・メンバーだよ。それから今回初めて台本のあるきちんとしたビデオも作った。予算もかけてね。これも楽しかった。アルバムは23年の2月にリリースされるのだけど、4月からはすでに次のアルバムのレコーディングを開始するよ。

 

ー そうなんですか!

 

カール:(笑)。すでに4-5曲、デモ段階としてできているんだ。可能な限り、ペースは守っていくよ。それができるうちはね。今はそれを楽しめているから。

 

ー 最初の3枚のアルバムが「死のトリロジー」、前作から新たに「生のトリロジー」が始まったとのことですが、今回はその2作目ですね。

 

カール:そう、今は2つ目のトリロジー、ライフ・サイクルだよ。最初の3枚のアルバムでは、アートワークでも死んだ王の棺桶がその中心だった。戦場で彼が死に、棺桶で運ばれて、埋められる様子が描かれていた。そのトリロジーが終わって、次はどうしようかと考えた。そこで、その偉大なリーダーの生について描くことにしたんだ。彼の人生での成功、何を成し遂げたのか。その最初である前作では、彼の生の最終地点である戦場を描いた。つまりセカンド・トリロジーはプリクールで、それを時系列の反対で描いている。ジョージ・ルーカスがやるみたいにね。俺はデス・メタルのジョージ・ルーカスなのさ(笑)。つまり、第1作は彼の人生の最後の場所。そして今回は彼の人生の途中、権力を掌握して、人々が崇めるリーダーとなったところ。彼の人生を祝福し、堂々と権力の座へと登っていくところを描いているんだ。今イギリスで起こっていることと一致しているよね。新たな王が即位して。もちろんこれは偶然で、女王の死とは無関係。彼女は高齢で亡くなったのだし。そして今作っているのが、セカンド・トリロジーの最終章という訳。どういう方向に行くのかは、聞かないでくれ。正直、今考えているところなんだ(笑)。

 

ー 『ライズ・トゥ・パワー』というのはフィクション的な内容で、世界情勢についてではないということですね。

 

カール:そうだね、このキャラクターの人生のある時点のことを表しているものさ。この王へのトリビュートと言うか。すべてが崩壊し始める前の、彼の人生での最盛期さ。だから作り話ではあるけれど、自分たちのキャリアにおける最盛期という意味でもあるよ。色々な解釈は可能だし、他の曲の歌詞のような社会的、文化的な内容とリンクさせることもできる。今起きている世界的な問題ともね。俺はずっと戦争についての歌詞を書いてきたけれど、今そういうテーマはより重要な意味を持つと思う。何しろ今ヨーロッパで戦争が起きているのだからね。俺はいつも世界で起きていることに影響を受ける。実際に起きていることから、直接インスピレーションを受けるんだ。前作では、アメリカでの”Black lives matter”に影響を受けた。不公平の問題や貧困についてね。これらは繰り返し起こる問題さ。右翼やナショナリズムの台頭とかも。今回の戦争が起こった原因の一部もこれらの問題。プーチンは凶暴なナショナリストとしてのアイデンティティを振りかざして侵略行為をしている。あんなことが今現在ヨーロッパで起こっているなんて、とてもショッキングだよ。今回のアルバムに大きな影響を与えている出来事で、曲の多くは以前よりもさらに直接的に戦争について言及している。

 

ー 一方で「オール・イズ・ロスト」や「ディス・ペイン」などは、鬱であるとか精神的な問題を扱っているように見えますが。

 

カール:そうだね。特に「ザ・コンフリクト・イズ・ウィズイン」は、人生におけるプレッシャーについて。俺が書く歌詞は3種類ある。1つは戦争。もう1つはその時起こっていることについての社会的、政治的意見。それから人生における一般的な経験に基づいたもの。「ディス・ペイン」は、親しい人の死や悲しみを経験することについて。だけど、俺の視点は常に今を楽しめというか、常にポジティヴなメッセージを持っている。できる最大限のことをして、問題を切り抜けろということ。年をとって来ると、色々な問題に直面しなくてはいけないけれどね。ファンは共感してくれると思う。友人や家族の死は、感情的、心理的に大きな衝撃があるから。今回特に誇りに思っている曲は、「アイ・アム・ジ・エネミー」。さっき言ったパラダイス・ロストっぽいフィーリングの曲で、曲の最初は『For the Fallen』という(ローレンス・ビニョンの)詩の引用になっている。この詩はこれまでも繰り返しくすねてきたと言うか、借用してきたと言うか(笑)。この曲を聞いた時に、この詩がピッタリだとピンと来たんだ。「ネヴァー・フォゲット、ネヴァー・アゲイン(6ミリオン・デッド)」はホロコーストについて。このテーマについては、過去15年〜20年ほどずっと書こうとしていたのだけど、これを書くふさわしい曲がなくてね。今回スコットが書いたリフを聞いて、これだと思ったんだ。この曲の出来についても、とても誇りに思っている。収録曲の多くは現在世界で起こっている出来事とつながっているのさ。

 

ー “Man’s inhumanity”、”The end of life for all”などのフレーズが繰り返し出てきます。これは意図的なものですか。

 

カール:そうだよ。過去の作品などから引用するのが好きなんだ。やっていることの連続性、スレッドと言うのかな。今やっていることが正しいことを知るために、時々過去を振り返ることも必要だしね。以前書いた言葉をまた使う方が簡単という時もあるし(笑)。

