ノルウェーの大人気ロックンロール・バンド、クヴァラータクを脱退したフロントマン、アーランド・イェルヴィック。彼が新たに始動させたのが、自身の名を冠したバンド、イェルヴィックである。デビュー・アルバム『ウェルカム・トゥ・ヘル』がリリースされるということで、色々と話を聞いてみた。
アーランド:日本の状況はどう?
ー アメリカなどよりは良いですが、何しろ来日公演がまったくないので。私も半年以上何のライヴも見ていないです。こんな経験は初めてですよ。
アーランド:それは最悪だね。その点ノルウェーはラッキーだよ。俺たちが住んでいるのは郊外で、街の中心地から離れているから、ほとんど何も起こっていないような感じ。もちろんオスロなどは、状況ももっと悪いだろうけれど。2週間前にはメタル・フェスもあったんだ。
― そうなんですか?
アーランド:そうだよ。クールだろ?たくさんのバンドがプレイして、みんな離れたテーブルに座って、注文するとビールが運ばれてくるみたいな、ちょっと贅沢なフェスみたいで奇妙だったけど(笑)。ライヴを見られたのは良かった。
― どのくらいお客さんが入ったのでしょう。
アーラウンド:200人がリミットだから、儲かりはしなかっただろうけど、ライヴを見られたという点では良かったよ。
ー ではインタビューを始めましょう。イェルヴィックを結成した経緯はどのようなものだったのですか。メンバーはどのようにして選んだのでしょう。
アーランド:何曲か仕上がった段階で、俺たちはレコーディングするスタジオを、オレゴンのポートランドにしようと決めたんだ。「俺たち」という言い方をしたのは、俺はアメリカ人の女性と結婚していて、彼女はバンドのマネージャーでもあるから。ポートランドに家があるから、レコーディングもそこにしようと思って、それでさらに近くに住んでいるロブ・スタインウェイに連絡した。彼はSkeltorのギタリストで、以前から知り合いだったのだけど、うまい具合に参加してくれた。ケヴィンはアバスのドラマーで、彼とはベルゲンで知り合った。アバスのファーストのドラミングがとても気に入っていたからね。ドラマーを探していた時にフェイスブックを見ていたら、彼が参加できるバンドを探していたのでコンタクトしたんだ。ベースはケヴィンの友達で、彼の推薦だった。レコーディング・メンバーはこんな感じだよ。
― 曲を1人ですべて書いてから、メンバーを探した感じなのですか。
アーランド:ギタリストが加わるまでに、70%くらいは仕上がっていたよ。歌詞も曲も全部俺が書いている。
ー クヴァラータクとは音楽性が随分違うように思うのですが、こちらの方があなたが本来やりたかったスタイルということですか。
アーランド:そうだね。俺としては同じことを続けていると思ってはいるけれど。クヴァラータクの時代も、俺の歌詞や歌い方がバンドに影響を与えていたと思う。音楽的にも多少のインプットはしていたけれど、メインソングライターではなかった。今は同じことをやっているつもりではあるけれど、100%フルスピードで、完全に自分のやりたいことをやっているよ。イメージやアートワークについても、運転席に座ってどこへ行くか完全に決められるからね。以前のバンドでは、シリアスな部分を欠いていた部分があったというか、ファン・アンド・パーティ的要素が強すぎた感じもあったから、今回はもっとシリアスなものにしたのさ(笑)。
ー クヴァラータクを抜けた理由は何だったのでしょう。
アーランド:色々と複雑な理由があるのだけど、簡単に言えば他のメンバーとうまくやれなくなったのさ(笑)。例えばガールフレンドと別れたときに、なぜ別れたのかとなると、「先週の火曜日に彼女がゴミ出しをしなかったから」みたいな、シンプルな答えにはならないよね?それと同じで、様々な要因が積み重なって、うまくいかなくなったんだ。それで新しいことを始めよう、自分でやりたいことをやった方がいいと思ったんだ。
ー イェルヴィックはバンドなのでしょうか、それともプロジェクトというべきなのでしょうか。あなたの苗字をバンド名にしたのは何故なのですか。
アーランド:俺はソロ・バンドと呼んでいる。プロジェクトというと、アルバム1枚だけとか、期間限定のように聞こえるから。自分の苗字を使ったのは、オジー・オズボーンやダンジグにインスパイアされたからさ(笑)。普通にバンド名をつけることには違和感があったし、ライヴでは少なくとも何曲かはクヴァラータクの曲もプレイするつもりだし。
― あくまでも正式メンバーはあなただけということですか。
アーランド:うーん、そこは何と言えばいいかな。彼らはメンバーではあるけれど、俺がメインのメンバーで曲を書いて、ジャケットにも俺の名前が載っているからね。だけど、もちろん彼らとはずっと一緒にやっていきたいと思っているよ。ツアーが始まったらどうなるか見てみるよ。
ー ファースト・アルバムの音楽性を説明するとしたら、どうなりますか。
アーランド:俺は「ブラッケンド・ヴァイキング・ヘヴィメタル」という言い方をしている。これが一番正確な説明に思えるんだ。アルバムの音楽は多様性があって、というか自分で思っていたよりも多様性が出ているから、なかなか一言で全貌を捉えるのは難しいのだけど、とりあえず「ヘヴィメタル」はどの曲にも当てはまる。ブラック・メタル、ヴァイキング・メタル、スラッシュ・メタルからの影響もあるからね。この呼び方がぴったりだと思っているよ。
― 具体的に影響を受けたバンドはどのあたりでしょう。
アーランド:バソリーからの影響はとても大きいし、他にはマーシフル・フェイト、ダークスローン、ディセクション、イモータル、ニフェルハイムのような新しめのブラック・メタル。メタリカ、スレイヤーみたいなクラシックなバンド。オジー・オズボーン、ブラック・サバス、ダンジグなどからの影響もある。
