Sonata Arcticaのフロントマン、トニー・カッコ率いるHimmelkraftが、デビュー・アルバムをリリース!トニーに色々と話を聞いてみた。
ー まず、Himmerkraftというプロジェクトの成り立ちを教えてください。何かプロジェクトを始めるきっかけがあったのでしょうか。
トニー・カッコ:「Himmelkraft」という名前を思いついたのは、もう20年以上も前のこと。つまり、ソロ・プロジェクトをやろうというアイデア自体は、随分と前からあったんだよ。Sonata Arcticaもまだ若く、フレッシュなバンドで、アルバムも2枚ほどしか出していなかったと思う。だけど、名前だけあって、さっぱり具体化しないから、バンド内でもジョークみたいな感じになっていて(笑)。少しずつ、Himmelkraft用の曲も書いていたのだけどね。その多くは、結局Sonata Arcticaの曲になってしまった(笑)。パンデミックは、このプロジェクトが本格化する一つのトリガーだったよ。あと、それ以前にも喉の問題を抱えていて、それを治癒する必要もあって、Sonata Arcticaとはまったく違うことをやりたいと思ってね。Himmelkraftなら、それができたから。やっとアルバムを完成することができて、良かったよ。実は、もうあと2枚のアルバム分の曲が出来ているんだ。時間ができたら、新しいアルバムにもとりかかりたいと思っているのだけど、これからSonata Arcticaのニュー・アルバムも出るからね。とにかく忙しいんだ(笑)。
ー HimmerkraftとSonata Arcticaの音楽的相違を語ってもらおうと思っていたのですが、Himmelkraft用の曲をSonata Arcticaに流用したということですと、それほど大きな違いはないということなのでしょうか。「Sonata Arcticaとは違うものにしよう」という意図はありましたか。
トニー:個人的には、Sonata Arcticaとはまったく違ったプロジェクトだと思っている。Sonataのメンバーもそう思っていると思うよ。例えばドラムのトミーは、とてもHimmelkraftのことを気に入ってくれているけれど、Sonataとは全然違うものだと言っていた。それは良いことさ。Sonata Arcticaと競合するようなものを作っても、仕方がないからね。「Sonata Arcticaにピッタリの曲だ」というものをやるのではなく、俺にとってはセラピーと言うのかな。Sonata Arcticaにはフィットしない曲もたくさん書いてきたからね。Himmelkraftは、そういう曲のはけ口と言うか、まあ確かにSonata Arcticaはあらゆる種類の音楽を受け入れるところもあるのだけれど、HimmelkraftはSonataとは違ったサウンドスケープ、エモーション、フィーリング、ストーリーを持ったプロジェクトだよ。もちろん1-2曲はSonataにフィットするものもあるだろう。「I Was Made to Rian on Your Parade」みたいなバラードとか。Himmelkraftは、時間とともに様々なアイデアがあったんだよ。初期の頃は、Rammsteinみたいなインダストリアル・メタルをやろうと思っていた。ラフなパンクみたいのをやろうと思っていた時期もあるし、ブラック・メタルを考えたこともある。結局は、Sonata Arcticaよりもずっと遅いテンポの作品になった。Sonata Arcticaは、再びパワー・メタル路線を歩むことになったから、それにはフィットしない曲がたくさんあったのさ。
ー 本作に関わったメンバーは公開されていませんね。
トニー:これはファンタジー・プロジェクトであり、メンバーもそのファンタジーの一部なんだ。今の世界は、神秘さを欠いていると思う。今はコンピューターを開いて検索をすれば、あらゆる情報が手に入る。そんな中、「一体これは誰なんだ?」って思うのも良いんじゃないかな。最初は、俺の関与も秘密にしようと思っていたのだけれど、俺の声は聴けばすぐ誰なのかわかってしまうからね(笑)。もともとは、Ghostみたいに、メンバーが誰なのかわからないようにしたかったんだ。メンバーがわかってしまうと、魅力というか、奇妙な感覚が失われるだろう?情報が多すぎると、魅力が失われるから、できる限りHimmelkraftは秘密を守りたいと思っているよ。
ー 関与しているメンバーは、有名なミュージシャンたちなのでしょうか。
トニー:何人かはね。だけど、スーパースターを起用しようとは思わなかった。Teemu Mäntysaariとかね。彼は今ではMegadethのメンバーさ(笑)。彼は友人だし、お願いすれば参加してくれたかもしれないけれど、Himmelkraftのスタイルはエクストリームではないし。脚光を浴びているミュージシャンとはやりたくなかったんだ。スーパースターとやると、どう演奏して欲しいみたいに指示を出すのも嫌な感じがするし。まあ、とにかく秘密を守れる間は守るよ。アルバムを重ねるうちに、ライヴもやるかもしれないし。
