00年代後半のニュー・ウェイヴ・オブ・スラッシュ・メタル・ムーヴメントを牽引したイギリスのイーヴァイルが、ニュー・アルバム『ジ・アンノウン』をリリース!前作から一転、突如のスローダウンを見せた本作について、リーダーのオル・ドレイクに話を聞いてみた。
ー ニュー・アルバム『ジ・アンノウン』がリリースされます。音楽的にどのような内容になっていると言えるでしょう。前作から大きな変化があるように見受けられますが。
オル:そうだね。アティテュードが変わったと言えると思う。これまではいつもスラッシュの曲がたくさんで、1-2曲遅めのものがあるという感じだった。今回は逆のことをやりたかったんだ。ほとんどの曲が遅めで、確かにスラッシュっぽい、速いパートもあるけれど、今までにやったことのないテンポを試したかったのさ。物凄く速いのとか、ミドルテンポのものはやってきたけれど、ここまで遅いのには手をつけていなかった。新しいことを試したかったんだよ。
ー 何かスローダウンしようと思ったきっかけはあったのですか。
オル:特にきっかけというものがあった訳ではないけれど、フェスティヴァルで俺たちのことを知らない人たちを前に、古い曲、例えば「We Who are about to Die」、「Head of the Demon」みたいなスローでヘヴィな曲をプレイすると、物凄く盛り上がるんだ。それを見て、こういうタイプの曲がもっと必要だと思った。それでジャムをしながらリフを書いたら、「これはイカしてるぞ」という感じのものがいくつか出来てね。それで「ヘヴィで遅めのもの」というマインドフレームが出来上がって、そこから進んでいったんだよ。
ー 遅い曲を書くにあたって、何か新しいインスピレーションはありましたか。
オル:アリス・イン・チェインズはよく聴いていたな。俺は幅広く音楽を聴くんだ。フランク・シナトラからサフォケーションまで、何でも聴く。毎日ランダムに音楽を聴いているからね。ただもっと遅いテンポを探索してみようと思っただけのことさ。自分たちの中での実験だよ。誰かのためにアルバムを作っている訳ではないから(笑)。
ー ファンからはどんな反応があると思いますか。スラッシュ・メタル・バンドがスローダウンするというのは、80年代終わりにはよくありましたが。
オル:アルバムを出す度に言われるのは、「セルアウトした」か「メタリカ」だよ。前作が出た時も、「セルアウトした」って言われた。全力のスラッシュ・アルバムにもかかわらずね。銃弾ベルトを落としちゃうファンもいるかもしれないけれど、ポジティヴな反応も期待している。何と言うか、これはヘッドバンギング・ミュージックだからね。多くの人が頭を振って楽しめる作品だと思う。「これはスラッシュじゃない。十分にスラッシュじゃない」なんていう人も、少数いるだろうけれど。
ー レビューなどは気になりますか。
オル:正直、気にならない。以前は気にしていたけれどね。すべてを読んで、悪いレビューばかり気にしていた。たくさん良いものもあるのに、頭が悪いレビューにばかり目が行ってしまっていたんだ。今は気にしない。自分たちのためにアルバムを作っているから。気に入ってもらえれば素晴らしいし、そうでなければそれで構わない。ポジティヴなフィードバックというのは素晴らしいし、他人がどう感じるかを知るという点で、レビューは重要だと思う。いきなり新しいものに手を出す前に、尊敬するジャーナリストの意見を読んで、「チェックしてみよう」とか、「聴くのはやめよう」というのはアリだと思う。だけど、俺は気にしないよ。
ー アルバムのタイトル「ジ・アンノウン=未知のもの」というのは何を表しているのですか。
オル:俺には5年間このバンドを離れていた時期がある。そして今子供が2人いるんだ。バンドを離れている時期、パートナーが妊娠をしてね。初めて父親になるという不安を歌詞にしたんだよ。初めて父親になるという恐怖と不安。「未知のもの」というのは人生が変わること。人生のスタイルが変わり、親になるというまったく未知の仕事を得るということについてさ(笑)。
