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マシュー・キイチ・ヒーフィー(トリヴィアム/茨鬼)
イーシャン(エンペラー)
川嶋未来(Sigh)
スペシャル・インタビュー

Twitch キイチ チャンネルで生配信された
インタビュー掲載!

                                   

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文:川嶋未来

トリヴィアムのマット・キイチ・ヒーフィーがエンペラーのイーシャンによる全面協力を得てスタートした新バンド、茨鬼が、デビュー・アルバム『羅生門』をリリース!ということで、キイチのTwitchチャンネル上で、イーシャンを交えて行われたインタビューの模様をお届けする。

 

マット・キイチ・ヒーフィー(以下マット): オハヨウゴザイマス。ゲンキデスカ。

 

川嶋未来: 調子はどうですか?

 

マット: 最高さ。会えて嬉しいよ。

 

イーシャン: ハイ、マット。

 

マット: 君にも会えて嬉しい。この機会を設けてくれてありがとう。

 

川嶋未来: どういたしまして。日本でも茨鬼に対する期待は物凄く大きいです。

 

マット: それは凄い。嬉しいよ。

 

川嶋未来: もうショウは始まっているのですよね?

マット: 始まってる。だからこのムーディなライティングにしてるんだ。トリヴィアムでのマット・ヒーフィーと茨鬼のマット・ヒーフィー、それからジョーク好きのインターネット・ガイを使い分けようと思って。茨鬼としてやる時は、ライトをセットして、ムーディにするつもりさ。

 

イーシャン: 俺はここに座って、直接顔に陽の光を浴びているよ。

 

マット: とても天国的だね(笑)。

 

川嶋未来: 一方日本はすでに夜の11時、まもなく真夜中です。

 

マット: 遅い時間までありがとう。

 

川嶋未来: さて今日は、あなた新しいバンド、茨鬼について話してもらいたいと思います。時間を割いてもらって、ありがとうございます。

 

マット: もちろんさ。イーシャンも参加してくれてありがとう。

 

イーシャン: どういたしまして。

 

川嶋未来: 現在世の中はコロナで変なことになっていますが、お二人はいかがお過ごしでしょう。

 

マット: イーシャン、お先にどうぞ。

 

イーシャン: そうだね、今日は茨鬼について話すわけだけど、コロナのおかげでこのプロジェクトを完了させられたと言える。そうでなければ俺たちはどちらも常にツアー等で忙しいからね。これが始まる前に未来とも話していたのだけど、すべてがクローズされてしまっていると文句を言うのか、それともその状況をうまく利用するのか。もちろん俺も他の人々同様、早く普通の状態に戻って欲しいと思っている。この業界にいる人間にとって、ツアーができない状況は厳しいから。一方で、クリエイティヴィティという点では本当に報われているよ。茨鬼として一緒にやったこと、トリヴィアムと一緒にやったこと、自分のソロ・アルバムも書いてレコーディングもしたからね。ツアーなどで気を散らされることなく集中できる訳だから。

マット: 100%同意するよ。色々なことを実現できて最高さ。みんな子供たちと過ごす時間も増えているし。俺の子供たちは今3歳と3ヶ月なのだけど、子供ができる前から、ずっと家を空けることを恐れていたんだ。この問題についてはずっと前にノットオーデンでイーシャンに初めて会った時にも言ったのだけど、ありがたいことに、今回の出来事には、イーシャンも言っていたようにネガティヴなことのポジティヴな面を見てみると、子供たちと一緒にいられたり、クリエティヴになれたりということがある。12年越しのイーシャンとの茨鬼をついに実現させたことは素晴らしかったね。茨木童子のストーリーに基づいた子供向け向けの本も作っていて、スサノオや茨木童子についてのお話だけど、挿絵を入れて子供向けになっている。色々とクリエイティヴなアイデアを実現できるんだ。

 

イーシャン: ワオ、それは知らなかった!

