ノルウェーを代表するブラック・メタル・バンドの1つ、イモータルが5年ぶりのニュー・アルバムをリリース。ドラムのホルグが脱退したため、現状唯一のメンバーであるデモナスに、色々と話を聞いてみた。
ー ニュー・アルバム『ウォー・アゲインスト・オール』がリリースになります。過去の作品と比べ、どのようなアルバムになっていると言えるでしょう。
デモナス:これは良い質問だな。俺はニュー・アルバムを作る時には、過去の作品とは少々違う、そして過去の作品よりは少々良い作品を作ろうというプランを立てるんだ。だけど、4-5曲できてくると、すっかりプランのことなど忘れてしまって、それがそのままアルバムとして仕上がっていく。結局は自分の勘に従って、最高のリフ、曲、歌詞を書こうと試みた結果が、新しいアルバムとなるんだ。だから、『ウォー・アゲインスト・オール』は、2019年から今日までのイモータルを表すアルバムだと言える。イモタールの状況、イモータルの音楽をね。
ー ところでホルグはどうしたのですか。やっていたバンドをすべてやめてしまったように見えますが。
デモナス:彼の代弁をすることはできないけれど、俺はこのバンドを長い間やってきて、これからも続けていかなくてはならない。当然時にはメンバーと意見が衝突することもある。30年以上やっている訳だからね。CDを2枚リリースしただけで解散するバンドもいるだろ(笑)。なので、意見が衝突した結果、もうやりたくないのなら、ということになったのさ。
ー 今回はエンスレイヴドのアイス・デイルことアルヴェがベースと一部のギターを担当しています。彼が参加した経緯を教えてください。
デモナス:彼とは長いつきあいなんだ。友人であり、ギターの話をよくしたり、似たもの同士なのさ。『ノーザン・ケイオス・ゴッズ』のヴォーカルとギターは、ベルゲンにある彼のスタジオで録音して、今回もまたあそこに戻ろうと思った。彼はこういう音楽をとてもよく理解しているし、ギターに関しても天才的だから、また彼と一緒にやろうということになったのは、当然の選択だよ。
ー ミックスはハーブラン・ラーセン、マスタリングはイヴェル・サンドイと、エンスレイヴド・チームが深く関わっていますよね。
デモナス:そうなんだよ(笑)。実は彼らもそのベルゲンのスタジオで働いているんだ。イヴェルはマスタリングが得意で、ハーブランがミックスをしてくれた。ハーブランはエンスレイヴドをやめてしまったけれど、確かにエンスレイヴドのメンバーが多く関わっている。音楽的にではなく、技術的な面でね。
ー 今回ミックスをハーブランに頼もうと思ったのは何故ですか。
デモナス:ハーブランとアルヴェがスタジオを所有していて、彼らは異なった志向を持っているから、2人にプロデュースをしてもらうのではなく、アルヴェがプロデュース、ハーブランがミックスという分担にしたのさ。その方が、フレッシュな気持ちで作業ができるから。
ー そして今回ドラムはGaahl’s Wyrd等で活躍するケヴィン・クヴォーレが担当しています。
デモナス:彼はアルヴェに紹介してもらって、プレイを聞いてみたらとても活気があって、素晴らしいエネルギーを持っていた。非常にワイルドなプレイ・スタイルで、とても気に入った。それでデモを作って、テープレコーダーを使ってね。家ではパソコンを使わないから(笑)。そのデモを彼に送ったら、ドラムを入れて送り返してきて、すぐに彼に頼もうと決めたよ。スタジオで会って、リハーサルをして、レコーディングしたんだ。
ー アルヴェとケヴィンはイモータルに何か新しいものをもたらしたと思いますか。
デモナス:うーん、彼らに頼む前に曲も歌詞もすべて出来上がっていたからね。だけど、もちろんアルバム上では影響はあったと思う。音的には少々以前と違う部分があるかもしれないけれど、イモータルらしさは強烈だからな。音楽自体の主張が激しいから、プレイヤーが変わったからといって、簡単に変わるものではないのさ。ドラムもベースも、どのようなものが欲しいか、はっきりとわかっていたし。
ー このアルバムは22年の夏にはアナウンスされていましたが、リリースまでに随分と時間がかかっています。何が原因だったのでしょう。
デモナス:いくつか理由があって、まず1つ目はパンデミック。すべてを延期せざるをえなくて。パンデミックのせいで、スタジオでの作業も中断しなくてはならず、仕上げるのに時間がかかった。それでも、アルバムは1年半前には出来上がっていたんだ。21年の11月18日にマスタリングが終わったから。ところが、パンデミック中に多くのバンドがライヴをやれず、代わりにスタジオに入ってアルバムを作っただろ。それでレコードのプレスが殺到してしまった。去年レーベルにはLP無しでリリースしようとオファーされたのだけど、ノー、ありえないと答えた。LPを出さないなら、アルバムはリリースしないと。それでリリースまでに時間がかかってしまったんだよ。
ー ノルウェーでのパンデミックの状況はどんな感じだったのでしょう。
デモナス:状況は非常に悪かったのだけれど、俺は4年前に田舎に引っ越していたからね。人の多い都市ではもっと酷かっただろう。田舎ではあまり気付くことはなかったけれど、都市に行くと奇妙だったよ。みんなソーシャル・ディスタンスを守っていて、パブやお店は閉まっていて。
