00年代後半に起こった若手バンドによるスラッシュ再興のムーヴメントで中心的役割を担ったイギリスのイーヴァイル。しばらく音沙汰が無かったが、この度8年ぶりの5thアルバム『ヘル・アンリーシュド』がリリースとなる。ということで、ギター・ヴォーカル担当のオル・ドレイクに話を聞いてみた。
― 8年ぶりのニュー・アルバムがリリースになります。過去の作品と比べ、どのような内容になっていると言えるでしょう。
オル:そうだね、ニュー・アルバムは、これまでとはだいぶ異なったアプローチになっていると思う。もっとずっと激しくて、速くて、楽しいアルバムにしたかったから。すべての曲が楽しくてエネルギーにあふれていて、退屈する瞬間なんてないような作品を作りたかったのさ。怒りという感情をキープしておきたかったんだ。過去の何作では多少実験をしたけれど、今回はみんなクールなスラッシュ、エネルギッシュな曲を聴きたがっているからね。怒りに満ちたアルバムになるようにしたよ(笑)。
― リリースまでに8年もかかったのはなぜでしょう。あなたはその間、一度バンドを抜けていますよね。
オル:俺がバンドを抜けた後、バンドは新しいメンバーを入れたのだけどね。なぜか彼らは何もしなかった。曲も書かず。そのうち新メンバーも自然といなくなってしまって。だから冗談めかして兄貴に「俺が復活しようか?」なんていったら、「それがいいんじゃないか」って。それで18年に復帰すると、すぐに俺は曲作りを始めた。その後さらに時間がかかってしまったのは、マットの健康状態も良くなくて、さらに彼は3人も子供がいて、フルタイムの仕事もしていてね。19年の7月には俺はアルバム用の曲を書き上げたから、彼に歌詞やヴォーカルを頼むとメッセージをしたのだけど、時間がないようだった。それでマットが何かしてくるのを待つだけで1年が過ぎてしまい、とうとう俺たちも「どうするつもりなんだ」と聞かざるをえなくなり、彼はバンドを去ることになったんだ。それで俺がヴォーカルも一からやることになり、以前変な歌い方をして喉を痛めたこともあったから、気をつけなくちゃいけなかった。大変な状況だったよ。すべてのヴォーカルをやって、なるべく早くスタジオに入れるように。そんなわけで随分と時間がかかってしまったんだ。
― そもそもバンドを辞めたのは何故だったのですか。
オル:結局、俺たちはもはや16歳で両親の家に住んでいる訳でもなく、自分たちで請求書の支払いをしなくてはいけない年齢になっていた。お金を稼ぐ必要があったんだよ。メタルバンドで生計を立てるというのは現実的なことではなく、2ヶ月もツアーに出て帰ってきて、結局手にしたのは20ポンドだけなんていう状況だったんだ。状況は良くなくて、もはやバンドをやっていることが楽しくなくなっていた。楽しくなければ続けたくなかったしね。それに子供も欲しかった。俺はずっとイーヴァイルをやってきたから、普通の生活をしたことがなかったんだよ。子供を持ったり、ガールフレンドを作ったり、仕事をしてお金をもらったりみたいな、普通の人がみんなやっていることをやったことがなかった。ずっとツアーをして曲を書いていただけだった。それで少しスローダウンしようと思ってね。
― ところが、またバンドが恋しくなったのでしょうか。
オル:そう、恋しくなったんだ。バンドを辞めた時は、2度と音楽はやらないと思っていた。自分の部屋で自分のためだけに演奏をすることはあっても、バンドはやらないつもりだった。月日が流れ、子供も2人できて、普通の生活をしていると、とてもライヴをやりたくなってきてね(笑)。ついにはやらずにはいられなくなった。ずっとやってきたことだったから。イーヴァイルでプレイするというのは、俺にとってとても自然なことなんだ。
― マットが抜けた後、あなた自身がヴォーカルもやろうと思ったのは何故ですか。ヴォーカリストを加入されるというチョイスはなかったのでしょうか。
オル:別のヴォーカリストを入れるというチョイスもあることはあった。俺はずっとメタルを聴いてきたから分かるけど、例えばマックス・カヴァレラが抜ける前と後で、どちらのセパルトゥラが好きかというのはくっきり分かれるよね?メタル・ファンは、お気に入りのバンドのメンバーに執着するというか。それで、ファンにとっては、まったく知らないヴォーカリストが歌うよりも、知っているメンバーが歌った方が良いだろうという結論になったんだ。マシな方を選んだということさ。マットがいなくなって、まったく新しいメンバーよりは俺が歌った方がマシだろうと。
