フィンランドのフォーク・メタル・バンド、コルピクラーニ。前作『北欧コルピひとり旅』ではポップな作風を聴かせ、ファンを驚かせた。この度リリースとなるニュー・アルバム『コルピの暗黒事件簿』では、どのような方向性をとったのか。ベーシストのヤルッコに話を聞いてみた。
― 前作『北欧コルピひとり旅』は、コルピクラーニとしては特殊というか、わりとソフトな作品だったと思います。それに対し、ニュー・アルバム『コルピの暗黒事件簿』は、いつものコルピクラーニに戻ったという感覚を持ったのですが。
ヤルッコ:俺たちのアルバムは、どれもその前の作品とは違ったものになっている。それがとても自然なんだ。同じことを繰り返そうとは思わないし、ただ自然に曲を書いてアルバムを作ると、以前とは違ったものになる。前作は、プロダクション的にも、その他多くのことにおいても、とてもナチュラルでオーガニックな作品で、曲に関してはおそらくバンド史上最も軽くてポップなものだったと思う。今回は、プロダクション的には同じ方向性を取りつつも、曲はもっとヘヴィで複雑なものになっているよ。特にバック・トゥ・ルーツみたいな意味合いはなくて、いつもと同じように、前作とは違う作品になっていると言えるね。
― ヘヴィで複雑にしようと思ったきっかけは何かあったのですか。
ヤルッコ:いや、そういうことは一切ない。ただ曲を書いたら、自然にそうなったというだけ。「こういう方向性にしよう」みたいな決定は、まったくしないんだ。
― レゲエやパンクっぽいもの、さらにはジューダス・プリーストっぽい曲もありますよね。
ヤルッコ:そうだね。以前のアルバムでも、俺たちは常に様々な音楽スタイルを取り入れてきた。確かに今回のアルバムは、最もヘヴィであると同時に、一番多様性のある作品とも言えるね。様々な音楽性が入っていて、1曲だけ取り出して単独で聴くと、多少変に感じるものもあるかもしれないけれど、アルバム全体60分を通して聴けば、パーフェクトなコンビネーションになっている。違和感を覚える曲は無いと思う。確かに以前より広い音楽的スコープになっているね。だけど、1曲を除いて意図的に作ったものはない。どれも自然に書きあがったものさ。
― その1曲というのはどれですか。どのような意図で作られたのでしょう。
ヤルッコ:ヨンネが「『Painkiller』に入っていてもおかしくない曲を作ろう」と言い出してね。それがオープニング・トラックさ。
― レゲエも聴くのですか。
ヤルッコ:他のメンバーは聴かないと思うけど、ヨンネは一時期レゲエにハマっていたよ。まあ、ここ数年は聴いていないようだけれど。レゲエの影響が、5年後に急に出てきたというのは面白いよね。曲はほとんどヨンネが書いているから。
― 新ドラマー、サムリが加入ました。彼を選んだ理由は何だったのですか。
ヤルッコ:サムリとはずっと友達で、ヨンネと同じ町に住んでいるんだ。彼はProfane Omenというバンドをずっとやっていて、以前彼らとフィンランド・ツアーもやったことがあって、彼のことは個人的にもミュージシャンとしてもよく知っていたんだ。それに彼は、ヨンネのアコースティック・プロジェクトにも参加していたからね。ドラマーが必要になった時に、特に誰にするか議論をする必要もなかった。サムリは参加する時間があったし、これはあまり知られていないことだけれど、実は彼は前作でもドラムを叩いているんだ。セッションドラマーとして、2/3くらいの曲を叩いた。だから、とてもスムーズにドラマーを変えることができたよ。
― ドラマーが変わって音楽的にも変わった部分はありましたか。サムリは何か新しいものを持ち込んだでしょうか。
ヤルッコ:大きく変わったよ。ドラマーとしても、彼はテクニック的にずっと優れているからね。色んなプレイを持ち込んだ。1年半から2年前にヨンネがデモを作った時も、サムリはヨンネのホームスタジオにずっと一緒にいて、曲作りやアレンジメントに大きな影響を与えた。ヨンネにセカンド・オピニオンを与えたんだ。「これは良い。これは良くない。ここはこうしたほうがいい」なんて言ってくれる人がいるのは、ヨンネにとってとても良いことのようだ。自分の書いた曲の良し悪しを自分で判断するのは難しいものだからね。
