フランスの秘密兵器ハート・アタックが、3枚目となるニュー・アルバム『ネガティヴ・サン』をリリースする。あわせてファースト、セカンドも日本発売が決定。ということで、ギタリストのクリス・チェザリに話を聞いてみた。
ー ニュー・アルバム『ネガティブ・サン』がリリースになります。過去2枚の作品と比べて、どのような作品だと言えるでしょう。
クリス:『ネガティブ・サン』には大きな進歩が見られるよ。というのも、今回は俺たちが受けた影響をすべて見せようと考えたから。例えばスラッシュ・メタルだけにスタイルを限定するとかはなくね。ブラック・メタルも少々、映画音楽もあればクラシックもあるし、プログレッシヴ・ロックもある。俺たちはさまざまなスタイルの音楽が好きだからね。今回はこういうものすべてをミックスしようと決めたんだ。
ー 具体的に言うと、どのようなアーティストから影響を受けたということなのでしょう。
クリス:たくさんいるよ。メンバーそれぞれが違ったバンドを聴いているからね。シンガーのケヴィンはハードコア・パンクが大好き。ヘイトブリードやテラーとか。ドラマーのクリスは、とてもエクストリームなもの、ブラック・メタルやデス・メタルが好きなんだ。だから彼はブラストビートとか、エクストリームな要素を持ち込んでいるよ。ベースのウィルはもっとメタルで、メタリカやマシーン・ヘッド、パンテラなどが好き。俺は他のメンバーに比べてメタル度は低くて、ジェネシスやイエス、ジェスロ・タルみたいなプログレッシヴ・ロックを聴いている。ロックも好きだよ。こういった影響をすべてミックスして、ハート・アタックの音楽が出来上がるのさ。
ー 今名前が挙がりましたが、今回ジェネシスのカヴァーをやっていますよね。
クリス:今回何かカヴァーをやりたかったのだけど、メタルはやりたくなかった。マシーン・ヘッドやパンテラをやるというのは、あまりにイージーだろ?それで何かメタルではないものをということで、俺の好きなジェネシスの「ジーザス・ヒー・ノウズ・ミー」を選んだんだ。良いチョイスだと思うし、仕上がりも気に入っているよ。
ー ジェネシスの中でも90年代の曲(「ジーザス・ヒー・ノウズ・ミー」)を選んだのは面白いと思ったのですが。
クリス:両親がジェネシス好きでね。小さい頃からジェネシスを聴いて育ったんだ。彼らのすべての時代の曲が好きなんだよ。
ー アルバムのイントロでは、Huun-Huur-Tuとブルガリアン・ヴォイスの楽曲をサンプリングしています。
クリス:俺たちは音楽ファンだからね、こういう音楽も好きなんだよ。民族音楽も含めて、さまざまな種類の音楽を聴くように努めているんだ。どうしてだったか忘れてしまったけれど、たまたまYouTubeでこの曲を見つけてね。とても気に入ったから、これをサンプルしてイントロを作ったんだよ。仕上がりがとても気に入ったので、アルバムで使ったんだ。
ー アルバム・タイトルの『ネガティヴ・サン』とは、どのような意味なのでしょう。
クリス:歌詞はベースのウィルが書いているのだけど、『ネガティヴ・サン』というのは人間の持つダークサイドのこと。人間は優れた存在として、その悪行を正当化する必要がある。俺たち1人1人の頭の中に、「ネガティヴ・サン」があるということ。アルバム全体が、こういうダークサイドにどう対峙するかという内容なんだ。
ー コンセプト・アルバムになっているということですか。
クリス:いや、そういう訳ではない。10曲がそれぞれ独立した、人間の内なる戦い描いている感じだよ。全体的なストーリーがある訳ではない。いずれにせよ、あまりポジティヴなアルバムではないね(笑)。
ー アルバム・ジャケットは何を表現しているのですか。
クリス:これもまさに人間のネガティヴ・サイドを表現したものさ。マスクをかぶった男はそれぞれの人間が持つダークサイド。俺たち誰にもそういう面があるもの。そして、そのダークサイドにリーダーシップを取らせないようにしているのさ。後には、「ネガティヴ・サン」が描かれているのもわかるだろう。
