アリゾナのヘヴィメタル・バンド、インサイト。ヴォーカルを務めるのはリッチー・カヴァレラ。名前から想像できる通り、彼はあのマックス・カヴァレラの義理の息子にあたる。そんなインサイトがアトミック・ファイア・レコードと契約し、新作『ウェイク・アップ・デッド』をリリースする。ということで、日本のインタビューは初めてというリッチーに、色々と話を聞いてみた。
ー ニュー・アルバム『ウェイク・アップ・デッド』がリリースになります。どのような点が進歩していると言えるでしょう。
リッチー:すべてにおいて進歩しているよ。俺たちはアルバムをリリースするごとに進歩していると思う。成長して、どんどん良くなっていっている。今回のアルバムでもヴォーカルからドラム、ギターのプレイ、チューニングも昔のものに戻したし、アルバム全体のヴァイブは最高に新鮮だよ。オーガニックでヴァラエティに富んでいて、とても満足している。
ー この作品は完全なニュー・アルバムという訳ではなく、前半が新曲で、後半が過去からの抜粋という形になっています。このような形にしたのは何故ですか。
リッチー:何か特別な形にしたくてね。この形態を何と呼べばいいのかわからないけれど、もともとは5曲入りのEPにするつもりだった。だけど、パンデミックでの遅れなどもあったし、メタルヘッズたちに過去に出したそれぞれのアルバムのヴァイブも紹介したかった。だから、リマスターして入れたんだ。ただ10曲新曲を入れるよりもスペシャルだろう?5曲の素晴らしい新曲プラス、5曲のクラシックという形は。とてもこのアイデアを気に入っているよ。
ー 過去の曲はどのように選んだのでしょう。各アルバムから1曲ずつとなっていますが。
リッチー:YouTubeの視聴数などを参考にして、どの曲が一番人気があるかを見たんだ。それからインサイトのそれぞれのアルバムを代表する曲はどれかというのも考えて。だからこれを聴けば、それぞれのアルバムがどんなサウンドなのかがわかるし、俺たちの成長も感じてもらえるだろう。
ー なるほど、このアルバムを聴けば、インサイトのキャリア全体がわかる感じですね。
リッチー:そう思う。俺たちがどこにいて、どこに向かっていくのかがわかるよ。50曲を探し出す必要はなく、この5曲を聴けばわかってもらえるんじゃないかな。
ー 今回歌詞のテーマはどのようなものでしょう。インサイトは政治的なバンドではないという発言を見たことがあるのですが。
リッチー:過去のアルバムでは、基本的に社会的な問題について歌っていた。俺が見たこと、他の人々を通じて経験したこととか、世の中の見方についてね。だけど、今回は最高にパーソナルでプライヴェートな内容になっている。自分の中を深く掘り下げている感じ。歌詞の内容に関しては、この点が他のアルバムと異なっているよ。自分があの時どんな風に感じているかを書いたつもりだったのだけど、まるで今の俺の生活の前兆になったようで、まさに今の俺にも語りかける内容になっている。6ヶ月、1年前ではなくね。とても共感できる内容で、みんなも俺と同じように感じてくれるんじゃないかな。俺たちが過去の2年間に感じた内容だよ。
ー 個人的な内容にしたのは、やはりパンデミックがきっかけだったのでしょうか。
リッチー:というよりも、バンドの決断でもある。ベースのエルが、「今回のアルバムはとても深い内容にしよう」と。パンデミックに加えて、アルバムにパーソナルでプライヴェートなヴァイブを加える必要があると思ったんだ。
ー アートワークは何を表しているのでしょう。
リッチー:アリゾナとバンド自身を表現したかった。このアルバムは俺たちというものすべてのコンビネーションで、ガラガラヘビがいてサボテンがあって、後ろにはマリファナを吸っているギターを持ったゾンビがいる。アリゾナのダークなヴァイブさ。とても気に入っているよ。まさに俺たちそのもの。ゾンビが地中から這い出してきていて、バンドの再生を表現している感じ。
ー アーティストにはどのような指示を出したのでしょう。
