ドイツ、いや世界を代表するスラッシュ・メタル・バンド、クリエイターが、元ドラゴンフォースのフレデリク・ルクレールを新ベーシストに迎え、ニュー・アルバムをリリース!ということで、リーダーのミレ・ペトロッツァに話を聞いてみた。
ー オスロのインフェルノ・フェスティヴァルから戻られたばかりですよね。
ミレ:そう。本当に素晴らしいショウだったよ。去年の8月以来のライヴだったし、フェスティヴァルは久しぶりだからね。とてもクールだった。
ー ではインタビューを始めましょう。ニュー・アルバム、『ヘイト・ユーバー・アレス』はどのような作品だと言えるでしょう。個人的には初期への回帰を感じさせる部分も大きかったのですが。
ミレ:そうだね、そういう要素はあると思う。もっと自然と心から湧き上がるような、過度な計算や分析よりも本能に突き動かされるような意味でのバック・トゥ・ルーツというのかな。今回20曲書いて、ベストな10曲を選んだのだけど、故意にオールドスクールなバック・トゥ・ルーツ的な曲を書こうと思った訳ではない。モダンなクリエイターの要素も入っているし、だけどさっき言ったような自然なエネルギーが欲しかったんだ。パワフルでナイーヴな不吉さという、初期のクリエイターの特長として知られていたもの。今回はアーサー・リズクと一緒にやったのだけど、彼はそういう雰囲気を捉えられる人物の1人だよ。レコーディングを仕事ではなく、ビッグなパーティのように感じさせてくれるんだ。と言っても、お酒を飲んでという意味でのパーティではない。真面目な仕事ではなく、音楽を祝福するというのかな。それにアーサーは、心理的にバンドからベストなものを引き出す力を持っているし。
ー なるほど、初期のフィーリングが欲しかったので、今回はイェンス・ボグレンではなく、アーサーと一緒にやったということですか。
ミレ:うーん、俺たちはもともとアルバム2枚ごとにプロデューサーを変えているからね。アーサーのことは前から知っていて、彼の住んでいるフィラデルフィアで会ったんだ。コンサートの前に一緒にディナーに行ってね、とても気が合ったんだ。お気に入りのバンドも同じ、嫌いなバンドも同じ。同じ感覚、テイストを持っているんだよ。どんなものをダサいと思うか、どんなものがクールでヘヴィなのかとかね。そういうものが同じだった。どういう作品にしたいか、どういう作品にしたくないかがわかったのさ。
ー 今回非常に多くのミュージシャンがゲスト参加しています。まず、今回再びフレッシュゴッド・アポカリプスのメンバーが、オーケストレーションを手がけています。
ミレ:『Gods of Violence』でも彼らにオーケストレーションを頼んだのだけど、あの時はイントロだけだった。今回は、イントロの「セルジオ・コルブッチ・イズ・デッド」だけでなく、「ダイイング・プラネット」にも参加してもらった。実はアルバムには収録しなかったオーケストラ・パートもあって、これは今後オーケストラ・ヴァージョンとしてEPでリリースするかもしれない。彼らは人間的にもクールだから大好きなんだ。彼らのヴィジョンは素晴らしくて、彼らの作ったヴァージョンを聴くと、まったく別の曲のような、ほとんどクラシックのような仕上がりになっていて、気に入っている。まったく違うアレンジなんだ。俺が書いた曲が、まったく違った存在になっているんだよ。
ー そして今回もバグパイプを使用しており、イン・エクストレモのメンバーが参加しています。バグパイプはお気に入りの楽器なのでしょうか。
ミレ:いや、バグパイプなら何でも好きという訳ではないよ。フレイヴァーとして使うのは好きなんだけどね。特にあの曲「ビカム・イモータル」では、フォーキーでダークで奇妙なフレイヴァーが欲しかったから。前作の「ヘイル・トゥ・ザ・ホーズ」でもバグパイプを使ったからね、今回もまた使おうと思ったんだ。良い仕上がりになったと思う。イン・エクストレモとは仲が良いから、一緒にやるのも素晴らしかったよ。
ー VisigothとEternal Championのメンバーもバッキング・ヴォーカルで参加していますね。
