WARD LIVE MEDIA PORTAL

グリュートレ・チェルソン
(Enslaved)
独占インタビュー

曲を自分のものにするのに時間がかかったのさ
だけど一度ものにしてしまったら
前回よりも大きなクリエイティヴな流れになっていった

                                   

ご購入はこちら

文:川嶋未来 写真:Roy Bjørge

ノルウェーのプログレッシヴ・エクストリーム・メタル・バンド、エンスレイヴドがニュー・アルバムをリリース!ということで、ベース/ヴォーカル担当のグリュートレ・チェルソンに話を聞いてみた。

 

 

 

ー ニュー・アルバム『ヘイムダル』がリリースになります。特に前作の『ウトガルト』と比べて、これはどのようなアルバムになっていると言えるでしょう。

 

グリュートレ:そうだな、『ウトガルト』は少々いつもと違った方向性で、普通の構成とまでは言わないけれど、曲も少々短めだった。今回はエンスレイヴドに戻ったというか(笑)、曲自体を展開させていて、少々実験的。レイヤーがたくさんあって、曲の中で色々なことが起こっていて、構成も複雑になっているよ。だから曲に入り込むのにより多くの努力が必要だった。レコーディングの前に曲を書いてリハーサルをして、デモを作る段階でね。より多くの集中、リハーサルが必要だったということ(笑)。曲を自分のものにするのに時間がかかったのさ。だけど、一度ものにしてしまったら、前回よりも大きなクリエイティヴな流れになっていった。時間をかけて取り組んだら、突如より楽しめるものになったんだ。とても興味深い旅だったよ。

 

ー 過去にやったことがない、まったく新しい要素はありますか。

 

グリュートレ:うーん、それはないかな。新しい要素や楽器を入れたということはない。俺たちは常に次のアルバムは前回とは違うものにしようと考えている。だけど、それでも常にエンスレイヴドらしい作品で、聴けば「これはエンスレイヴドだ」とすぐにわかるはず。今回はより多くのレイヤーがあるよ。一聴してストレートでキャッチーと思われるパートでも、ヘッドフォンなどでじっくり聴けば、色んなことが同時に起こっていることがわかるはず。まるで2曲を同時に演奏しているみたいにね(笑)。メタファーを使うなら、今回は多くの肉と骨が詰まっていると思う。曲構成がさらに進歩したから。まったく新しいものはないにしても、進歩はしているよ。

 

ー タイトル曲は、特に今言っていた複雑さを象徴する圧巻の曲だと思います。ヘヴィなパートはキング・クリムゾンを彷彿とさせます。

 

グリュートレ:そうだね、あの曲はキング・クリムゾンも含め、俺たちが影響を受けたものがごった煮になっていると思う。まあ、どの曲もなのだけど(笑)。他のアーティストからの影響というのは、頭というハード・ドライヴに蓄積されていくので、どのパートがどのアーティストからの影響なのかをピンポイントで説明するのは難しいし、例えば「ここはキング・クリムゾンみたいにしよう」と意識的にやる訳ではないしね。まあでも、何年間もピンク・フロイドやキング・クリムゾンを聴き続けていれば、彼らから影響を受けない訳はないよ。俺たちはみんな音楽ファンで、様々な音楽を長い間聴き続けてきたから、影響というのはどうしても出てしまうものさ。無意識でもね。あの曲にはクラウトロックの影響も大きいんだ。ミッドセクションで呪文を読むパートの後は、キング・クリムゾンよりもNeu!やクラフトワークに近い。あの曲には興味深いインスピレーションが詰まっていて、歌詞もヘイムダルという存在自体を扱っている。北欧神話の中には「ヘイムダルの呪文」というものがあって、たった2行しか残されていない。「私は9人の母親の息子。9人の姉妹が私を産んだ」というような秘儀的な内容で、これが発見されて以来、学者の間でも解釈について議論が交わされているんだ。ヘイムダルは北欧神話の中でも謎に満ちたキャラクターで、この曲では彼の能力が俺たちにどのような意味を持つかということについて歌っている。ヘイムダルや、おそらく他の北欧神話の神々より古い。この曲は俺もお気に入りだよ。