リッチー:アルバムの意味するところ、それぞれの曲が意味するところを説明して、そこからアーティスト自身のフィーリングを作り出してもらったよ。それがアーティストから最高の結果を引き出すやり方だと思う。ブライアン・ゼルナーは素晴らしい作品を作ってくれたよ。以前はダン・シーグレイヴなどとも仕事したけれど、彼も重要なアーティストさ。
ー マリファナはバンドにとって重要な要素なのでしょうか。
リッチー:俺たちはヘヴィメタルのサイプレス・ヒルさ。みんな俺たちがマリファナを吸うことを知っている。俺たちは問題ばかり起こすアル中ではないからね。マリファナを通じて、一緒にツアーしたバンドや世界中のメタルヘッドと絆を深めているんだよ。
ー アリゾナ出身ということも重要ですか。
リッチー:アリゾナはクールだよ。他のところとは違って、アンダーグラウンドのメタルシーンがずっと存在していて、シーンを変えたバンドもいる。十分なリスペクトを得られていないかもしれないけれどね。ダイハードなメタル・コミュニティがあって、成功しているローカルバンドも少なくない。アメリカのヘヴィメタルにとっては特別な場所だよ。
ー 今回もスティーヴ・エヴェッツをプロデューサーに迎えています。
リッチー:スティーヴはインサイトの重要な一部で、『Oppression』から彼と仕事をし始めて、すべてが変わったよ。彼は素晴らしいヴァイブを作り出してくれるし、理解もある。アルバムごとにも成長を感じられる。彼と仕事をする度に、まったく新しいことをしているように感じるんだ。彼はバンドをよく知っていて理解してくれるから、心地よいということもある。俺たちらしくないことをやらせようともしない。とてもありがたいよ。たまにバンドはプロデューサーでギャンブルをして、キャリアを台無しにしてしまうことがある。音楽性を変えすぎたりね。俺は実験は好きだけれど、すべてを変える必要はない。スティーヴとは、一貫性のある成長を感じることができるんだ。今後も彼とやっていくと思うよ。
ー 無理矢理にでもインサイトの音楽をカテゴライズするとしたらどうなりますか。
リッチー:いつもただヘヴィメタル・バンドだと言っている。俺たちの音楽には多くのフィーリングや影響がある。ハードコアからパンク、初期スラッシュとかね。ただ自分たちの感じ方、感じるものをプレイしているだけだからね。つまるところ、単にヘヴィメタルといったところさ。エネルギッシュで激しくて、意味深い歌詞、意味深い曲。ずっとこれこそが俺にとってのヘヴィメタルだったから。
ー 音楽的にはどのようなバンドから影響を受けているのですか。
リッチー:始めの頃は、メガデスやスーサイダル・テンデンシーズ、オジーのようなメタルを作り上げた基本的なアーティストを聴いていた。セパルトゥラやスレイヤー、セイクレッド・ライクのような本当に素晴らしいバンドとかね。その後影響を受ける対象は広がってきて、初期のロックやレゲエ、初期のラップや初期のカントリーなんかも聴くようになった。あらゆる音楽を試してみること、あらゆる音楽からの影響を集めるのが好きなんだ。これがこのバンドの特別なところでもある。すべてのメンバーは、とても幅広い音楽を好んでいて、それが俺たちの音楽にも現れているよ。同じことをずっと繰り返すのではなくね。
ー パンクやハードコアはどのあたりがお好きなのですか。
リッチー:シック・オブ・イット・オールとかニューヨークの、バイオハザートあたりの世代のバンドにすっかり心を奪われてね。兄貴が大好きだったから。バイオハザートからの影響は大きくて、『Urban Discipline』は子供の頃いつも聴いていた。バッド・ブレインズもよく聴くし。マックスが色々なバンドを知っているしね。
ー ヴォーカリストとしてはどうでしょう。どんなアーティストから影響を受けていますか。
リッチー:マイク・パットンかな。彼のヴォーカル・レンジは狂気の沙汰だし、歌詞の内容も素晴らしい。デフトーンズのチノ・モレノからの影響も大きい。彼の初期のヴォーカル、そしてヴォーカリストとして成長してどんどん変わっていき、決して同じところにとどまっていないのが好き。スーサイダル・テンデンシーズのマイク・ミューアも大好きだな。
