イタリアのシンフォニック・テクニカル・デス・メタル・バンド、Fleshgod Apocalypseがニュー・アルバム『Opera』をリリース!ということで、バンドのブレインであるフランチェスコ・パオリに話を聞いてみた。
ー ニュー・アルバム『Opera』がリリースになります。過去の作品と比べ、どのようなアルバムになっていると言えるでしょう。
フランチェスコ:一番大きな変化は歌詞の内容だと思う。以前は、もちろん例外はあったけれど、自分たちの人生というものを探究する内容ではなかった。「Sugar」みたいな例外はあったにせよ、たいていは他人の行動や感情、経験について歌ってきた。これらを第三者の視点から分析していたんだ。今回は違う。事故を経験して、今回は自分の感情を、自分の経験通して語りたいと思ったのさ。その結果、とてもパーソナルな内容になった。伝記みたいな感じでね。オペラという形態にしたから、詩的な書き方にはなっているけれど。そこが出発点になって、その後は非常に簡単だった。このコンセプトが決まったら、曲作りやアルバムのアイデアが素早く固まっていった。すべてがクリアだった。過去のアルバムに比べてね。トピックの変更が、バンドとしての音楽へのアプローチの仕方も変えたんだ。トピックの変化が、アルバム全体の雰囲気も過去と違うものにしたんじゃないかな。アルバム全体が繋がっていると言うのかな。『Veleno』よりも『King』に近いアルバムになっていると思う。
ー つまりこれはコンセプト・アルバムということですね。
フランチェスコ:間違いなくそう。
ー テーマはどのようなものなのですか。
フランチェスコ:2年前に山登りをしていて酷い事故に遭ってね。山や自然、冒険なども俺が情熱を傾けているものなんだ。長いこと山登りはやっていて、幸いそれまでは事故に遭ったことはなかった。もちろんリスクがあることは承知だったのだけれど、それも人生の一部だからね。そしてついに事故に遭ってしまい、結構酷い状況だったんだ。回復のプロセスも、長く大変なものだった。何回も手術をして、長い間病院で過ごした。左手の状態も良くなくて、音楽を諦めなくてはいけないという可能性すらあった。さまざまな感情や不快なことが渦巻いていたよ。その感情を音楽に込めるという実験をしようと思ったんだ。最初はキツかった。自分のことを歌詞に書いたことがなかったから、やってみるとあまり心地よいものではなくてね。恥ずべきこととか、告白したくないようなことってあるだろう?誰にでも秘密はある。回復のプロセスで俺が感じた不快感を人々に共有すること。最初はそういう選択をしたのだけれど、やってみると気持ちが軽くなった。山登り、そして事故、回復というのをストーリーとしてオペラ仕立てにした。幕、会話や告白があって、シアトリカルなオペラ。俺が主役で、ヴェロニカがいくつかの役を演じている。俺がそのプロセスを通り抜けていく中で、彼女が演じるメタファーとしての色々なものに遭遇するんだ。だから、アルバムタイトルもそのまま『Opera』にした。劇場に行って見る作品みたいな感じさ。「I Can Never Die」がプロローグになっていて、ストーリー全体を説明している。その後、曲がそれぞれ一幕となっていて、色々なものに遭遇していく。さすがに喋りすぎかな(笑)。
ー いえ、そんなことはありません。ところで、アルバム・タイトルは常に1単語ですよね。
フランチェスコ:もはやそれが伝統なんだ(笑)。Fleshgodにはいくつか豆知識みたいのがあって、ファースト・アルバムで何かやって、それがアルバムが進むごとに義務みたいになっていったもの(笑)。その一つがアルバム・タイトルは1単語。それからタイトル・トラックは、必ず最後に入っているピアノの曲。これまでに6枚のアルバムと1枚のEPを出しているけれど、すべて最後にタイトル・トラックのピアノの曲が入っている。何と言ったらいいのかな、こういうのは験担ぎみたいなものかも(笑)。これまでこうやって来てうまく行っているからね。とりあえず変えたくないんだ(笑)。
ー 20年にオフィシャル・メンバーを一気に増やしていますが、何か理由があったのですか。
フランチェスコ:ヴェロニカとファビオはずっと一緒にやって来たから。特にヴェロニカ。初期の頃の5人編成は、17年まで続いた。と言うか16年の終わりかな。ヴェロニカは『Agony』(11年)からヴォーカルで勤めていて、確か13年からツアーにも参加している。つまりもう10年以上さ。俺たちはただ正式メンバーにするタイミングを待っていたと言うのかな。17年にクリスティアーノとトミーがバンドを去って、その後は残った3人だけを正式メンバーとしていた。17年に俺がヴォーカルに戻って、友人に数ヶ月ドラムを頼もうと思ったのだけれど、結局彼は数年バンドにいて、その後コロナの直前の19年にユージンがバンドに加入した。なので、そのタイミングでヴェロニカもファビオも正式メンバーにしようと。ファビオは16年から参加していたからね。
ー アルバムのアートワークは何を表しているのですか。