 

マット: 出来上がったら一冊送るよ。素晴らしいアイデアだと思う。少なくともアメリカでは、こういう本は見たことがないからね。日本にはあるだろうけれど、俺はこういう日本の神々や怪物についての子供向けの本は見たことがない。子供向けの本に、大人が読んでも少々楽しめる何かがあればいいなと思ってきた。もっと楽しめるからね。世界中の人々がどんなものを食べているかという本もあるのだから、茨木童子の話も子供向けの本にしてはと思ったんだ。

 

川嶋未来: そもそもお二人はどのようにして知り合ったのですか。

 

マット: ある日、2112というイン・フレイムスのハンバーガー/ビール・レストランで、14-5歳の子がエンペラーのTシャツを着ているのを見かけたので、自分のフード・ブログ用に一緒に写真を撮ったんだ。それを長年の友人であるキャンドルライト・レコードのダレン・トムズに送った。ダレンとは18歳の頃から知り合いなんだ。当時雑誌の表紙でいつもエンペラーのTシャツを着ていてから、彼がレコードやTシャツを送ってくれて、俺の知らないバンドを教えてくれたりした。それで、2112での写真をイーシャンに転送してもらったんだよ。そこからイーシャンとのやりとりが始まった。彼にブラック・メタルが大好きなことを伝えて、彼も俺がブラック・メタル・ファンであることは聞いていたようで、「Shavah」という曲を作っていること、そしてこれをMrityu という変名で発表しようと思っているという話をした。オールドスクールの若いブラック・メタル・ファンが、トリヴィアムのメンバーがブラック・メタルのレコードを作るなんて許されないなんて言うだろうとわかっていたからね。変名で発表して、自分のやっていることがわかっていて、このジャンルを愛していることを証明したかったんだ。自分もそうだったから。15-16歳の頃は、「クリーン・ヴォーカルが入っているものはダメ。メインストリームはすべてだめ」なんて感じで。だから、ブラック・メタルを好むことが許されないバンドにいながら、ブラック・メタルが大好きというのはパラドックスだった。イーシャンはその曲を素晴らしいと言ってくれて、ちょうどその頃彼は『Eremita』をリリースしたところだった。聴いてみると、まるでエンペラーを初めて聴いた時みたいな、初めてブラック・メタルを聴いた時みたいな、と言うのも俺にとって素晴らしいことは、君たち2人がブラック・メタルとしてやっていることは、違うものだろう。ルールがこうしろというものではなく、自分のやりたいことをやっている。『Ermita』を聴いた後にブラック・メタルというジャンルを見直してみると、ブラック・メタルとは同じサウンドばかりのメタルへの反逆なのだということに気づいたんだ。俺にはそう見えた。伝統に100%固執してしまうと、同じことをやることになってしまう。イーシャンが『Eremita』でやったこと、サックス・ソロやジャズのコード、クリーン・ヴォーカル、遅いパート、美しいパート、ヘヴィで激しいパートみたいなものは、ブラック・メタルに対してブラック・メタルらしい反逆精神を適用しているのさ。とてもインスパイアされて、まだ名前はMrityuのままだったけれど、方向性や音楽を大幅に変えて、それで最初に書いた曲がアルバムの2曲目、「茨鬼」さ。

 

川嶋未来: マットから連絡が来た時は、どんな風に感じましたか。

 

イーシャン: 今マットが言ったみたいに、君と出会った時みたいな感じだったよ。話してみると、共通の興味や見方があって。その後マットがうちに来たことを覚えている。たしかフィンランド・ツアーに来ていて、そこからテレマークにあるうちに来たんだったと思う。ディナーを一緒に食べて、俺がプロダクション面で参加するなんていう話をして、色々とアイデアを出し合って。マットがインスピレーションを受けたというたくさん写真やヴィデオクリップを送ってくれたことを覚えているよ。このプロジェクトに含めるべき方向性や要素について、たくさんのリサーチをした。話し合いやこのプロジェクトの探索をしていくうちに、最も重要な要素を蒸留していったんだ。結局それは日本的な要素で、マットにとって個人的な、トリヴィアムではやっていないまったく別のこと、だけど彼の中にはある究極的に個人的なもの、彼がすでに試したことのあるあらゆる才能の延長上にあるもの。それでヴォーカル・スタイルや歌詞の方向性、全体的な雰囲気の中に彼の日本人としての遺産を持ち込むこと、使う楽器などを話し合った。とてもオープンマインドなプロジェクトで、さまざまなアイデアを投げ込んで、彼のヴィジョンをサポートするよう努めることができたよ。

 