ー バソリーはどのあたりの時期がお好きですか。
アーランド:そうだね、最初の6枚。初期のクラシックも好きだし、ヴァイキングのアルバムも好き。特に最初にヴァイキングをやったやつ(『Hammerheart』)。『Blood on Ice』も大好きだよ。
― 多くの人が指摘すると思いますが、『ウェルカム・トゥ・ヘル』はヴェノムのデビュー作と同タイトルですよね。”Hel”のスペルは違いますし、北欧神話に出てくる単語ではありますが。
アーランド:もちろんこれはちょっとしたトリビュートであり、アクシンデントではないよ(笑)。ふと思いついたんだ。デビュー作のタイトルには”welcome”という単語を入れたいと思って、それに北欧神話で言う”Hel”は、キリスト教の”hell”とは違ったもの。俺としては、このタイトルが面白いと思ったんだ。アルバムのコンセプトにも、ジャケットにもぴったりだし。
― なるほど。やはり故意なのですね。
アーランド:その通りさ。
― “Hel”というのは北欧神話に出てくる女神なのですよね。
アーランド:そう。そして場所の名前でもある。
― 題材を北欧神話に求めたのはなぜなのでしょう。ノルウェーの人々にとっては、非常に自然なコンセプトなのでしょうか。
アーランド:自然なコンセプトという訳ではないよ。というのも学校でじっくり学ぶものではないからね。俺は個人的にエンスレイヴドやバソリーなどを聴いて興味を持ち、神話などを色々勉強したんだ。クヴァラータクでも北欧神話についての歌詞も書いたけれど、それらはもっと表面的で、あまりシリアスなものではなかった。ここ数年でたくさんの本を読んだから、北欧神話やノルウェーの歴史から大きなインスピレーションを受けたんだ。毎日勉強を続けているから、次々と歌詞のアイデアが出てくるんだ。曲のタイトルやトピックがね。
― そうなんですね。エンスレイヴドのグリュートレ・チェルソンは、ノルウェーでは授業で北欧神話を習うので、誰もが知っているものだと言っていました。
アーランド:そうなんだ。俺はそんなことはなかった。7歳くらいで学校に入ったけれど、まずいきなり聖書の授業だったよ(笑)。北欧神話については、10歳から13歳の頃にちょろっと習ったけれど、ジーザスの授業に比べたらずっと少なかった(笑)。
― 英語とノルウェー語で歌い分けていますよね。どのようにして2つの言語を使い分けているのでしょう。
アーランド:まず曲を書いて、どんなヴォーカルにすべきかを想像してみると、これは英語が合う、これはノルウェー語の方が合うみたいのを感じるんだ。今回2曲をノルウェー語で歌っているけれど、これらの曲は俺にとって凄くノルウェー的だったんだ。特に「ヘルグリンダ」は、アルバム中最もノルウェーらしい曲だと思うよ。ノルウェーのブラック・メタル・バンドも、8曲英語で2曲ノルウェー語みたいなことをやっていたよね。そういう古いブラック・メタルのレシピにのっとるのも良いかなと思って。(クヴァラータク時代)ずっとノルウェー語で歌詞を書いてきたから、英語を使うというのは気分転換になったというか、新しい発想も出てくる。新しいことにトライするのは良いことさ。
― 先に曲を書くのですね。
アーランド:そう、まず曲を書いてから歌詞をつけるんだ。まずタイトルを考えて、そこから歌詞を発展させていく。以前のバンドでも、曲を受け取って、それに俺が歌詞をつけていくという感じだったからね。
ー ジョー・ペタグノによるアートワークは何を表しているのですか。
アーランド:俺の狙いとしては、ラグナロックの要素をすべて入れることだった。フギンとムニンがいて、そのどちらも死んでいて、世界蛇やフェンリルがいて、鷲が飛んでいて、トールのハンマーも描かれている。サブリミナルな狼も隠されていて、とてもクールな仕上がりだよ。とても気に入っている。ロゴも、ジョーが夢で見たものらしく、スケッチを送ってくれたんだ。
ー スリープのマット・パイクとザ・ロード・オブ・スロウ・フェグのマイク・スカルツィがゲスト参加しています。どのような経緯で参加が決まったのでしょう。
アーランド:マット・パイクとは、前のバンドで一緒にアメリカ・ツアーをしたから知り合いだったんだ。ポートランドでレコーディングすると決めて、彼もポートランドに住んでいることを知っていたので、メールを送って参加してくれるか尋ねると、すぐに快諾してくれた。スタジオに来てくれてね、ゲスト・ヴォーカルと、とてもクールなギター・ソロを弾いてくれた。インプロで15テイクくらいやってくれて、どれも素晴らしい出来だったから、ベストテイクを選ぶのが大変だったよ。とてもハッピーさ。マイク・スカルツィは、エンジニアを務めてくれたジャスティン・フェルプのアイデアで、彼も以前スロウ・フェグでベースをプレイしていたからね。それでマイクに連絡をしてくれて、俺もスロウ・フェグのファンだから、とてもクールだった。曲も彼の声にぴったりのものだったし、彼のおかげで一段と素晴らしい曲になったよ。マイクもスタジオにやって来て、2日間一緒に過ごしたのだけど、彼のソロのアプローチはまったく違ったものでね。ソロを重ねてレイヤーにして、非常にビッグな仕上がりになった。
ー ブラック・メタルのミュージシャンではないのが面白いと思ったのですが。
アーランド:特に意識したわけではないのだけど。将来的にもブラック・メタルのミュージシャンはゲストに呼ばないというつもりもない。自然とそうなったんだ。俺の声とのコントラストという点でも良いと思ったしね。
― そもそものエクストリーム・メタルとの出会いはどのようなものだったのでしょう。
アーランド:もともとはプロディジーなんだ。プロディジーは知ってる?