ー タイトルの『ウォー・アゲインスト・オール』にはどのような意味が込められているんですか。
デモナス:このアルバムを作り始めた時、最初に出来上がった曲が「ウォー・アゲインスト・オール」だった。95年の『Battles in the North』の曲をギターで弾いてみていて、「ウォー・アゲインスト・オール」の最初のリフを思いついたんだ。メインのリフね。「One by One」、「All Shal Fall」、「Northern Chaos Gods」みたいな曲は、どれもバトル・ソングだろう?それで、当然のように「ウォー・アゲインスト・オール」もバトル・ソングになった(笑)。それで、「これをアルバム・タイトルにしたら良いんじゃないか?」と思って、仮タイトルにしておいた。その後「リターン・トゥ・コールド」を書いている時に、「アルバムのタイトルは『リターン・トゥ・コールド』の方が良いかな?」と思ったのだけど、「ウォーゴッド」を書いた時に、やっぱり『ウォー・アゲインスト・オール』にしようと思い直した。何も新しいことではなく、これは政治や宗教についてではない。イモータルのブラシルクは独特の世界で、現実の戦争とか、政治的な見解に触れることは一切ない。それにこのタイトルは、とてもアグレッシヴだろ。『Kill ‘Em All』みたいで(笑)。『Kill ‘Em All』のことも頭にあってね。『ウォー・アゲインスト・オール』というのは悪くないタイトルだと思ったのさ。
ー 歌詞は今回も北の厳しい自然がテーマのようです。
デモナス:それを無くしてしまったら、もはやイモータルじゃないからな(笑)。俺は常にファンをアルバムの旅に連れて行きたいんだ。彼らに寒さ、暗さを体験してもらいたいし、曲に合う歌詞をつけたい。ポゼストの『Beyond the Gates』、スレイヤーの『Reign in Blood』や『Hell Awaits』は、最初の曲から最後まで、地獄を巡る旅みたいだろ?俺がやりたいのはあれなんだ。ファンのための旅を作り出したい。俺が作る音楽の中で、俺と一緒の旅をね。
ー そして、今回ついに「イモータル」という曲が収録されました。
デモナス:そうなんだよ(笑)。あの曲は、とてもオールドスクールなリフを持っていて、何というかイモータルのメドレーみたいな感じになっている。アコースティックのパートはないけれど、オールドスクールで、それほど長い曲ではないにしても、すべてを総括しているみたいだから、「I am immortal, My blood is frozen」という歌詞がピッタリだと思ったのさ。
ー アルバムのアートワークは何を表現しているのでしょう。
デモナス:『All Shall Fall』や『ノーザン・ケイオス・ゴッズ』でお馴染みの顔を持った山というアイデアがあってね。それをスウェーデンのアーティスト、マティアス・フリスクに送った。彼なら期待に応えてくれると思って。最初に送られてきたスケッチを見て、彼だと思ったよ。出来上がった作品を見て、「これこそイモータルだ。これこそ次の『At the Heart of Winter』だ」って。このアートワークには俺もインスパイアされたよ。ドラムを少々ヘヴィにしようと思ったんだ。そういうプロダクションの方が興味深いだろうと思って。ある意味『At the Heart of Winter』との繋がりさ。今日マネージャーから連絡があって、出来上がったボックス、ゲートフォールドのLPのカバーを見せてもらったのだけど、「110%イモータルのリリースだ」って思った(笑)。とてもハッピーさ。実際に手にするのを待ちきれないね。
ー 30年のキャリアがありますが、現在音楽的インスピレーションはどのようなところから得ているのでしょう。
デモナス:俺は5月、6月、7月は音楽を一切作らない。夏だからね。特に6月、7月は、ギターからも離れて休むようにしている。音楽を作るのは、もっぱら秋と冬。さっきも言ったように、都市から田舎に引っ越してきたんだ。すぐ裏が山で。(そして家を出て、周りの風景を見せてくれる。)ここが裏庭。川もある。
ー 非常に美しいところですね。
デモナス:これを見れば、どこからインスピレーションを得ているかわかるだろう?ここに引っ越してくるのが長年の夢だったんだ。この風景を見ながら曲を書くこともある。この家を見つけるのにとても時間がかかったよ。近所に人はいないし、山に登ることもできる。あの向こう側で『All Shall Fall』をレコーディングしたんだ。雪、山、そして自由を求めてここに引っ越した。ロフトにはピアノもあって、ここが俺の作曲する場所。(家に戻ってくる。)モチベーションはたくさんあるよ。ギターがあって、猫もいる(笑)。これがピアノ。ここにもギター。ここに住んで、作業をして、山へのアクセスもあって、森にも行ける。4-5時間散歩をして、インスピレーションを得るんだ。このアルバムのすべてを、この場所で書いた。俺にとっては冬、もしくは秋に作曲するのが一番なのさ。
