あのマックス・カヴァレラとその息子、イゴール・アマデウス・カヴァレラによるデス・メタル・ミーツ・クラストパンク・バンド、Go Ahead And Dieがニュー・アルバムをリリース!と言うことで、イゴールに色々と話を聞いてみた。
ー ニュー・アルバム『Unhealthy Mechanisms』がリリースになります。デビュー・アルバムと比べ、どのような点が変化、進化していると言えるでしょう。
イゴール:今回のアルバムでは、本当にGo Ahead And Dieのサウンドを洗練させたと言える。クラスト・パンクとデス・メタルのパーフェクトなミックスさ。ファースト・アルバムのサウンドをベースにしつつ、俺たちのヴォーカルを可能な限り推し進め、新しい領域に突入させたよ。曲構成も良くなっているし、仕上がりも激しいものになった。リアルなフィーリング、本物のアグレッションが聴けると思う。デビュー作もとても良い作品だったけれど、今回テーマを広げて、画期的な演奏ができたと思う。バンドとしてのユニークなサウンドを、より強固なものにできたよ。
ー クラスト・パンク、デス・メタルというと、具体的にはどのあたりのバンドでしょう。
イゴール:まずデス・メタル側から行くと、間違いなくEntombed等のスウェーデンのバンド。チェインソーみたいなギター・サウンドの、Entombed、Dismemberとか、ヨーロッパのデス・メタル。クラスト・パンクからの影響はとても大きくて、と言うのも、俺はメタルより先にパンクにハマったんだ。子供の頃スケートボードもやっていたから。DischargeやDoom、それからスカンジナヴィアのバンド、Totalitärや、Terveet Kädet、Kaaosとか。子供の頃、こういうバンドからの影響はとても大きくて、これらがデス・メタルへとハマるきっかけにもなったんだ。Entombedや、あるいはObituaryみいなフロリダのバンドも、D-Beatを取り入れているからね。この2つのジャンルをミックスしたかったのさ。今、ハードコア、特にニューヨークのハードコアとデス・メタルをミックスするのが流行っているけれど、俺たちは少々違うことがやりたかった。デス・メタルだけれどD-Beatがあって、歌詞は政治的、社会的。2つのお気に入りのジャンルを混ぜ合わせるのは、とても楽しいよ。個人的にとてもうまくやっていると思う。
ー 90年代のスウェーデンのデス・メタル・バンドの多くは、もともとクラストをやっていたりしましたし、2つのジャンルは相性が良いのでしょうね。
イゴール:その通りさ。初期のデス・メタル・バンドの多くは、D-Beatから大きな影響を受けていた。特にDischarge。いつの時代でも、ほとんどのメタル・バンドはDischargeから影響を受けているだろうけれど。アイデアとしては奇抜かもしれないけれど、俺たちはうまくミックスしていると思うよ。アルバム全体が、この2つのジャンルのブレンドさ。どちらかが過剰になることはなく、良いバランスを保っているよ。
ー 今回のアルバムで、デビュー作になかった要素はありますか。
イゴール:もちろん。いくつか実験的なパートがある。リフもなく、ただノイズを撒き散らしただけの、ほとんどサイケデリックなパートとか、ノイズが圧倒するパートとかね。サンプルやイントロも多く入れたし。「M.D.A.(モスト・デンジャラス・アニマル)」では、『Henry: Portrait of a Serial Killer』の台詞を入れた。アルバムの最初から最後まで、ブレイクがほぼないような作品にしたんだ。どんどんと曲がつながっていって、過去にこういうアルバムは作ったことがなかった。リフにも奇妙なもの、不協和音を使ったし、ヴォーカルに関しても限界までやったよ。動物みたいなヴォーカルにしたくて(笑)。親父にも「もっと荒々しく歌えるはず。もうちょっと頑張って」なんて言って(笑)。デス・メタル・ミーツ・クラストというアイデアは、ファースト・アルバムと同じだけれど、その上でいくつか新しいことを試したのさ。仕上がりにはとても満足しているよ。ファーストよりも出来が良くて、もう少々洗練されていて、プロダクションも改善している。
ー 歌詞の面についてもお聞きしたいのですが、今話に出た「M.D.A.(モスト・デンジャラス・アニマル)」は、連続殺人鬼についてなのですね。
