オールドスクール・デス・メタルの再興で、ますます注目を集める重鎮イモレイション。5年ぶりのニュー・アルバム『アクツ・オブ・ゴッド』がリリースになるということで、ベース/ヴォーカル担当のロス・ドランに話を聞いてみた。
ー ニュー・アルバム『アクツ・オブ・ゴッド』がリリースになります。過去の作品と比べて、どのような点が違っていると言えるでしょう。
ロス:今回は曲を完全に自分たちのものにする時間がたっぷりあったからね。スタジオに入るまでに曲を完全に習得することができた。パンデミックのせいで、2年間余計に時間があったから。曲を消化して、ベストなものにすることができたよ。特に、ドラマーのスティーヴにとって、こんなに時間をたっぷりとれたことは初めてだったからね。クールなパターンやオカズなんかを考えることができたと思う。いつもはそこまで考える時間を取れない。アルバム自体は前作よりもアグレッシヴなもので、よりダークだし、色んな意味でヘヴィな作品。とてもイモレイションらしいアルバムになっているよ。イモレイションらしい要素が詰まっている。前作『アトーンメント』は、俺たちにしては珍しく(笑)、ファンからもプレスからも高い評価を得ていたから、ハードルが高かった。今回のアルバム用にボブが曲を書き始めた時、もっとダークでヘヴィでアグレッシヴな作品にしようと話したんだ。仕上がりには満足しているよ。
ー パンデミックにによる負の面もありましたか。
ロス:もちろんあった。今年の5月まで、まともにリハーサルもできなかったから。ボブと俺はニューヨーク州に住んでいるから顔を合わせていたけれど、スティーヴはオハイオ、アレックスはヴァージニアに住んでいるからね。19年12月の『アトーンメント』ツアーのラスト以降、会っていなかったんだ。みんなに会えるだけでも素晴らしいことだったよ。そういう制限はあった。幸いインターネットでボブが作ったデモをみんなにシェアをして作業をすることはできたけれど、全体のプロセスはやっぱり遅れたよ。ポール・オーフィーノと一緒にレコーディングをできるかもわからなかった。パンデミック中、彼は計画外のスタジオの引っ越しをしなくてはならなかったから、新しい場所を見つけられるのかもわからなかった。それから、もちろん健康面での心配もあった。レコーディング中、誰にも病気になって欲しくなかったし。チャレンジやハードルもあったけれど、幸いうまくやれたよ。結局ポールはスタジオを見つけられて、彼とレコーディングもやれた。彼との仕事は素晴らしいよ。ミックスもいつも通りザック・オーレンとやって、これはメールを通じてのプロセスだったけれど、とにかくパンデミック下でもアルバムを完成することができた。
ー 前作から5年が過ぎていますが、やはりパンデミックのせいもあるのでしょうか。
ロス:そうだね。普段なら3年かせいぜい4年で出来ていたはず。さっきも言ったように、19年の12月まで『アトーンメント』のツアーをやっていて、それから数ヶ月のオフがあって、その間に曲を書いて、20年中にはレコーディングをして、今年中にはリリースするつもりだった。だから、パンデミックのせいで1年遅れた感じかな。長い5年間だったけれど、誰も予見できなかったことだからね。できる限りのことをやった感じさ。来年はもうちょっと普通の年になってくれると良いけれど。
ー 先ほど話が出ましたが、今回もポールとザックというコンビにレコーディングとミックスを任せています。彼らのどのような点が優れているのでしょう。
ロス:俺たちはポールが大好きなんだ。彼は耳もいいし、最高に良い奴でもある。長年この世界でやってきているし、スタジオに関してだけでなく、一般的な音楽の知識も豊富なんだ。ファミリーの一部のような存在さ。オールドスクールなヴァイブやメンタリティももたらしてくれるんだ。俺たちと同じくオールドスクールな人間だから。一方のザックは、もっと若いマインドセットを持ち込んでくれる。この2人とやることで、素晴らしいコンビネーションが生まれるのさ。欲しいサウンドが得られるし、ポールとのレコーディングはとてもリラックスしてやれる。ザックとは『Majesty and Decay』(10年)から一緒だから、もう10年やってきていて、とてもリスペクトしているし、俺たちが欲しているものを物凄くよく理解してくれるんだ。俺たちの狂気をうまくまとめて良いサウンドにしてくれる(笑)。彼らのような素晴らしい才能を持った人たちと仕事ができて、ラッキーだよ。特に今回のアルバムでは、ザックの才能が輝いていると思う。オーバープロデュースにならないよう、だけど素晴らしいサウンドに仕上げてくれた。生々しさやパンチがあって、物凄くビッグなサウンド。過去にはなかなか思ったようなサウンドを得られないこともあった。もちろん一緒に仕事をした人たちのせいではなくて、俺たちの音楽はとてもやりにくいものだからね。ザックとはずっと一緒にやってきて、彼も俺たちのサウンドに完全に馴染んでいるんだ。ここ3枚のアルバムはどれも素晴らしいものだけれど、今回のは特別に優れているよ。
ー 個人的には今回は不協和音の使用が減っているように感じたのですが。
ロス:そうだね。もちろん不協和音も使っているけれど、今回は過去の何作かに比べると、もっとストレートな作品になっていると思う。ボブはギターを重ねて様々なクールなパートを作るのだけど、今回はそれでとてもビッグな感じを作り出していると思う。確かにここ何作かより、不協和なパートは少ないかもしれないね。
