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ギエルモ・イスキエルド
(アンジェラス・アパトリーダ)
独占インタビュー

アルバムをバンド名にすることで
新たなスタートという意味を持たせたかったんだ
ちょうど20周年だから
アルバムをバンド名にするのも良いと思ったし

                                   

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文:川嶋未来 Photo by Fernando Morales

ー ニュー・アルバム『アンジェラス・アパトリーダ』がリリースになります。過去の作品と比べて、どのような点が進化していると言えるでしょう。

 

 

ギレルモ:俺たちはアルバムを出すたびに進歩をしてきたけれど、今回のアルバムは、世界的なパンデミックの中で曲を書き、プロデュースし、レコーディングをした。特にここスペインでは状況はとても悪かったからね。今回は、完全にアルバム作りに集中することができた。何しろツアーなどが全部キャンセルになったから。パンデミックの第一波の最中は、状況もフィーリングも良くなかった。そんな中で作ったアルバムなんだ。だから、これまでで一番アグレッシヴでエネルギッシュでパワフルなアルバムになっていると言えるよ。聴いてもらえればわかると思う。

 

― 今回なぜバンド名をアルバム・タイトルにしたのですか。

 

ギレルモ:多くのバンドがバンド名を冠したアルバムを出しているけれど、俺たちとしては、さっきも言ったように2020年は難しい年であったと同時に、バンド結成20周年でもあった。20年前、まだ子供だった頃にバンドを始めたんだ。今回のアルバムではいくつかの変化もあった。例えば、初めてチューニングを変えた。(EbからDへ)半音下げることで、さらにビッグなサウンドになったと思う。去年は色んなことがあって、色んなフィーリングを感じたからね。アルバムをバンド名にすることで、新たなスタートという意味を持たせたかったんだ。ちょうど20周年だから、アルバムをバンド名にするのも良いと思ったし。一方、これが新しいファンにとって、良いプレゼンテーションになるとも思った。これが今俺たちのやっていること。それに、俺たちのバンド名は、発音が難しかったり、特に「アパトリーダ」というのが覚えにくいからね。アルバム名も同じにすることで、よりファンに覚えてもらえるんじゃないかな。

 

ー バンド名はどのような意味なのでしょう。スペイン語なのですか。

 

ギレルモ:スペイン語だけれど、同時にラテン語でもある。スペイン語はラテン語系の言語だからね。「アンジェルース」というのはラテン語で「天使」。「アパトリーダ」というのはラテン語とスペイン語共通で、おそらくポルトガル語やイタリア語、フランス語なんかも同じなんじゃないかな、「国を持たない」というような意味。「Patriotic」(=愛国心の強い)という単語があるよね。その中に「Patria」という言葉が入っているけれど、そこに「a」がついて、「Patrioticではない」ということになる。もちろん政治的な意味は何もなくて、単に国を持たずに生まれたというだけ、「国を持たない天使」という意味なんだ。

 

ー バンド名にはどのような意味が込められているのでしょう。

 

ギレルモ:良い質問だね。俺たちはまだまだ子供だったからさ(笑)。というのは冗談で、正直なところ、結成したばかりの頃は、しばらくバンド名がなかったんだ。リハーサル・ルームでただお気に入りの曲を演奏していただけで。そのうちライヴに誘われるようになったり、コンテストにも出るようになったのだけど、そうなると当然バンド名も聞かれる。だけどバンド名は無くて、だからバンド名は最後に決まったようなものなんだ。結局初代のドラマー、俺の兄貴なのだけど、彼がこの名前を考えた。クールなロゴと一緒にね。「イマイチ気に入らないけれど、とりあえずこれで行こう。あとで変えればいいや」みたいな感じで。で、結局20年経った今も変えてない(笑)。正直これが良いバンド名だとは一度も思ったことはないのだけど、何というか、もう慣れてしまったし。

 

 

 

― 今回のアルバムの歌詞は、どのような内容ですか。

 

ギレルモ:俺たちの曲は、たいてい社会問題について歌っている。俺が経験したこと、友人やガールフレンド、家族に起こったこと、君や世界中の誰にでも起こりうること。特に今回は、昨年の経験に基づいたメッセージがたくさんある。テレビで見たり新聞で読んだパンデミックのシチュエーション。スペインやヨーロッパのこと、アメリカでの暴動。ここスペインでも暴動はたびたび起こっている。だから今回、すべての曲はメッセージに満ちていて、俺たちが経験した、というかいまだにパンデミックは終わっていないから、経験していると言うべきかな、社会問題というのは誰にでも関係すること。気に入らないこと、人権を守ること、不寛容、不正とかね。