― もちろん知っています。
アーランド:プロディジーが初めて聴いた、いわゆるエクストリームな音楽だった。「Firestarter」なんかをMTVで見てね。12歳くらいまではプロディジーがお気に入りのバンドだった。それからメタリカやマリリン・マンソン、スリップノットなんかを聴くようになって、15歳の頃にディム・ボルギルやクレイドル・オブ・フィルスに出会ったんだ。その後、幸運にもダークスローンやイモータルなどにも出会うことができた。
― 90年代初頭、ノルウェーではブラック・メタルが一大事件となりましたが、それをリアルタイムで認識するにはまだ若すぎましたか。
アーランド:いや、知っていたよ。とても怖くてね(笑)。ニュースでもさんざんやっていて、サタニック・パニックみたいな感じだった。実は、俺の父親は司祭をやっていたんだ。今はもう引退したけれど。だから、俺の住んでいたところの近所の教会が焼かれたことははっきりと覚えている。家に電話がかかってきたこともあるよ。たまたま俺が電話をとったら、「真夜中に教会で待っている」とだけ言って切れてしまった。めちゃくちゃ怖かったよ!おばあさんから電話がかかってきたこともある。パニックになっていて、サタニストたちが墓石をひっくり返していると。カウント(グリシュナック)のニュースもさんざんやっていたし。子供の頃はとにかく怖くてね。だけど成長するにつれ、その世界に惹かれていった訳だけど(笑)。
― 当時まだ8歳とかですか?
アーランド:そう、7歳か8歳だった。
― そんな小さい子でも事件を知っているほどの事件だったのですね。
アーランド:ニュースでいつもやっていたからね。学校でもカウントが話題になっていたよ(笑)。恐ろしいキャラクターだった。超常現象みたいな感じで。
― 当時はまさかその後この世界に入るとは夢にも思わなかった訳ですね。
アーランド:当時は思わなかったね。だけど、あの時代を経験できたのは良かったよ。奇妙な時代だったね。
― お気に入りのヴォーカリストは誰ですか。
アーランド:そうだな、やっぱりCarpathian Forestのナッテフロストかな。若い頃は彼をモデルに歌いたかったから、彼からのインスピレーションは大きいね。アッティラも大好きだし、オジー・オズボーンや、ボビー・リーブリングも大好き。それからキング・ダイアモンド。
― これらのヴォーカリストからの影響もあなたの歌い方に現れていると思いますか。
アーランド:ナッテフロストからの影響はわかると思う。彼からの影響は一番大きいよ。オジーとはもちろんスタイルが違うけれどね。ナッテフロストは間違いない。
― お気に入りのアルバムを3枚教えてください。
アーランド:マーシフル・フェイトの『Melissa』。ダンジグのファースト。それからブラック・サバスの『Sabotage』。
― 今後の予定はどうなっていますか。コロナでなかなかツアーなども難しいかと思いますが。
アーランド:来年はツアーを予定しているよ。これは実現すると信じている。なので、まず家の地下室で定期的にリハーサルをやれるようにしないといけない。バンドのメンバーがうちに来てツアー用の練習ができるようにね。来年にはコンサートがやれる状況になると思っているよ。ヨーロッパ全域でなくても、少なくとも北欧ではね。
― では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
アーランド:オーケー、日本のファンがニュー・アルバムを楽しんでくれるといいな。クヴァラータクを気に入ってくれた人たちが、俺の新しいバンドも気に入ってくれるといいね。前回日本に行った時はとても楽しかったから。ぜひまた日本に行くチャンスを楽しみにしているよ。何しろ俺は日本で生まれた訳だから、俺にとっては特別な国だからね。
文 川嶋未来