ー アルバムのコンセプトについて教えてください。実在したドイツの化学者、クララ・イマーヴァールが実は死んでおらず、核戦争の脅威から逃れるため、他の科学者たちと協力して、地底に移り住むプロジェクトに参加するという内容だと理解したのですが。
トニー:そう、その通り。彼らはHimmelkraftというプロジェクト、世界を作るんだ。新たなる世界大戦を恐れてね。クララは科学者たちのグループの一員で、Himmelkraftを作っていく。地球の表面に住んでいる我々には知らない世界というものがあって、このアルバムでは、地球表面の世界大戦の脅威から逃れるために、地底に新たな世界を作るというお話さ。第三次世界大戦は核戦争になり、その後の第四次世界大戦は、石や棍棒で戦うことになるなんて言われるだろ。Himmelkraftというプロジェクトで、人類を生き延びさせるんだよ。
ー Himmelkraftは、科学者たちが地下に作り上げた世界の名前なのですね。これはドイツ語で「天国の力」という意味ですよね。
トニー:そう。だけど、ただ思いついて、イカしたサウンドだと思っただけなんだ(笑)。バンド名や、曲名をそうやって思いつくことがよくあるんだよ。「Himmelkraft」というフレーズが、頭にこびりついてね。こうやって結実した訳さ(笑)。Himmelkraftというのはプロジェクト全体の名前でもあり、そこにはまだまだたくさんの秘密がある。将来的に、それらの秘密も語られていくことになるだろう。
ー ストーリーはあなたが考えたのですか。
トニー:ストーリーを完結させてくれたのは、友人なんだ。俺は枠組みと、曲が何についてかを伝えた。とても才能がある女性でね。曲のエッセンスを見事に捉えて、ストーリーに仕上げてくれたよ。
ー このストーリーには何かメッセージを込めていますか。それともあくまでファンタジー作品なのでしょうか。
トニー:ファンタジーだよ。一方で、現実世界がしっくり来ていない人たちにとっての慰めにもなりうると思う。普通の社会の外に、より快適に暮らせる世界を作り上げることができるという点でね。例えばインターネット。ネット上では、良い気分にさせてくれる仲間を見つけることができたりするだろう?現実の世界では、つらい思いをしている人もいるからね。ファンタジーであり、現代社会の問題や歴史も扱っているよ。
ー 「ファット・アメリカン・ライズ」という曲が収録されていますが。
トニー:(笑)。あれは、ドナルド・トランプが大統領に選出された頃に書いたんだ。このタイトルは、2通りに解釈できる。「太ったアメリカ人が嘘をつく」と、「大きなアメリカ製のものがそこにある」、つまり大きなアメリカの車とも取れる(笑)。まあ、でも多くの人は、すぐに何を言わんとしているかわかると思うけれど(笑)。
ー 本アルバムは、まず日本だけでのリリースとなります。
トニー:そう。日本ではたくさんの素晴らしい体験をしたからね。素晴らしいことだよ。まず日本のファンだけに聴いてもらえるというのは、とても嬉しいことさ。
ー お気に入りのヴォーカリストは誰ですか。お手本とする人はいますか。
トニー:俺が尊敬するヴォーカリストの1人は、デヴィン・タウンゼンド。様々な歌い方が出来るし、彼のやることはすべてが素晴らしい。以前、Sonata Arcticaを始めた頃は、もちろんStratovariusの大ファンで、ティモのように歌おうとしていたよ。彼のことはずっと尊敬している。今俺がこうやっているのも、彼のおかげだから。80年代中盤、初めて好きになったバンドということになると、Queen。だから、フレディ・マーキュリーも。世界には、素晴らしいシンガーがたくさんいるから、いくらでも挙げることができるけれど、とりあえずはこの3名だね。この3人は、俺にとって大きな意味を持っているんだ。
ー 自分がシンガーなのだと気づいたのはいつのことですか。
トニー:確か3-4歳の頃だったと思う。冬で、家族みんなでバス停でバスを待っていたんだ。おじいちゃんの家に行くのでね。バスを待ちながら、雪で遊んでいると、年配の男性だったらしいのだけれど、「君は大きくなったら何になりたいんだい?」と聞いてきたんだ。俺はシンガーと答えた。その男性は、「オペラ歌手かい?」と言うので、「いや、ロック・シンガー」って答えたんだ(笑)。だから、小さい頃からシンガーになりたいとは思っていたのだろうけれど、そのために具体的に何かをやった訳ではなかった。ラッキーなアクシデントと言うのかな、気づいたらシンガーになっていたのさ。何か目に見えない力が働いていたんだ。最初にバンドに誘われたのは、キーボーディストとしてだった。俺がバッキング・ヴォーカルをやれるのを見て、マイクを渡された。それから、Sonata Arcticaの初期のギタリスト、マルコにヴォーカリストとしてバンドに入らないかと誘われてね。それで今こうやってシンガーとしてやっているけれど、一度も正式な勉強をしたことはないし、意識してシンガーになろうと思った訳でもない。Sonata Arcticaと共に、自然とそうなった感じだよ。