 

― 「エンパイア・オブ・シェイム」という曲が興味深かったです。これはあなたの母国、スペインのかつての蛮行を歌っていますよね。

 

ギレルモ:その通りだよ。スペインという俺の母国には、たくさんのダークな黒歴史がたくさんある。この曲は、南米、ラテンアメリカでの出来事で、白人たちが約束の地にやって来て、人々を奴隷にし、キリスト教化しようとし、自分たちのルールを強要した。アイアン・メイデンの「Run to the Hills」も同じような内容だよね。こちらはイギリスの人々が北米でやったことだけれど。アメリカ発見の後ろにある暗い歴史だよ。スペイン帝国のね。これは歴史の話で、現在のスペインに直接関係あることではないのだけれど。今生きている人たちがそのことで罪を問われるわけではないけれどね。

 

ー アートワークは何を表しているのですか。

 

ギレルモ:これはハンガリーのGyula Havancsákの手によるもので、彼は以前の2枚のアルバムのアートワークも手がけている。これは彼のアイデアによるものなんだ。机の上に色々な武器が乗っていて、誰かが革命を起こそうと何かを画策している部屋みたいな感じ。そういう内容の歌詞があるからね。バンド名の頭文字をとった「A」が二つ重なっているシンボルが、アナーキストのマークみたいでクールさ。パンク・ムーヴメントを思い出させる。これはあくまで彼のアイデアで描かれたアートワークで、特に俺たちからのメッセージや隠された意図みたいなものはないよ(笑)。俺たちは平和な人間だし、戦争とかは嫌いだからね(笑)。これはヘヴィメタル、スラッシュ・メタルなアルバムで、爆弾のようにアグレッシヴだし。とてもクールなアートだと思う。

 

 

― 今回初めてミックス、マスタリングにクリストファー・“ゼウス”・ハリスを起用していますね

 

ギレルモ:前作までは、ポルトガルの友人、Daniel Cardosoに頼んでいたのだけれど、今回はさっきも言ったようにチューニングであるとか、音楽的にいくつか変わったところがあったからね。サウンドの面でも変化、新しいことをする時だと思ったんだ。Daniel Cardosoがダメだという意味ではもちろんなく、彼はとてもプロフェッショナルで素晴らしい友人さ。ただ新しい年にしたかったんだ。新しいことをやりたかったということ。ゼウスが手がけた作品、ヴィジョン・オブ・ディスオーダー、オーヴァーキル、ロブ・ゾンビ、ヘイトブリードとか、すべてが好きだったから、彼にコンタクトしたんだ。曲を聴かせたら気に入ってくれてね。テスト・ミックスもとてもうまく行って。今回はもっとオーガニックでナチュラルで、オールドスクールなサウンドで、かつ同時にエネルギッシュでパワフルなサウンドが欲しかったから、とてもハッピーだよ。レコーディング自体は地元でホアナン・ロペスがやってくれて、彼がとても素晴らしい仕事をしてくれたから、ゼウスもミックス、マスタリングを簡単に仕上げられた。彼ら2人のおかげでとても良い結果になったよ。これからもこの2人と一緒にやっていきたいと思っているよ。

 

ー チューニングを変えたのは何故なのでしょう。20年後に変えるというのもわりと珍しいと思うのですが。

 

ギレルモ:そうだね、でも20年間ずっと同じチューニングでやり続けるのも珍しいと思うよ(笑)。俺たちは様々なバンドのカバーをやるのが好きで、色々とやってきてけれど、ギタリストによって当然チューニングは異なる。結局退屈していたのだと思うよ。それで、パンデミックの最初の一ヶ月、古い曲を違うチューニングでプレイしていたんだ。たった半音下げただけで、劇的な変化を感じた。今回のアルバムの曲を作って、デモを録音した時はいつものチューニングだったのだけど、半音下げたらサウンドがとてもビッグ、パワフルになってね。それでもう1人のギタリスト、デイヴィッドに電話をかけて、「新曲を半音下げて弾いてみて、どう思うか教えてくれ」と言ったら、「ワオ、これはいい。同じ曲、同じリフにもかかわらず、とてもビッグなサウンドでまったく違う」と。そして俺もヴォーカルのアイデアなどが次々と湧いてきてね。結果にはとても満足しているよ。過去の曲については、ライヴでどうするかはまだ決めていないけれど、次のアルバムのチューニングも今回同様にすることは間違いない。とても心地よいからね。このチューニングですでに新しいリフのアイデアも湧いてきているし、チューニングを変えて良かったよ。