ー 特に意識的にやった訳ではないのでね。
ロス:意識的ではない。ボブは、ただ良い曲を書こうとするだけだからね。おそらく彼は『アトーンメント』よりもっとダークでずっとヘヴィでアグレッシヴなものを書こうというマインドセットで、それだけでも大変だったと思うけれど、本当に素晴らしい曲を書いて、ファンも気に入ってくれるといいな。ピュアなイモレイションだから、古いファンも新しいファンも楽しめるんじゃないかな。
ー ダン・リルカがゲスト参加しています。
ロス:そうなんだよ!面白い経緯で、知っての通り、ダニーとはとても仲が良いんだ。俺がスタジオにいる時に、俺のガールフレンドがダニーとヘザー(ダン・リルカの奥さん)を家に招いていてね。それでダニーが「ヘイ、良かったらニュー・アルバム用にスクリームを録って送ろうか」ってメッセージを送ってきた。それでやってもらったら素晴らしくて、ボブが「もっと長いスクリームを頼んでくれ」というのでお願いしたんだ。そうしたら本当に長くてシックなブラック・メタル・スクリームをやってくれてね。ボブもそれを聴いた途端に、どの曲に使うべきかピンと来たようで、「レット・ザ・ダークネス・イン」の最後の、ビッグなセクションの直前に入れたんだ。パーフェクトだったよ。もともと俺もそこでスクリームをやるつもりだったし、2人のスクリームを混ぜると、歌詞の内容ともピッタリだし。本当にうまくいった。ダニーに参加してもらえるだけでもね、何しろ彼は友人というだけでなく、俺たちのシーンの伝説だろ。
ー 『アクツ・オブ・ゴッド』というタイトルには、どのような意味が込められているのでしょうか。アルバムのテーマはどのようなものですか。
ロス:今回テーマ的には初期のレコードに戻ったような感じで、もっと反宗教的な内容に踏み込んでいる。世界で起こっていること、共感できる記事なんかがインスピレーションだった。パンデミック下、ボブと曲を仕上げて、それぞれの曲が音楽的にどんな歌詞が合うかを考えた。『アクツ・オブ・ゴッド』は、基本的には今世界で起こっていることを俺たちがどう見ているかということについて。多くの曲は宗教についてだけれども、世界で起こっている一般的なことでもある。一歩引いて世界を見た時の批評さ。宗教であれ、政治的であれ、社会的、世界的に起こっていること。今回は一切政治的なアルバムではないけれど、政治による分断、宗教による分断、人種問題による分断などは、多くの人が感じているだろう。こういったものがアルバムのテーマの背後にあるけれど、主には宗教的な感情だね。
ー コンセプト・アルバムではないのですね。
ロス:コンセプト・アルバムではないよ。曲同志が繋がっている訳ではないから、『Kingdom of Conspiracy』のようなコンセプト・アルバムではない。歌詞的にも様々なものに触れていて、一つのお話になっている訳ではないんだ。
ー 例えば”In the darkened rays of your holy light”というような歌詞が繰り返し出てきたりするので、部分的にでもコンセプト・アルバムになっているのかと思ったのですが。
ロス:その指摘は面白いね。確かにアルバム内で、「光」と「暗い光」については繰り返し触れている。そういう意味で、コンセプト・アルバムではないにしても、つながりというものがあるのは確かだよ。アートワークについて考えた時に、これが一番に取り上げたトピックでもあったんだ。だけど面白いことに、意図的にやった訳じゃないんだ。歌詞を読み直して、どういうアートワークが良いか考えていて、特にそのラインが突出していることに気づいた。「ヌース・オブ・ソーンズ」の1行目、「天国から黒い光が降り注ぐ」というのが、アートワークの一番のインスピレーションだった。だから君の指摘は正しいよ。「光」と「暗い光」というのはアルバムじゅうに出てくる。
ー キリスト教の最大の問題は何なのでしょう。
ロス:どうだろう。俺は宗教的であったことは一度もないし、何を信仰していようと、それでその人を否定することはない。だけど、盲目的な不寛容、過激主義というのは、俺たちの宗教に限らず、あらゆる宗教にある程度存在するものだと思うけれど、俺はもっと科学的な人間で、現実というものを信じているから。これはあくまで俺の個人的な意見で、他のメンバーはもっと無神論的な見解を持っていて、俺たちはどんなものも信じてはいない。神という存在に関してね。 狂信や人々が宗教のせいでやることは、いつも繰り返し起こっていて、例えば『Close to a World Below』(00年)では「Father, You’re Not a Father」という曲を書いて、あれは牧師が子供たちを性的に虐待していることについてだった。当時教会ではこれが大問題になっていて、それはおそらく今でも変わっていないだろう。そういう記事を目にすることは多いし、去年も読んだばかり。こういう問題は改善されることがなく、起こり続けているのだけど、ただ見過ごされてしまうんだ。こういうことには本当に失望するよ。
ー 今回はアートワークがいつものパール・オロフソンではなく、エリラン・カントールが手がけています。彼に頼んだ理由は何だったのですか。
ロス:エリランはとてもユニークなスタイルを持っているよね。Sighのアートワークも手がけているよね?