ー 最近はどんな音楽を聴いていますか。やはりオールドスクールなものがメインでしょうか。
デモナス:やっぱりオールドスクールだね。レコードで所有しているから。80年代のスラッシュ、70年代のロックやヘヴィメタル。アイアン・メイデンは古いのばかりでなく、新しいものもいくつかは聴く。だけど、新しいバンドを聴くことは少ないな。オールドスクールばかりだよ。オールドスクールの作品は、ファンとして聴けるけれど、新しいものを聴くと、何というか分析してしまうんだよ(笑)。同じように聴くことができないんだ。クラシックを聴くこともあるよ。『ロード・オブ・ザ・リング』の音楽を担当したハワード・ショアとか。彼の『2つのコンチェルト』は素晴らしいピアニストをフィーチャしている。とてもダークでね。サウンドトラックも大好きなんだ。古いコナンの映画のとか。クールだよね。だけど、気が滅入るような音楽は好きじゃない。良いエネルギーがあるものが好きなんだ。アイアン・メイデンとか。イモータルも同じさ。俺がやっているのは、気が滅入るような音楽じゃない。パワフルな音楽やアティテュードが好きだから。
ー それはとても面白い話ですね。ブラック・メタルは気が滅入るような音楽だと言う人もいるでしょう。だけど、確かにイモータルにはそういうイメージはないですね。
デモナス:そうさ。気が滅入る音楽は、人の気を滅入らせるからね(笑)。モービッド・エンジェルの『Altars of Madness』なんかを聴くと、パワフルで最高だろ?「オーライ!これこそ史上最高のリフだ!」なんていう感じで。良いヴァイブ、ポジティヴなヴァイブ、素晴らしいエネルギーさ。気が滅入るような音楽からは、素晴らしいエネルギーやパワフルなエネルギーは得られない。だから、ダークで気が滅入るような音楽は、いつでも聴けるものじゃないんだ。長い間聴きたいものではない。俺もフィールズ・オブ・ザ・ネフィリムみたいなダークな音楽を聴くことはあるけれど、あくまで短い時間さ。それに飛び込んで、インスピレーションを探したりはするけれど、毎日は聴けない。アイアン・メイデンのアルバムを聴く方がいいよ。山を登る助けになるんだ。力が湧いてくるから(笑)。
ー クラシックからアイアン・メイデンに至るまで、聴いているものはどれもイモータルの音楽に影響を与えると思いますか。
デモナス:与える。俺が書くものは、俺の生活の反映だから。俺は常に古い音楽を聴いていて、バソリーや初期のモービッド・エンジェル、ポゼスト、ケルティック・フロスト、マノウォーとか。マノウォーはとても重要だ。オールドスクールなヘヴィメタル、スラッシュ・メタル、そう『Kill ‘Em All』。こういうのはロックの学校だろ(笑)。最初に使われる教科書だよ(笑)。こういうものはすべて俺の音楽に影響を与えている。もちろん自分のレコードも聴くし。そういうものがすべてミックスされたのが、イモータルなのさ。
ー イモータルのアルバムも聴くのですね。
デモナス:もちろん。
ー アーティストの中には、自分の作品は一切聴かないという人もいますよね。
デモナス:シェフならば、自分の料理を味わわないのは良くないよな(笑)。
ー お気に入りのアルバムを3枚教えてください。
デモナス:オーケー、(バソリーの)『Under the Sign of the Black Mark』。ケルティック・フロストの『To Mega Therion』。ポゼストの『Seven Churches』。あるいは『Beyond the Gates』。そのどっちか。これらのクラシックな作品は、どれもユニークだったよね。
ー ヴォーカルもリフも、それぞれのバンドが独自のスタイルを持っていましたよね。
デモナス:それがこの音楽の興味深いところさ。それぞれのバンドが強烈な自分のスタイルを持っている。そのスタイルを守りながら、より良いアルバムを作る。それが重要なことだと思うんだ。
ー 今後の予定はどうなっていますか。イモータルはあなたのソロ・プロジェクトとして続くのでしょうか。それとも新しいメンバーを入れるつもりですか。
デモナス:まずアルバムのプロモーションをやって、その後マネジメントとミーティングをし、どうするか考えるつもりさ。ちょっとしたライヴをやるかもしれないし、いや、ちょっとしたではないな。まだ決まっていることはないけれど、態勢を立て直すためにたくさんの時間がかかったからね。だけど、イモータルの最高の作品は、まだ作られていない。ずっと頑張ってきているけれどね。だから、すでに次のアルバムの曲はできているよ。まあ、ライヴもやるかもしれないな。
ー ライヴに対する考えはどのようなものでしょう。ステージでプレイするのは好きですか。
デモナス:それによって音楽が正当な評価を得られるなら、やりたい。やっぱり正しい状況、正しい場所でやりたいね。山の上で演奏するというアイデアもあるんだ。それがベストだろうから。
ー では最後に日本のイモータル・ファンへのメッセージをお願いします。
デモナス:ぜひ日本に行きたいよ。イモータルのニュー・アルバムを楽しんでくれるといいな。何かやれるように、ベストを尽くすよ。
文 川嶋未来