― Matsonが脱退した理由は何だったのですか。
ヤルッコ:ここ何作ではMatsonがドラムを叩いていない曲もあった。特に前作のようにね。ドラムパートがとても複雑になっていったせいで、彼が叩けず、誰かが叩いたものを後から彼が覚えて、みたいな感じで。曲が複雑になって、ドラマーとしての技量も要求されるようになっていって、それはMatsonが望むものではなかったんだ。20年も一緒にバンドをやってきて、それに彼はとてもナイスガイだから、彼がバンドを去るのはとても残念なことだったけれど、だからと言って、それを理由にシンプルな曲を書く訳にもいかなかったし。
― 今回は多くの曲が殺人事件についてと、暗い歌詞が多いですね。
ヤルッコ:歌詞はほとんどTuomas Keskimäkiに書いてもらっている。ここ何作かずっとそうしているんだ。俺たちが曲作りをしている間、なぜか彼は殺人に関する歌詞を多く書いていてね。それで何故かと聞いたら、「わからない」と。おそらくその頃彼は殺人事件に興味があって、いろいろと調べてそれらについて書いていたようだ。歌詞を受け取った時、確かにこれは今までの俺たちにはなかったタイプのものだと思ったけれど、曲調にピッタリだったからね。
― どれもフィンランドでは有名な殺人事件なのですか。
ヤルッコ:少なくとも当時はね。50年代、60年代の事件がメインで、1曲鉄器時代のものもあるけれど、60年代ももう60年前のことだから。チルドレン・オブ・ボドムのおかげでボドム湖の殺人のことは良く知られているけれど、他の事件については、今はもう詳細はみんなよく知らないかもしれない。少なくとも事件が起こってからしばらくは、フィンランド中でよく知られていた事件だよ。被害者が若くて謎が多い事件とかはね。50年代、60年代、フィンランドはまだまだ田舎で、1つの村が1つの国みたいな感じで、こういう事件が起こると国中に知れ渡るという感じだったんだ。
― 一方でパーティをテーマにした曲もあります。殺人とパーティというコントラストが面白いと思ったのですが。
ヤルッコ:コンセプト・アルバムではないからね。俺たちはコンセプト・アルバムを作ったことはない。前作は1つのテーマがあって、すべての曲が同じトピックを共有していたから、コンセプト・アルバムだと思った人もいたみたいだけど、そういう意図はなかった。いつも歌詞にはバラエティがあって、曲にも強烈なパーティ・ムードがある。アルコールについて、ビールやテキーラ、ウォッカの曲を書いてきたけれど、今回はそういうアルコール・アンセムは無い。パーティについての曲はいくつかあるけれど、「Bier Bier」みたいな露骨なものではないよ。
― エクソダスのジャック・ギブソンがバンジョーで参加しています。
ヤルッコ:彼らとは長い知り合いでね。最初にいつ会ったのか、忘れてしまったくらいさ。フェスティヴァルで何度も会って、一緒にビールを飲んだり。俺とギターのケインはカントリーが大好きなんだ。ジャックはコフィン・ハンターというブルーグラスのバンドをやっていて、小規模なヨーロッパ・ツアーをやるという話があった。彼のバンドは連れて来ず、俺たちが代わりにプレイするという案だったんだ。ずっと前の話で、結局実現はしなかったんだけど。それからゼトロが「Bier Bier」をやることになって、エクソダスが俺のホームタウン、タンペレでプレイをした時に、大量のコルピクラーニ・ビールを持っていったんだ。夜、ツアー・バスで飲みまくって、みんなベロベロに酔っ払って、その時にジャックがバンジョーをプレイすることが決まったんだと思うけど、誰もよく覚えていない(笑)。
― ディミトリ・ケイスキというミュージシャンも参加していますね。
ヤルッコ:サムリがディミトリのバンドでドラムを叩いていたんだよ。彼はとても素晴らしいシンガーでね。もっとストレートなR&Bスタイルのハードロックをやっている。スタジオにやって来て、バッキングをたくさんやってくれた。彼はとても良いヴォーカリストだから、とても良い効果が出ていると思う。
― ディミトリはヤンネのアコースティック・カルテットにも参加しているのですよね。
ヤルッコ:いや、それは知らないな。どこで見たの?
