フレンチ・エクストリーム・メタル・シーンのパイオニア、ラウドブラストに、元ドラゴンフォース、現クリエイターのフレデリク・ルクレール(Ba)が加入!ニュー・アルバム、『マニフェスト』やフレンチ・シーンについて、リーダーのステファン・ビュリエに話を聞いてみた。ステファンは、フレデリク率いるスーパースター・デス・メタル・バンド、シンセイナムのメンバーでもある。
ー ニュー・アルバム、『マニフェスト』がリリースになります。どのような作品になっていると言えるでしょう。
ステファン:このアルバムは、うーん、そうだな、セカンド・アルバム『Disincarnate』、それから『Sublime Dementia』、『Cross the Threshold』、『Burial Ground』といった、俺たちのこれまでのアルバムをすべて網羅したものが、『マニフェスト』だと言えばいいかな。『マニフェスト』はダークでディープで、聴くものを不快にさせる作品。このアルバムは、人々が期待するラウドブラストとは違うものかもしれない。デス・メタルやスラッシュ・メタルから出発しているから、人々も俺たちをスラッシュ・メタル、デス・メタルのバンドだと認識しているだろうけれど、俺たちにもダークな部分があってね(笑)。以前のアルバムでも、そういうムードはあったけれど。このアルバムを作っている間、俺も(ドラムの)エルヴェも個人的に色々大変なことがあって。バンドとして経験したこと、個人的に経験したこと、たくさんの俺たちがこのアルバムには詰まっている。いつものラウドブラストの作品ではないよ。
― つまり過去の作品とは違っているということですね。
ステファン:違う。これは2020年現在の俺たちを100%表現しているアルバムだからね。
― 今回はケヴィン、ジェロム、そしてフレッドと3人の新しいメンバーになっていますが、そこも影響しているのでしょうか。
ステファン:そうかもしれない。プリプロダクションの際に、ちょっと事件があってね。フランスの北部で2ヶ月ほどアルバムを作っていたのだけど、実を言うと、ドラマーのエルヴェが喧嘩に巻き込まれたんだ(笑)。プリプロダクションの初日にだよ。相手をボコボコにしたんだけど、ドラムをプレイし始めたら、「これはまずい。プレイできそうにない」って。それで病院に行ったら、膝の怪我が酷いということで、4ヶ月はドラムをプレイできないと(笑)。それではエルヴェはこのアルバムでプレイすることは無理だということになった。まだロックダウンの前の話で、色々なフェスに出るという予定もあったから、そんなにレコーディングを遅らせる訳にはいかなかったからね。それで別のドラマーが必要だということで、BenightedやAbbathでプレイしていたケヴィンに頼んだのさ。そういう訳で、今でも俺たちのドラマーはエルヴェだけれど、このアルバムでプレイしたのはケヴィンなんだ。ジェロムはNo ReturnやE-Forceでプレイしていたギタリスト。素晴らしいギタリストだよ。ドラキアンが『Burial Ground』のリリース後にバンドを去った後、もちろん彼とは今でも親しい友人なのだけど、ジェロムが加入することになった。彼はラウドブラストにぴったりだよ。それからフレッド。彼は親友の1人さ。彼とはシンセイナムを一緒にやっているし。フレッドは4年前に『Sublime Dementia』のアニヴァーサリー・ツアーに参加してもらって、ツアーの最後に「バンドに入ってもいいか?」と。彼はまだドラゴンフォースのメンバーだったけれど、ぜひ入ってくれって。みんなのスケジュールはとにかくタイトだけどね。このアルバムのメンバーは、ドリームチームだよ。
― 前作から6年もの間が空いていますが。
ステファン:みんな別のバンドもやっているからね。プロジェクトではなくバンドを。例えばシンセイナムも、プロジェクトではなくバンドなんだ。シンセイナムはフレッドの子供みたいなもので、俺も初期の頃から関わっているよ。俺はTambours du Bronxというインダストリアルのバンドもやっているし、エルヴェはBlack Bomb Aというハードコア・メタル・バンドをやっている。ラウドブラストだけやっているのより良いと思うよ。他のバンドもやっていることで、ラウドブラストもうまく行っていると思うんだ。
― 『マニフェスト』というタイトルの意味するところは何なのでしょう。
ステファン:『マニフェスト』の意味するところは、さっきも言ったとおり、これが現在のラウドブラストを表しているアルバムだということ。歌詞は、パンデミックの以前に書いたものなんだ。このパンデミックは歴史に残るものだろう。世界中に影響を及ぼしているからね。
― では、歌詞の内容はどのようなものなのでしょう。「リレントレス・ホラー」は731部隊ですよね。
ステファン:その通り。曲のタイトルも「Unit 731」になるはずだった。俺が言いたかったのは、人間の性質についてさ。俺たちは、俺たちのことをさらにバカだと思わせようとしているバカどもに統治されているということ。わかるかな。このアルバムで言いたかったことの出発点はそこさ。宗教もそう。人々は一体何のために耳を持っているのかわかっていないようだ。わかるかな。多くの人はまるロボットのように生活するだけ。ただ何十年か生きて死ぬだけ。俺はそういうタイプの人間ではない。だからこういう音楽をやっているのだけれど。アルバムで言いたかったことは、奴隷のように生きるなということ。奴隷になるなということ。
― 「トーテストリープ」はどのような内容なのですか。
ステファン:あれは空虚への憧れというのかな。ドイツ語なのだけど。
ー フロイトの用語ですよね。
ステファン:その通り。人類はまた次の戦争を欲している。これこそ空虚への憧れであり、唯一空虚を満たす方法さ。
― つまり死への憧れということでしょうか。
ステファン:そう、死への憧れ。こういうものは変えられないんだ。
― では、「イレイシング・リアリティ」は?
