カリフォルニアが誇るテクニカル・デス・メタル・バンド、ファルージャがニュー・アルバム『エンピリアム』をリリースする。ということで、ギタリストでリーダーのスコット・カーステアーズに話を聞いてみた。
ー 前作『アンダイング・ライト』は、ファルージャとしては異色のアルバムだったと思います。今回の作品についてはいかがでしょう。
スコット:今回は、過去にやっていないことをいろいろと試したけれど、キャリア初期に影響を受けたものからの影響が大きく出ていると思う。ある意味原点回帰と言えるよ。俺たちは、アルバムごとにどんなサウンド、どんなメッセージにするかを考える。『アンダイング・ライト』では、それ以前の3枚のアルバムから離れたものをやりたいと思った。ベイエリアのテクニカル・デス・メタル・サウンドからの離脱。もっとオープンで、ブラック・メタルやシューゲイズみたいな、新しいテクスチャを使ってね。いつもと違って、あまりエレクトロニックなものも使わなかった。そういうことをやりたくて、その結果もとても気に入ったよ。17歳の頃から『アンダイング・ライト』まで、ノンストップで曲を書いてきたからね。今回はパンデミックという要素もあった。じっくりと腰を据えて取り組むことができたんだ。最初から、もっとテクニカルな作品を作りたいという考えもあった。ミュージシャンとしても成長しているから。それで、若い頃の影響を復活させたいと考えたんだ。ネクロフェイジストやスポーン・オブ・ポゼッションみたいなテクニカルなものを、ファルージャ流のクリーンなサウンドでやりたかった。ファースト・アルバムみたいのをまたやろうということではなく、これまでにやった作品すべてを新たなレヴェルに押し上げるような作品。55分で10曲入り。1曲は6分のインストで、大量にリフがあるクレイジーな曲。とにかく内容が濃いアルバムだよ。パンデミックだったからね。それまではアルバムを作ってすぐにツアーに出てと、すべてを急いでやることに慣れていた。「急がなくちゃ。これは徹夜してさっと仕上げなくちゃ」ってね。じっくりと曲を見直す時間が取れないこともあった。パートを足したり、削除したり、そういうことをやり始めると、延々と時間がかかってしまうから。だけど、今回はそれをやれたんだよ。すべての曲が超濃密で、完璧に思った通りのサウンドになっている。ダレる瞬間はまったくなくて、おそらく俺たちがリリースした中で、一番複雑でアグレッシヴな作品さ。俺たちのディスコグラフィーを改めて見直してみると、とても興味深い。最初はブルータルなテクニカル・デス・メタルからスタートして、年を重ねるに連れ、自分たちが好きな音楽のアトモスフェリックなものに惹かれるようになり、歌うヴォーカルとかエレクトロニックなサウンドとかね、プログレッシヴなサウンドに逸脱していって、今また初期のサウンドに戻っているのだから。もちろん今30歳になって、17歳の頃とは違ったやり方でやってはいるけれど。
ー バック・トゥ・ルーツ的側面がありながらも新しいサウンドということですね。
スコット:ただのバック・トゥ・ルーツではなく、新たに学んだ新しいタイプのサウンドやテクスチャを取り入れているからね。ただ、初期のアグレッシヴさ、エネルギーはそのままだよ。
ー 長年ベーシストを務めてきたロブがバンドを去りました。何があったのでしょう。
スコット:ロブと俺は、一番長く在籍していたメンバーだからね。デモの時代からずっと一緒だった。レコーディングやツアーを10年以上やってきて、彼は何か新しいことにトライしたいと思ったようだ。また学校に通ったり。彼自身のキャリアを追求したいと考えたんだよ。もちろん俺はその考えを支持する。彼が辞めた時も、とても友好的だったし。完全に理解できるよ。パンデミックが始まって、それがどのくらい続くかわからなかったから、彼は別のことを追求すると。一方の俺は、パンデミック中もずっと新しいアルバムのために時間を費やそうとしたけれど、彼はそれはできないと。それだけのことだよ。