マット: イーシャンは、俺が思いつかないようなアイデアの鍵を開けてくれた。曲はたくさんできていたけれど、俺は歌詞と格闘していたんだ。それでイーシャンに言ったんだ。自分がスカンディナヴィア人だったら、ヨルムンガンドとかの北欧の神々について歌えるのにって。そうしたら彼は「君も日本について歌えるだろう」って。なるほどと思ったよ。俺の背中には、ヤマタノオロチと戦うスサノオノミコトのタトゥーが入っているのに、イーシャンに言われるまで、それらについて歌うというアイデアは出てこなかったんだ。そう言われてから数日間で、すべての歌詞を書いたんだったと思う。イーシャンは、ヴォーカルについても教えてくれたよ。イーシャンが俺に課した最もエキサイティングだけれど恐るべきチャレンジは、トリヴィアムとは逆の歌い方、スクリームをしろということだった。他のやり方なんてわからないと思ったことを覚えているけれど、彼がそう言ってくれたのは素晴らしいことだった。自分の中を見直してみると、使えるまったく違ったテクニックがあった。2014年に声を枯らしてしまった時以降試しているテクニックで、俺はまったく違ったふさわしい歌い方を学ばねばならなかったのだけど、おかげで違ったやり方のスクリームも見つけることができた。もしまったく同じ歌い方やスクリームをしていたら、トリヴィアムと同じものになっていただろう。イーシャンが与えてくれた、ほぼ不可能とも思えた挑戦のおかげで、本当に素晴らしいものを見つけられたよ。

 

川嶋未来: 先ほど言われた通り、プロジェクトは元々Mrityuという名でした。それがどのようにして茨鬼に発展していったのですか。

 

マット: さっき言った会話みたいなところからさ。イーシャンが、日本的なもの、日本の文化に触れてみろと言ってからすぐに。それは自分の内側を見つめるということだったのだけど、同時に文字通り自分自身、自分の体を見つめることでもあった。右腕には喜多川歌麿が、左腕には国芳、左脚には芳年が、右脚には国綱のタトゥーが入っているのだけど、俺のメンターでもある友人が指摘してくれたんだよ。「ほら、そこに全部あるだろ!」って。それから3-4日ですべての歌詞を書いた。

 

イーシャン: 書き始めると早かったよね。こういう議論もした。メタルやこういう表現方法をしている俺たちはみんな、神話や宗教、歴史に見られる古い文化的アーキタイプを掘り下げるもの。内なる人間の葛藤や存在を包括する神々やお話についてね。メタルにとって、それがヘヴィメタルで何であれ、俺たちが扱うのは存在論的なものであって、それはただ自分に響くイメージや表象を見つけるという問題なんだ。それがマットに起こったことで、日本の文化は君の中でああも深く響いたのだと思う。日本の文化を、ヴァイキングのカルチャーみたいにメタルの中に取り入れようと頑張ったのではなく、とても自然に感じられたということ。あの時俺が君に言いたかったのは、おそらく君は日本の文化の中に、興味深くて深いものを簡単に見つけられるだろうということ。俺自身は日本の文化について何も知らなかったけれどね。

 

マット: イーシャンがそう言ってくれた時、本当に特別なもの掘り出した感じで、それが子供向けの本などにつながっていったんだ。三味線の弾き方のヴィデオもずっと見ているし、どこで三味線が手に入れられるかも調べている。幸いなことに、イーシャン、ちょっとしたテクノロジーを見つけたんだ。ギター用のMIDIコントローラーさ。

 

イーシャン: へえ!

 

マット: ギターでMIDIをコントロールして、何でも弾けるんだよ。Fishman TriplePlayというやつで、君にも一台送るよう手配するよ。キーボードでもドラムでもプレイできる。三味線や琴もプレイしてみたし、平調子みたいなスケールも設定して、三味線や琴にふさわしい音しか出せないようにもできる。次のアルバムで使ってみよう。音楽はいつも難しくないのだけど、歌詞はトリッキーになりうる。こういうトピックはトリヴィアムでも時々触れていたし、みんな特に『将軍』の「斬り捨て御免」みたいなものには感じるものがあったようだけれど、トリヴィアムは日本をテーマにしたバンドではないからね。茨鬼でやれることはたくさんある。もっと伝統的な楽器を使いたいと思えば、そうもできるし、それは100%本物になるだろう。