イゴール:そう。アルバムの中心となるテーマはメンタル・ヘルス。心がたどり着く最悪の状況というのは、殺人さ。ヘンリー(リー・ルーカス)みたいに女性をレイプして殺すみたいな奴は、それこそ「Most Dangerous Animal」であり、地球上で最も危険な動物というのは人間たりえるということ。こういう犯罪を犯す人間の精神というのは、病んでいて不吉なもの。こういうトピックは、アルバムのテーマにピッタリだと思ったんだ。
ー 「デザート・カーネイジ」はどのような内容ですか。
イゴール:俺はもともとアリゾナ出身。アリゾナで生まれ育ったのだけど、メキシコと国境を接しているから、ドラッグを始め、たくさんの犯罪が行われているところなんだ。カルテルの殺人とか、警官が殺されたりとか。ドラッグも製造されていて、国境付近はとてもヴァイオレントで危険なのさ。あの曲は、俺たちの出身地を歌っている。あまりに隔離されていて、誰も何が起こっているかを知らない砂漠。街の外に出ると、何百マイルも何もない荒地になっていて、そこでは恐ろしいことがたくさん起こっている。一方で、これはメンタル・ヘルスとのダブル・ミーニングにもなっている。砂漠は荒地であり、そこに住むのは容易ではない。暑いし環境も過酷だから、精神も影響がある。アリゾナでの暴力的な出来事は、その結果のライフスタイル、マインドセットなのさ。
ー 「スプリット・スカルプ」はいかがでしょう。
イゴール:あの曲は、統合失調症について。脳の中に、2人の人間が存在するという狂気。’scalp(頭皮)’を’split(分ける)’するというのは、脳の半分が1人で、もう半分が別の人間ということさ。とても良い曲で、歌詞としては狂気を扱っているんだ。拘束衣とか、クッション壁の病室とか。いかに精神がめちゃくちゃになって、2人の人格が生まれるかという内容さ。
ー 「サイバー・スレイヴァリー」では、SNSの問題が取り上げられています。
イゴール:携帯やパソコンの奴隷になってしまっている人間がいるよね。これは自分自身のイメージと関係がある。インターネットを見ると、みんなが素晴らしいことをやっているように見える。どういうルックスであるべきかというスタンダードがあったり、偽の現実感覚を与えられてしまうんだ。俺たちはみんなある意味デジタルの奴隷になりつつある。自分たちのイメージ、インターネットに何を投稿するかという鎖に繋がれて、プライバシーが欠如してきている。もちろんSNSにも、世界中の人と繋がれる、世界中の音楽やアート、映画を見つけられるといった良い点もある。だけど、間違った使い方をすると、こういうルックスでなければいけないんだ、みたいな観念に取り憑かれてしまうのさ。メンタル・ヘルスの問題は、SNSと大きな関わりを持っていると思うんだ。不安や鬱を抱える人の数が増えているだろう?しばらく携帯から離れてみるのも良いことさ。
ー タイトル・トラックは、ドラッグについて歌われているようです。これは利益ばかりを追求する大手製薬会社やアメリカにおけるオピオイド禍についてなのか、それとも一般的なドラッグ中毒についてなのか、どちらなのでしょう。
イゴール:すべてについてさ。大手製薬会社、ドラッグの乱用、そしてとくにアメリカで問題になっているフェンタニル。フェンタニルのせいで命を落としたミュージシャンも多い。中毒で苦しんでいる人たちがいて、中毒はしばしば被害妄想や孤立、最悪の場合は死をもたらす。死、自殺、あるいは刑務所行きなんていうことになる。親父も俺自身も、人生の中でドラッグ中毒に対処しなくてはならなかった。この曲は個人的な内容でもあり、亡くなってしまった友人たちへの頌歌でもあるんだ。現在中毒と戦っている人たちに、君たちは1人じゃない、そこから抜け出せるというメッセージでもある。
ー あなた自身のドラッグ経験について、もう少し詳しく教えてもらえますか。
イゴール:俺はサイケデリックなドラッグや、コカインもやっていた。親父もさんざんやっていたからね。彼はもう15年間シラフだけれど。彼はラッキーだよ。ドラッグの乱用に関しては、相当だったから。
ー 現在のあなたのドラッグに関する見解はどのようなものですか。