ー 新しいベーシスト、エヴァン・ブリュワーが加入した経緯はどのようなものだったのですか。
スコット:俺はずっとエヴァンのファンだったからね。彼のやっていたアニモシティというバンドのファンだったんだ。知ってる?ベイエリアのデス・メタル・ファンの間では、凄く人気のあるバンドだった。プログレッシヴなデス・メタルをやっていて。彼がフェイスレスにいた時は、一緒にツアーもして、仲も良くなった。異常なほど才能があるベーシストで、Entheosでやっていることなんかは本当に凄い。だから、一番にコンタクトしたのが彼だった。出来上がっていた新曲をいくつか彼に送ったら、「とても気に入った。どうやって弾けば良いかはっきりわかる」と。エヴァンにコンタクトしたバンドは多いようだけれど、自分がフィットすると思えるバンドはなかったみたいなんだ。だけど、俺たちの曲には、彼が何かをやる余地があると思ってくれて。その後の作業は本当に容易だった。彼からファイルが送られてくる度にビックリしたよ。超超才能があるね。彼のおかげでアルバムが一段上のレヴェルのものになった。
ー 今回もヴォーカリストを交代しなければなりませんでした。
スコット:残念ながらそういうことになってしまったけれど、パンデミックのせいで、みんな生活を変えなくてはならなかったからね。それでモチヴェーションも変わってしまったり。だけど、俺はバンドをストップすることはできなかったから、続けていくしかなかったんだ。
ー 新ヴォーカリストのカイルはどのように選んだのですか。前作ではブラック・メタル風のヴォーカルを採用していましたよね。
スコット:そうだね。さっきも言った通り、今回は最初からアグレッシヴな作品にしようと思っていたけれど、プログレっぽい要素も残したいと思っていた。俺たちと一緒にやっていける人物を探そうと思って、もちろん才能がある人物はたくさんいるけれど、俺たちの作業は時間もかかるから。一生懸命やれて、気も合って、音楽的にも合う人物を求めて、たくさんのオーディションをやった。パンデミックのせいで、活動を停止したバンドも多かったからね。フリーになったミュージシャンもたくさんいて、彼らにコンタクトして、「アルバムを仕上げようとしているのだけど」って。本当に時間をかけて、たくさんの人物に会った。今回の作品に関して、一切の後悔をしたくなかったから。はっきりヴィジョンがあって、パーフェクトにしたかったから、これだと思える人物に会えるまで待ったんだ。そんな中で彼は、実は俺は彼のバンド、アーケオロジストにゲスト参加したことがあって、そこでは彼がギターを担当していて、ギターもとても才能があるんだ。それに彼はベイエリア在住だからね。そこも良かった。俺たちの古い曲を歌ったデモを送ってくれて、それが完璧だったから、新曲を送ったんだ。一応ヴォーカル・パターンを書いて送ったのだけど、彼が送り返してきたものは、異常なほど良かった。だいたいのヴォーカリストは、アクセントが多すぎたり、言葉を詰め込みすぎたりする。音楽がすでに複雑だから、それだとね。彼はそのあたりがわかっていて、完璧に曲に合うものを入れてきた。他のオーディション参加者たちの、はるか先を行っていたよ。彼を見つけられて本当にラッキーだったよ。ただグロウルやデス・メタル・ヴォーカルがうまいというだけでなく、最も才能があるヴォーカリストの1人だから。とてもやる気もあるし。
ー タイトルの『エンピリアン』というのはどのような意味なのでしょう。
スコット:いくつか定義があるけれども、いずれもアルバムのメッセージに合うもので、神々が住む最高の領域というようなこと。今回のアルバムは、歌詞的にも音楽的にも天上のような雰囲気のある巨大なサウンド。歌詞の内容も、変化を経験すること、苦痛を切り抜けて進んでいくことについて。より良い人間になるためにね。簡単に言うとこういうことだけれど、より高いところに達するといったたくさんのストーリーが入っている。とてもパワフルなタイトルで、歌詞のメッセージに完璧に合致するものだと思う。