 

 

ー アンジェラス・アパトリーダに影響を与えたバンドを5つ挙げるとしたら、どうなりますか。

 

ギレルモ:もちろんアイアン・メイデン。それからパンテラ、メガデス、おそらくスレイヤー。あとはブラック・サバス。

 

ー ヘヴィメタルを聴き始めたきっかけは何だったのでしょう。

 

ギレルモ:2人の兄貴のおかげなんだ。俺が7− 8歳の頃、彼がヘヴィメタルを聴き始めてね。1人で家にいた時に、アイアン・メイデンの『Live after Death』のビデオを見たんだ。8歳の時だった。それで「何だこれは!こんな凄いものは見たことがない」と思ってね。その瞬間からロックやヘヴィメタルが大好きになって、もちろんアイアン・メイデンが一番のお気に入りだった。兄貴にこういうのを聴いていると言ったら、最初は「子供が聴くものじゃない」なんて少し怒っていたのだけれど、結局色々なテープとかを貸してくれるようになった。12歳の頃にはすでにギターを弾いていて、ちょうどその頃デイヴィットやヴィクトルにも会ったんだ。その頃にはすでにギターも弾けて、4年間もヘヴィメタルを聴いていたらからたくさんのバンドも知っていた。そうやってバンドが始まったんだ。ずっと昔にね(笑)。

 

― 自分たちをスラッシュ・メタル・バンドだと考えていますか。

 

ギレルモ:ピュアなスラッシュ・メタル・バンドだとは思わない。だけど、今ピュアなスラッシュ・メタルをやっているバンドなんていないよね。スラッシュ・メタルは様々な方向へと進化してきているから、80年代、特に86年当時のスラッシュ・メタルとは違うものになっていると思う。個人的には、アンジェラス・パトリアーダはヘヴィメタル・バンドだという方が好き。まあそもそも色々とカテゴライズするのは好きではないのだけど。結局はどれもヘヴィメタルであるわけだし。もちろん俺たちはパンクやハードコアからも大きな影響を受けていて、スラッシュ・メタルからの影響も大きい。俺が聴いて育って来た、特にベイエリアのバンド。なので、俺たちはスラッシュ・メタル・バンドなのだろうけれど、俺たちはヘヴィメタルをプレイしているというのが好きだし、俺たちはヘヴィメタルを愛しているんだよ。

 

ー パンク、ハードコアはどのあたりがお好きなのでしょう。

 

ギレルモ:いっぱいあるよ。さまざまなシーンのバンドが好きで、例えばニューヨーク・ハードコアだとアグノスティック・フロント、シック・オブ・イット・オール、マッドボールとか。メロディックなパンクだとNOFX、ペニーワイズとか、10代の頃に聴いていたやつ。今でも大好きだよ。バイオハザードからの影響も大きい。スペインには大きなパンクのシーンがある。特に北部でね。ほとんどのバンドはスペイン語で歌っているのだけど。子供の頃はそういったバンドから大きな影響を受けていて、特に好きだったのが、彼らはパンクというよりクロスオーバーなのだけど、Soziedad Alkoholika。彼らは本当に素晴らしいよ。80年代終わりからやっていて、最初の3枚は名盤。特に歌詞の面で大きな影響を受けていて、音楽的にはとてもラフでロウ。今は彼らを友人と呼べる仲になれて、とても良かったよ。

 

ー パンクを聴くようになったのは、メタルの後ですか。

 

ギレルモ:いや、ほとんど同時だった。子供の頃は、アイアン・メイデン、セパルトゥラ、ニルヴァーナ、グリーン・デイ、バイオハザード、ヴァイオレンス、クリエイターなんかのテープを持っていたけれど、俺にとってはどれも同じで、みんなギターが入っていて長髪で、だからすべてがヘヴィメタルだと思っていたんだ(笑)。ジューダス・プリーストやアイアン・メイデンを聴いたと思ったら、バイオハザードやセパルトゥラ、NOFXなんかを聴いて、なんてやっていたからね。今も変わらないよ。メタルだけでなく、ロックも毎日色々聴いている。

 

― 影響を受けたシンガーは誰でしょう。

 