― ヨンネのFacebookに書いてありました。
ヤルッコ:ヨンネは自分のアコースティックのバンドをやっているけど、10人くらいメンバーがいて、そういえばもっと規模の小さいショウもやっていて、4人でやってるとも言っていたな。だからありえるかもしれない(笑)。君の方が俺より詳しいのかも(笑)。
― 前作に続き、ヤンネ・サクサがプロデュースをしています。彼を再び起用することにした理由は何だったのでしょう。
ヤルッコ:前回の出来にとても満足しているからさ。それ以前はAksu Hanttuとレコーディングをして、いろいろと成長をしたけれど、彼と一緒にやるのがどんどんと難しくなってきてね。彼のやり方はとてもヘヴィなんだよ。もっとシンプルに簡単にやりたくて。ヤンネならそうできるということで、アルバムの作り方についての考え方が同じだったので、彼とやることにしたんだ。やってみたら、思った通り以前とは違うシンプルなやり方でできたんだ。今回は2回目で、お互いのこともよくわかっていたから、さらに簡単にやることができた。とても心地よかったよ。一番の違いは、Aksuはとにかく完璧を求めるんだ。シンプルなパートにも20テイクくらい要求して、さらに「もっともっと」と言ってくるので、終いにはプレイヤーもシンガーも、もはや彼が何を求めているのかわからなくなってきた。どうすればさらに良くなるのか、彼が何を求めているのか、わからなくなってしまったんだ。ヤンネは、特にヴォーカルについて、フィーリングやフレーズが適しているかを重視して、ムードがあれば完璧を求めたりはしない。だからとてもやりやすいんだ。ヴォーカルも1−2テイクで済ませるので、すべてがとても新鮮だったよ。
― コルピクラーニはフォーク・メタル・バンドと呼ばれることが多いですが、自分たちではどのように考えていますか。
ヤルッコ:俺たちがやっているのはフォーク・メタルさ。ヨーロッパでフォーク・メタルがブームになると、それに飛びついたバンドもたくさんいて、彼らは自分たちはフォーク・メタルだと言っていたのに、やがて「俺たちはフォーク・メタルじゃない。ブラック・メタル・バンドだ。フォーク・メタルの影響を受けたブラック・メタル」なんて言い出すバンドもいるけれど。俺たちは今も誇りを持ってフォーク・メタルをやっているよ。始めた時も、今もフォーク・メタル・バンドさ。
― コルピクラーニに影響を与えたバンド、アーティストを挙げるとしたら、どうなるでしょう。
ヤルッコ:うーん、それは難しい質問だなあ。例えば俺やヨンネ、ケインなどは、80年代から90年代始めにかけて10代だったからね。80年代のヘヴィメタルがとても人気があって、それでギターなんかを始めた。ワスプ、アイアン・メイデン、モーターヘッド、ディオ、ブラック・サバスとか。そのあたりがルーツさ。ヨンネはその後ラップランドに引っ越して、トラディショナルなサーミの音楽にハマった。ヴァイオリニストのトゥオマスは、ヘヴィメタルはそれほど好きじゃない。ロックが好きじゃないんだ。ジェスロ・タルみたいなプログレは聴くけれど、基本的に彼のルーツはとても古いフォーク・ミュージックなのさ。という訳で、このバンドがコルピクラーニに影響を与えた、みたいに特定するのは難しいんだよ。世界中の様々な音楽から影響を受けているからね。
― パンデミックでツアーが難しい状況ですが、ライヴ・ストリーミングについてはどう考えますか。
ヤルッコ:去年一度だけライヴ・ストリーミングをやったのだけどね。コルピクラーニ・ウォッカの発売の際に、蒸留所、醸造所からライヴをやったんだ。お金をかけて醸造所の中に大きなステージを作ってね。レコーディング・クルーなんかも入れてやったのだけど、結局大赤字になってしまって、意味がなかった。何か特別なことをやりたかったのだけど。プロダクションもきちんとして。だからガッカリだったし、すぐにまたやることはできない。驚いたことに、出来自体はとても良かったのだけどね。お客さんがいない中でやるということには懐疑的だったんだ。どうやってライヴをやるムードを作れば良いのかわからないから。ところが、中には15人くらい人がいたし、思ったよりもうまくやれて、そういう意味ではライヴ・ストリーミングに反対ということはないのだけれど。またやるかはわからないし、こういう状況があとどのくらい続くか次第だね。今回のアルバム用にビデオを5本も作って、これもたくさんお金がかかったけれど、ライヴもやれないし、これしかファンが俺たちを見ることができるものは無いから。
― お気に入りのアルバムを3枚教えてください。
ヤルッコ:面白い質問だな。モーターヘッドの『No Sleep ‘til Hammersmith』。ブラック・サバスの『Sabbath Bloody Sabbath』。それからアクセプトの『Metal Heart』。
― では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
ヤルッコ:申し訳ないけれど、もう少し待っていてくれ。必ず行くから辛抱強く待っててくれ。日本はいつ行っても楽しいし、良いショウをやれる。素晴らしい国だよ。また行ける時を楽しみにしているよ。
文 川嶋未来