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ザッカリー・エズリン
(インペリアル・トライアンファント)
独占インタビュー

まるでハイヴ・マインドと言うのかな
メンバーから悪いアイデアが出てくることは
一度もなかったよ

                                   

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文:川嶋未来 Photo by Alex Krauss

昨今アヴァンギャルド・メタル界で話題沸騰、ニューヨーク出身のインペリアル・トライアンファント。そんな彼らがついに日本デビューを果たすということで、リーダーのザッカリー・エズリン(Vo, G)に話を聞いてみた。

 

 

ー ニュー・アルバム『スピリット・オブ・エクスタシー』がリリースになります。過去の作品と比べて、どのような点が進歩していると言えるでしょう。

 

ザッカリー:そうだね、今回はいつもと同じグループの人たちと一緒に作業をして、つまり前作と同じバンドのメンバー、同じプロデューサー、同じエンジニアとの仕事だった。同じ人たちと長い間一緒にやっていると、自然と進歩していくものだろう?今回のアルバムでは、多くのシナジーがあったと思う。全員がこのプロジェクトを理解していて、まるでハイヴ・マインドと言うのかな。メンバーから悪いアイデアが出てくることは一度もなかったよ。「よし、やってみよう」、「これもやってみよう」みたいな感じで。どんどんと成長していくような、他のミュージシャンとのとても協力的な作業だった。

 

ー 今言われたように、前作に続いてミスター・バングルのトレイ・スプルーアンスがプロデューサーを務めています。そもそも彼を起用した理由は何だったのでしょう。

 

ザッカリー:一度彼と仕事をしたら、後戻りはできないからね。とても素晴らしい作業さ。実は、彼の方から申し出があったんだよ。自分をプロデューサーとして起用することに興味があるかって。彼は俺たちのやろうとしていることを完璧に理解してくれるし、相性は完璧。彼のプロデュースの仕方も、俺たちの作業の仕方に合っているよ。俺たちは自分たちのヴィジョンを理解してくれる人たちとだけ一緒にやるから。時に当たり外れはあるけれど、トレイに関しては、「この人だ!」という感じ。彼と一緒にやれるのは、とても幸運なことだし、とてもハッピーに思っているよ。

 

ー タイトルの『スピリット・オブ・エクスタシー』には、どのような意味が込められているのでしょう。

 

ザッカリー:「スピリット・オブ・エクスタシー」というのは、ロールスロイスの車についているマスコットの名前さ。女性のマスコットなのだけど、服が翼みたいに見えるやつ。そもそものアイデアは、ロールスロイス、ロレックスのような高級ブランド、こういうブランドは、単に値段が高いというだけでなく、製品としても非常にクオリティが高い。究極の贅沢さ。ロールスロイスやロレックスの製品は、非常に細かいところまでデザインされていて、それらがすべて理由を持っているんだ。そういうメンタリティが、デス・メタルのアルバムを作る時にどう生かせるのかと考えてね。音楽を作る時に、非常に細かい部分にまでこだわる。ただし究極の贅沢としてではなく、究極の悪夢としてだけれど(笑)。

 

ー あなたたちの歌詞はとても独特で、他のいかなるデス・メタル・バンドとも異なっています。どのようなところから歌詞のインスピレーションを得ているのでしょう。

 

ザッカリー:基本的にはニューヨーク・シティ、そしてそこでの生活。ニューヨーク・シティやその歴史。時にはもっと広いトピック、例えば「マキシマリスト・スクリーム」などは、20世紀中盤のアメリカにおける自動車に関するスピリット、メンタリティについてさ。設計を通じてどんなことでも可能だと。こういう歌詞が、俺たちの音楽にピッタリだと思うし、それはとても重要なコンセプトさ。こういうニッチな歌詞を書いているのはとてもハッピーなことだよ(笑)。井戸はまだまだ枯れていなくて、インスピレーションのソースはたくさん残っている。ニューヨークという街にね。

 

ー なるほど「メトロヴァーティゴ」というのは、「ニューヨークという街におけるめまい」ということなのですね。

 

ザッカリー:そう、そしてそれ以外の大都市も同じ。パリや東京、ローマ、サンパウロでもそれが見つけられるはずさ。大量の人間がいるところならね。ただこの曲はそれだけではなく、その都市が持つ歴史についても触れている。都市の螺旋状のタイムラインというのかな。

 

 

ー 先ほどのロールスロイスなども含め、あなたは大量消費主義みたいなものには反対という立場なのでしょうか。

 

ザッカリー:いや、俺たちは決して反対も賛成の立場も表明しない。俺たちの意見はどうでも良くて、あくまでインスピレーションのソースというだけだよ。それが良いのか悪いのかは、リスナーが決めてくれれば良いんだ。

 

ー 「タワー・オブ・グローリー・シティ・オブ・シェイム」は何についてなのでしょう。「コロンビアのイーグルII」というフレーズも出てきますが。

 