― 歌詞は抽象的なものも多いですが、どのような内容なのでしょう。
オル:とくに決まったテーマというのはなく、ただダークなトピックを選んだ。「ヘル・アンリーシュド」はドラマーのベンが書いて、これはおそらくビデオ・ゲームについてだと思う。
― そうなんですか?読んでもまったくわかりませんでした。
オル:そうだよ。俺たちはあらゆるところからインスピレーションを得るようにしているから。というのも、もうすでにあらゆる歌詞が書き尽くされているからね。「Angel of Death」から「Enter Sandman」に至るまで、メタルの世界ではあらゆる歌詞が書かれてきたから、俺たちはなるべく色々なところに目を向けて、例えば「ザ・シング(1982)」は文字通り俺のお気に入りの映画、1982年に公開された『ザ・シング』(『遊星からの物体X』)について(笑)。特にコンセプトというのはなくて、色々なトピックを選んだだけ。「インカーセレイテッド」などは、冤罪で投獄されて、どうすることもできないという状況について。色んなトピックを扱っているよ。
― アートワークは歌詞と関連があるのですか。
オル:いや、歌詞よりもサウンドと関連している。これを手がけたのはMicael Whelanというアーティストで、彼にはセカンド・アルバムのアートワークも描いてもらった。セパルトゥラの『Beneath the Remains』や『Arise』、オビチュアリーの『Cause of Death』といった、俺たちのお気に入りのアルバムをたくさんアートワークを手がけているアーティストなんだ。それで彼に「古いスラッシュやデス・メタルっぽいアートワークはないか」と聞いたら、これが送られてきて、ピッタリだと思ったんだ。だから、歌詞とは関連がない。このアートワークを印刷して、レコーディング中に貼っていてね。あのアートワークのムードを得られるように。レコーディング中ずっと眺めていたから、サウンドにあのアートワークからの影響が現れているんじゃないかな。
― モーティシャンのカバーが収録されているのが意外でした。イーヴァイルとモーティシャンはイメージ的に結びつきづらいというか。
オル:俺はスラッシュ・メタルと同じくらいずっとデス・メタルが好きなんだ。10代の頃カンニバル・コープスを聴いて、それからオビチュアリーのファンになって、ディーサイドとか、デス・メタルも大好き。テクニカルなものにはあまり興味がなくて、理解できないけれど。モーティシャンはずっと好きで、彼らはとにかくブルータルでロウだよね。「ゾンビ・アポカリプス」はずっと聴いてきていて、これは最高のメタルのリフを持った曲の1つだよ!とても良く知られている曲ではないけれど、というのも誰もがモーティシャンを好きな訳ではないからね。あのリフをプレイしたくてカバーしたようなものさ(笑)。本当にクールなリフだからさ。
― 著名なコメディアン、ブライアン・ポゼーンがゲスト参加していますね。どのような経緯で参加が決まったのでしょう。
オル:最初はテレビのサラ・シルヴァーマンの番組で、彼がイーヴァイルのTシャツを着ているのを見たのがきっかけだったんだ。ビックリしてメールをしてみたんだ。「イーヴァイルのオルだけど、ゲスト・ヴォーカルでもやってくれないか」って。それでサード・アルバムの「Cult」という曲で、バッキング・ヴォーカルをやってもらったんだ。ただ「Cult!」って叫んでいるだけだけど。それで今回またバッキング・ヴォーカルをやってもらおうということになって、「俺はどうすればいいんだ?」というから、「ただ『Gore!』と叫んでくれ」と(笑)。ファイルを送ってくれてね。彼はとても忙しい人物なのに、やってくれて良かったよ。
― イーヴァイルに影響を与えたバンドはどのあたりですか。
オル:それは答えるのが難しい。と言うのも、例えばベーシストのジョエルはクラシック・ロックや古いプログレが好きだし、ドラマーのベンはメタリカからハートまで何でも聴く。このアルバムに関して言えば、俺はセパルトゥラをたくさん聴いたけれど、あとはアナイアレイターとか。だけど、一方で俺は正反対のものも聴く。フランク・シナトラとかマイルス・デイヴィスとか。メタルの曲を書いている時に、メタルばかり聴くのもキツイから。仕事を家に持ち帰っているようで。音楽を聴く時はなるべくリラックスしたいから、メタルの曲を書いたあとにまたメタルを聴くと、脳が疲れてしまう。セパルトゥラ、アナイアレイター、それから古いプログレ、キング・クリムゾンとかジェントル・ジャイアント、イエスとか。ラッシュも聴く。ジョエルはラッシュの大ファンなんだ。