ミレ:(笑)。あれはドイツでのレコーディング後に、アーサーがセットしたものなんだ。アーサーに、バッキング・ヴォーカルが必要だと伝えて、彼らはアーサーの友人なのだと思うのだけど、送ってくれたバッキングは素晴らしくてね。さっきも言ったように、今回のアルバムはメタルへの祝福みたいな雰囲気で、こういうレコーディングのやり方は過去にしたことがなかった。確か「ビカム・イモータル」だったと思うけど、合唱隊はラスヴェガスで録られてるんだ。メタルヘッズを集めてね。パーティみたいにみんなで叫んであのサビを録ったようだ。とても自然に作られたものなんだ。もちろん俺たちは音楽というものを、とても真面目に捉えている。だけど、今回アーサーは友人たちを招いて合唱を録ったりなんていうやり方をして、それが非常にうまく行っているんだよ。これぞメタルであり、聴く人たちを良い気分にさせてくれる作品さ。もちろん俺たちは音楽を非常に真面目に捉えてはいるけれど、真面目すぎない作品になっているんだ。
ー ソフィア・ポルタネットというドイツ人のシンガーも参加しています。
ミレ:ソフィアは友人で、彼女がパンデミックが始まった20年にリリースした『Freier Geist』というアルバムが大好きなんだ。彼女と知り合って、スタジオで一緒に曲を作ったりして、それはもっとセッションぽいものだったのだけど、それからもっとメタルな曲を一緒に作ってみようということになった。彼女と一緒に『ミッドサマー』という映画を見てね。この映画のヴァイブを持った曲を書いて、彼女の歌も入れてもらった。彼女は素晴らしいアーティストだよ。
ー 本作からフレデリク・ルクレールが新ベーシストとして加わっています。彼をメンバーとして選んだ理由は何だったのですか。
ミレ:フレッド以外には考えられなかったよ。彼とは長い友人だし、クリエイターの他のメンバーとも仲が良かったからね。それに、彼が以前いたバンドと問題があって、何か新しいことをやりたがっていることも知っていた。彼は俺と同じくメロディックなメタルも好きであると同時に、デス・メタルやブラック・メタルも聴くしね。あらゆるジャンルの百科事典みたいな感じ。俺もそうなんだよ。あらゆるスタイルの音楽好きなんだ。メタルだけでなく、どんな音楽でも聴く。ほとんどどんな音楽でもね。フレッドもそう。バンドにとてもプロフェッショナルなアティテュードをもたらしたし、エンジニアとしてのスキルもある。彼がエンジニアを務めたデモは素晴らしかったよ。デモなのに、ほんとんどレコードのクオリティだったくらいさ。彼が入ってくれて本当に良かった。とても良い友人だし、彼は面白いんだよ。人間的にとてもうまくやれるというのは、一番大切なことだからね。とてもポジティヴな人間なのさ。
ー フレッドは曲も書いたのでしょうか。
ミレ:いくつか提案もしてくれたし、「ダイイング・プラネット」は一緒に書いた。
ー 『ヘイト・ユーバー・アレス』というタイトルですが、エクストリーム・ミュージックのファンの多くはデッド・ケネディーズの「カリフォルニア・ユーバー・アレス」を思い出すでしょう。一方で、これの元ネタは、ドイツ国家の歌詞に出てくる「ドイチュ・ユーバー・アレス」ですよね。このタイトルにはどのような意味が込められているのですか。
ミレ:このタイトルには、デッド・ケネディーズへのトリビュート的な意味を込めている。タイトル曲はコミュニケーションについて。コミュニケーションは人生だけでなく、政治、地球規模の問題においても最も重要なものさ。俺が君に何かを伝える。そして君はそれを誤解する。あるいは俺が君の見解に反対する。そんな場合、話し合いをするのではなく、すぐに罵り合いになってしまう。最近の風潮はそんな感じだと思うんだ。話し合いをして、他人を理解をするというのではなく、自分の見解だけを構築して、他人の意見を聞かない。俺の考えでは、世界にこれだけの問題があるのは、こういうことが原因なのだと思う。エゴも大きな問題さ。戦争というのも、エゴによって引き起こされるのだと思う。俺の意見ではね。『ヘイト・ユーバー・アレス』というのはコミュニケーションのことで、憎しみをすべての上に置くということ。何かに反対する方が、何かに賛成して取り組むよりも、ずっと簡単だからね。俺自身は平和主義者で、世界のエネルギーは調和的に流れて欲しいと思っている。世界には、地球全体を人間のコミュニティとみなすような、スピリチュアル・エネルギーの新しいレベルへと変わって欲しい。人間がみんな地球に住んでいるという考えさ。国境があって、君たちはあっち、俺たちはこっち、というのではなくね。少々ナイーヴかもしれないけれど、これが俺の考えるユートピア。俺はこのユートピアを信じるし、俺にとって『ヘイト・ユーバー・アレス』が意味するものは、戦争ではなく平和へのステートメントなのさ。