ー 今回のHimmelkraftでは、Sonata Arcticaとは故意に歌い方を変えていますか。
トニー:少なくとも、部分的にはイエス。Sonata Arcticaでは使ったことないトーンを使っているよ。多少ラフに歌っているところもあるし。まあでも、違いは俺の頭の中だけのことかもしれない。Himmelkraftを聴けば、みな即座にSonata Arcticaのシンガーだとわかるだろうからね(笑)。Himmelkraftのシンガーとしての役割を果たそうと、色々と試してみたけれど、やっぱり難しいね(笑)。
ー 先ほどちらりと話が出ましたが、Himmelkraftとしてもライヴをやる考えがあるということでしょうか。
トニー:やろうとは思っている。だけど、ライヴをやるために十分な曲ができた時点でさ。今回のアルバムではやらない。少なくともセカンドが出てからかな。アルバム1枚ではショウにならないからね。ライヴをやることには、とても興味があるんだ。Himmelkraftのショウは、Sonata Arcticaよりも、ステージセットが必要になるだろう。Himmelkraftの世界を作り出す必要があるから。一度見れば、Himmelkraftだとすぐにわかるようなもの。
ー やはりメンバーはマスクなどをして、正体を隠すことになるのでしょうか。
トニー:そうなるかもしれないね。
ー 今後もHimmelkraftのアルバムをリリースし続けるとのことですが、地下世界についてのテーマが続くということですね。
トニー:そう考えているよ。Himmelkraftのメンバーが、地上を冒険したりとかね。同じ世界を描き続けるつもりで、手を広げるつもりはない。まあ、月に行くなんていう展開はあるかもしれないけれど(笑)。ただ、まだ先のストーリーについては考えていないんだ。曲だけを作っている状態で。
ー お気に入り、あるいは人生を変えたアルバムを3枚教えてください。
トニー:そうだな、まずはQueenの『Live Magic』。当時、家にレコード・プレイヤーがなくてね。テレビでQueenのコンサートを見たんだ。確かブダペストでのライヴだったと思う。その後、新聞にミュージック・クラブの宣伝が出ていた。それに加入すると、好きなカセットテープを3本もらえるというやつ。それでQueenの『Live Magic』のカセットを手に入れたんだ。それから、Stratovariusの『Visions』。このアルバムで彼らのファンになり、そしてメタル・ミュージックにハマるようになった。それ以前は、まったく違った音楽を聴いていて、このアルバムのおかげで俺の音楽のテイストが広がったんだ。あと1枚は少々難しいな。再びそこに帰ってくるというアルバムが、何枚かある。やっぱりMidnight Oilを挙げないのはフェアじゃないな。長い間彼らのファンだし、毎年この時期、陽がさす時期になると、なぜかMidnight Oilが聴きたくなる。特に『Blue Sky Mining』、『Diesel and Dust』、『Earth and Sun and Moon』の3枚。この3枚は、俺にとって1つの存在みたいなものなんだ。
ー では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
トニー:日本のファンのみんな、ぜひこのアルバムをチェックしてくれ。できればCDを買って欲しいな。それが一番だからね。もしストリーミングならば、一番アーティストに還元されるものを使って欲しい。早くまた日本に行きたい。Sonata Arcticaとしても、Himmelkraftとしてもね。随分と行けていないから、日本が恋しいよ。
文 川嶋未来
【CD収録曲】
- ザ・ページズ・オブ・ヒストリー (オープニング)
- フル・スティーム・アヘッド
- ウラニウム
- パイカ
- ファット・アメリカン・ライズ
- ドッグ・ボーンズ
- ホエン・ザ・ミュージック・ストップス
- ゴーリア
- ゼアズ・ア・デイト・オン・エヴリィ・ドリーム
- クリスタル・ケイヴ
- アイ・ワズ・メイド・トゥ・レイン・オン・ユア・パレード
- ディーパー
【メンバー】
トニー・カッコ (ヴォーカル)