ー 本作からニュー・ベーシストのウィリアムが参加しています。前ベーシストのトニーがバンドを抜けたのは何故ですか。
クリス:トニーとはいまだに友人で、彼はとても才能のある人物なのだけど、残念ながら忙しくてバンドにあまり時間を割けなくなってしまったんだ。それで彼とは別の道を歩むことになったけれど、劇的なことは何もなく、今も仲が良いよ。
ー ウィリアムはどのようにして見つけたのでしょう。彼がバンドにもたらしたものは何ですか。
クリス:彼とは古い友人で、15年くらい前から知っているんじゃないかな。 ファースト・アルバムでも一曲歌ってくれているし、彼に参加を依頼するのは自然なことだったよ。友人だし、彼の声も気に入っていたし、ベース・プレイヤーとしても優れているから。彼しかいないと思ったし、彼が加入してくれて本当にハッピーさ。
ー 現在のハート・アタックの音楽は、スラッシュからブラック、映画音楽に至るまであらゆる要素が入っているとのことですが、無理やりにでもカテゴライズするとしたらどうなると思いますか。
クリス:わからない(笑)。確かに俺たちはスラッシュ・メタル・バンドとしてスタートした訳だけれど、『ネガティヴ・サン』がスラッシュ・アルバムだとは思わない。もちろんスラッシュの要素はあるけれど、さっきも言ったようにブラック・メタルもあるし、ポップスの要素すらある。このスタイルをどう呼んでいいのかはわからないなあ。でも、基本的にはメタルだと思うよ(笑)。
ー アトミック・ファイアーとの契約はどのように実現したのでしょう。
クリス:俺たちのマネージャーが、マルクス・シュタイガーとコンタクトをしてね。彼らのチームがアルバムを聴いて、気に入ってくれたのさ。とてもシンプルで、あっという間に契約が決まったんだ。彼らと一緒にやれて、とてもハッピーだよ。彼らはとてもプロフェッショナルだし、素晴らしい人たちなんだ。
ー 『ネガティヴ・サン』がレコーディングされたのは2年前ですよね。
クリス:そう、20年の6月から7月にかけてレコーディングした。フランスでの最初のロックダウンの直後のことさ。音楽ビジネスが完全にストップしてしまって。それから時間をかけてヴィデオやアートワークの制作などをして、21年の終わりくらいにレーベルを探し始めたんだ。
ー バンド名の「ハート・アタック」というのは、どのようにして決めたのですか。
クリス:このバンド名に決めたのは、10年くらい前のこと。ファースト・アルバムを作るので、バンド名も決めようということになったんだ。俺たちはクイーンの大ファンで、「シアー・ハート・アタック」が大好きだった。パンクっぽい曲で。それで、クイーンへのトリビュートみたいなつもりで、バンド名を「ハート・アタック」にしたんだ。あまりスラッシュ・バンドらしくはないけれどね(笑)。
ー 今回はあなたたちの最初の2枚のアルバムも再発されるので、これらのアルバムについても教えてもらえますか。まずは13年のデビュー作、『ストップ・プリテンディング』から。
クリス:『ストップ・プリテンディング』は、DIYアルバムとでも言うべきもの。すべての楽器を家でレコーディングしたんだ。ギターもLINE6のPODを使ってね。赤いやつ(笑)。俺たちなりにベストを尽くして作った作品で、気に入っているよ。当時は若くて経験もなかったから、ラフなアルバムになっているけれど。
ー 当時はどんなバンドからインスピレーションを受けていたのでしょう。
クリス:当時は主にメタリカ、スレイヤー、エクソダス、マシーン・ヘッド、パンテラの5バンドだね。
ー 銃を持った修道女というジャケットが印象的です。