ー 歌詞は非常に抽象的で、何について歌っているのかを特定をするのは難しいのですが、どれも高みを目指すという内容ということですね。
スコット:その通りだよ。どれも感情的、心理学的な、自分自身との戦いというような内容さ。特に最近、多くの人が経験していること。環境に適応し、元気を出して立ち上がり、変化すべきことは変化させ、先へ進んでいく。
ー アートワークについてですが、アーティストにはそのコンセプトを説明したのですか。
スコット:俺たちはピーターのファンでね。前作は別のアーティストだったけれど、その前の『ドリームレス』もピーターの作品。あのアルバムの未来的な雰囲気にとても合っているアートワークさ。オールドスクールな油絵と、ニューエイジのデジタル・アートとのミックスみたいな感じで。俺たちも、オールドスクールとニュースクールのサウンドのミックスだからね。それで彼の作品にはずっと注視していて、今回の作品もアルバムにぴったりで、色使いもとてもイカしてる。彼は本当に才能があるよ。彼には曲を送ったけれど、これはすでに出来上がっていた作品だったから、特に変更は加えなかったんじゃないかな。あれはあのキャラクターの連作の中の1枚なんだ。このキャラクターにまつわるストーリーが、アルバムと合致する部分もあるのだけど、それはあくまで偶然。このアルバムのために描かれた絵ではないんだ。
ー 今回もマーク・ルイスをプロデューサーに迎えています。
スコット:メタルの仕事を大量にやってきているという以外にも、彼は本当に音色に対する素晴らしい耳を持っているんだ。そのレコードが何を必要としているかがわかるのさ。例えば、俺たちのバンドにとって一番重要なものはドラムであるとか。とてもクリーンでパワフルなサウンド。ドラムのレコーディングには3週間を要した。個人的に、これはとても長い期間だと思う。ドラムキットからのトーンを決めるのに、とても時間をかけるんだ。特にシンバルのサウンド。ナッシュヴィルでレコーディングしたから、ナッシュヴィルまで車で行って、楽器屋をまわって俺たちが欲している音を出せるキットを時間をかけて組み上げて、それでこれでOKだと思って最初の曲をレコーディングし始めたら、マークは「これは違う」って。早く始めたかったけど、パーフェクトになるまで始める訳にはいかないからね。幸い次のセッティングでパーフェクトなサウンドになったのだけど、彼はパーフェクトにするために、時間をかけて細部にまでこだわるんだ。6週間彼と一緒にいたよ。彼の家に泊まり込んで。細部に至るまで単調な作業をこなしていったんだ。その結果は素晴らしいものになった。ギターについても、確か27種類のスピーカーを試した。アンプでギターを鳴らして、スピーカーを変えて録音していって、すべてのパターンを試してみた。そういうことをやれるというのは、本当に凄いね。俺はリフや曲を書くけれど、音色やエンジニアリングに関しては、それを任せられる誰かが必要なんだ。それに仕事もとてもしやすい。俺が彼の意見に反対しても、何とかしてくれる。意見が対立した時は難しいものだけど、彼とはとてもうまくやれるんだ。今回は一番ハードなレコーディングだった。とてもクレイジーだったよ。
ー プロダクション的にも『アンダイング・ライト』では、もっとrawなサウンドを目指していたと思うのですが。
スコット:100%そうさ。
ー 今回はそのあたりも意図的に変えていったということでしょうか。