ー その他の歌詞はどのような内容ですか。どのようなところからインスピレーションを受けるのでしょう。
ミレ:色んなところからさ。例えば、さっきも言ったように、映画『ミッドサマー』は大きなインスピレーションになった。アリ・アスターが監督したもので、俺にとっては2019年の映画で最高のものの一つだったよ。歌詞は映画そのものではないのだけど、映画からインスパイアされた内容になっている。「ヘイト・ユーバー・アレス」についてはさっき説明した通り。「ストロンゲスト・オブ・ザ・ストロング」は、諦めないこと。「ダイイング・プラネット」は自明で、とてもディストピア的ではあるけれど希望のあるもの。基本的には感情さ。俺の歌詞のインスピレーションは、スピリチュアルなソースからやってくる。映画を見に行く、本を読む、人々と話したりコミュニケーションをとる、世界中の人々に会う。こういったものすべてがインスピレーションになりうるのさ。「ミッドナイト・サン」のような例外を除けば、他の曲はそれが何についてなのか、ピンポイントで説明するのは難しい。感情的なステートメントである曲もあるし、どんな内容ともとれる。解釈は、リスナーに完全に委ねたいんだ。新曲につけられたコメントをたくさん読んだけれど、俺の意図とはまったく違った解釈をしているものもあった。でも、それで構わないんだよ。俺の書いた音楽や歌詞をどう感じて欲しいのかを、リスナーには指示したくないからね。独自の解釈ができるよう、「ストロンゲスト・オブ・ザ・ストロング」のように個人的な体験に基づいた歌詞の詳細を説明したくはないんだ。
ー エリラン・カントールによるアートワークは、『Endless Pain』のそれを彷彿とさせるものです。これは意図的なものだったのでしょうか。彼には何か指示を出したのでしょうか。
ミレ:エリはかなり早い段階で構想を持っていてね。彼と話し合いをして、『ヘイト・ユーバー・アレス』というタイトルを伝えた。すると彼は、システムや独裁者による抑圧という内容を理解したと。アートワークに赤い旗が描かれているのは、抑圧の象徴なんだ。クリエイターのことを共産主義者だと思う人もいるようだけれど、そうじゃない。俺たちは一切政治的なバンドではないよ。俺にとっては赤い旗は抑圧の象徴で、俺たちの全体主義、全体主義的国家のことさ。そして彼は、オールドスクールなものに基づいた、さっき君が言ったように『Endless Pain』や、さらには『Pleasure to Kill』、バンド全体の歴史を総括するようなアートワークに仕上げたのさ。非常にモダンな、堂々としたクラシックなスタイルでね。クリエイター史上で最高のアートワークに仕上がったと思うよ。
ー 最初の3枚のアルバムに登場する悪魔は同じものなのですか。
ミレ:そう、同じものだよ。マスコットみたいな感じ。アイアン・メイデンのエディみたいに名前はつけていないけれど、クリエイター・デーモンとでも言うべきものさ。
ー 『Coma of Souls』以降に登場する悪魔は「ヴァイオレント・マインド」なんて呼ばれることもありますよね。
ミレ:そう呼ぶ人もいるね。俺にとってはトレードマークみたいなもので、あのデーモンを見れば、新しいクリエイターのアルバムだとわかるから。
ー つまりファーストから最新作に至るまで、全部同じデーモンなのですね。
ミレ:そう言えるね。
ー 音楽的インスピレーションはどこから得ていますか。新たなインプットはあるのでしょうか。それとも長年バンドをやっていますから、特にインプットがなくても自然とリフを書けるものなのでしょうか。