 

 

 

川嶋未来: バンド名を「茨鬼」としたのは何故ですか。日本人ですら、茨木童子の伝説に馴染みがない人も少なくないですし、多くの人は「イバラキ」と聞くと、茨城県か大阪の茨木市を思い浮かべると思います。

 

マット: 『Silence in the Snow』を作る直前に、俺のタトゥーのほとんどを彫った日本風タトゥーの専門家であるKahlil Rintyeと話をしていたんだ。彼にトリヴィアムもエディみたいなマスコットが欲しいのだけど、どんなものが良いと思うか尋ねた。すると彼は渡辺綱が羅生門で戦った茨木童子なんか良いんじゃないかって。それが Kahlilとの会話の中で出て来たのか、Kahlilの提言だったのかは忘れてしまったけれど。ともかく伝説では茨木童子が切り落とされた腕を渡辺綱から取り返した後のことは、二度と日本の伝説に出てこない。少なくとも俺は見つけられていない。だから、発見された茨木の頭蓋骨なんていうアイデアはどうか。茨木は実在して、数百年後にその骨が発見されたというのは良いアイデアに思えたので、それをトリヴィアムのマスコットにした。そしてこれを、まったく別物であった自分のプロジェクトにも結びつけるのも良いと思ってね。トリヴィアムのマスコットが、密かにプロジェクト名にもなっている。すべてが繋がっているんだ。俺の腕、俺の体に彫られているもの、トリヴィアムのファンにはおなじみのマスコット。日本のオーディエンスが茨城県のことを思い浮かべるのはクールだと思うよ。そこからさらに調べて、古い物語を知る。だから俺は音楽にこのお話を語らせるだけでなく、子供たちにも知ってもらうために子供向けの本も作るのさ。中部アメリカの家族が、赤ちゃんにこの本を読んで、日本の古いお話を聞かせて、そして親子共に日本の他のお話に興味を持つなんていうことを想像しているよ。他の国の他のお話はどんなものなのかってね。色々な古いお話や文化に興味を持つようになるのさ。人々に見慣れないもの、聞き慣れないものを知らせるというのは、とても興味深いことだと思う。トリヴィアムでもそれを楽しんできた。これはすべてダレン・トムズとの話につながる。俺はKerrang!の表紙で『Anthems to the Welkin at Dusk』のTシャツを着ていて、当時イギリスのKerrang!のオーディエンスはメタルコアやエモへとシフトしていたけれど、俺が大好きなジャンル、バンドを彼らに教えることができた。こういうことが循環して、うまくすれば新しいバンドへのインスピレーションとなる。昨日Fit For An Autopsy、Signs Of The Swarm、Ingested、Great American Ghost、Enterprise Earthを見に行って、みんなでバンドの話をしていたのだけれど、興味深いことに、以前は若いバンドと話をしても、彼らはメタルのルーツの辿り方を知らなかった。ところが彼らはみんなMorbid AngelやDeath、Emperorの話をしていて、新しい若いバンドが10年前よりもずっと自分たちのルーツを知っているというのは本当にクールなことさ。何故なのかはわからない。だけど、俺たちみたいなバンドがインスピレーションを受けたバンドについて語り続けていくことは重要だと思う。イーシャンも俺にディアマンダ・ギャラスのことや、聴くべきBathoryのレコードを教えてくれた。ふさわしい感情を表現するための、クオーソンの声の抑揚をね。ついでに言うと、イーシャンが言った「儚き必然」というフレーズにつても、俺は触れる必要があった。彼はブラック・メタルのヴォーカル・パフォーマンスには、儚い必然が必要だと言ったんだ。俺がトリヴィアムでやっているアプローチはとても男性的で、とてもパワフルだけれど、ブラック・メタルには他の感情が必要だというイーシャンの発言はとても気に入っている。クオーソンのように、彼のスクリームの中には音程が聴こえるんだ。こういった会話が鍵を開けてくれて、ケン・サクラダという素晴らしい寿司屋をやっている友人に、曲名を日本語にしてもらった。このレコードの翻訳を色々と手伝ってもらったよ。イントロの「儚き必然」はそういう曲なんだ。

 