ー 音楽だけでなく、今回は歌詞も非常にヘヴィな内容になっています。今説明してくれたことの以外には、どのようなテーマが扱われているのですか。
オル:これまでのアルバムでは、ほとんどの歌詞はファンタジーだった。悪霊、地獄、戦争。戦争はファンタジーではないけれど。そういうエピックなものばかりだった。前作では映画『ザ・シング』をテーマにしたり、「ゾンビ・アポカリプス」、 「ヘル・アンリーシュド」なんていう、イーヴルでダークな曲をやっていた。今回は、こういうことはやりたくなくて、ではどうすれば良いかと考えた。それで自分自身のことを考えたんだ。人生を見つめ直して、自分が経験したこと、経験していることについて考えて、感じること、思うことを書いていったんだ。それで何とか10曲書き上げたよ(笑)。
ー どれも実体験に基づいているということですね。
オル:そう。悪魔や悪霊についてではなくね。俺の中にいる悪霊は別にして。俺の人生、経験、足掻きについてさ。
ー 大切な人を失ったこととか、鬱とか。
オル:そう。若い頃はしょっちゅう鬱に悩まされた。「アット・ミラーズ・スピーチ」という曲が入っているけれど、あれは「俺は世界一魅力な男でないということはわかっている」という内容。鏡で自分の姿を見るのは好きではないんだ。自分を見るのが嫌なんだよ。この曲は、鏡を見たくない、鏡が伝えることを見たくないというもの。とてもパーソナルな内容さ。
ー コンセプト・アルバムという訳ではないのでしょうか。
オル:うーん、コンセプト・アルバムのルールがわからないからね(笑)。俺をコンセプトにしたアルバムと言えるかもしれないけれど。
ー 最近エクストリーム・メタルの歌詞の傾向が変わってきている気がします。やはり我々みんな年齢を重ねてきて、かつてはファンタジーであった死というものが、非常に現実的になっているせいではないかと思うのですが。
オル:その通りだと思うよ。今回歌詞の内容を変えたのも、俺も年をとってきて、もはや19歳ではなく、ヘッドバンギングやゾンビのことばかりを歌っていられないからさ。今回のアルバムには「ホエン・モータル・コイルズ・シェド」というバラードっぽい曲があって、これは誰かを失ったことがある人すべてに向けて書いたんだ。15年、20年経っても、その喪失は人生に影響を与え続ける。いまだに「あの人がいてくれたら」と思うのさ。つまり、俺たちはいかに脆弱であるかということ。俺も明日死んでしまうかもしれない。確実なものは何もないんだ。年齢が歌詞の内容に影響を与えるのは間違いない。今回の作品は俺の感じること、実際の人生についてさ。モンスターについてではなくね(笑)。
ー エリラン・カントールによるアートワークも素晴らしいですね。
オル:エリランとはほぼ同じ年齢で、彼にも子供がいて、俺たちはどちらも同じストレス、恐怖を経験しているんだ。彼にはタイトル曲が父親になること、それがどういうことなのかがわからず恐ろしいということについてであることだけを伝えた。俺に父親が務まるのか、逃げるべきか、留まるべきか。それで彼は確か3枚スケッチを送ってきて、彼はまだ曲を聴いていなかったのだけど、その3枚のうちの1つが実際のカバーになったものだった。完璧で、あれ以上のものは考えられないと思ったよ。リヴァプールのエリランの展示会で彼に会ってね。「曲は出来ているのだけれど、歌詞の内容はどうなるか決まっていない」なんていう話をして、「歌詞が決まったら教えてくれ」と言われた。彼は本当に良い奴で、仕事もとてもやりやすいんだ。
ー エリランはお子さんが生まれた時に、夜泣きに悩まされていた記憶があります。
オル:気持ちはよくわかるよ(笑)。
ー 今回Broken Hope、Gama Bomb、Crisixのメンバーがゲスト参加しています。スポークン・ワードでの参加ですよね。