ザッカリー:これについては言えない(笑)。リスナーに結論を引き出して欲しいな。その方がエキサイティングだろう?歌詞の中に答えはあるよ。現代と古代について歌われていて、とてもスペシャルな曲だと思う。

 

ー ロシア語で歌っている曲もあります。

 

ザッカリー:あの曲については説明できる。1959年に起きたディアトロフ峠事件についてさ。ロシアの山で何人かが行方不明になり、結局説明のつかないような死体で発見されたという事件。とてもラヴクラフト的な雰囲気のある事件だから、H.P.ラヴクラフトが物語を書くようなやり方でこの歌詞も書いた。人々を引き込むような、強烈なミステリーという感じで。描写することも不可能なような、狂気のホラーにしようとしたんだ。

 

ー 一部フランス語やドイツ語も使われていますが、これはニューヨークのメルティング・ポット的なものを描写しているのでしょうか。

 

ザッカリー:その通りだよ。

 

ー アートワークについてはいかがでしょう。これは何を表現しているのですか。

 

ザッカリー:アートワークのコンセプトは、オーストリアの画家、グスタフ・クリムトからのインスピレーションと、1920年代のジョセフィン・ベイカーのスタイルみたいなフラッパーをミックスしたものだよ。

 

ー 歌詞の内容との関連はあるのでしょうか。

 

ザッカリー:このアートワークもやはり贅沢を表現している。1920年代の過剰な贅沢とかね。グスタフ・クリムトは、絵を描く時にたくさん金を使っただろう?これがまったくメタルらしくないカヴァーだというのも、興味深い点だと思う。あんなカヴァーなのに、中身は非常にエクストリームというのは、素晴らしいジャクスタポジションだと思うんだ。カヴァーはダンサーの女性なのにね。

 

 

ー アルバムにはたくさんのゲストが参加しています。まず、テスタメントのアレックス・スコルニックですが、彼が参加した経緯を教えてください。

 

ザッカリー:参加している人たちは、ほとんど友人か知り合いなんだ。俺たちのドラマー、ケニー・グロハウスキーが、彼と一緒にジャズのインプロヴィゼーション・グループ(PAKT)をやっているんだ。それでケニーがゲスト参加を頼んでみたら、寛容にも弾いてくれてね。

 

ー ヴォイヴォドのスネイクについてはいかがでしょう。

 

ザッカリー:スネイクはレーベル(センチュリー・メディア)を通じてさ。前作でヴォイヴォドのカヴァー、「Experiment」をやって、多分彼らもそれを聴いて気に入ってくれたみたいで、レーベルを通じて頼んだら、OKしてくれたんだ。昔から聴いているバンドだからね。スネイクに参加してもらえたのは、とてつもない名誉なことだよ。だけど、ただ有名な人たちに参加をしてもらってる訳じゃないよ。俺たちだけではできないことを、ゲストにやってもらっているんだ。俺はアレックス・スコルニックみたいにギターを弾けないし、スネイクみたいに歌うこともできない。だから彼らに参加してもらうことで、俺たちだけではできない素晴らしいものを曲に付け加えてもらうのさ。

 

ー ブラッディ・パンダのヨシコ・オハラも参加しています。

 

ザッカリー:ヨシコは俺たちにとって、5人目のビートルズみたいな存在。バンドの隠し味だよ(笑)。彼女はとても才能があって、もうすでに4-5枚のアルバムに参加してもらっている。彼女抜きでインペリアル・トライアンファントのレコードを作るというのは、現時点では考えられない。彼女は本当に素晴らしいんだ。彼女と出会ったのは、10年くらい前。彼女がまだアメリカに住んでいた頃。そのパフォーマンスにぶっ飛ばされてね。すぐにコラボレーションをしなくちゃと思い立った。とてもユニークな声を持っているよ。

 

ー 今回一番の驚きはケニー・Gの参加です。

 

ザッカリー:そうだろうね(笑)。

 

ー 彼はどのように参加したのでしょう。

 

ザッカリー:彼の息子と仲が良くてね。彼は1年間ほどインペリアル・トライアンファントでセカンド・ギターを務めていたこともあるんだ。それで彼と彼の父親に参加をしてもらったんだ。彼らのやってくれたことは、やはり俺の想像をはるかに超えたものだったよ。参加してくれて、とても感謝している。もちろん彼には参加する義務などなかったのだけど、音楽への愛だけでやってくれたんだ。イカしてるよね。

 

ー インペリアル・トライアンファントの音楽を無理矢理にでもカテゴライズするとしたらどうなりますか。

 

ザッカリー:間違いなくアヴァンギャルド・メタルさ。最も広い意味でね。メタルだけれども、とにかく普通じゃない。ジャズや現代音楽、ノイズやインプロヴィゼーションの要素もあって、デス・メタルやブラック・メタルなんかもある。君のバンドもワイルドだからわかるだろうけれど、自分たちのやることに、一切のバリアを設けないのさ。