クリス:漫画が好きだったからね、ジャケットも絵にしたんだ。漫画みたいなキャラクターの。あと、タランティーノやロバート・ロドリゲスの映画からもインスピレーションを受けて、銃を持った修道女にしたんだ。英語のタイトルがわからないのだけど、ジョージ・クルーニー、タランティーノ、サルマ・ハエックが出ているやつ(訳註:フロム・ダスク・ティル・ドーン)や、『デスペラード』とか。
ー 17年のセカンド・アルバム『ザ・レジリエンス』についてはいかがでしょう。
クリス:ファースト・アルバムをリリースした後に、たくさんのショウをやったんだ。Hellfestにも出た。だから、バンドはさらにプロフェッショナルなレベルに達したと思って、フランスの南の方にある、ArtMusic Studioというところに行ってレコーディングした。サウンド、プロダクションは素晴らしいものになったよ。曲は複雑でテクニカルなものになっているし、大きなステップアップさ。
ー この作品の段階ではまだスラッシュ・メタルをプレイしていたと思いますか。
クリス:うーーん。良い質問だね(笑)。どうだろう。このあたりから、自分たちの音楽に違った要素を入れるようになってきた。『ネガティヴ・サン』ほどではないにしても、曲の書き方なんかが変わってきたよ。
ー このアルバムのアートワークも、頭が虎の人間という非常に印象深いものですが。
クリス:2016年に、フランスでいくつかの襲撃事件があったんだ。俺たちの街、ニースでもテロがあった。それでとてもポジティヴなアルバムを作ろうと思ってね。そういう事件を克服して、人生の明るい部分を楽しむような。襲われた街はジャングルのようなもので、そこを虎が生き抜いていくということさ。
ー お気に入りのアルバムを3枚教えてください。
クリス:ジェネシスの『The Lamb Lies Down on Broadway』。メタリカの『…And Justice for All』。ドリーム・シアターの『Metropolis Pt. 2: Scenes from a Memory』。
ー フランスのメタル・シーンについてどう思いますか。
クリス:フランスのシーンは素晴らしいよ。良いバンドもたくさんいるし。フランスのバンドは実験するのが好きなんだ。一つのジャンルに固執しない。スラッシュならスラッシュしかやらないとか、ブラックならブラックしかやらないとかではなくね。GojiraやCarpenter Brut、アルセストなども、一つのスタイルに固執している訳ではないよね。
ー 日本のファンへのメッセージをお願いします。
クリス:日本にみんな、アルバムを聴いてくれてありがとう。ぜひ日本でプレイしたいよ。近いうちに会えることを楽しみにしている。ありがとう。
文 川嶋未来
【CD収録曲】
- リチュアルズ
- セプティック・メロディー
- ウィングズ・オブ・ジャッジメント
- ワールド・コンサンプション
- ザ・メッセンジャー
- ツイステッド・サクリファイス
- バウンド・トゥ・ディス・ランド
- テイク・ユア・プライド・バック
- ネガティヴ・サン
- ジーザス・ヒー・ノウズ・ミー (ジェネシス カヴァー)
【メンバー】
ケヴィン・ゲイヤー(ギター/ヴォーカル)
クリストフ・イカルド(ドラムス)
クリス・チェザリ(ギター/キーボード)
ウィリアム・リベイロ(ベース/ヴォーカル)
【CD収録曲】
- ストップ・プリテンディング
- フェイス・ザ・ミュージック
- スウィート・ハンティング
- ラザルス
- レイジング・ロード
- ダウン・ザ・ウェイ
- 1902
- ウェイステッド・ジェネレーション
- スラッシュ・ユア・ネイバー
- ブラックボックス
【メンバー】
ケヴィン・ゲイヤー(ギター/ヴォーカル)
クリストフ・イカルド(ドラムス)
クリス・チェザリ(ギター/コーラス)
フローラ・カペッロ(ベース)
【ゲスト・ミュージシャン】
ショウター(ヴォーカル)[ダゴバ]
ステファン・ビュリエ(ヴォーカル)[ラウドブラスト]