フランチェスコ:ちょうどアートワークのメイキングを公開したところなのだけど、あれは基本的にヴェロニカのポートレイト。彼女の写真を元に描かれた絵。写真はフランチェスコ・エスポーシトというアーティストによるもの。絵はフェリシタ・フィオリーニというアーティストが描いた。パステルアートの第一人者なんだ。ヴェロニカは音楽を表している。世界は芸術的に、そして芸術的にでなくとも瀕死状態。音楽は神性であり、衰退していく世界からの唯一の逃避。ヴェロニカは音楽、そしてイタリアの遺産を表現していて、だから彼女はイタリア国旗を持っているんだ。彼女は頭蓋骨や骨の上に立っているだろう?つまり彼女の周囲は衰退、現在の世界の破滅的状況を表している。最近はアートワークにAIを使うアーティストも少なくないだろう?さまざまなアーティスト同士のコラボレーションが減っている。理由はたくさんある。新しいバンドなどは、アートワークに投資したくないということもあるだろうけれど、お金だけではない。あらゆることが素早く進んでいて、新しいコンテンツ、新しいアートワークなどを次々と提示しなくてはならない。AIなら5分もあれば、そこそこのものが作れるよね。人に頼んだら1ヶ月かかるのに。そこで俺たちは考えた。俺たちには時間がある。ならば人間に投資をしようと。コンピューターではなくね。このカバーには5人の人間が関わっている。ロゴ、写真、絵、メイクアップ、アート・ディレクション。とても素晴らしい結果になったと思うよ。
ー と言うことは、アートワークはアルバムのコンセプトとは無関係ということでしょうか。
フランチェスコ:関係ない。まあ、例えば「I Can Never Die」みたいな曲とは少々関わりがあるかもしれないけれど。これとイントロの「Ode to Art」では、芸術が俺たちの人生よりも長生きをするというようなことを歌っているからね。俺たちはいつか死ぬ訳だけれど、音楽は不死身。アートワークはそれをとてもよく表現していると思う。ヴェロニカは音楽を表しているけれど、芸術一般であり、それはいかなるアーティスト、人間よりも長生きをする。芸術は、現在の惨状を乗り越える。これまでの歴史の中で、人類や社会がダメになった時、芸術はそれらすべてを乗り越えて来た。そこがキーなんだ。どんな人生であれ、例えば事故で突然死んだとしても、人生において何か良いものを残していれば、それがその人を不死身にするということ。
ー あなたはギター、ベース、ドラムと何でも演奏しますが、どのような音楽的バックグラウンドをお持ちなのですか。
フランチェスコ:もともとはギターからスタートした。ベースも少々弾いたけれどね。俺のミュージシャンとしてのキャリアは、ギタリスト、そしてシンガーとして始まったんだ。ドラムも楽しんではいたけれど、2009年までは本気でプレイしたことはなかった。だけど2008年、2009年頃、イタリアでは良いドラマーを見つけるのが難しくてね。俺はプロフェッショナルな音楽をやりたかったから、その問題を解決しようとドラムに転向したんだ。最近パオロがバンドを辞めたのだけれど、新しいメンバーは入れたくない。今の5人がパーフェクトな状態で、色々なケミストリーもあるし、バランスもパーフェクト。だから俺がベースを弾くことにしたんだ。ファビオは凄まじいギタリストだし。アルバムではギターも弾くけれど、最近はベースが主だよ。
ー テクニカルなデス・メタルとクラシック的な要素をミックスしようというアイデアは、どのように出て来たのでしょう。
フランチェスコ:始めた頃は、そんなことをやるとは思ってもいなかったよ(笑)。俺は以前Hour of Penanceというバンドにいて、それは特にテクニカルではなく、とてもブルータルでヘヴィなデス・メタルをプレイしていた。やがて少々複雑なものや物凄く速いものもやるようになっていたのだけれど、もっと何か自分らしいことをやりたいと思っていた。それでFleshgodを始めた時に、Hour of Penanceなどでプレイしていたエクストリーム・ミュージック、これはイタリアン・スタイルのデス・メタルと言えばいいのかな、ただメロディということに関しては、俺はクラシックが大好きだったんだ。それでもう1人のフランチェスコ、つまりフランチェスコ・フェリーニにバンドに入ってもらおうと思ったのだけれど、彼は他のことで忙しかった。まだ大学にも通っていたし。俺はHour of PenanceもやりながらFleshgodもやっていて、『Oracles』がリリースになって。ここでもフランチェスコがピアノやオーケストレーションで参加してくれているのだけれど、これはあくまでデス・メタルという範疇の作品だった。10-11年頃の『Agony』で、これらの要素をミックスするようになって、それがうまくいった。「The Violation」、「The Betrayal」、「The Forsaking」みたいな曲さ。そして、こういうことをアルバム全体でもやるべきだと。そうやってスキルを磨いていって、今はシンフォニックなもの、デス・メタル、それからテクニカルなパートのバランスがとても良くなっていると思う。曲作りのやり方も成熟してきているし、スーパー・テクニカルなことをやろうと思えばやれる。一方でそれを忘れてマッシヴなパートも作れる。どんなことでも自由にやれる状況になっているよ。このジャンルで非常に心地よくやれている。
ー メタルに関しては、どのようなバンドからインスピレーションを得ていますか。