― 例えばマイルスの影響はイーヴァイルの音楽にも見つけることはできると思いますか。
オル:イーヴァイルの音楽の中にマイルス・デイヴィスが聴こえることはないと思うけれど、マイルスからはフレーズのプレイの仕方で学ぶことが多い。彼はたった8つの音で、他のアーティストが100万の音を使うよりも意味のあるフレーズをプレイする。俺も、100万もの音を速弾きするよりも、より少ない音数で叙情的に表現しようとしてみたりもしている。そういう要素が俺たちの音楽にも入っているけれど、いきなりジャズをプレイし始めたりはしないよ(笑)。
― イーヴァイルとはどういう意味なのでしょう。Evil(邪悪な) + Vile(不快な、下劣な)なのでしょうか。
オル:そう、EvilとVileだよ。このバンド名は、ニュー・アルバムを作るのに役立った。自分たちに「俺たちのサウンドはイーヴルか?俺たちのサウンドは不快か?」と問いかけてきて、100%イエスと言える仕上がりになったからね。イーヴァイルのサウンドはどういうものか、イーヴァイルとはどういう意味なのか人々に伝えるものになった。わりとうまくやれたと思うよ。
― そもそもエクストリーム・メタルにハマったきっかけは何だったのでしょう。
オル:以前のヴォーカリスト、兄貴であるマットの影響だよ。俺よりも4歳年上でね。祖父の家に行く途中、彼がずっと車の中でメタリカをかけていた。俺は理解できた訳ではないけれど、「何でギターはこんなにラウドなんだ、ドラムもこんなにラウドなんだ」なんて思って。兄貴はかなり若い頃からギターを弾いていて、彼がいない時に俺もギターを触ってみて。最初は下手くそだったけれど、その後練習をしてね。そういう訳で、彼の影響でメタリカを聴くようになって、そこからセプルトゥラ、テスタメントなんかを聴いて、デス・メタルにハマった。メタルにハマったきっかけは、やっぱり兄貴だね。
― 最初はメタリカのカバー・バンドとしてスタートしたのですよね。90年代終盤にはデス・メタルやブラック・メタルもありましたし、正直メタリカはもはやクールな存在ではなかったように思うのですが。
オル:そうなんだよ(笑)。俺たちは『Ride the Lightning』や『Master of Puppets』みたいなアルバムが大好きで、リアルタイムのメタリカがどういうことをやっているのかは、どうでも良かったんだ。兄貴が放課後にメタリカのカバーをやっていて、俺も一度そこに居合わせて、ぜひ俺も参加したいと思ったんだ。俺もメタリカの曲は知っていたからね。そのうちベースのマイクが参加して。彼はギター・ショップのチラシを見てやって来たんだ。彼もメタリカが好きだったので、「メンバー全員メタリカが好きなら、メタリカのカバーをやろう」ということになって。偶然そうなったんだよ。メタリカをやろうとしてバンドを始めた訳じゃなく、「テスタメントはできる?」、「いや、俺はわからない」、「そうか、じゃメタリカにしよう」なんていう感じで(笑)。それで何年かライヴをやっていたのだけど、メタリカの曲をプレイした後にお客さんが拍手しているのを見て、「俺たちが書いた曲でもないのに、何でみんな拍手をしているんだ?」なんて思うようになった。それでオリジナルを書こうという気になったのさ(笑)。
― デス・メタルやブラック・メタルをやるという選択肢はなかったのですか。
オル:それはなかったな。俺はデス・メタルが大好きだけど、まずベンはデス・メタル・タイプのドラマーではない。マットもデス・メタルのヴォーカリストではないし、そもそもデス・メタルがあまり好きではないんだ。俺とマイクはデス・メタルが大好きだったけれど、だからと言ってデス・メタルをやるという選択肢はなかった。スラッシュが大好きだったし、他にスラッシュをやっている人もいないし、俺たちはスラッシュをやろうみたいな感じで(笑)。
― 07-08年の頃のスラッシュ・メタル復活のムーヴメントが起こり、あなたたちはその先導役という感じでしたよね。何か新しいことが起こっているという興奮はありましたか。