 

 

ー この曲に2行だけノルウェー語のパートがありますが、それが呪文なのですね。

 

グリュートレ:そう。現在のノルウェー語ではなく、古ノルド語だけれどね。

 

ー ヘイムダルをアルバムのタイトルにしたのは何故ですか。これはコンセプト・アルバムなのでしょうか。

 

グリュートレ:さっきヘイムダルは謎に満ちていると言ったけど、俺たちのデモ、それからファースト・アルバムには「Heimdallr」という曲が入っていて、これは古ノルド語でヘイムダルのこと。そういう意味で、彼は俺たちのバックグラウンドに30年間いたのさ。ヘイムダルには常に興味をそそられてきた。ヘイムダルは北欧神話の中ではとても重要な神で、その役割も明確なのだけれど、そのバックグラウンド、歴史ははっきりしないんだ。その出自はずっと議論されてきている。ヘイムダルの元になったと思われる角笛を吹いているキャラクターは、青銅器時代にも岩に彫られているんだ。これの意味するところは、もしかするとスカンディナヴィア半島において、ヘイムダルやその元となった神は、石器時代にまでさかのぼって8000年間崇拝されてきたかもしれないということ。青銅器時代から、つまり2000ー4000年崇拝されていたことは間違いない。この神、力は本当に長い間この地を支配してきたのさ。北欧神話というものが考えられるよりもずっと前から存在していたのだから、とても興味を引かれるコンセプトだよ。アルバムのコンセプトは、彼が俺たちにとってどのような意味があるのか、俺たちの生活にどのような影響を与えるのか。俺たちや俺たちの先祖。過去、現在、未来に対してね。ヘイムダルという存在に関する俺たち自身の解釈だよ。

 

ー 一方で歌詞は非常に抽象的であり、何について歌っているのか特定するのが難しいものも多いです。

 

グリュートレ:例えば「ビハインド・ザ・ミラー」は、ヘイムダルやオーディンといった存在を、父/子という関係で見るというものさ。

 

ー つまり、すべての曲が多かれ少なかれヘイムダルについてということですか。

 

グリュートレ:そう、ヘイムダルに関する様々な見方。心理学的な見方や歴史的な見方とかね。

 

ー 歌詞を読んでいて、海も重要なテーマのように思えたのですが。

 

グリュートレ:そうだね、海は反射のメタファーになっている。水面下に反射しているものは、実際には存在していないが見えることができる。反射しているものを見るためには、水面ではなくその中を覗きこまなくてはいけない。自分の精神の内側と外側をひっくり返した外側の意識。例えば夢も実際には存在していないにもかかわらず、見えるものだろう?自分は反対側にいて、そこにあるものをヴィジョンとして解釈しなくてはならない。水面下に映るものは、普段は人々には見えない半分の世界なのさ。アートワークが表しているのはそれだよ。

 

ー 「キングダム」ではアイスランドの宗教的指導者、Sveinbjörn Beinteinssonの言葉が引用されています。

 

グリュートレ:彼はAsatrúというムーヴメントのリーダーだったんだ。古い北欧神話の神々を崇拝しようというムーヴメントさ。それで彼、そしてアイスランドへのオマージュとして引用したのさ。

 

 

 

ー 内容は非常に北欧的である一方で、歌詞はほとんどが英語ですよね。

 

グリュートレ:最初に主に英語を使ったアルバムは、00年の『Mardraum』だったのだけど、別にドラマチックな理由があった訳じゃない。むしろノスタルジックな理由さ。子供の頃、レコードを買ってきて、歌詞を読みながらレコードを聴いたことを思い出してね。それで、英語ではないと、聴いているファンがそういうことができないと思って。それで試しにやってみたらうまくいったから、それ以降は英語をメインの言語にしているのさ。今回も一曲はノルウェー語で歌ってはいるし、古ノルド語なんかも挿入しているけれど、メインは英語さ。もう20年間もそうやってきているからね。

 