イゴール:今でもマリファナは少々吸う。個人的には自然に生えるものは大きな問題はないと思っているよ。だけど、ハードドラッグは危険だ。コカインやMDMA、ヘロインなんかの中毒になると、対処するのが本当に大変なのさ。俺もこれらのドラッグをやめるのに、数年かかった。中毒というのは病気みたいなもの。中毒者たちが悪い人間ということじゃないんだ。自分たちで進んで中毒になったというのではなく、このクレイジーなライフスタイルのせいで中毒になってしまったのだと思う。現代のライフスタイルに耐えられなくてね。個人的な経験から言うと、脳が中毒になってしまうと、身体的にも中毒になってしまう。そうなってしまうと、他人の助けが必要になる。俺はドラッグをやっている人を、糾弾しようとは思わないし、俺が彼らよりも優れていてるとも思わない。俺は今でもマリファナを吸うけれど、ハードドラッグは何としてもやめるべきだ。命に関わることだし、家族、友人、君を大切に思っている人たちから君を切り離し、人生を台無しにしてしまうから。
ー アートワークもメンタル・ヘルスというテーマを表現しているのでしょうか。
イゴール:そう、顔のない人物は、鬱、不安、そして恐怖に苛まれている人を表現している。空虚に向かって伸びている手は俺たちの感情で、ハンマーは俺たちを引き裂き壊してしまう自分たちの感情を表しているんだ。
ー 今回ドラマーが交代しています。
イゴール:これは主にスケジュールの問題さ。オリジナルのドラマーが、今回はスケジュールが合わなかったので、親友の1人、ジョニー・ヴァレスに頼んだんだ。バッチリ叩いてくれたよ。非常にソリッドなブラスト、そしてD-Beatも。素晴らしい仕事をしてくれて、とてもビッグなサウンドになった。
ー Go Ahead And Dieは今まで一度だけライヴをやっていますよね。
イゴール:そう、まだ一度だけなんだ。俺も他のバンドをやっているし、親父もSoulflyやCavalera Conspiracyがあるし、そもそもGo Ahead And Dieが結成されたのは、パンデミック中だったから。でも、来年にはニュー・アルバムをサポートする長いツアーを計画しているよ。できれば南米やヨーロッパ、日本、オーストラリアにも行きたい。
ー その一回のショウはいかがでした。
イゴール:とても良かったと思うよ。ファースト・アルバムの曲をすべて演奏して。フェニックスのホームタウンでやったから、たくさんの友達や家族が来てくれて。あまりリハーサルをやる時間もなったのだけれど、とてもうまく行った。早くまたやりたいよ。Go Ahead And Dieの曲は、とても演奏していて楽しいんだ。ライヴでは、さらにアグレッシヴに、アルバムよりもさらに少々速く演奏するよ。アルバムでも十分速いんだけど、もう一押しするんだ。
ー では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
イゴール:日本のみんな、ぜひアルバムをチェックして、どう思ったかを教えてくれ。そうそう、バンド名をGo Ahead And Dieとしたのも、日本のおかげなんだよ。世界の色々な言語で”Go f**k yourself”を何て言うのか調べていたら、日本語のが”Go Ahead And Die”だったんだ。翻訳アプリに”Go f**k yourself”って入れて、他の言語に翻訳して、それをまた英語に戻してって。ロシア語やスペイン語なんかも試して、日本語バージョンを英訳したら、”Go ahead and die”って出てきた。クールだと思ってね。即座にそれに決めたんだ。G.A.A.D.っていう言い方もよくしている。とてもパンクっぽいだろ?G.B.H.とか、MDCとか。とにかく日本に行って、ライヴもやりたい。ぜひミュージック・ビデオも見て欲しいな。
文 川嶋未来
【CD収録曲】
- デザート・カーネイジ
- スプリット・スカルプ
- テューモアズ
- ドラッグ-オー-コップ
- ノー・イージー・ウェイ・アウト
- M.D.A.(モスト・デンジャラス・アニマル)
- キャズム
- サイバー・スレイヴァリー
- ブラスト・ゾーン
- アンヘルシー・メカニズムス
【メンバー】
マックス・カヴァレラ (ヴォーカル/ギター)
イゴール・アマデウス・カヴァレラ (ヴォーカル/ギター/ベース)
ジョニー・ヴァレス (ドラムス)