ステファン:どう説明すればいいかな。アルバムのテーマの一つは、宗教による操作さ。ダニング・クルーガー効果というのは知ってる?
― 能力の低い人間ほど自分に自信を持っているというやつですよね。
ステファン:そう、それ(笑)。これはアルバムのメインテーマの1つだよ。俺たちは愚かな人間たちに囲まれて暮らしているのさ。今回のアルバムは、ネイサネル・アンダーウッドというアーティストと一緒に歌詞を書いたんだ。俺は曲を書いたり、ギターを弾いたりする方が好きでね。それでまず、俺の言いたいことをネイサネルに説明して、歌詞を書いていったんだ。これまで何人もの人と歌詞を共作してきたけれど、今回はネイサネル1人とだけだった。新しい経験だったよ。特にロックダウン中はね。コミュニケーション方法はPCとか携帯だけなのだから。デモを送りあったりして。テープにレコーディングしていた時とは大違いだよ。
― 女性ヴォーカルやチェロも使われていますが、これはどのようなところからのインスピレーションなのでしょう。
ステファン:女性ヴォーカルは、『Sublime Dementia』の頃から使っている。これはDead Can Danceからの影響だよ(笑)。当時Dead Can Danceが大好きでね。だけど、いつも入れなくてはいけなという訳ではないよ。『Burial Ground』では使っていないし。今回は、これをもっと歪んだ、スキッゾ的な使い方をするというアイデアだった。チェロも俺のアイデア。チェロをプレイしたグレゴワールは、クラシックの有名なプレイヤーたちと演奏している奏者で、デス・メタル・ファンでもあるんだ。「このパートでプレイするのが自分だけだと思って弾いてくれ」と伝えた。実際はギターもドラムもベースも加えたんだけど(笑)。
― そもそものエクストリームな音楽との出会いはどのようなものだったのですか。
ステファン:俺は当時テープトレードをやっていたんだ。ラウドブラストを始めた頃、85年くらいかな、俺はまだ16歳で、あの頃はインターネットも無かったし、ヨーロッパ、ジャカルタ、どこのバンドでもテープトレードくらいしか知る術がなかったんだよ。俺やAggressorのアレックスなんかがテープトレードをやっていて、デモやフライヤーを送りあったりして、それがエクストリーム・メタルの世界への扉だったんだ。Morbid Angel、Sepultura、Vader、Immolationとか、地球上のあちこちのバンドとトレードをしていたよ。彼らがヨーロッパに来るようになる以前に、テープやTシャツをトレードしてね。Mayhemのユーロニモスも俺たちの最初のEP、Aggressorとのスプリットをディストリビュートしてくれていた。おかげで北ヨーロッパでこのスプリットはよく売れたよ。
― 当時のフランスのシーンはどんな感じだったのですか?Aggressorの名前が出ましたが、他にもマサクラなどがいましたよね。
ステファン:そう、Massacra、Mutilated、No Returnとか。エクストリーム・シーンは大きくなかった。というか、俺たちがシーンを作ったんだよ(笑)。俺たちが初めてアルバムをリリースしたエクストリームなバンドだった。エクストリームという言葉が適切かはわからないけれど、あのスプリットはフランスで初めてのエクストリームな作品のリリースだった。それ以前には何もなかったんだ(笑)。別に世界の王様を気取ろうという訳じゃないよ(笑)。
― 当時影響を受けたバンドはどのあたりだったのですか。
ステファン:ラウドブラストとして影響を受けたということだと、Metallicaの『Kill ‘Em All』、Slayerの『Show Now Mercy』、Venomの『Black Metal』とか。初めて『Kill ‘Em All』を聴いた時のことを覚えているよ。「何なんだこれは、こんなものは聴いたことがない」と思った。『Show No Mercy』のテープを聴いた時は一度では理解ができなくて、もう一回かけてみようと思った。Metallicaよりも、Venomよりもブルータルでね。過去に聴いたことがない、まったく新しいものだった。それでラウドブラストの初代ギタリスト、ニコラと「これこそが俺たちのやりたい音楽だ」って話したものさ。当時、それ以外だとJudas PriestやIron Maidenなんかも大好きだった。マイケル・シェンカーとか、いわゆるヘヴィメタル、ハードロックを聴いて育ったからね。日本のLoudnessも。AC/DC、Saxon。それが俺たちの生活だったんだ。