ー 先ほどアートワークの話が少々出ましたが、あれは写真なのですよね。

 

グリュートレ:そうだよ。実際の写真を上下逆さまにしただけ。絵みたいに見えるのは、上が水面に映った景色だからさ。反射には実際に見えるもの以上のものがある。鏡に映ったもの、反射しているものは一体何なのか、自分で解釈をしなくてはいけないのさ。

 

 

ー 反射とヘイムダルはどのような関係にあるのでしょう。

 

グリュートレ:ヘイムダルは北欧神話では虹の橋のガーディアンとして知られている。巨人とか、混沌とした力に対するね。だけど、そのキャラクターの背後には、もっと多くのものがある。今回のこのプロジェクトは、神話考古学みたいな感じのものだったよ(笑)。見つけられる情報の欠片を解釈して、ストーリーを書いていったんだ。とても興味深いリサーチだった。歴史や考古学の学者たちとも、ヘイムダルのルーツの話をした。イヴァー(G)とだけでなく、色々な人たちとのコラボレーションだった。少なくとも俺としては、ヘイムダルは少なくとも5-6000年の歴史があると考えている。もっと長いかもしれないけれど、スカンディナヴィアでは10世紀、11世紀以前のことは書き物として残されていないんだ。すべてが口伝だったから、考古学的な証拠や、岩に彫られているものから推測するしかないんだ。

 

ー 今回もイェンス・ボグレンがミックスを担当しています。

 

グリュートレ:前作の仕上がりにも満足しているからね。彼は優れた現代のプロデューサーだし、俺たち自身では今らしいミックスはできない。俺たちはあまりにオールドスクールすぎるから(笑)。彼のことは信頼しているし、今回も素晴らしい仕事をしてくれたよ。

 

ー 現在のエンスレイヴドの音楽を作ったバンドを5つ挙げるとしたら、どうなりますか。

 

グリュートレ:まずスラッシュ・メタルから行こう。俺たちのお気に入りはドイツのバンド。クリエイター、ソドム、デストラクションがビッグ3で、一つを選ぶのは難しいけれど、今日のところはクリエイターにしよう。それからピンク・フロイド。キング・クリムゾン。ヴォイヴォド。ジェネシス。

 

ー では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。

 

グリュートレ:アリガトウ。また日本に行きたいよ。日本は楽しかったからね。ノルウェーからは遠いから、日本へ行くのは一大プロジェクトなのだけれど。サポートどうもありがとう。アルバムを買って、楽しんでくれるといいな。

 

文:川嶋未来

 


 

【初回限定盤CD収録曲】

  1. ビハインド・ザ・ミラー
  2. コンジェリア
  3. フォレスト・ドゥウェラー
  4. キングダム
  5. ジ・エターナル・シー
  6. キャラヴァンズ・トゥ・ジ・アウター・ワールズ
  7. ガンガンディ ※ボーナストラック
  8. ヘイムダル

【Blu-ray収録曲】
[ジ・アザーワールドリー・ビッグ・バンド・エクスペリエンス]

  1. ルーン II – ジ・エピタフ
  2. バウンデッド・バイ・アリージェンス
  3. シーケンス
  4. キャラヴァンズ・トゥ・ジ・アウター・ワールズ
  5. ヘイヴンレス
  6. スローゲット・イ・スコーゲン・ボルテンフォル
  7. ホワット・エルス・イズ・ゼア?(ロイクソップ カヴァー)
  8. ハインドサイト

 

【通常盤CD収録曲】

  1. ビハインド・ザ・ミラー
  2. コンジェリア
  3. フォレスト・ドゥウェラー
  4. キングダム
  5. ジ・エターナル・シー
  6. キャラヴァンズ・トゥ・ジ・アウター・ワールズ
  7. ヘイムダル

 

【メンバー】
イヴァー・ビョルンソン(ギター)
グリュートレ・チェルソン(ヴォーカル/ベース)
アイス・デイル(ギター)
ホーコン・ヴィンイェ(キーボード/ヴォーカル)
イーヴェル・サンデイ(ドラムス)