ジャーマン・カルト・スピード・メタル・バンド、アイアン・エンジェルが4枚目のアルバムをリリース!ということで、現在バンドのスポークスマンを務めているドラマーのマクシミリアン・ベーア(以下マックス)と、唯一のオリジナル・メンバーであるヴォーカリスト、ダーク・シュローダーに、それぞれ話を聞いてみた。まずはマックスのインタビューから。
ー ニュー・アルバム『エメラルド・アイズ』がリリースになります。どのようなアルバムになっていると言えるでしょう。
マックス:ニュー・アルバムは、特に曲の構成や曲の中の変化という点において、以前よりも興味深い内容になっていると思う。さらに、演奏もよりタイトになっているし、プロダクションもクリアになっている。全体的に前作から大きなステップアップになっていると思うよ。
— あなたも含め曲作りを担当しているメンバーは再結成後に加入していますが、曲を書くときには「アイアン・エンジェルらしいものにしよう」と意識しているのでしょうか。それとも自然に思いつくままに曲を書くのでしょうか。
マックス:このバンドは80年代から存在していた訳だからね。アイアン・エンジェルの音楽は俺たちのDNAに刻まれている訳で、むしろアイアン・エンジェルらしくないものにする方が難しいよ。だけど、もちろん過去の作品をコピーしようというつもりはない。ニュー・ギタリストのニーノが、「ディーモンズ」を書く時に、(『Hellish Crossfire』収録の)「Legions of Evil」からインスピレーションを受けたと言っていたけれど、それ以外は方向性に関して過去を振り返ることはなかった。収録された曲が書かれた時期はバラバラで、2018年の時点で既に書かれていたものもある。最初にできたのが、ロブが書いた「ディセンド」で、2番目が俺がこのバンドに入って初めて書いた「セイクレッド・スローター」。そこから曲を集めていったんだけど、19年の2月にみんなで集まって、方向性を固たんだ。その時点でかなりの数の曲が出来上がっていたけれど、スタイルがバラバラだったから。モトリー・クルーっぽいものもあれば、クリエイターっぽいものもあるみたいな感じで。それで、どういうことをやりたいのかを話し合い、『Hellish Crossfire』のようなスタイルで、前作をより発展させたものにしようと決めた。ミュージシャンとしても進歩していて、より良い曲を書けるようになっていたからね。
— 意図的に『Hellish Crossfire』みたいなサウンドにしようと意識はあったのですね。
マックス:まあ、それが俺たちにとっては当然のことだからね。ライヴでは、毎回このアルバムから7曲プレイしているから、頭にこびりついているんだよ。ファンからリクエストが多いのも、このアルバムだし。あまりにいつもプレイしているから、どうしてもその影響が入り込んでくるのさ。バンドの原点だから、どのような方向へと進んでいっても、ルーツはそこにある。アイアン・エンジェルだとわかる印があるのさ。
— しかし、一方でアートワークは『Winds of War』にそっくりですよね。
マックス:(笑)。それは俺も思った。ヴェリオ・ヨストというイタリアのアーティストが描いてくれたんだ。『エメラルド・アイズ』というタイトルはどういう意味なのかを説明して、彼が彼なりにそれを解釈して描いた。インスピレーションを得るために、俺たちの過去の作品のカバーも見たようだけど。
— 意図的に『Winds of War』風にと依頼した訳ではないのですね。
マックス:違うよ。さっきも言ったとおり、過去をコピーするつもりはないから。もし似ているものがあったとしたら、それは自然にそうなっただけか、誰かの解釈がたまたまそうなったというだけ。このアートワークは最高だよ。バンド史上一番のものじゃないかな。
— 歌詞はあなたが担当しているとのことですが、どのような内容のものなのでしょう。