 

ー メタルという点に関して言うと、どのようなバンドからインスピレーションを受けているのですか。

 

ザッカリー:Portalだね。お気に入りのバンドさ。美学的にも音楽的にも。彼らはハードルを上げ続けているから、俺たちも頑張らないと。

 

ー Portal以外にはありますか。

 

ザッカリー:Gorguts。素晴らしいバンドだよ。あれよりクレイジーなことをやるなんて無理。あとはメタリカ。

 

ー どの時期でしょう。

 

ザッカリー:80年代だね。

 

ー ではメタル以外となると、どのようなアーティストからインスピレーションを受けていますか。

 

ザッカリー:あくまで俺個人について言うと、ジャズではコルトレーン、マイルス・デイヴィス、チャールズ・ミンガス、デューク・エリントンやビル・エヴァンス。クラシックではアルフレッド・シュニトケが大好き。ヘンリー・パーセル、ショスタコーヴィッチ、クセナキスみたいな現代音楽の作曲家は、メタルについて違った考え方をさせてくれるよ。

 

ー あなたの音楽的バックグラウンドを教えてください。

 

ザッカリー:7歳からギターを弾き始めて、それから主にメタルやロックを聴くようになった。その後クラシック音楽の作曲で学位を取ったんだ。

 

ー インペリアル・トライアンファントはもともとブラック・メタル・バンドでしたよね。

 

ザッカリー:そう、とてもトラディショナルなオールドスクールなスタイルをやっていた。

 

ー アヴァンギャルドな方向性に舵を切ったきっかけは何だったのですか。

 

ザッカリー:やっぱりクラシックの勉強をしたことだね。アヴァンギャルドなクラシックを知って、あとは境界線を押し進めるようなミュージシャンと一緒にプレイをするようになったことも大きかった。コントロールしようとするのではなく、「そのアイデアはクレイジーだな。ぜひやってみよう」って。他人のアイデアを受け入れ、彼らの経験をグループに取り入れるということを学んだんだ。

 

ー 作曲時に音楽理論は使いますか。

 

ザッカリー:使うこともある。音楽理論は言語として使えるからね。曲を書く時、他のミュージシャンと議論をする際に、音楽理論を使って会話をすることができるから。クラシックの和声やヴォイス・リーディングなんかを使うこともあるけど、それぞれの曲が違った書き方をされているよ。

 

ー 「インペリアル・トライアンファント」というバンド名にしたのは何故ですか。

 

ザッカリー:実はまったく意味はないんだ。考えたのは15歳の頃で、ただ響きがイカしていると思っただけ(笑)。だけど、バンド名を考える時に、響きがイカしているというのは最も重要なことだと思うんだ(爆笑)。他のバンドと混同されることもない名前だしね。悪くない名前だと思うよ。

 

ー 非常に独特のヴィジュアル・コンセプトですが、あれは何を表現しているのでしょう。

 

ザッカリー:あれは人々が思うより、ずっとシンプルなもの。俺たちのヴィジュアル・コンセプトは、インペリアル・トライアンファントの音楽がどう見えるか、ということ。アート・ブレイキーが言ったように、音を聴く前に、ルックスが目に入る訳だから、ヴィジュアルは大切にするべきなのさ。

 

ー お気に入りのアルバムの3枚教えてください。

 

ザッカリー:それは難しいな。本当に難しい。メタリカから行こう。『Ride the Lightning』。Portalの『Seepia』。アルフレッド・シュニトケの『Requiem』。今までに書かれたレクイエムの中で最高のものの一つ。いつも聴いているよ。彼は他の現代音楽の作曲家ほどエクストリームではないけれど、いろんなスタイルを取り入れていて面白いよ。

 

ー クラシック版のジョン・ゾーンみたいな感じですよね。

 

ザッカリー:その通りだね。

 

ー では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。

 

ザッカリー:アルバムを買ってくれた人、サポートどうもありがとう。本当に日本に行くのが待ちきれないよ。極東で俺たちのゴールデン・リチュアルをぜひ披露したいね。

 

 

文 川嶋未来

 

 


 

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2022年12月2日発売

インペリアル・トライアンファント

『スピリット・オブ・エクスタシー』

CD

【CD収録曲】

  1. チャンプ・チェンジ
  2. メトロヴェルティゴ
  3. タワー・オブ・グローリー、シティ・オブ・シェイム
  4. メルクリウス・ギルデッド
  5. デス・オン・ア・ハイウェイ
  6. イン・ザ・プレジャー・オブ・ゼア・カンパニー
  7. ベズムナヤ
  8. マキシマリスト・スクリーム

 

【メンバー】
ザッカリー・エズリン (ヴォーカル、ギター)
スティーヴ・ブランコ (ベース)
ケニー・グロハウスキー (ドラムス)