オル:そう。俺たちは音楽的なゲストというのはあまりやらないんだ。音楽的なことは、バンド内でやりたいから。彼らが参加してくれた「ビギニング・オブ・ジ・エンド」という曲は、認知症、アルツハイマーについて。友人の親戚が認知症にかかってしまってしまってね。彼女はその親戚が大好きだったんだ。曲を書くにあたってイントロが欲しくて、認知症になってしまった人の視点で考えてみた。彼らは日常様々な声を聞いても、それが誰のものなのかがわからないし、発せられた言葉の意味も理解できない。何百もの声が、一気に頭の中に封じ込められたみたいな感じ。これを1人ではやれないから、何人かにさっとメッセージを送ったんだ。Crisixのフリアン、Gama Bombのフィリー、Broken Hopeのジェレミー。アメリカのコメディアン、ブライン・ポゼーンにも頼んだのだけど、忙しすぎて無理だった。送られてきた声をProToolsに入れて、左右にパンを振って、プロデューサーのクリスに送ったら、「これはクールだね!」って(笑)。
ー 前作に引き続き、今回もそのクリス・ラクンシーをプロデューサーに迎えています。彼の仕事のどのようなところが素晴らしいのでしょう。
オル:彼とはとてもうまくやれるんだ。フレミング(ラスムッセン)やラス(ラッセル)とももちろんうまくやれたけれど、変化が欲しかったからね。クリスは20年以上シンガーもやっていて、俺もここ2年間歌を学んでいるんだ。彼も俺もメリッサ・クロスに教えてもらっていて、だからクリスと一緒にやるというのはセイフティ・ネットというのかな。俺がヴォーカルのレコーディングをする時、クリスはどうすれば良いのかがわかっていて、「舌をもっとこうした方がいい」なんて言ってくれるんだ。前作、今作とも、俺のヴォーカル・プロセスで完璧な役割を果たしてくれたよ。プロデューサーがヴォーカルのことを何もわからなかったら、俺もうまくやれなかったかもしれない。聴いてもらえばわかる通り、プロダクションも素晴らしいしね。時間をかけて、何度もやりとりしてミックスしたんだ。彼はとても面白いんだよ。俺は気が合う相手としか仕事をしないんだ。楽しんで、一緒に笑える相手としかね。
ー 今後の予定はどうなっていますか。ツアーやフェスティヴァルなど。
オル:これからはフェスティヴァルがメインになっていくと思う。さっき君も言っていたように、俺たちも年をとってきて、生活費も稼がなくてはいけないし、子供がいるメンバーもいるから、バンド以外に仕事もしなくてはならない。オープンに、正直に言うけれど、俺はフルタイムの仕事をしているんだ。バンドは仕事じゃない。そうだったら良いのだけれど、この時代にそれは無理だよ。だから週末のフェスティヴァルを中心にやっていくつもり。もう19歳ではないから、長いツアーはね。それに今、コストが物凄く上がっているだろ。たくさんのバンドがツアーをキャンセルしている。去年アメリカ、カナダのツアーをやろうとしたのだけれど、メールに書かれていたコストを見て、「ノー。とてもやれないよ」って(笑)。多くのバンドにとって、フェスティヴァルに集中するというのが今後のトレンドになっていくんじゃないかな。みんなたくさんのツアーはやらなくなるだろうね。
ー 最近の若いメタル・バンドも聴きますか。
オル:聴くよ。聴こうとはしている。だけど、イーヴァイルをやっていない時は、子供のことや仕事で忙しいから、あまり時間がなくて。イギリスにTortured Demonというバンドがいて、前作が出た時に一緒にツアーをした。彼らは年齢のわりに本当に素晴らしくて、まあ年齢は関係ないから年齢について言うべきではないのかもしれないけれど、彼らはとても若くて素晴らしいよ。スラッシーでハードコアなスタイル。ぜひチェックしてみて欲しい。
ー では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
オル:長い間サポートしてくれてありがとう。「日本に来て欲しい」というメッセージをよくもらうんだ。今回のアルバムで、日本に行けることを期待しているよ。サンキュー。近いうちに会おう。
文 川嶋未来