フランチェスコ:DimmuやCradle of Filth、Septicfleshのように、シンフォニックなものとデス・メタルをミックスしているバンドはいくつかいる。彼らは確かに俺たちに近いことをやっているかもしれないけれど、実は彼らからインスパイアされているということはないんだ。俺たちが主にインスピレーションを受けているのは、デス・メタルとパワー・メタル。「Dimmuに似ているね」と言われると、まあ確かに似ている曲、部分はあるかもしれないけれど、彼らやSepticfleshの真似をしようと思ったことはない。俺たちはAt The GatesやCarcassみたいなメロディック・デス・メタルの大ファンだし、Bodomみたいにパワー・メタルから影響を受けたデス・メタルもすでにいただろう?北欧のデス・メタルにはメロディックなものが多いよね。DismemberとかEntombedとかも。それからアメリカのMorbid AngelやDeicideみたいなブルータルなのも好き。メロディックな部分もあるVital Remainsとかもね。それから俺たちの中には、パワー・メタルというイタリアの遺産もある。Rhapsodyは俺たちのお気に入りのバンドに一つ。Labyrinthも素晴らしいバンドさ。それからもちろんドイツのバンド、あるいはいわゆるパワー・メタルのバンド。Blind Guardianなども大好きだよ。これらの影響がミックスされているんだ。Symphony Xみたいなプログレッシヴなものからの影響もあるかな。ギターに関して言うと、最も大きな影響の一つがマルムスティーン。デス・メタルとパワー・メタルを混ぜ合わせると、Fleshgodが出来上がるんだ(笑)。
ー お気に入りのクラシックの作曲家は誰ですか。
フランチェスコ:これは良い質問だな。俺は主にロマン派の作曲家が好き。19世紀中盤から後半のね。ワーグナーやヴェルディが、俺たちが一番自分たちの音楽に取り入れようとしている作曲家さ。もちろんベートーヴェンやマーラーなどからも影響を受けているよ。ピアノ・パートはもちろんショパンからの影響がある。曲によってはバロックやネオクラシカルの影響もあると思う。バッハからモーツァルトあたり。「The Fool」とか、ニュー・アルバムだと「Morphine Waltz」とかね。それからハンス・ジマーとか、映画音楽の作曲家からの影響もある。現代のシンフォニックな音楽というと、ほとんど映画音楽だからね。そういうのが作曲に影響を与えるのも当然さ。
ー Fleshgod Apocalypseというバンド名はどのような意味なのでしょう。
フランチェスコ:バンド名を考えたのはパオロだったんだ。リハの帰りに車の中でね(笑)。俺もアイデアを出して、その結果彼がFleshgodというバンド名を思いついたんだったと思う。これは「Apocalypse of Humanity=人間のアポカリプス」ということ。「Fleshgod」は具現化した神、つまり人間であり、人間が俺たちの音楽、哲学の中心になるもの。神というものは存在せず、スピリチュアリティみたいなものはあるかもしれないけれど、宗教ではない。自分自身の魂の投影であり、それはやはり人間によって作られたもの。人類のアポカリプス、人間のアポカリプスみたいな意味だよ。
ー オールタイムのお気に入りのアルバムを3枚教えてください。
フランチェスコ:これは難しいな。オール・ジャンル?メタル?
ー メタルにしましょうか。
フランチェスコ:考えるのに1時間必要だよ(笑)。ベストなメタル・アルバムって何だろう?古いのから行こう。歴史的な作品。『Black Sabbath』。それから『Painkiller』も好き。Judas Priestのね。あとは何だろう。『Master of Puppets』かな。
ー では最後に日本のFleshgod Apocalypseファンへのメッセージをお願いします。
フランチェスコ:俺たちは日本が大好き。日本は世界で最高の場所の一つだよ。俺たちの生活様式とはまったく違うから、とても興味深く驚かされるのかもしれないね。日本は俺たちにとってホームカントリーみたいな感じ。本気で言ってるんだよ。日本に行くと、とても愛されているのを感じる。早くまた日本に行って、少なくとも2-3のショウをやりたい。『Opera』の曲を演奏しにね。君たちのために新曲をプレイするのを待ちきれないよ。We love you。いつも日本に行けるようにサポートしてくれてありがとう。日本ではいつもとても歓迎されていると感じるんだ。
文 川嶋未来
【CD収録曲】
- オード・トゥ・アート (デ・セポルクリ)
- アイ・キャン・ネヴァー・ダイ
- ペンデュラム
- ブラッドクロック
- アット・ウォー・ウィズ・マイ・ソウル
- モルヒネ・ワルツ
- マトゥリサイド・8.21
- ペラ・アスペラ・アド・アストラ
- ティル・デス・ドゥ・アス・パート
- オペラ
【メンバー】
フランチェスコ・パオリ (ヴォーカル/ギター/ベース)
フランチェスコ・フェリーニ (ピアノ)
ヴェロニカ・ボルダッチーニ (ヴォーカル)
ファビオ・バルトレッティ (ギター)
ユージン・リャブチェンコ (ドラムス)