 

ー 先ほどラス・ラッセルの話が出ましたが、彼の素晴らしい点はどのようなところでしょう。

 

カール:彼のスタジオはとてもリラックスできるんだよ。友人だしね。さっきも言った通り、彼は初期段階から関わっていて、俺たちも彼の意見を尊重している。彼の能力について確信しているから。スタジオに行くと、とてもリラックスした雰囲気なんだよ。レコーディングというのは緊張した雰囲気になりがちだからね。彼はとてもレイドバックした人物で、強烈なユーモアの持ち主でもある。そうやって俺たちをリラックスさせて、ベストなパフォーマンスを引き出してくれるんだよ。レコーディングが済んでしまえば、あとはほぼ彼に任せる。もちろん俺たちも聴いて、少々の調整はするけれど。現時点では、ダン・シーグレイヴがアートワークをやってくれなかったら、そしてラス・ラッセルがプロデュースしてくれなかったら、メモリアムのアルバムはあり得ない。彼らのおかげで俺たちは楽しんで作品を作れるのさ。この2つが不可欠の公式なんだ。バンドをやめるまで、この公式は使い続けるよ。

 

 

ー お気に入りのヴォーカリストは誰ですか。

 

カール:間違いなくキリング・ジョークのジャズ・コールマンが、常にインスピレーションを与えてくれるヴォーカリストさ。彼らは数十年に渡ってトーンやテクスチャを変えてきたけれど、常に誠実さのエッジを失わず、社会に対する意見とか、彼の書く歌詞にはある種のインテリジェンスがあって、とても共感できる。彼の歌い方もとても感情剥き出しで、情熱的だし。ジャズ・コールマンは、俺にとって究極のヴォーカル・ヒーローさ。それから過去に大きく影響を受けたのはサクリレッジのタム。80年代の終わりにサクリレッジのライヴを見て、バンドをやりたいと思ったのだからね。イギー・ポップも素晴らしいパフォーマーさ。現在の年齢になっても、いまだに素晴らしいパフォーマーであり続けている。80年代の初頭、ここバーミンガムのAusgangというバンドが好きだった。ゴスっぽいバンドで、ヴォーカルのマックスは友人なのだけど、彼からの影響も大きかった。歌い方ということだけでなく、ステージでの存在感とかね。ヴォーカルというのは歌がうまいとかいうことだけでなく、全体としてオーディエンスに何かを伝える訳だから。フレーミング・リップスのウェイン・コインがオーディエンスとやりとりするのを見るのもとても楽しい。とても誠実な人物だからね。あとはSighの未来。

 

ー (笑)。

 

カール:真面目な話、何百というバンドを見てきたけれど、このバンドは何か特別だと思うことはほとんどない。Maryland Deathfestで、あれはいつだっけ?2004年くらい?あの時に君たちを見てとてもインパクトを受けた。去年ウクライナの1914というバンドをドイツで見た時、同じような感じを受けた。非常に感情的なパフォーマンスでね。時々こういうフィーリングを得られるというのは素晴らしいね。数年前にHeliungを見た時もそう。長い間音楽をやってきて、今でもそういう感情を得られるのは素晴らしいよ。今でも心から音楽を楽しめていることさ。だから今でもバンドを続けているんだ。

 

ー 最近はどんな音楽を聴いているのですか。

 

カール:正直、音楽を聴ける時間はとても限られている。小さい子が2人いるし、音楽を聴けるのは、リハーサルに向かう車の中くらいなんだ。聴いている音楽となると、60年代のサイケデリックなガレージ・ミュージック。60年代のアメリカのサイケデリア。ナゲッツとか。俺は正直ノーザンソウルの大ファンでもあるんだ。だから、あまりメタルは聴かない。スピリチュアライズドも好き。そうそう、今ターンテーブルに乗っているのは、Warningの『Watching from a Distance』。Roadburnでのライヴで、俺もあの場にいたのだけど、本当に素晴らしいパフォーマンスだったよ。これは繰り返し聴いているけれど、メタルを聴くことはあまりない。週末ギグをやっているから、そこではメタルを聴くけれどね(笑)。

 

ー では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。

 

カール:日本のファンのみんな、どうもありがとう。そしてワールドカップでの大活躍、おめでとう。君たちのチーム、ファンは見ていてとても素晴らしかったよ。世界中が感嘆している。おめでとう。メモリアムをサポートしてくれてありがとう。まだ日本に行けていないということはきちんと認識しているよ。もし俺たちを日本に呼んでくれるというプロモーターがいたら、ぜひ連絡して欲しい。みんなニュー・アルバム『ライズ・トゥ・パワー』を楽しんでくれるといいな。

 

 

文 川嶋未来

 

 


 

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2023年2月3日発売

Memoriam

『Rise To Power』

CD

【CD収録曲】

  1. ネヴァー・フォゲット、ネヴァー・アゲイン(6ミリオン・デッド)
  2. トータル・ウォー
  3. アイ・アム・ジ・エネミー
  4. ザ・コンフリクト・イズ・ウィズイン
  5. アナイアレイションズ・ドーン
  6. オール・イズ・ロスト
  7. ライズ・トゥ・パワー
  8. ディス・ペイン

 

【メンバー】
カール・ウィレッツ(ヴォーカル)
フランク・ヒーリー(ベース)
スコット・フェアファックス(ギター)
スパイク・T・スミス(ドラムス)