ギレルモ:それは難しいな。というのは、俺はヴォーカリストになりたいなんて一度も思ったことがなかったんだよ。やむをえず歌うようになったのさ。最初はシンガーがいたんだ。ハイトーンの普通のヘヴィメタルのヴォーカリストで、俺はギターだけをプレイしていた。ところが、彼が勉強や他に色々と興味があることが出て来たので、バンドを辞めてしまい、そのまましばらくやっていたのだけど、ある日他のメンバーが「君が歌ってみては?」と言い出した。俺は「いや、俺は歌うのは好きじゃないんだ」と断ったのだけど、とりあえず試してみろということで、メガデスのカバーなんかを歌ったりして。とても居心地が悪くて、まったく気に入らなかった。03年にライヴをやる機会があって、とりあえずそこで試しに歌ってみるということになって、今日に至るという訳さ(笑)。一度もシンガーであることを気に入ったことはないのだけれど(笑)。だから、影響を受けたシンガーというのは難しいのだけど、お気に入りということであれば、もちろんブルース・ディッキンソン、それからロニー・ジェイムズ・ディオ。デイヴ・ムステインも好きだな。特にファーストでの歌い方。もっとエクストリームなものであれば、マックス・カヴァレラ。マックスがいた時のセパルトゥラは特に好きなんだ。フィル・アンセルモやマシーンヘッドのロブ・フリンも好き。

 

 

 

ー スペインのメタル・シーンはいかがですか。

 

ギレルモ:最近のスペインのシーンは非常に大きくて強力になっている。多くの人は、スペインはメタルにとってベストな場所だとは思っていないだろうけれど、実のところスペインにやって来たバンドはみな、ぜひまた戻って来たいと言うんだよ。ただ、多くのバンドがスペイン語で歌っているので、どちらかというと国内で盛り上がっているという感じなのだけれど、そういうバンドはスペインやラテンアメリカで大きな人気がある。世界中をツアーし、センチュリー・メディアのようなレーベルと契約をしたのは、俺たちが最初。最近は、俺たちに続くバンドも出て来ている。さっき言ったSoziedad Alkoholikaなども素晴らしいし、友人のスラッシュ・メタル・バンド、クリシックスも本当にクールなバンドだよ。夏にはメジャーなメタル・フェスティヴァルが10から12もあるしね。どれも有名なバンドが出る本当に大きなフェスティヴァルで、その殆どがソールドアウトになるんだ。スペインのメタル・シーンは、今最盛期を迎えていると思う。スペインではフランコのような独裁政権があったせいで、すべてが遅れているからね。音楽、映画なども遅れてやって来た。スペインにも素晴らしいバンドがたくさんいて、今後さらに盛り上がっていくと思うよ。

 

― お気に入りのアルバムを3枚教えてください。

 

ギレルモ:ワオ、難しいな。3枚だけか。そうだな、アイアン・メイデンの『Somewhere in Time』。あとは、難しいな、パンテラの『Vulgar Display of Power』。それからセパルトゥラの『Chaos A.D.』。

 

― 来日経験もありますが、最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。

 

ギレルモ:日本には2度行ったけれど、どちらも本当に素晴らしかった。多くのバンドが言うかもしれないけれど、俺たちにとっても日本はとても重要な国で、行くたびにとても穏やかな気持ちになる。ストレスもないし、とてもハッピーになれる。早くまた日本に行きたいよ。ニュー・アルバムが日本でリリースされるのも嬉しいし、可能な限り早くまた日本に行きたいね。日本という国、日本人、みんな大好き。俺たちを穏やかで心地よく、ハッピーな気持ちにさせてくれるから。Stay safe。Twitterや俺たちのSNSをフォローしてくれると嬉しいな。

 

文 川嶋未来

 


 

 

 

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2021年3月5日発売

アンジェラス・アパトリーダ

『アンジェラス・アパトリーダ』

サインカード付CD

CD

【CD収録曲】

  1. インドクトリネート
  2. ブリード・ザ・クラウン
  3. ジ・エイジ・オブ・ディスインフォメーション
  4. ライズ・オア・フォール
  5. チャイルドフッズ・エンド
  6. ディスポーザブル・リバティー
  7. ウィ・スタンド・アローン
  8. スルー・ザ・グラス
  9. エンパイア・オブ・シェイム
  10. イントゥ・ザ・ウェル
  11. アンチクライスト(ライヴ)(スレイヤー カヴァー) ※日本盤限定ボーナストラック

 

【メンバー】
ギエルモ・イスキエルド(ヴォーカル、リード/リズムギター)
デイヴィッド・G・アルヴァレズ(リード/リズムギター)
ホセ・J・イスキエルド(ベース)
ヴィクトル・ヴァレラ(ドラムス)