イーシャン: 君の言ったことに付け加えたい。最初君は、みんなジャンルに偏見があって、こいつはブラック・メタルをやってはダメだなんて言われることを恐れていたよね。確かに10代の時はそんなこともあるだろう。だけど俺の経験からすると、未だにやっていいこととダメなことを分けるファンもいるかもしれないけれど、何十年も世界中をツアーしてきた経験から行くと、「南米のファンはどんな感じ?」とか「アジアのファンはどんな感じ?」なんて聞かれるけれど、大きな違いはないのさ。どこへ行ってもアイアン・メイデンやジューダス・プリーストを聴いて育ったファンがいる。俺たちには、共感できる一つの巨大な世界的な文化があるのさ。共通の基盤を持っているんだよ。世界のどこへ行っても、誰に会っても、俺たちには音楽表現が好きだという共通基盤がある訳で、狭い心で他のものを排除するというのは、それとは真反対のもの。君がそれを意図的に強調していることは素晴らしいし、若いファンやミュージシャンが、するべきことは排除でないと知ることはとても良いことだよ。蒸留して何かに集中することは構わないけれど、つまるところ結局は本物の音楽かクソかという問題でしかないのさ(笑)。

 

マット: (笑)。100%同意するよ。

 

川嶋未来: 日本文化の知識はどうやって身につけたのですか?ほとんどの日本人よりも詳しいように思うのですが。

 

マット: 自分でたくさんリサーチをしたんだ。人々の出自は違うんだとわかり始めた時のことへと立ち戻ることができる。小学校か、あるいは幼稚園の頃、みんなでその朝何を食べたか話していた。俺が遅れて会話に加わると、「ねえマット、今朝は何食べたの?」と聞かれたので、「白米と鮭、味噌汁」だと答えると、みんなは「何だって?気持ち悪い!何を言ってるんだい?何で朝食に魚を食べるの?」なんていう調子で、みんなはシリアルなんかを食べていたからね。それで何となく自分はどこか違うとこから来た違うことをする人間なんだとわかった。母親はとても注意深くて、日本語を使い続ければ良かったと思っているのだけど、それは容易ではなかった。親父は海兵隊員で、彼らがサンディエゴに引っ越した後も、親父はいつもあちこちを飛び回っていたから、俺は母親と2人だった。彼女は俺にアメリカに溶け込んで欲しがっていたから、俺とは英語で話していたんだ。だけど、俺にはいつもヴィデオゲームや日本の漫画の影響があってね。だから、俺は他の人たちとは違うんだという感覚が、常に俺の中にあった。だけど、それは有難いことでもあって、他の違う人たちについても学びたいと思った訳だからね。2005年のオズフェストに出る際、タトゥーを入れたくて、俺はあらゆることのオタクだからね。イーシャン、オタクという言葉は以前は蔑称だったのだけど、今は称賛なんだよ。少なくとも西洋では。それに関することなら何でも知っているスーパー・ファンみたいな意味で、俺は好きなものに関しては何でもオタクで、徹底的にリサーチをするんだ。例えば、『Ascendency』を出す時に、芸者の絵専門の喜多川歌麿には『昇り龍』(=Ascending Dragon)という作品があるのを知ってね、素晴らしいと思った。龍の絵では知られていない画家が龍の絵を描いていて、俺たちは『Ascendency』というアルバムを出すのだから。俺は日本人だから、それでアメリカで一番の日本風の彫り師を探して、サンフランシスコのタトゥー・シティのブライアン・ブルーノを見つけて彫ってもらったんだ。彼はそこを去ってしまったのだけど、新しくKahlil Rintyeが入って、彼は日本の文化について何でも知っていた。古い日本のお話や漫画、フィクション、ノンフィクションなどの本を大量に持っていて、タトゥーを彫った時に色々と教えてくれたのだけど、俺は常に伝統的なものに興味があったからね。キャビもトラディショナルなものにしているよ。九尾の虎や、海で天狗と戦うワニザメとか。つまりKahlilからも多くを教わり、自分でもたくさんリサーチしたし、母親ともたくさん意見交換をしたんだ。実は今、日本の要素がたくさんあるヴィデオ・ゲームに関して秘密のことをやっている。それで母親に歌詞を日本語に訳してもらったんだ。俺の書いたものを見て、「違うわ、マシュー。それは丁寧すぎるし、女性的な喋り方よ。男の場合はこう。やり直し」なんて言われたよ。意見交換ができる人々がいるのは素晴らしいし、こういう近しい仲間から多くのことを学ぶんだ。イーシャンは俺の人生におけるメンターの1人で、マネージャーのジャスティン、ベースのパオロ、妻のアシュリーもそう。彼らは常に俺に対して正直だし、人生に必要なのはそういうものさ。信頼、尊敬できる相手からの正直なフィードバックで、人は成長する。世の中にはこういう部分を喪失してしまって、いかなることにおいてもフィードバックを与えてくれる相手が誰もいない人もいる。家族であれ恋人であれ、この類のフィードバックをもらうのはとても重要なこと。俺はただその道のエキスパートから、多くを学んでいるんだ。自分はエキスパートではないから、常に学び続けたいのさ。人生、自分自身、世界について教えてくれる日本の素晴らしいお話はいくらでもあるから、さらに深掘りしてさらに学んでいきたい。