マックス:歌詞は全部俺が書いているのだけど、そのテーマは多岐に渡っているよ。それをまとめると、自分の信じていることを疑うこと。どれもリスナーが自由に解釈できるようなものになっている。色々な内容を書いているけれど、どれも曲のムードに合っていると思う。「ディーモン」は俺自身の不眠症についてだし、「ブリッジズ・アー・バーニング」は、親しい人間、家族とのつきあい方について。時に哲学的、スピリチュアルな感じになっているよ。すべての曲いついて詳細に分析するとなると、3時間はかかるね(笑)。
— タイトル・トラックはどのような内容なのですか。メドューサについてと読めるのですが。
マックス:メドゥーサは、あくまで比喩。曲の内容は、希望というものの欺瞞的な性質について。人々は希望にすがろうとするけれど、希望はそれに応えてはくれない。80年代っぽい書き方になっているよ。俺はメタファーを使うのが好きなんだ。曲がとても暗いから、メドゥーサのメタファーがピッタリだと思った。
— 自分たちはスラッシュ・メタル・バンドだと思いますか。
マックス:ニュー・アルバムはまた曲調が『Hellish Crossfire』みたいにスラッシーになっていると思う。『Hellish Crossfire』は、スピード・メタルとスラッシュ・メタルのミックスで、それ以降は曲は速いけれど、スラッシュの要素は減っていて、激しさやパワーを欠いていたと思う。今回はそれらを取り戻してはいるけれど、自分たちのことはスラッシュ・メタル・バンドだとは思わないよ。俺たちはスピード・メタル・バンドさ。俺たちのDNAに刻まれている他のスタイルを取り込むこともあるけどね。「ホワット・ウィー・アー・リヴィング・フォー」のサビなんかは、80年代のロックみたいだし。「ブリッジズ・アー・バーニング」はスピード・メタルではあるけれど、メロディックだ。これは俺がこのバンドのために書いた2つ目の曲なのだけど、実を言うとこれは俺の好きな日本のバンド、ラウドネスやXジャパンからもインスピレーションを受けていると思う。特にラウドネスからの影響は大きくて、メインのリフはアキラ・タカサキが書きそうだろ(笑)。他のメタルのサブジャンルっぽい部分もあるけど、やっぱり全体としてはスピード・メタルさ。
— 2015年に再結成した理由は何だったのでしょう。
マックス:きっかけは、ベーシストのディディがドイツの大きなフェスでプレイをした時に、アイアン・エンジェルのTシャツを着ているファンをたくさん見かけたことだった。彼は80年代からダークと友達でね。それで電話をかけて「アイアン・エンジェルのTシャツを着ているファンがたくさんいたよ。バンドに興味を持っている人間は多い」って伝えたんだ。それで、再結成をしようという基本的なアイデアが生まれたんだ。ディディが2人のギタリストを連れてきて、ダークがオリジナル・ドラマーのマイクに声をかけた。それが2014年の終わりかな。それで正式に再結成されたのだけど、マイクはすぐに抜けてしまった。
— あなたはどのように加入したのですか。
マックス:前やっていたバンドを抜けたこともあって、インターネットにバンド加入希望の広告を出していたんだ。そしたら、彼らからコンタクトがあってね。その頃何をやりたいかよくわかっていなかったのだけど、アイアン・エンジェルから連絡があって、これがやりたいことだとわかったんだ。オーディションを受けにいったのだけど、当時はリハーサル・スペースが無くて。だから、ただ曲を聞いて、それでオーディションを受けたから緊張していて、だけど最初の曲のサビが終わるあたりで、ダークが2本親指を立ててくれて(笑)。曲が終わると「オーケー。君に決まりだ」と言われた(笑)。それからもう何曲かプレイして、アルバム用の曲を教えてくれて。歌詞を書けるかとも聞かれた。
— 今おいくつなのでしょう。
マックス:33歳だよ。
— ということは1987年生まれ?