ー デス・メタルに方向転換した理由、きっかけは何だったのでしょう。
ステファン:実は、バンド内で俺が一番エクストリーム・メタルにハマっていたからね。『Disincarnate』の契約には、「タンパに行って、スコット・バーンズとモリサウンド・スタジオでレコーディングする」という内容を入れたんだよ。『Disincarnate』は俺のキャリアにとって、間違いなく転換点だよ。ラウドブラストは、フランス初の海外に行ってデス・メタルのアルバムを作ったバンドだからね。タンパでは、いろんなミュージシャンに会った。Obituaryのドン(ドナルド・ターディ)などは、毎日スタジオにやってきてね。新しく出来上がったミックスを聴いては、「これはいいね。これはイマイチだ」なんて言ってくれた。Deathのチャックにも会った。俺たちのキャリアにとって大きな助けになったよ。キャリアというよりヒストリーというべきかな。当時、俺たちは今よりももっと若くてね。『Disincarnate』、タンパ、スコット・バーンズ。いずれも大きな転換点だった。
― 影響を受けたデス・メタル・バンドはどのあたりですか。
ステファン:Morbid Angel。『Altars of Madness』、『Blessed Are the Sick』。『Thy Kingdom Come』もね。さっきも言ったように、テープトレードをやっていたからさ。NocturnusやMatricide(元Morbid Angelのジョン・オルテガがやっていたバンド)。Slaughter、Death、Necrophagia、Possessed。俺はアメリカのシーンの方が好きだった。Azathothというバンドもいたな。覚えてる?確かイギリスのバンドで。
ー Napalm Deathのシェイン絡みのバンドでしたっけ?
ステファン:そうだったかもしれない。こういった新しいバンドを見つけてテープを聴くのは本当に楽しかった。イタリアのSchizo、ブラジルのSarcofagoやChackalとか。
― では、2020年現在影響を受けているバンドとなるとどうでしょう。
ステファン:AC/DCやThin Lizzy、Whitesnake、Darkthrone、Mayhem、こういったバンドは俺の歴史の一部だからね。俺の人生はすべて音楽、メタルに捧げられているから。俺たちミュージシャンは、スプーンみたいなものだから。わかる?
ー スプーンですか?
ステファン:間違えた。スポンジだ。スプーンじゃなくて。俺たちはスポンジなんだよ。聴いたものはすべて吸収するのさ。聴いたことを忘れたものも、自分の一部になっているんだよ。
― お気に入りのアルバムを3枚教えてください。
ステファン:トップ3か。うーん、順不同で行こう。そうだな、MSGの『Assault Attack』。Morbid Angelの『Blessed Are the Sick』。Iron Maidenの『Killers』。
― では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
ステファン:また日本に行くのを楽しみにしているよ。シンセイナムで初めて日本に行って、東京でプレイしたけれど、素晴らしい経験だった。メタルにすべてを捧げているファンのみんなに会えたからね。次回は一回だけじゃなくて、何回もプレイしたいね。もちろん今はフランスの外に出られないのだけど、もちろん俺たちのスケジュールに入れているよ。We love you.
文 川嶋未来
【CD収録曲】
- トーデストリープ
- リレントレス・ホラー
- イレイシング・リアリティ
- ザ・プロメテアン・ファイア
- プリーチング・スピリチュアル・インファーミティ
- インヴォーキング・トゥ・ジャスティファイ
- フェスタリング・パイア
- イントゥ・ザ・グレイテスト・オブ・アンノウンズ
- ソラス・イン・ヘル
- インファミー・ビー・トゥ・ユー
- メソポタミアン・マーチ(インストゥルメンタル) ※日本盤限定ボーナストラック
- ドグマ・アンド・ニュー・ブラスフェミー ※日本盤限定ボーナストラック
【メンバー】
ステファン・ビュリエ(ヴォーカル / ギター)
エルヴェ・コケレル(ドラムス)
フレデリク・ルクレール(ベース)
ジェロム・ポワン・カノヴァ(ギター)