オランダのシンフォニック・デス・メタル・バンド、 Haliphronがニュー・アルバムをリリース。と言うことで、ベースのジェシカとギターのイェルーンに話を聞いてみた。
ー まず、バンド結成の経緯を教えてもらえますか。IzegrimやBleeding Godsのメンバーが集まっていますが、これらのバンドとの関係はどのようなものなのでしょう。
ジェシカ:確かこのバンドを始めたのは2021年。パンデミックの真っ最中だったから、みんな家にいた。ショウもすべてキャンセルになってしまったから。Izegrimは2019年に解散していて、Bleeding Godsもあまりアクティヴには活動していなかったの。それでみんなで何か新しいことを始めようと。確かラモンが最初にみんなに連絡をして、バンドをやろうと言い出したのだったと思う。私たちはみんなお互いをよく知っていたし、長いつきあいなの。オランダのシーンはわりと小さいから。イェルーンやマルースのことは16歳の頃から知っていて、今は36歳だから、20年のつきあい。お互いよく知っていて、一緒にライヴを行って、一緒にたむろして。だけど、イェルーンとマルースとは一緒にバンドをやったことはなかった。ラモンとは一緒にBleeding Godsをやっていたけれど。それで2021年にミーティングをして、何をやれるかと。そうやって結成されたのよ。
ー 「Haliphron」というバンド名はどのような意味なのでしょう。
イェルーン:マルースが動物好きなんだよ。それで、短くて人目を引くバンド名が何かないかと話し合って、インタビューでも必ず聞かれるんだよ。これはどういう意味なのかって。実はファースト・アルバムに収録された「Unidentified Mass」という曲に基づいていて、これは深海に生息する生物のことで、シンガーのマルースが色々とリサーチしたんだ。その中に、「Haliphron Atlanticus(=カンテンダコ)」というのがいてね。このタコは、もっとも深い海に住んでいる生物の一つ。ここから取ったのさ。英語では「ハリフロン」という発音だけれど、好きに呼んでもらって構わないよ。
ー 自分たちの音楽スタイルをどのように描写しますか。
ジェシカ:シンフォニック・デス・メタルじゃないかしら。イェルーン、あなたはデス・メタルだと思う?
イェルーン:同意するよ。ギターは基本的にデス・メタルで、時々少々スラッシーなところもある。ブラッケンド・デスではないと思うよ。間違いなくもっとデス・メタル寄り。キーボードやオーケストレーションが使われていて、曲の作りは間違いなくシンフォニック。バンドが作り出そうとしている全体的な雰囲気を正しく描写するとしたら、そんな感じ。
ジェシカ:そう、そして分類するとしたら、Dimmu BorgirやCradle of Filthみたいな、そう90年代のバンドと同じ場所になると思う。おそらくSepticfleshとかも。比較するとしたらね。
ー 今いくつかのバンド名が挙がりましたが、インスピレーションを受けているアーティストはどのあたりですか。
ジェシカ:インスピレーションを受けているのは主にキーボーディストのダヴィッドで、彼がキーボードでクワイヤなどのサウンドスケープを作っているのだけれど、一番のインスピレーションはCradle of Filthだと思う。ギターに関してはどうかしら、イェルーン。もっとスラッシュっぽいと思うのだけれど。
イェルーン:ギター・パートに関しては、主にラモンが書いているのだけれど、彼は90年代〜00年代のMetallicaの大ファンなんだ。ギターだけを聴いてみると、古いMetallicaからの影響が顕著だと思う。これがキーボードに対する良いコントラストになっているんだよ。主に90年代、00年代、そして古いMetallicaからの影響さ。
ジェシカ:私たちはそれほどオールドスクールなバンドではないけれど、そういうバンドから影響を受けた上で、もっとモダンな自分たちのサウンドを作り出しているの。
ー セカンド・アルバム『Anatomy of Darkness』がリリースになります。デビュー作と比べてどのような点が進化していると言えるでしょう。
ジェシカ:同じようなところもたくさんあるし、違うところもたくさんあるけれど、一番の相違点は、今回実際にスタジオでレコーディングをしたというところ。デビュー・アルバムはパンデミック中にレコーディングされたから、多くの作業は家でした。ホーム・レコーディング、ホーム・スタジオで。今回は実際にスタジオに行って、そこですべて録音した。レコーディングに関しては、私たちはオールドスクールなの。90年代や00年代初頭のサウンドを再現するために、本物のアンプやキャビを使って。イェルーン、ギター・アンプは何を使ったんだっけ?