マックス:そう。バンドが最初に解散したあとに生まれたんだ(笑)。
— 加入以前からアイアン・エンジェルを知っていましたか。
マックス:『Hellish Crossfire』というアルバムのことは知っていた。タイトルが頭にこびりついていて。彼らからコンタクトがあった時、最初彼らは自分たちがアイアン・エンジェルだとは明かさなかったんだよ。「80年代からやってるメタル・バンドなのだけど、興味があったらジャムしてみないか」って。典型的なメールだと思って、正直最初はあまり真面目に捉えていなかった。ところがその後アイアン・エンジェルだとわかって、名前は聞いたことがあったから、『Hellish Crossfire』を聴いてみて、「ああ、これならぜひやりたい」と思ったんだよ。加入する以前は名前は知っていた程度で、よくは知らなかったんだ。
— ヘヴィな音楽を聴くようになったきっかけは何だったのでしょう。
マックス:両親のせいだよ(笑)。MTVのヘッドバンガーズ・ボールをしょっちゅう見ていたからね。80年代終わりから90年代の初めは、メタルだらけだっただろ。テレビですらプレイされていて。それが大きなきっかけさ。その後10年ほどなぜか音楽に興味を持てなかったのだけど、13歳の時にドラムを始めて、また音楽を聴き始めた。それでメタルを聴くようになったんだ。
— 好きなドラマーは誰ですか。
マックス:良い質問だね。たくさん好きなドラマーはいるけれど、一番共感できるのは間違い無くデイヴ・ロンバード。あとはアイアン・メイデンのニコ・マクブレインも好きだし、いくらでも挙げられるよ。
— お気に入りのアルバムを3枚教えてください。
マックス:まずはスレイヤーの『Seasons in the Abyss』。これは俺にとって最も重要なアルバムだ。それから『…And Justice for All』。3番目は、そうだな、デスの『The Sound of Perseverance』。
— 基本的にエクストリーム・メタル中心なのですね。
マックス:普通のメタルも好きだし、時期によって変わるんだけどね。アイアン・エンジェルに入る前は、たまたまグラム・メタルをプレイしていたし(笑)。グラム・メタルも好きなんだよ。今はそれほどでもないけれど。
— バンドの今後の予定を教えてください。
マックス:アルバムが出たらツアーをする予定だったけれど、不可能になってしまった。来年またツアーを再開したいと思ってるよ。ぜひ海外のツアーも組みたいのだけどね。
— では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
マックス:また日本にも行きたい。前回大阪でプレイした時は、とても楽しかったからね。またすぐに行けるといいな。『エメラルド・アイズ』も気に入ってもらえると嬉しい。
さて続いては、ダークのインタビュー。ダークは英語が苦手ということで、簡素なメール・インタビュー方式となってしまったのが残念である。
— そもそもヘヴィな音楽を聴くようになったきっかけは何だったのですか。
ダーク:学校に通っている頃から聴いていたけど、一体いつのことだったのか、詳細は忘れてしまったよ。
— 80年代のアイアン・エンジェルが影響を受けていたバンドはどのあたりだったのですか。
ダーク:ジューダス・プリースト、スレイヤー、アンスラックス、ヴェノムあたりだね。
— 影響を受けたヴォーカリストは誰ですか。
ダーク:俺はいつも自分らしくあろうとしていた。まあ80年代にはロブ・ハルフォードと比較されることが多かったけれどね。
— パンクからの影響はありあしたか。
ダーク:いや、まったくない。
— セカンド・アルバム『Winds of War』にはリッチー・ブラックモアの息子、ユルゲン・ブラックモアが参加しています。どのような経緯で彼が参加したのでしょう。
ダーク:彼とは友達だったんだよ。近所に住んでいたから。『Winds of War』をデコーディングしている時も、しょっちゅうスタジオに遊びに来ていたから、ある日何となく1曲参加してもらったのさ。確か「Sea of Flames」だったと思う。
— 86年にバンドは一旦解散しています。原因は何だったのですか。
ダーク:あの時みんなが違うことをやりたがったから、別の道を進むことにしたのさ。
— 15年の再結成の経緯はどのようなものだったのでしょう。
ダーク:ベース・プレイヤーのディディがバンドを再結成しようと持ちかけてきたんだ。素晴らしい考えだとは思ったけど、最初は半信半疑だった。その前の再結成における経験があったからね。だけど今回はすべてうまくいったよ。
— 昨年日本でプレイしましたが、いかがでしたか。
ダーク:ファンのリアクションという意味では良かったし、会った人々もみんな素晴らしかった。ただ、あの晩バンドのメンバー内で人間関係の問題が色々とあって、残念ながら俺たちのパフォーマンスは良いものではなかったんだ。
— お気に入りのアルバムを3枚教えてください。
ダーク:クイーンズライクの『Operation: Mindcrime』、ジューダス・プリーストの『British Steel』、アンスラックスの『Among the Living』。
— では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
ダーク:またすぐにでも日本に行きたいと思っているよ。
文 川嶋未来
【CD収録曲】
- セイクレッド・スローター
- ディセンド
- サンズ・オブ・タイム
- デーモンズ
- ホワット・ウィア・リヴィング・フォー
- エメラルド・アイズ
- フィアリー・ウィンズ・オブ・デス
- サクリファイスド
- ブリッジズ・アー・バーニング
- ヘヴン・イン・レッド
《日本盤限定ボーナストラック》 - ダーク・ソーサリー
【メンバー】
ダーク・シュローダー(ヴォーカル)
ロバート・アルテンバッハ(ギター)
ニーノ・ヘルフリッヒ(ギター)
ディディ・マッケル(ベース)
マクシミリアン・ベーア(ドラムス)