スコット:前回の気に入った部分は流用したけれど、今回は違ったトーンで、というのも音楽自体が違うからね。同じようなトーンではうまくいかないのさ。例えば前回は、ディーゼルのアンプを多く使った。ディーゼルを使うとビッグなサウンドが得られて、ニュースクールのマーシャルといった感じなんだ。前回のアルバムではこればピタリとハマって、あの時使った巨大なドラムのサウンドともとても合っていた。だけど、今回は曲がずっと速くて、テクニカルで音符もずっと多いからね。アンプも変えなくてはならなかった。今回は5150III EL34を使ったよ。とにかくバスドラが速くてね。なので、今回も可能な限りrawなサウンドにしようとはしたけれど、『アンダイング・ライト』ほどではなく、それは曲が速かったからということ。主題があって、エレクトロニックな要素もそこここに入っていて。たくさんのレイヤーがある曲もあるし。そういうところにrawなサウンドをキープするのは容易ではなかったよ。やれる限りのことはやった。
ー 先ほどネクロフェイジストやスポーン・オブ・ポゼッションの名が挙がりましたが、現在のファルージャに影響を与えているアーティストというと、どのあたりになるでしょう。
スコット:ギタリストとしては、ずっといろいろと学んでいるのはグレッグ・ハウとアラン・ホールズワース。この2人が俺のお気に入りさ。幸いグレッグ・ハウはまだ存命だから、ぜひ見に行きたい。アラン・ホールズワースに関しては、彼の選ぶトーンやコードというのは本当に素晴らしい。一方で、今でもデス・メタルは大好き。ダイイング・フィータス、ディキャピテイテッド、キャトル・ディキャピテイションとかね。速くてアグレッシヴな音楽が大好きなんだ。メシュガーも大好き。メシュガーをコピーするのが好きなんだ。Twitchのチャンネルをやっているのだけど、メシュガーの曲はよく披露するよ。まるでパズルをやっているようで、弾いているととても面白いんだ。フュージョン・ギターとプログレッシヴ・デス・メタルからの影響は大きいね。一方で、何からも影響を受けないようにすることもある。座って曲作りをするときは、頭をクリアにして自分のヴィジョンを思い浮かべるようにする。これがうまく行く時もある。
ー ではエレクトロニックなパートは、どのようなところからインスピレーションを受けるのでしょう。
スコット:多くは俺たちが大好きな映画からの影響さ。美学的な部分についても、例えば『ブレードランナー』のような映画から影響を受けている。『デューン砂の惑星』とかね。こういう映画のヴィジュアルやサウンドが大好きなんだ。今回プラグインを使ったのだけど、『ブレードランナー』でヴァンゲリスが使っていた機材をプラグインにしたものなんだ。もちろん彼はアナログの機材を使った訳だけど、それのディジタル・ヴァージョン。ああいうノスタルジックなサウンドが欲しかったからね。この質問に答えるのは簡単だよ。だいたいはSF映画。リドリー・スコットの『プロメテウス』とか、デニス・ヴィルヌーヴの作品とか。本当に素晴らしい。
ー バンド名のファルージャとはどのような意味なのでしょう。なぜこのバンド名にしたのですか。
スコット:バンドを結成した時、俺たちはまだ14歳とか15歳でね。ちょうど2004年の後くらいで、当時最もブルータルで最大の戦いというのが、(イラクでの)「ファルージャの戦闘」だったんだ。お兄さんがその戦いに参加した友人がいてね。話を聞いて、当時はポリティカルな面があったから。若い時はそういうものだろう。反戦という意味を込めてね。年を重ねてもバンド名は変えていないんだ。時々変えるべきか考えることもあるのだけど、この名前を聞いて、いろいろと共感できる人も多いだろうからね。もともとは若い時に起こっていた戦争からとったんだよ。反戦、反政府という感じでね。不安を抱える若者らしく。デス・メタル・バンドとしても良いだろう。暗いものを想起させる、色々と考えさせる名前だし。
ー では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
スコット:日本のファンのみんな、スコットです。ニュー・アルバムを楽しんでもらえるといいな。とてもテクニカルで、とても複雑で、とても濃密な作品になっているよ。本当に日本に行きたいんだ。行って日本のためにプレイしたい。それが実現するまで、ぜひアルバムを聴いて楽しんでくれ。
文 川嶋未来