イェルーン:Mesa/Boogie Triaxisだよ。スペシャルなアンプ、スペシャルなマイクを使って、何度もテストをして。ファーストの時とはまったく違うやり方さ。あの時は家で録音して、それをスタジオでリアンプしたから。今回はレコーディング中から、きちんとギターのサウンドを感じられたからね。フィーリングがまったく違ったよ。それからプロデューサーが隣にいて、「もっと頑張れ、もっと頑張れ」って(笑)。素晴らしいプロセスだったよ。俺たち全員にとってね。
ー アルバム・タイトルにはどのような意味が込められているのでしょう。
ジェシカ:これはすべての人間の中にある闇を表現していると思う。それから、今回すべての曲はそれぞれ何かしらの中毒について歌っているのだけれど、それを一行で要約したものと言えるわ。
ー 今言われたように、本作ではドラッグなどの中毒について語られていますね。そこにはどのようなメッセージが込められているのでしょうか。
ジェシカ:それぞれの曲が違った中毒、依存症について歌っていて、そのうちいくつかは明白なもの。「Silent Escape」は鎮痛剤について、とか。もっと一般的でないものもある。例えば放火中毒とか。それぞれの中毒は、独自の解釈の仕方が可能。例えば鎮痛剤を使っていて、その中毒になって問題にぶち当たる一方、鎮痛剤が別のものを表現していると解釈することもできる。例えば愛であるとか、好きだけれども一緒にいられない相手とか。こういうものは、人を病ませるでしょう。歌詞を読んだ人が、自分の感情や依存をそこに見つけて、同時に解釈することができる。露骨な内容のもあるけれどね。「Art of the Blade」は自傷行為についてとか。だけれど、基本的にどれも多様な解釈が可能。読む人によって違った意味を持つのよ。それからもっとも重要なことは、彼女は自分の書く歌詞に、一切の判断を入れていないということ。そこが大切なのよ。彼女はただ観察するだけ。彼女は人間の精神というものにとても興味を持っていて、いかに中毒、依存というものが形成され、影響を与え、現れるのかを観察する。だけど、そこに判断は入らない。ただ観察をするだけなの。ただ中毒、依存というだけ。
イェルーン:そう、俺たちはいかなる審判や評決も下す立場にはいない。なぜ人は中毒になるのか?ただそれだけのこと。バンドはそこの判断は加えないんだ。
ー これはコンセプト・アルバムなのでしょうか。
ジェシカ:セミ・コンセプト・アルバムかな。一つの大きなストーリーになっている訳ではないから。だけど、すべてが中毒、依存についてというコンセプトになっていて、最後の曲はそれらの集大成。カバーも含めてね。だからある種コンセプト・アルバムだと言えるわ。
ー カバーは何を表現しているのでしょう。
ジェシカ:フードを被っているメイン・キャラクターは、もちろん暗闇を表現しているものと同時に、あらゆる種類の中毒、依存も表している。だから、これも歌詞と同じく、見た人が自由に解釈してくれれば良い。これは何か一つの中毒、依存であるかもしれないし、それに付随するたくさんの感情が集まったものかもしれない。自分をいつも追い回す黒い犬が形になったものかもしれない。とてもオープンなもの。裏ジャケには同じ人物の違う角度が描かれて、バックグラウンドではたくさんの鳥が飛び去っている。この鳥たちがとても重要なの。これは自由や平和を表現したものではなく、中毒、依存を克服すること、つまりもう中毒でないことを表している。あるいはもう少々ダークに解釈すれば、中毒が自分の一部となること、さらに悪い場合は中毒に支配されることを意味している。少なくとも私たちにはそういう意味。だけど、解釈はオープンだから、中毒、依存を克服してそれが飛び去っているという解釈でもまったく問題ないわ。
ー 元Holy Mosesのアンディ・クラッセンがミックスを手がけています。彼との仕事はいかがでしたか。
イェルーン:イカしていたよ。でも時間がなかったから、スタジオには行かなかったんだ。基本的にハンス・ピータースとエクセス・スタジオで録音したものを送って、彼がそれをミックスしてくれた。最近ほとんどのバンドがやっているように、オンラインでやりとりして、何度か修正してもらって。作業前から色々話し合っていたから、俺たちが欲しているものを完璧にわかってもらえたよ。ファースト・アルバムはサウンドが少々綺麗過ぎたから、今回はもっとアグレッシヴでパンチのある激しい音が欲しかったのだけれど、そのことをアンディと話し合う必要すらなかった。彼の方から提案してくれたんだ。こういう風にやった方がいいって。最初の瞬間から素晴らしかったよ。それにLegion of the Damnedとか、他のバンドも彼と仕事をしていたからね。アンディは有名だし、パーフェクトだったな。