 

イーシャン: それについては俺も触れておきたい。俺たちのコラボレーションについて、「2人はどうやって仲良くなったんだ?」なんて聞かれるけれど、まさに君が説明した通りさ。間違いなく君は色々なことに興味を持っていて、開かれた心で、正しいことをやろうと真剣だ。やることすべてに好奇心、大きな情熱を持っている。俺たちは多くの点で異なっているけれど、音楽や芸術のことになると、狭い心を持つのではなく、探検して終わりなき芸術、文化、そして影響の木から収穫を得たいという意志、開かれた心がある。このことがすべてを説明しているし、一般的に言って、これは音楽に限った話ではない。俺には人生に情熱や好奇心を持った詩人や作家、画家、民俗音楽家の素晴らしい友人もいる。必要なのはそういうものなんだ。

 

マット: その通りさ。また食べ物の話になるけど、食べ物に対するオープン・マインドさは、多くのことへのオープン・マインドさにつながるんだ。さっきイーシャンも言っていた、ノートオッデンへの旅行は本当にクールで、人生を変えられる素晴らしい経験だった。ずっと聴いてきたアーティスト、当時メールのやりとりしかしていなかった相手と友達になれて、君と俺はとても似た道を辿っていたことがわかった。どちらもかなり早い年齢でバンドを始めて、そのやり方もとても似ていた。初期の頃、インタビューで影響を受けたバンドを聞かれて、「スウェーデンのメロディック・デス・メタルからの影響は見えるけど、ブラック・メタルはわからない」なんて言われて、そういう時はいつもエンペラーに立ち戻っていた。当時はまだ君のことは知らなかったから確証はなかったけれど、直感でいつもエンペラーはエンペラーのやりたいことをやっていると答えていた。それはとてもエキサイティングなことで、トリヴィアムに自信を与えてくれたよ。経験から、面白そうだと感じられるあらゆることやあらゆる人から少しずつ学ぶオープン・マインドさを持つことを学んだのさ。一緒にスタジオに行って、『ブルーベルベット』を見て、食べて。みんながまったく違う2つの世界の出身だと思っている2人のミュージシャンの共通性を見るのは本当に素晴らしかったよ。イーシャンも言ったように、世界中どこでも、人々は違うけれどもとてもよく似てもいるのさ。それが俺の好きなことであり、さっきの朝食の話、子供向けの本を作りたいという話へとつながる。それは俺たちには些細な違いがあったとしても、繋がってより大きな共通性を見出すができることを示しているのさ。

 

イーシャン: まったくその通りだよ。

 

川嶋未来: アンチに何か言いたいことはありますか。他ならぬイーシャンその人があなたをバックアップしているというのに、90年代初頭は生まれてもいなかったキッズたちが、ブラック・メタルのガーディアンを気取っているのは面白い現象だと思うのですが。

 