オル:あれは良かったね。最初のEPを04年に出したのだけど、みんな「何でスラッシュなんてプレイするんだ?あれは終わった音楽だよ。好きなやつなんていない」なんて言われて。06年にデモを出した時も「古い」とか「終わった音楽だ」なんて言われた。ライヴをやっても「何でスラッシュなんてやるんだ」と笑われたよ。ところが数年後、レーベルと契約して『Enter the Grave』をリリースすると、「スラッシュなんて終わってる、クソだ」と言っていた人間が突如、「君たちは最高だ、スラッシュは復活した」なんて言い出してさ(笑)。もちろんすでにミュニシパル・ウェイストのようなバンドもいたけれど。スラッシュがまた認められるようになったというのは良かったし、その一部となれたことは素晴らしかったよ。だけど、それが俺たちの手柄だとは思わない。スラッシュはずっと存続していて、デストラクションやクリエイターもずっとやっていたからね。だけど、そのシーンの一部を担えたのは良かった。
― 突如スラッシュに注目が集まったきっかけは何だったと思いますか。
オル:どうだろうな。わからないよ(笑)。おそらくは色々な雑誌で取り上げられたからじゃないかな。『Kerrang!』のレビューでも、「イーヴァイルはスラッシュ・メタルのリヴァイヴァルを担っている」みたいに書かれてね。そういう記事が載ることで、「スラッシュ・メタルを聴いてもいいんだ」みたいに人々を思わせたというか、スラッシュにまたお墨付きを与えたというのはあったんじゃないかな。よくわからないけれど(笑)。
― 当時、共感を覚えるバンドはいましたか。
オル:当時はスラッシュ・メタルをプレイしているというバンドは多くは知らなかった。近所のバンドばかりではなかったからね。知っていたのはミュニシパル・ウェイスト、ガマ・ボムくらい。俺たちはただ自分たちのやりたいこと、好きなことをやっていただけだった。メタリカのようなバンドを聴いて、俺たちもこういう音楽をやりたい、ステージに立ちたいと思っただけだったから。色々なバンドが出てきて、一緒にプレイするようになったのは、後になってからのことさ。それに、そういった多くのバンドは、すぐに解散してしまったよ。ずっとやり続けるバンドは少なかったね。
― 最近のスラッシュ・メタル・シーンについてはいかがでしょう。若いバンドでお気に入りはいますか。
オル:新しいバンドも素晴らしいよ。俺のお気に入りはアメリカのハヴォック。やはりアメリカのリッチ・キングもいいね。ずっと古いバンドばかり聴いてきているけど、新しいのも聴くよ。あとは、うーん。子供が2人いるから、記憶力が良くなくてね(笑)。とにかくハヴォックはいいよ。
― お気に入りのギタリストは誰でしょう。
オル:俺にとってはカーク・ハメットがすべての始まりだった。そういう人は多いと思うけれど。俺にギターを始めさせて、弾き方を教えてくれたという点では、アナイアレイターのジェフ・ウォーターズ。何年もかけて彼のスタイルを学んだよ。1日8-10時間もギターを弾き続けて。それ以降だと、パンテラのダイムバッグ・ダレル。プログレのギタリスト、キャメルのアンディ・ラティマーからの影響もある。あとは誰がいるだろう。エディ・ヴァン・ヘイレン。リズムという点においては、ジェイムズ・ヘットフィールド。彼のリズム感は本当に素晴らしいよ。パッと思いつくのはこのあたりかな。
― ではお気に入りのヴォーカリストは誰でしょう。
オル:メタルだとマックス・カヴァレラ。彼のサウンドというか、彼はシンガーというよりシャウターだけど、『Beneath the Remains』、『Arise』、『Schizophrenia』での彼のアグレッションが大好きなんだ。あとは、もちろんヘットフィールド(笑)。俺はヴォーカリストというギタリストだからね。あまりヴォーカルについて考えてこなくて、今学んでいる感じだよ(笑)。
― お気に入りのアルバムを3枚教えてください。
オル:うーん、そうだな(笑)。ずっと聴いているのはメタリカの『…And Justice for All』。うーん、難しいなあ。『Beneath the Remains』も大好き。あとはスレイヤーの『Reign in Blood』。
― では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
オル:コロナが収束したら、ぜひ日本に行きたいね。日本が大好きだし、ぜひ行ってみたいんだ。『ヘル・アンリーシュト』を気に入ってもらえるといいな。すぐに会えることを期待しているよ。
文 川嶋未来