ー ファースト・アルバムは去年出たばかりで、今年もうセカンドというのは、今日のスタンダードからすると非常に早いペースですよね。
ジェシカ:その通りね(笑)。
ー 非常に創造性にあふれている状況だということでしょうか。
ジェシカ:そうね、バンドを始めた頃は今より若かったから、たくさんのクリエイティヴィティあった。ファースト・アルバムでは、ラモンが設計図を書いて、それをみんなに送って、あるいはスタジオへいってみんなで意見を言って少し変えたり、それぞれの何かを付け加えたりした。とにかくラモンのモチベーションがとても高くて、特にパンデミック中は他に何もできなかったでしょう。ファースト・アルバムの『Prey』が書かれた頃には、ラモンはすでに次のアルバムの設計図が出来上がっていたのだと思う。だけど、さすがにこのペースを続けていきはしないわ(笑)。来年次のアルバムを出したりはしない。さすがにペースが速過ぎて、やっぱりもう少しじっくりアルバムごとに時間をかける必要があると思う。ライヴをやったりとか。
ー 今後のツアーなどの予定はどのような感じですか。
ジェシカ:最近Doomstarブッキングと契約したから、彼らが今色々とブッキングをやってくれている。主に来年のヨーロッパのフェスティヴァルを中心に。それが今私たちのターゲットとするオーディエンスのいるところだから。まだ詳しいことは言えないけれど、意味のある良いショウを選んでやっていこうと思っている。去年コペンヘルやブラッドストックなどでプレイしたのだけど、そういう感じでやって行きたいと思っているわ。
ー お2人のオールタイムのトップ3アルバムを教えてください。
ジェシカ:オールタイム!イェルーンはどう?
イェルーン:これは準備していないと難しいな(笑)。
ジェシカ:私は一つあるわ。これはまったく個人的な好みだけれど、イギリスのAnaal Nathrakh。エクストリーム・メタル・バンド。アルバムは『The Whole of the Law』。これは間違いなく私のトップ3に入る。2017年か18年頃の作品だから、オールタイムと言えるかわからないけれど。
イェルーン:今どんなものを聴いているかをチェックしているのだけれど、そう、Nevermore。彼らは間違いなく俺のお気に入りのバンドさ。それからMetallicaの『Kill ‘Em All』は入れないと。3枚目は何だろう。
ジェシカ:Dimmu Borgirも入れないと。何か古めのアルバム、『Enthrone Darkness Triumphant』とか。あとは、Death?『Symbolic』あたりかしら。私はデス・メタルが大好きだし。ラモンがここにいたら全部Metallicaって言いそう(笑)。
イェルーン:俺はMetallicaの『Kill ‘Em All』、Nevermoreの『Dead Heart in a Dead World』、3枚目は困ったな。
ジェシカ:私たちのチョイスを合体したら(笑)?2人の好みはだいぶ違うけれど。
イェルーン:そうなんだよ。そうだ、Entombed。『Left Hand Path』は入れないと。
ジェシカ:Septicfleshの「Anubis」も入れたかった。
イェルーン:あれもいいけれどね。俺はEntombedだな。
ー では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
イェルーン:ワオ、日本のファンにメッセージを出すのは初めてのことだな。俺にとってとても重要なことだよ。
ジェシカ:日本盤が出るのはとても光栄なことだし、日本のファンにありがとうと言いたい。とても素晴らしいわ。オランダにはたくさんのイカしたバンドがいるから、ぜひ色々とチェックしてみて。さまざまなジャンルにたくさんの良いバンドがいるから。
イェルーン:俺たちは長い間この世界にいるけれど、日本ファンへのメッセージを求められるなんて、本当に光栄なことだよ。本当にどうもありがとう。