ー はい。
ロス:彼が手がけた3枚は、それぞれ違ったスタイルだったよね。
ー そうでしたね。
ロス:彼のスタイルは素晴らしくて、ルネッサンスっぽい、聖書のようなフィーリングと、ポーランドのベクシンスキーのような暗いシュールレアリズムをパーフェクトにミックスしたような感じを持っている。曲と歌詞が完成して、スタジオでレコーディングをしている時に、アートワークを誰に頼むか考えていて、実はエリランは『Majesty and Decay』の時にコンタクトがあったのだけど、その時はパールと話をしていて、彼に頼みたかったから。だけど今回はとてもダークな作品だから、アートワークも同じくらいダークなものが欲しくて、エリランがピッタリだと思ったのさ。それで彼にアートワークのアイデアと歌詞を渡して、テーマや歌詞の内容を説明して。彼もとても興奮していたよ。イモレイションの初期の作品のファンで、過去のアルバムについても良く知っていたし。アンドレアス・マーシャルが描いた『Dawn of Possession』や『Here in After』のアートワークにつながりのあるものを描けるということで、とても楽しみにしてくれた。本当に素晴らしい出来で、まさに欲しいものに仕上がったよ。アルバムの持つ希望のなさを、見事に捉えている。
ー 最近のオールドスクール・デス・メタルの再興についてどう見ますか。
ロス:素晴らしいよ。若い世代が、俺たちが80年代に聴き始めたシックなデス・メタルをやっているのだからね。歓迎するよ。かかってこいっていう感じで。アメリカでも若い素晴らしいバンドがたくさん出てきているし、北西部からも、フロリダからも。本当にクールでエキサイティングさ。34年も続けてきて、一緒にツアーをできそうな若いバンドがいる訳だからね。この年になっても、新しいバンドを見つけるのは楽しいし、次の世代が炎を燃やし続けているのは素晴らしいことさ。
ー 特にお気に入りの若いバンドはいますか。
ロス:もちろん。Blood Incantationとは一緒にツアーもした。素晴らしいバンドだ。ライヴも凄いし、才能もある。Full of Hellともツアーをした。スタイルはまったく違うけれど、若くてアグレッシヴで、最高の奴らさ。うまくいけば、2月にはMortiferumとImperial Triumphantとアメリカ・ツアーをやる予定。どちらもスタイルは違うけれど、素晴らしいバンドだよ。Mortiferumは北西部のCebebral Rotみたいなオールドスクールのデス・メタルをプレイしている。彼らは昔のフィンランドのダーティな、AbhorrenceやDemlichからの影響を受けたデス・メタルをやっているんだ。Witch Vomitもとてもシックなバンド。良いバンドはたくさんいる。ブルックリンにもFuneral Leechがいるし。とてもヘヴィでドゥーミーなオールドスクール・デス・メタルをやっている。デス・メタルにとって素晴らしい時代だよ。
ー 2019年に初めて日本にやって来ましたが、いかがでしたか。
ロス:素晴らしかったよ。思ったとおり、素晴らしい経験になった。色々な人にも会えたし、ショウ自体も楽しかった。君が来た最後のショウが一番ビッグで、圧倒されたよ。日本のファンの愛、サポートは本当に素晴らしかった。Broken HopeやDefiledとも一緒にやれたし。彼らとは長い知り合いだし。本当に素晴らしい経験だった。
ー では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
ロス:前回とても楽しかったから、ぜひまた日本に行きたい。待ちきれないよ。ニュー・アルバムを気に入ってもらえるといいな。このクレイジーな時期が過ぎ去ったら、早くまたみんなに会いたい。
文 川嶋未来
【CD収録曲】
- アバンダンド
- アン・アクト・オブ・ゴッド
- ジ・エイジ・オブ・ノー・ライト
- シェッド・ザ・ライト
- ダークネス・イン・フレイムズ
- ブラデッド
- オーヴァーチュアズ・オブ・ザ・ウィケッド
- インモラル・ステイン
- インシネレイション・プロセッション
- ブロークン・プレイ
- デレリクト・オブ・スピリット
- ホエン・ヘイローズ・バーン
- レット・ザ・ダークネス・イン
- アンド・ザ・フレイムズ・ウェプト
- アポスル
【メンバー】
ロス・ドラン(ヴォーカル/ベース)
ロバート・ヴィグナ(ギター)
アレックス・ボウクス(ギター)
スティーヴ・シャラティ(ドラムス)