ー バンド名をインサイトとしたのは何故でしょう。
リッチー:若い5人のメンバーが集まったからね。バンドを始めて、ショウをやる時にどんな風に感じるか。初期のショウでは、いつもクレイジーさを扇動していた(incited)から。初期にフェニックスでやっていたショウは、まったく狂気の沙汰だったから、インサイト(扇動する)という単語がピッタリだと思ったんだよ。それに当時3単語、4単語、5単語のバンド名が流行っていたけれど、俺たちはオールドスクールなヘヴィメタルのヴァイブを保持したかったからね。強力な1単語の名前が欲しかったんだ。フェスティヴァルでファンたちがバンド名を連呼するところを想像して。俺たちを完璧に表すバンド名さ。
ー そもそもヘヴィメタルにハマったきっかけは何だったのですか。あなたの環境を考えれば当然のことだったのかもしれませんが。
リッチー:(笑)。まあそうだね。母親が80年代中盤〜終盤にアリゾナでメタル・バーをやっていたから。5歳の頃リヴィングで、M.O.D.の「Bubble Butt」を歌っていた記憶があるよ(笑)。メタル・バンドがツアーでやって来ると、俺の家に泊まっていたし。アリゾナのアトロフィーは、俺の初期の影響に大きなパートを占めているよ。セイクレッド・ライクのメンバーがうちに住んでいたこともある。そういうことが俺の生活の一部で、自然なことだったんだ。俺は実生活ではとてもシャイなのだけど、ステージに上がるのはまったく別の経験で、信じられないようなフィーリングがある。ああいうフィーリングは地球上の他のところでは見つけられないものだよ。
ー 意識的に自発的に聴き出したアーティストは誰だったでしょう。
リッチー:おそらくメタリカじゃないかな。『…And Justice for All』のようなアルバムは、俺の人生を変えたよ。6歳くらいで、しょっちゅう彼らを見ていたし、音楽のパワーや力強さ、オーディエンスの興奮は信じられないものだった。子供の頃に見たり体験したりしたものとはまったく違うものだった。
ー アトロフィーと言えば、あなたは『Violent by Nature』のジャケットのモデルを務めたそうですね。
リッチー:実は小さかったから経緯はよくわからないんだ。ある日突然アルバムのカヴァーになっていて、ベース・プレイヤーはあれのタトゥーも入れていて。俺はとてもワイルドな子供で、いつもいたずらばかりしていたのだけど、ああいう初期のメタルの一部となれたことはとてもクールだよ。アリゾナのスラッシュ・メタル・シーンのね。
ー あれは絵ですよね。
リッチー:そう。俺をモデルにして描いたんだ。
ー あなたの写真を見て描いたのでしょうか。それとも実際にあなたがモデルをやって、それを描いたのですか。
リッチー:彼らはしょっちゅううちに来ていたからね。俺の写真を持っていたのだと思う。それでアーティストに写真を渡して描いてもらったんじゃないかな。当時のアートワークの作り方は、今とまったく違ったし、想像でしかないけれど、素晴らしい仕上がりだよ。メタルの歴史において重要なカヴァー・アートワークだよ。
ー あれは忘れられない傑出したアートワークですよね。
リッチー:間違いないよ(笑)。
ー お気に入りのアルバムを3枚教えてください。
リッチー:良い質問だな。そうだな、メタリカの『…And Justice for All』。2番目はデフトーンズの『Around the Fur』。それからボブ・マーリーのグレイテスト・ヒッツ。彼は真の言葉を語っているよ。
ー では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
リッチー:イエス。本当に本当に日本でプレイしたいよ。ずっとそのために頑張ってきたからね。みんな健康に過ごしてくれ。そうすれば音楽もなくならない。音楽がもたらすパワーを楽しんでくれ。みんな愛しているよ。ステイ・ヘヴィ。
文 川嶋未来