マット: ありがたいことに、今ではトリヴィアムも鎧を身につけているからね。バンドを始めた頃、高校のバトル・オブ・ザ・バンドで2回目のショウをやって、メタル・バンドは俺たちだけ。長髪は俺だけで、中盤にプレイしたんだ。俺たちが途中、演奏を終えると、これは2000年頃の話で、ちょうどハードコアやノイズコアが流行り始めていて、俺たちが唯一のメタル・バンドだったから、キッズたちが立ち上がって叫んでいた。すると俺たちのことを気に入らないハードコア・キッズがやって来て、「メタル・キッズは座ってくれるか」なんて言うから、出て行ってみんなにまた立ち上がるよう言ってやったのさ。当時から、俺たちのやることにはアンチがいたんだよ。俺たちのやることが早すぎたのか、俺たちが自信に溢れていたからなのか。調子に乗って生意気だったからじゃないといいけど、自信があると、それがパフォーマンスに現れるし、そうあるべきさ。他ではそんな風に振る舞うべきではないし、自信満々に歩き回るべきではないけれどね。これは昨日Fit For An AutopsyとGreat American Ghostにも話したのだけど、2004年から2009年頃、大好きなバンドのサポートをやると、彼らのクルーやバンドにいじめられたり、大好きなバンドに雑誌で悪口を言われたりもした。その中の一つは生放送のレヴューで、トリヴィアムのTシャツを目にしたシンガーが、誰かにホンモノのTシャツ、つまり彼のバンドのTシャツを取りに行かせた。トリヴィアムのTシャツを目にしなくて良いようにね。俺のヒーローの1人は、「甘やかされた金持ちのガキが言うことなんてどうでもいい」とインタビューで言っていた。俺のことさ。俺たちは最高レヴェルの、つまり自分のヒーローだと考えていた人たちからの憎しみや否定に対処してきたんだよ。だから、関係のない人間が何を言おうとまったく気にしない。特に俺のように、毎日インターネットをやっているとね。インターネットは世界で最も速くて、おそらく最もネガティヴに興奮しやすいものでもある。俺はいつもポジティヴに使うようにしているけれどね。茨鬼のルーツはブラック・メタルだけど、ただのブラック・メタルではない。SighやEmperor、イーシャンがただのブラック・メタルでないのと同じように、他の多くのものにも触れているからね。まだ発表していない秘密の3人目のゲストが参加しているのだけど、彼の参加には本当に興奮したよ。まさにブラック・メタルのエリート主義者が許容することとは真反対のゲストだから。そのシンガーとトリヴィアムのメンバーがブラック・メタルのレコードを作るなんて許されないだろうけれど、これこそ初期のブラック・メタルの反逆性を示しているよ。トラディショナルなルーツに忠実なブラック・メタルのレコードをリリースするよりも、もっとブラック・メタルさ。過去は過去で正しいことをやっていて、時にそこに触れるのは重要で素晴らしいけれど、頑固にそれ以上のものを許さないとなると、興味深い食べ物なんて作れなくなる。興味深い映画も芸術もできない。ブラック・メタルという出自を反映しリスペクトすることは重要だけれど、ジャンルそれ自身への反逆という点が、とても気に入っているんだ。俺はそれこそがブラック・メタルのアティテュードだと思う。

 

イーシャン: まったく同意するよ。これはロック・カルチャーやポップスのカルチャーにもあること。一体何人が、ジミ・ヘンドリクスみたいな音を出そうと、古いFazz-Facesやフェンダーのギターを買って、弦を上下に張ってみたことか。ヘンドリクスはどんな音になるだろうかと、直接デスクにギターを繋いでみた最初のアーティストの1人なのに。バッハですら、あまりにやりすぎた結果、200年間も忘れ去られていた。彼らは彼らの時代には不可能だったことの限界を推し進めたのに、人々は逆行して、彼らがやったこと以外はやらないように自分たちを制限しようとする。カルチャーや芸術のアイコンを尊敬するあまい、彼らがやったことだけに自分たちを制限してしまうのは、クリエイティヴィティさに対する恥辱だと常に思ってきた。だから君に同意するし、言っていることもわかる。俺がサックスなんかを使うと、「ああ、エンペラーのファンはどう思うかな?」とか、「ああ、みんなガッカリするよ」なんて言われてね。正直、俺がノルウェジアン・ブラック・メタルをプレイし始めた時、気に入られたいなんていうことを仄めかしたことがあっただろうか?人々が自分を批判し、好きなことを言う権利があると思われる立場にいられるというのは、とても幸運なことだと思うんだ。俺たちがエンペラーを始めた頃、最初の何枚かのレコードを出した頃ですら、商業的な成功なんてまったくなかったから、気に入られようとか成功しようなんて思ってやっていたことなんて何もなかった。唯一のインセンティヴは、キャンドルライト・レコードから予算をもらってスタジオに入り、同じような考えのアンダーグラウンドの人々に聴いて気に入ってもらえるかもしれないレコードを作るという野心を満たせることだった。そのくらいのことしか想像ができなかった。名声もお金もなかったから、純粋にアーティスティックな根拠だけで作られた結果、それが人々の心に響いたのだと思う。気に入られよう気持ちのない純粋なもので、そういうものこそがあらゆるメタルやロックの歴史における真実なのだと思う。そしてそれを世界に発表したことで、それをルールブックにしようとする人が出てくるのは良くない副作用だよ。同じことを繰り返すことになってしまうから。