ミレ:俺は常に曲を書く一方、常に新しい音楽も聞き続けている。あらゆる音楽が好きで、オルタナティヴ、オールドスクール・ウェイヴ、オールドスクール・ゴス、メタル、パンクロック、ハードコア、何でもさ。嫌いな音楽はほぼない。エレクトロニック・ミュージックも好きさ。音楽オタクなんだよ。そういうものすべてからインスピレーションを受けているよ。聴く音楽すべてから吸収して、他の人が書いた音楽からインスピレーションを受けるんだ。
ー 今のクリエイターの音楽からも、ゴスやその他の音楽からの影響を聴き取ることは可能だと思いますか。
ミレ:おそらく注意深く聴けばわかるんじゃないかな。まあでもそれは重要ではないよ。大切なのは曲さ。「ダイイング・プラネット」を聴けば、ゴスやドゥームからの影響がわかるかもしれない。「キラー・オブ・ジーザス」のような激しい曲では、スラッシュ・メタルからの影響がわかるだろうけれどね。
ー では、現在のお気に入りのアルバムを3枚教えてください。
ミレ:ちょっとコンピューターをチェックさせてくれ(笑)。今のお気に入りか。Lordeの『Solar Power』。ハロウィンの最新作。Tocotronicの新作『Nie Wieder Krieg』。
ー オールタイムのお気に入りの3枚となるといかがですか。
ミレ:オールタイムか。これはハードだな。頑張ってみよう。ジューダス・プリーストの『Screaming for Vengeance』。アイアン・メイデンの『Killers』。メタリカの『Kill ‘Em All』。でも来週には変わってるかもしれない。難しいよ。
ー 非常に細かい質問になるのですが、最近ではほとんどのウェブサイトが『Pleasure to Kill』の発売日を1986年11月1日としています。しかし、私の記憶では、『Pleasure to Kill』の方が、スレイヤーの『Reign in Blood』よりも先に出ていたはずです。『Reign in Blood』が10月の発売なので、11月1日ということはないと思うのですが。
ミレ:そうだね。『Reign in Blood』より前だったと思う。11月ではないかもしれない。だけど、何月かと言われたらわからないや(笑)。リサーチみないと、はっきりしたことは言えない(爆笑)。1986年だったことは覚えているけれど、何月だったかまでは思い出せないな(笑)。
ー では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
ミレ:その前に一つ教えてくれ。日本のコロナの状況はどうなの?俺たちは日本に行ける状況?
ー 現在のところ8月にダウンロード・ジャパンが予定されています。これが開催されれば、その後は普通の状態に戻っていくのではないかと。
ミレ:それはいいね。それなら可能な限り日本に行くよ。大きなフェスティヴァルであれツアーであれ、日本でプレイするのは大好きなんだ。前回日本に行ってから、随分と時間が経ってしまったからね。ぜひ日本のファンと一緒に『ヘイト・ユーバー・アレス』のリリースを祝いたい。楽しみにしているよ。日本に行くしかない。しばらく行けてないからな(笑)。
文 川嶋未来
【CD収録曲】
[CD]
- セルジオ・コルブッチ・イズ・デッド
- ヘイト・ユーバー・アレス
- キラー・オブ・ジーザス
- クラッシュ・ザ・タイランツ
- ストロンゲスト・オブ・ザ・ストロング
- ビカム・イモータル
- コンカー・アンド・デストロイ
- ミッドナイト・サン
- デモニック・フューチャー
- プライド・カムズ・ビフォー・ザ・フォール
- ダイイング・プラネット
- テリブル・サーテインティ
- サタン・イズ・リアル
- ホーズ・オブ・ケイオス
- ヘイル・トゥ・ザ・ホーズ
- 666 ワールド・ディヴァイデッド
- エネミー・オブ・ゴッド
- ピープル・オブ・ザ・ライ
- エンドレス・ペイン
- マーズ・マントラ
- ファントム・アンティクライスト
- フォールン・ブラザー
- アポカリプティコン
【メンバー】
ミレ・ペトロッツァ(ヴォーカル/ギター)
サミ・ウリ・シルニヨ(ギター)
フレデリク・ルクレール(ベース)
ヴェンター(ドラムス)