 

マット: まったくその通り。とてもうまくまとめてくれたね。これらの点こそイーシャンがノートオッデンで伝えてくれたことであり、これを聞いたことで、人生のあらゆることに大きな自信を与えられた。トリヴィアムでは、あれこれ気に入らない人たちについての考え方を再構成するのに役立った。これは本当に大切なことで、この話を聞いたり読んだりしたミュージシャンがみな彼らの中に同じものを備えられるといいな。自分が良いというものを作るべきで、他の人がどう思うかは関係ない。綺麗にまとめてくれたね、イーシャン。

 

イーシャン: そう、それにある意味そうすることが、真のファンに与えることのできる最高のものなんだ。完全に正直であることがね。自分の音楽を聴きたがってくれる人たちがいるという特権を持っているのなら、能力の限りを尽くすべきで、どこかのマーケットに合わせようなんてするべきではないんだ。そんなのはメタルではないよ。

 

マット: まったくだね。

 

川嶋未来: 残念ながら、時間が無くなってきてしまいました。マット、イーシャン、ありがとうございました。

 

マット: アリガトウゴザイマシタ。

 

川嶋未来: ありがとうございました

 

マット: 素晴らしい会話だった。どうもありがとう。

 

川嶋未来: 近いうちに会えるのを楽しみにしています。

 

イーシャン: 2人ともにね。未来、秋には日本に行けることを期待してるよ。何度も延期になっているから。

 

マット: マジで?

 

イーシャン: そうなんだ。

 

川嶋未来: 楽しみにしています。

 

イーシャン: 2人のご家族にもよろしく。

マット: 君たちのご家族にもよろしく。それで思い出したけど、イーシャン、みんなに茨鬼もライヴをやるべきだと言われるのだけど、それを実現するためには、イーシャンとレプロスと一緒にやる必要があるって言い続けてるんだ。Sighも一緒にやろう。

 

イーシャン: (笑)

 

マット: 君のライヴ・バンドを借りる必要があるんだ(笑)。それじゃ、ありがとう。

 

イーシャン: それじゃまた。

 

 

 

文 川嶋未来

 

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2022年5月6日発売

茨鬼(イバラキ)

『羅生門』

CD+キイチ直筆サインカード

CD

 

【CD収録曲】

  1. 儚き必然
  2. 迦具土
  3. 茨木童子
  4. 地獄太夫
  5. 魂の崩壊
  6. 悪夢 feat. ネルガル [ベヒーモス]
  7. 木漏れ日
  8. 浪人 feat. ジェラルド・ウェイ [マイ・ケミカル・ロマンス]
  9. 須佐之男命 feat. イーシャン [エンペラー]
  10. 海賊

 

【メンバー】
マシュー・キイチ・ヒーフィー(ヴォーカル/ギター)

 

【ゲスト・ミュージシャン】
イーシャン(ヴォーカル/ギター)[エンペラー]

ネルガル(ヴォーカル)[ベヒーモス]

ジェラルド・ウェイ(ヴォーカル)[マイ・ケミカル・ロマンス]

アレックス・ベント(ドラムス)[トリヴィアム]

パオロ・グレゴリート(ベース)[トリヴィアム]

コリー・ビューリュー(ギター)[トリヴィアム]

ザ・ソールバーグ・ツヴェイタン・ファミリー(ヴォーカル)

ハイジ・ソールバーグ・ツヴェイタン(アンビエンス)